第49話 聞き込みしますわ!
マクスウェル、カリーナ、マリーにトビアス、そしてユリウス、カールとシェルリンで次の週末も東の孤児院に行くことになった。
警備の都合上カリーナ、マリー、シェルリンで一台、ユリウス、カール、トビアス、マクスウェルで一台の馬車に乗って向かう。
「ユリウス殿下もカールさんも、シェルリンさんに夢中ですわね」
マリーが言う。
シェルリンが恋愛関係を否定し続けていたため、カリーナはあまりユリウスやカールについて話題に出さない。
それでも、気にはなっていたのか「シェルリンさんがお相手を決めない限り、この騒動は続くでしょうね」と言った。
「多分、私というよりフィッツベルグ公爵家に興味があるんだと思うわ」
シェルリンがそうこぼせば、二人は納得顔になった。
「でも、シェルリンさん。ユリウス殿下は違うような気がしません? 唯一の王子なのですから、むしろ家を継ぐシェルリンさんより他家に嫁に出る令嬢の中から選ばれた方が面倒は少ないのですから、フィッツベルグ公爵家に借りを作ってまでシェルリンさんが欲しいのではないでしょうか」
「ほ、欲しいってそんな」
マリーが胸を張って言うので、瞬間ユリウスとフルーツサンドの件を思い出されてぼっと顔が熱くなる。
落ち着け。落ち着け。と言い聞かせて、幾分頭が冷えてきたところで気がつく。
マリーもカリーナもシェルリンがフィッツベルグ公爵家を継ぐと思っていることに。
ライの分家の人を装っているというのは、なかなか完璧らしい。
ライはなぜだかフィッツベルグ公爵家を継がないと思っているようだが、シェルリンはライが継いだ方が絶対に良いと思っていた。
だから、フィッツベルグ公爵家目的のカールと結婚することなんてできない。
じゃあユリウスならいいかと言うと、そんな気にもなれない。
ライがフィッツベルグ公爵家を継ぐのなら、シェルリンはどこか他家に嫁ぐ政略の駒となる。
それならば、現公爵である父バルデロイにとってユリウスとシェルリンの婚姻は、歓迎することこそあれ、反対されることはないだろう。
ただ……シェルリンは記憶がない。
魔術が使えるからには、必ず貴族の子供だろうし、今の今まで何もバレず、行方不明の子供がいると噂になることもなかったからほぼ百パーセントフィッツベルグ公爵家の子供だと思っているが、それでもまだ少しだけ自分は本当にフィッツベルグ公爵家の血を引いているのだろうかと思うことがある。
サンドイッチを手で食べることに違和感がないこと、一人で着替える、一人で入浴するのだって当たり前な気がすること。
生まれた時から貴族なら、すべてやってもらう方が当たり前であろうに。
だから、こんな身元の分からない女を国母にしていいわけがない。
「お二人とも……私には過ぎた人ですわ」
そう言えば、マリーもカリーナも少し寂しそうな顔をした。
なぜだろう。どちらかとシェルリンがくっついてほしかったのだろうか。
東の孤児院につくと、ユリウスが事前に無料で健康診断をしてもらえると情報を流していたようで、前回と違って多くの住人が東の孤児院にやってきていた。
子供たちも中から駆け出してきて、マクスウェルの周りに群がる。
「お兄ちゃん、来て。トーマの絵、見てあげて」
あっという間に手を繋がれ、孤児院の裏へと連れていかれるマクスウェル。
その後を幼馴染のカリーナがクスクス笑いながら、ついて行った。
「私たちは、トビアス先生の手伝いをしてから、見に行きますね」
子供たちの後姿に声をかけ、前庭に集まっている住人達に向き直る。
トビアスの指示に従って、シェルリンとマリーは診察できるよう建物内を整え、ユリウスとカールは前庭に集まる住人達を列に並ばせた。
ここでもマリーは大活躍だった。
「シェルリンさん、このベンチを廊下に置きましょう。廊下を待合室にするんです。外の列の人は、まず五名ここに入る。そして、そこから一人ずつ中に入る仕組みですわ」
そう言って、即席の待合室を作ってしまったし、診察室の端に布団などを持ち込んで、具合が悪い人が横になるスペースを作り、トビアスと患者が向き合えるよう椅子の場所を調節したり、外で住人たちを並ばせていたユリウス殿下とカールにも「外は暑いから、具合が悪そうな人は中に入れてください」と指示を出し……まるで、医師と共に働いたことがあるのではないかと思うほどの働きぶりだった。
あっという間に場が整って、一人一人健康診断希望者が入ってくる。
手際のよいマリーは診察室内でトビアスを手伝い、シェルリンは待合室を任された。
待合室には、順番を待つ住人とシェルリンしかいない。
聞き込みをするにも絶好の機会だと思った。
一人の健康診断が終わると、マリーが中から次の人どうぞと声をかける。
それを合図に私も外から一人中へよび、何気ない世間話を装って、フロルの腕を治した人について聞き込みをするのだ。
ここ、東の地区は小さな村のようだ。
あまりの治安の悪さから他の地区の人はやってこず、東の地区の住人も東の地区から来たというだけでいい顔はされないし、ここにいる人たちは様々な理由でここ以外の場所にはいられなくなった人ばかりだから、彼ら自身もこの地区から外へは出て行かない。その代わり皆、地区内のことは何でも知っていた。
もちろん、フロルのことも。
住人たちはここを拠点にしていた犯罪グループのことになると口を閉ざしたが、彼らが話しても良いと思ったレベルのことは何でも話してくれた。
立ち入り禁止期間中の住人と騎士との抗争の話を聞けば、胸が締め付けられるような気がした。
「まぁ、今ここに来ているんは、身を潜めとった人ばっかりやから安心しぃ。騎士と戦っとった人たちは、みんなもうおらんけの」
おじさんが言った。
それにシェルリンはどう答えたんだっただろうか。
あんまり悲惨な話で、時に言葉をなくしながら、何とかフロルの話題に切り替えていった。
「そうそう、フロルさんも巻き込まれちまってなぁー」
「ありゃ可哀想じゃった。本当良くなってよかったわい」
待合室は次々と入れ替わりながら、ずっとフロルや立ち入り禁止期間中のことをわいわい話している。
それは12人目の人を待合室にいれた後だった。
「そういやメイちゃんは今日来とらんのか? メイちゃんも治してもらとったろう?」
新しく待合室に入ってきたおじさんが、メイちゃんという人のことを話題に出した。
治してもらったというのは、フロルさんと同じ人にだろうか?
「今の所女性は三人来られましたが、メイさんはどんな方ですか?」
「長い茶色の髪を一つに結んだお腹のおっきな妊婦さんさね」
おじさんがおなかの前でこのくらい大きいのだと手で示しながら話す。
「それほどお腹が大きくなった妊婦さんなら見落としませんわね。まだ外に並んでおられるかもしれませんが、今のところここには来ていませんわ」
「いやぁ、外にはおらんだったで」
メイという妊婦と知り合いだというおじさんに、自身の診断後、メイに健康診断が孤児院であっていることをお知らせしてもらうことをお願いし、メイについて聞いていく。
「さっき、治してもらったと言っていましたけれど、フロルさんと同じ方ですの?」
「俺たちみたいなのをただで治療してやろうなんて、そうおらんよ」
ケッと自嘲気味に隣のおじさんが言う。
治安が悪くて誰も東の地区に来たがらないのはシェルリンも知っている。
それでもその言葉に対してなんと返したらいいか困り、押し黙る。
すると、さらに隣の青年が口を開いた。
「それにしても、あの青髪の人どうやって入ったんだろうね」
東の地区は立ち入り禁止だった。それは口頭で禁止されていただけでなく、大規模魔術を使っての封鎖。
誰一人は入れず、誰一人出られないはずだ。
「まぁ、ここの方ではないんですの? 立ち入り禁止期間中に中におられたということで、私てっきりここの住人の方かと思っていました」
「もしそうだったら、この健康診断なんて来ないでしょ。あの人に無料で治してもらえばいいんだから」
青年の言葉に確かにと首を振る。
治癒師は東地区の住人ではなく、サラサラで青い髪。
そして何らかの事情で封鎖に巻き込まれて中にいたか、何らかの方法で出入りができる者。
その後も健康診断の列は進み、その度に封鎖中の話やフロルの話が出る。
治癒師について聞けば、誰もが東地区の住人ではないというし、封鎖中どこにいたのかもわからないと言った。
さらに彼の髪色は青という人もいたが、黒という人もいた。
青であれば、珍しくはあるが、いる。
だが黒ならば……。ちょっと意味合いが変わってくるな。
黒は不吉の色、破滅、滅亡の色。
そして何よりこの王国に、近隣諸国に、黒髪の人などいないのだから。




