48.皆を危険な目に合わせてしまいました
朝、日の出と共に目が覚める。
窓から差し込む光で覚醒するいつもの目覚めだ。
頭痛は……ない。
断片的に昨日の記憶が蘇り、反射的に自身の状態を確認するが問題はなさそうだ。
「おはようございます。オルカさん。」
「ああ、おはよう。」
挨拶をくれたレイラに返事を返す。
……何故俺の部屋に居るんだ?
俺の疑問が表情に出たのか、彼女は説明をしてくれる。
「昨日のオルカさんの体調不良が気になって……朝起きてリンカさんに聞いてみたら鍵を貸してくれました。」
そう言ってマスターキーを見せてくるレイラ。
純粋に俺のことを心配してくれての事なので別に問題ないが……リンカさんから見ても俺の状態は良くなかったので様子見をレイラに頼んだって所か?
普段のリンカさんだったらマスターキーを客に渡すようなことはしないだろう。
勿論レイラの人柄を見てというのが前提ではあるのだろうが。
変なものを部屋に置いておかなくて良かった。
「もう大丈夫そうだ。イリアナは?」
問題がないことをアピールしてベッドから降りる。
少し伸びをして体の状態を確認する。
うん。問題なさそうだ。
「イリアナはまだ部屋で寝てます。……今なら私が部屋のカギ持ってますけど、襲います?」
「パーティが崩壊するわ。」
レイラってこんな冗談を言う様な子だったか?
少し疑問が浮かぶが、そのいたずらっ子のような表情を見るにそんな悪い精神状態ではなさそうだ。
「聞いても良いですか?オルカさんの昨日の体調不良の事なんですけど……何が原因だったのかについてです。」
レイラの問いに一瞬詰まる。
これを話すことで彼女が昨日のことをまた重荷に感じてしまわないかと言う心配。
だが、真っすぐ俺の眼を見て問うてくるレイラに対し、はぐらかすことは俺にはできなかった。
「補助魔術特有の負荷の話なんだが、少し長くなるぞ?」
レイラは俺から視線を外さずに頷く。
「少し感覚的な所でもあるんだが、抵抗と言うのがどういう現象かという事についてだ。俺は穴あきチーズをスライスしたものをよくイメージしてる。大小さまざまな穴の開いた板だな。これが個人差によって穴の大きさや数に違いがあるって感じだ。また、この板が何枚もあって、これも個人差や破魔飾りなんかの装飾具によって総枚数が変わる。そして、この板に対して魔術を込めた魔球を放ち、穴を通していく。壁に当たってもすぐに魔球が消滅するわけではないが、穴を求めて壁をこすりながら移動させると魔球はすり減っていく。最終的に魔球が消滅せずにすべての板を通過すれば相手に魔術がかかるって感じだ。」
「全ての板を通過するまでに魔球が消滅してしまえば抵抗されるという事ですか?」
「そうだ。で、魔術師によって抵抗されやすい人、されにくい人が居るって言うのは、その板の穴を探すのが上手いか下手かや、魔球が大きいか小さいかによるという訳だ。」
レイラは俺の話を聞き、納得したようだ。
「その細かな攻防をあの60近い魔物に対し同時に行ったため脳の処理能力を超えてしまったという訳ですか……」
「そう言う事だ。もともと板の少ない種類の魔物で助かったよ。」
「しかし、あの数全てに抵抗を許さないなんてこと出来るんですか?そんな針の穴を通すような所業を……」
これに対しまた俺は言葉に詰まる。
これは魔術の行使に関するノウハウのようなものだ。
こう言う事はむやみやたらと開示するものではないとあの人には教えられたが……
このとき、俺は師の教えより彼女に対して誠実でありたいという気持ちを選んだ。
「これはノウハウだから他言無用にな。抵抗されないようにする方法はいくつかあるんだが、大まかには2つだ。魔球を分散して放ち、どれか一つが突破すればいいという方法。もう一つは魔球をとにかく大きくして放ち、どれだけ壁にぶち当たろうが全部突破できるまで消滅しないように持たせる方法だ。だが、俺はそのどちらとも違う方法で魔術を行使している。一度壁に当たれば消滅するような小さな魔球を数百と言うような数で放ち、時間差で本命の魔球を放つんだ。最初に放った小さな魔球が板の枚数と穴の数、位置、大きさを調べ、最善のルートが判明したところで本命の魔球を通すんだ。」
「はぁ……合理的ですね。」
俺の説明にレイラが感嘆する。
「自分で言うのもなんだが、結構な技術力だと思うぞ?まぁもしかしたら皆同じ方法なのかもしれないんだがな。」
そう言って俺は笑う。
魔術師同士ではこういった技術の核心に触れる話はしないので、他の魔術師がどうしているかは知らないのだ。
「ちなみに、この板は人や装飾品によって属性耐性もまばらでな、攻撃魔術の場合にはこの板を破壊していくことになる。この場合は単に耐性と呼ぶな。」
「そっちの方が単純でイメージしやすいですね。」
レイラもそう言って笑う。
かと思えば、スッと真剣な表情に変わり、俺に頭を下げてきた。
「昨日はごめんなさい。私の軽率な行動で皆を危険な目に合わせてしまいました。……オルカさんにはそのピンチを切り抜けるために無理をさせてしまいました。」
……彼女はきっとこうやって謝りたかったのだろう。
自分がした行動の結果、何が起こったのか。
俺の体調不良の件もしっかりと理解し、その上で謝りたかったのだ。
俺はレイラの肩に手を置き、しっかりとした声で話す。
「あそこで飛び出したことをどうこう言うつもりは無い。それは冒険者としての矜持の話だ。助けられる可能性がある人が居れば、可能性が低くても挑む人もいる。ただ、状況を冷静に見て、策を練ることが出来ないと、そう言う矜持を持つ人は早死にする。レイラもまだこれからの人間だ。これからちゃんとそう言った精神面も含めて成長していけばいいさ。……そしてもう一つ。レイラが傷つくことで悲しむ人間が居ることも忘れないでほしい。イリアナも、俺もそうだぞ?」
それだけ言うと、頭を下げたままのレイラからぽたぽたと涙が床に落ちる。
次の瞬間には俺に抱き着くように頭を胸に押し付け、声を殺して泣き始めた。
俺は何をするでもなくされるがままの状態だ。
レイラが落ち着くまではそうしていようと思う。
「オルカさーん!!レイラ知らない!?」
このタイミングで俺の部屋のドアが勢いよく開け放たれ、普段着のイリアナが部屋に飛び込んでくる。
そして、俺とレイラを見て固まる。
どう見ても抱き合っている俺とレイラの体勢。
イリアナの目はこれ以上ないというくらいに見開かれている。
「イリアナ……これは「ぬ、抜け駆けだー!!!!」……は?」
俺達を指さしわなわなと震えるイリアナ。
俺も混乱していて頭が回らない。
だがこれだけは言えるぞ?
ドアを開ける前にノックをしろ。
ノックしない人居ますよね。
私も寮にそう言う人が居たので鍵をかけるようになりました。
この後の展開を見ても良いと思われましたら是非、評価・ブックマークをお願いいたします。




