表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/58

46.諦めるな

side.レイラ


私はいつもの精神状態ではなかったのかもしれない。


「貴族家に生まれたからには、領地の民の為に戦える人間になりなさい。」


私は親からそう言って育てられた。

小さな領を預かる下位貴族ではあったが、領民から得た税収の一部で生活費を賄う代わりに、領地の発展のためにその管理を行い、魔物などの脅威が発生すれば率先して剣を振るう。


中には税で私腹を肥やす貴族もいるそうだが、我が家ではそう言ったことは全くなかった。

そのせいで裕福な暮らしが出来ていたわけではなかったが、不自由はなかったし、領地の為にと働く両親は尊敬できた。


幼いころから武芸の教育を受け、父の書斎で知識を齧る日々。

いずれは私も領民の為にと自然に考えていた。


転機が訪れたのは15歳になる少し前。

父に呼び出されると、そこには隣領の領主とその娘が居た。

私達とは家族ぐるみの付き合いなので、彼らが居ることに疑問はなかったが、その日は少し様相が違っていた。


私と同じ歳になる隣領の領主の娘、イリアナはいつもの上品な服装ではなく、革鎧を着ていたのだ。

その上、腰位まであった髪はバッサリと切られ、遠目に見れば男子と見間違えられてもおかしくないくらいの短さになっている。

腰に携えた剣と言い、見た目は冒険者のそれであった。


驚く私に父は状況を説明してくれた。


貴族家としての私の立場の事だ。

三女である私はよほどのことが無ければ家督継承の立場になることはなく、自由に生きられること。

ただし、それは私の(・・)自由に生きられるという意味ではなかった。

15歳の成人の祝賀パーティを行えば、私の容姿ならすぐに婚姻の話が来るだろうという事だった。

高位貴族に見初められれば今よりい暮らしをすることもできるが、嫁いだ先の暮らしの内容については嫁ぎ先の貴族の習わしによるという事。

そして、高位貴族からのそう言った話は断ることが非常に難しいという事。


私もいずれかはと漠然と思ってはいたが、そう言った覚悟を持ってはいない。


聞けばイリアナも同様の立場らしく、家族内での話し合いの末、イリアナは家を出て生活をすることにした。

そして、私はどうするのかと話を聞きに来たという事らしい。


一晩たっぷり悩んだ私は、結局家を出ることにした。

やはりどこの誰とも分からない人間と所帯を持つ気になれなかったという事もある。

活発で明るいイリアナとなら家を出てもやっていけるだろうと思った事もある。

この結論について後悔したことはないが、私の胸にはぽっかりと大きな穴が開いてしまっていた。


私はこれまで領民の為に、領地を発展させる事こそが天命と信じ生きてきた。

しかし、家を出たことで領地も、領民も私の人生からは消えてしまったのだ。

これから何のために生きるのか、私はその目的を見失った。






スフィカの森でゴブリンの集落を発見した時、正直私は恐怖していた。

魔物は恐ろしい。

1匹でもそうなのに、それが今目の前に数百の規模で居る。


だが、私の中には使命感にも似た別の感情も湧き上がっていた。


このコロニーは成長を続ければいずれ街を襲うだろう。

そうなる前にこのコロニーを潰すことは、冒険者の仕事であると同時に、私が本来目指していた貴族の仕事でもあったのだ。

失われたはずの生きがいに、私は確かに気分が高揚するのを感じていた。


まだこの時は冷静で居られたと思う。

一旦街へ戻り、体制を整えて再度ここへ来る。

異論は全くなく、早く街へ戻らなければとすら思っていた。


それ(・・)が姿を現すまでは。


コロニーに戻ってくるゴブリン達。

それに引きずられる冒険者風の男女。

男の一人は首から胸にかけて大きく切り裂かれており、絶命しているのは明らかだった。

他の2人は?

私が目を凝らす先で女性の口が動く。

うめき声が聞こえた気がした。


次の瞬間には、私は駆け出していた。


助けなければ。


その一心だった。


私は森から飛び出すと矢をつがえて放つ。

放たれた矢は女性冒険者を引きずっていたゴブリンの1匹に命中し、霧散させる。


「逃げて!!今のうちに!!」


私は叫ぶ。




だが、冒険者は動かない。


死んでしまっていたのだろうか?

うめき声は?

幻聴?


そこで気が付く。




コロニーに居るゴブリン達が、見渡す限りの(・・・・・・)全員が(・・・)私を見ていた。




「あ……」


私の足は震え、声が出ない。


これまで感じたことのない恐怖。


ゴブリン達がそれぞれ武器を持ち出し、少しずつ近づいてくる。


貴族として魔物の襲撃に立ち向かう。

何度もシミュレーションしてきた光景。

だが、私の身体は思っていたようには動かなかった。


手にしていた弓が地面に落ちる。

私は死ぬ運命を理解した。



「諦めるなっ!!」



その瞬間、私の横を通り過ぎ、迫る魔物達と私の間に立ちはだかるように人影が現れた。


「イリアナ!!レイラを護れ!!【視力喪失(ロストアイ)】!!【筋力低下・零パワーダウン・ヴォイド】!!」


いつもと同じ短縮詠唱で補助魔術を行使したオルカさんの顔には、いつもと違う苦悶の色が浮かんでいる。


しかし、声を掛ける暇もなくオルカさんは冒険者の方へと駆け出す。


「レイラ!!立てる!?」


オルカさんが駆け出すのと同時にイリアナが私のそばにやってくる。

気が付けば私は地面に座り込んでしまっていたようだ。

言われて立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまっているようで上手く体が動かない。


それを見たイリアナが私の右手を自分の肩に回し、私を立ち上がらせる。


ゴブリン達は視力を失い、混乱していた。

見渡す限りの(・・・・・・)全員が(・・・)だ。


「退避するぞ!!」


声のする方を向けば地に伏すゴブリン達の中でオルカさんが女性冒険者を担ぎ上げていた。

息があったという事だろう。助けられたようだ。

反射的にもう一人、息があるかもしれない男性冒険者を見ると、その首にゴブリンのものであろう短剣が刺さっていた。

私はその冒険者の姿を目に焼き付ける。


そして私達はゴブリンのコロニーを脱出した。

諦めないという事は大事です。

オルカさんも師匠に教えられていた言葉ですね。

この後の展開を見ても良いと思われましたら是非、評価・ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 馬鹿すぎるだろ 1番土壇場で使えないタイプじゃん 主人公無双お願いします
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ