44.最悪のケース
「あたしも賛成!!でも、ホブゴブリンってあたし達でも倒せそう?」
勢いよく手を挙げてレイラに同意したかと思えば、若干不安そうな表情でこちらを覗き込んでくるイリアナ。
本来は自分で敵の情報を集め、彼我の力量を比べて判断して貰わなければならないのだが……
おいおいそう言ったこともやって行ってもらわねばなるまい。
俺は2人に対してホブゴブリンの生態について説明する。
「……という訳だ。しっかり対策を考えれば2人なら問題ないとは思う。」
ボン
変な音がして見てみれば、イリアナが白目を剥いている。
え、それって魔術の知識詰め込む時だけじゃなくて魔物の知識を詰め込む時にも起こるの?
いやいや、魔物の知識覚えられないってこの業界じゃ結構な致命傷だぞ?
索敵技術なんかは覚えが良かったから、経験を伴わない知識だけというのが苦手なのかもしれない。
「私がちゃんと覚えますので一旦はそれで行きましょう。」
イリアナを白い目で見ていたレイラがそう言って話を先に進めようとしてくる。
長い付き合いなんだろう、イリアナの事も良く分かっているようだ。
……しかしよくこれで養成所に入所しようって気になったな。
「う~ん。とりあえず数が多いから囲まれないように注意って事だね!!」
いつの間にか復活していたイリアナが分かっているのか分かっていないのか良く分からないまとめ方をする。
……仕方ない、後は戦闘中に細かめに指示を入れるようにしてカバーしよう。
俺はミリカさんに向き直る。
「ではこの依頼を受けます。手続きをお願いします。」
ミリカさんはこの依頼を受注して貰えたことに安堵したようで、いつもの微笑を返してくれた。
「ありがとうございます。すぐに済ませちゃいますね。」
こうして俺達の今日の仕事が決まった。
レイラが周囲を警戒し、イリアナが痕跡を探す。
スフィカの森に入った俺達は、まずホブゴブリンを探し始めた。
森の浅い所ではなく少し奥へと入ったところと言う情報だったので、森へ入ってすぐは全員で周囲を警戒しながら早めに森の奥へと向かう。
そしてしばらく進んでから役割分担していく。
俺も周囲の警戒に当たっている。
目で見える範囲に魔物の姿はなく、どこかからか見られているような感覚もない。
「おかしいな。」
思わずつぶやいた俺の言葉をレイラが拾う。
「何がですか?」
正面切ってどこがと聞かれると、感覚的な所なので困るのだが……
俺は頭の中で情報を整理して伝えてみる。
「まず魔物の数が少ない。俺達がスフィカの森に入ってここまで、ゴブリン一匹にも遭遇していない。そして、動物の数も少ない。鳥が鳴く声すら聞こえてこない。」
俺がそこまで言うとレイラの顔つきが変わる。
「確かに。言われてみると森が、静かすぎる気がします。……でも、それはどういう事を意味しているんでしょうか?」
俺の頭の中には様々なケースが浮かんでいるが、それを細かく説明している暇はなさそうだ。
なにせ、このケースの中で最悪の想定のものは割と危険を伴う。
「これ以上は追加の情報が無いと何とも言えないな。痕跡探しを続けよう。」
俺の喋り方から何かを読み取ったのか、レイラはそれ以上追求してくることはなく、静かに頷いて周囲警戒に集中する。
少し移動しては痕跡探しと言うのを繰り返しながら森の奥へと進む。
そしてついにその痕跡を見つけた。
「あった!!……でも、凄い数。」
イリアナが見つけたのは足跡だ。
雑草をかき分けて確認すると、そこには確かに足跡があった。
少しくぼんだような地形になっており、雨水がたまりやすかったのだろうか、少し地面が柔らかくなっている。
「これは……」
俺はその足跡を見て唸る。
「確かに数が多く見えますね。……それ以外の情報があるんですか?」
俺が黙り込んだのを見て、レイラが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
俺は少し悩んだが、想定していた中で最悪のケースの可能性が出てきたことを2人に伝えることにした。
「まだ、確定という訳ではないんだがな…… 見てくれ、この足跡。2方向に向いているのが分かるか?」
「確かに、真逆方向の足跡がついていますね。」
俺は頷く。
「足跡が多く見えているのはこの2種類の足跡がついているからと言うのもあるな。この足跡の主は、ここを往復したんだろう。」
「なるほど。ですが、それだけではないですよね?」
俺は再び頷く。
「普通の魔物は生まれてもそのあたりをうろつくだけだが、こいつらは明らかに意図して同じ道を往復している。つまり、拠点を持っている可能性が高い。」
このような足跡がつく理由はこれしかない。
住む場所が決まっており、そこから狩りへ出て、狩りが終われば拠点へ戻る。
そう言った動きで無いと説明がつかないのだ。
「拠点を持つ……ホブゴブリンにはそう言った性質が?」
レイラの問いに、今度は首を横に振る。
「こういった性質を持っているのはホブゴブリンよりさらに上位のゴブリンロードだ。こいつらは既に集落を作ってしまっている可能性がある。」
そう、これが想定される中で最悪のケースなのだ。
イリアナの許容量はだんだん少なくなっていっているという噂があります。
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