43.この依頼受けましょう
午前中の鍛練を終えた俺達は身支度を整えて『まぐまぐ亭』を出る。
イリアナとレイラを『まぐまぐ亭』へ連れて来たときは7日間で契約していたが、正式に『黎明の光』が結成された模擬戦後に契約延長を申し入れて了承されている。
リンカさんはそうなると思っていたと言って、2人が使っていた部屋に他の予約が入らないよう開けていてくれていたとの事だ。
全く、頭が上がらない。
「ギルドに行くのも模擬戦以来だよね?随分久しぶりって感じがするよ!!」
俺とレイラに先行するように歩いていたイリアナがこちらへ振り返りながら言う。
レイラもそれに同意する。
「確かに、ギルドに顔を出していないのはたった2日だけど、その前の1週間が充実していていたからギャップがすごい印象ね。」
「久しぶりのギルドだが、多分環境も変わってるんじゃないかな。この間の公園の時みたく、勧誘されることもあるかもしれないし……知らない人に付いて行かないようにな。」
「あたし達は子供じゃないよ!?」
俺は頬を膨らませるイリアナを見て笑う。
隣ではレイラも笑っているようだ。
終いにはイリアナもつられるように笑い始める。
非常に良い雰囲気だった。
「あ、オルカさん。お休み期間は明けたんですか?」
ギルドに入った俺達にいち早く気付き、声を掛けてきたのはやはりミリカさんだった。
「こんにちは。ええ、今日から活動再開です。とは言ってもしばらくは鍛錬メインですけどね。」
俺がそう言うとミリカさんが笑う。
「引率の時と変わりませんね。」
言われれば確かに。
とは言えイリアナもレイラも新人冒険者だ。
その才能を開花させつつある感触はあっても、技術も戦術もまだまだ一線級には程遠い。
鍛練中心になるのも自然な流れではあると思う。
「逆に言えば雇われだからといって適当な仕事をしていたわけではないという事ですね。正式にパーティメンバーとなった今も方針が変わっていないわけですから。やはりオルカさんを紹介して良かったです。」
どうやら俺がまだ引率だと思っていた時に、手を抜いていなかったのを褒められているようだ。
自分に恥じる所の無いように心がけて来てはいるつもりだが、正面からそんなことを言われることがないので無意識に視線を外してしまう。
ミリカさんはそんな俺の態度を見てまた少し笑う。
「それで、これまで通りという事なら今日は討伐依頼ですか?」
「そうだよ!!今日はDランク魔物の依頼あるかな?」
「Dランクですか……ちょっと待って下さいね。」
最初Dランク魔物を狩りに行った時にはイリアナとレイラの心配をしていたミリカさんだが、引率期間の1週間の最後の方には普通に仕事を斡旋してくれるようになっていた。
……まだCランクについては「彼女たちにはまだ早いです」と断られているが。
「これなんてどうですか?」
そう言ってミリカさんが提示してきたのは、ホブゴブリンの討伐依頼だった。
中級小鬼はゴブリンの上位種だ。
ゴブリンが生まれる環境下で、低確率で生まれることがある。
ゴブリンより一回り大きく、力も相応に強いが、この魔物の恐ろしいところは下位種のゴブリンを従えてパーティを組むという習性だろう。
これが中々侮れなく、場合によっては10匹を超える集団になる場合もある。
それまで単独行動の魔物を狩るばかりで、多くてもゴブリン数匹を相手にしていた新人冒険者がこいつに出くわすと、それまでの戦い方が通じなくて敗走することが多い。
実力が伴っていなかったり、退避の判断を誤れば死者が出ることも珍しくない。
そういった被害が後を絶たないことから初心者殺しとも呼ばれている。
とは言え所詮はDランク魔物だ。
しっかりその習性を理解し、対多数の戦術を持って戦えばそんな難しい相手ではない。
「この依頼は昨夜出されたものなんです。場所はスフィカの森で、薬草採取の依頼を受けていた冒険者からホブゴブリンを見たという報告が入ってきまして。一応、今日スフィカの森関連の依頼を受けている冒険者には注意喚起をしていますのでめったなことはないと思うのですが……」
そう言いながらもミリカさんの表情は暗い。
このあたりでスフィカの森と言えば新冒険者御用達の場所だ。
初心者殺しと呼ばれるような魔物が森の中をうろついているとしたら、新人冒険者と関りを多く持っているミリカさんとしては気が気でないのだろう。
先日、オーガの出現という大きなイレギュラーもあったが、その時のように対処できる高ランク冒険者が傍にいるとは限らないのだから。
「オルカさん、この依頼受けましょう。」
いつもより少し真剣味の増した表情で依頼票を見ていたレイラが声を発する。
「レイラ?どうしたの?」
そのいつにない雰囲気を不思議に思ったのだろう。
イリアナがレイラに問いかける。
「うん、前に私たちはオーガに襲われたよね?その時はオルカさんがいたから助かったけど、もしかしたらこの魔物を放っておくことで私たちと同じような目に合う新人冒険者がいるかもしれない。……そう思ったら、受けなきゃって。」
レイラの言葉を聞きながら俺は内心驚いていた。
普通の新人冒険者は依頼を受ける際、まずその危険度と実入りを考える。
ギルドや依頼者、他の冒険者などの第三者について考えられるようになるのはもう少し余裕が出てきてからだ。
しかしレイラは最初から依頼をそういう目では見ていなかった。
育った環境の影響なのか……
視野が広いことは悪いことではないが、それゆえ身の丈以上の依頼を受けるようになってしまう危険性もある。
俺の経験上、大義があれば無理をしてしまうのがこのタイプだ。
無理をさせ過ぎないよう気を付けておかないとな……
レイラさんの人柄が少し出た回でした。
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