41.『紅蓮の剣』に未練はない
イリアナとレイラが俺の顔を覗き込んでくる。
トーラスの、俺が『紅蓮の剣』への復帰を望んでいるという言葉の真偽を確認するためだ。
とは言え、念のためくらいの感覚なのだろう。
俺の顔を覗き込むその表情の不安な色は見えない。
勿論、俺の答えも決まっている。
「俺は『紅蓮の剣』に未練はないし、戻るつもりもない。」
はっきりとそう言い放つ。
俺の答えを聞き、イリアナがニシシと笑い、レイラも微笑む。
「だってさ!!もちろんあたしも『紅蓮の剣』には入らないよ!!」
「私もお断りします。」
その答えに怒りを表したのはトーラスだ。
その矛先は俺に向いている。
「オルカ!!そんな嘘をついてまで何を考えている!?彼女らの洗脳を解き解放するんだ!!」
「は?」
訳の分からない罵声に驚く。
俺が嘘をついている?
彼女らを洗脳している?
コイツは一体何を言っているんだ?
俺の方も徐々に怒りが込み上げて来て反論を口にしようとする。
だが、このトーラスの方針に異を唱える者は他にも居た。
「ちょっとトーラス。今の所良い補助魔術師が居ないからオルカを戻すのは別にいいかなと思うんだけど、3人は無理よ?私達は今4人いるのよ?」
トーラスにそう話しかけたのはアイラだ。
彼女の心配の通り、もし4人パーティの所に3人追加すれば7人になってしまう。
1パーティの人数として認められているのは6人までなので、必然的に1人、パーティを脱退しなければ登録が成立しない。
トーラスの事なのでその1人は俺の事なのだろうと思っていたが……
「前衛が過剰になるからガイアに抜けてもらう事になるな。」
事も無げにトーラスはそう言い放つ。
流石にアイラもこの発言に目を剥く。
ガイアは筋骨隆々の大男で重戦士だ。
戦斧と大盾で戦うスタイルで、打ち合いに置ける安定感は『紅蓮の剣』の中でも群を抜いている。
強敵と戦う時なんかで、戦線を前線に押し止めることが出来るのは『紅蓮の剣』ではガイアだけだ。
これは攻撃特化のトーラスや軽量のイリアナには出来ない事だ。
「ガイアは殲滅速度が遅いからな。あいつが居ると他の前衛職の負荷が大きくなるだろ?」
どうやらトーラスは安定感ではなく攻撃能力に主眼を置いているようだ。
雑魚戦はそれでもいいが、強敵相手では……
とは言え、もう俺は『紅蓮の剣』の方針についてとやかく言う立場にはない。
願わくばまともな思考でトーラスに意見できる奴が居ることを祈るばかりだ。
「まぁそれはそうね。そう言う事ならいいわ。」
アイラがトーラスに同意したことで俺の願いは一瞬で崩れ去る。
ダメだ、基本こいつら脳筋なんだった。
「いや、こっちの都合無視して話ししないでよ!!あたしたちは『紅蓮の剣』に入るつもりは無いからね!!」
この話の流れに耐えられなかったのだろう、イリアナが再び拒絶の意を伝える。
「何故だ?オルカの復帰も認めると言っているだろう?」
さっきアイラも言っていたが補助魔術師が居なくて困っているというのは本当なのだろう。
彼女らを洗脳しているだのと罵った俺も『紅蓮の剣』に取り込もうとするトーラス。
と言うかこいつ言ってることがめちゃくちゃだな。
こんなにめちゃくちゃな思考回路の男だったか?
俺はトーラスの言動にわずかな違和感を覚える。
「私達は『黎明の光』です。『紅蓮の剣』には入りません。これ以上しつこく勧誘されるようでしたらギルドへ苦情を上げますよ?」
レイラが冷静に対応する言葉で我に返る。
Aランクパーティである『紅蓮の剣』が新人冒険者を恫喝するようにしつこく勧誘を繰り返していたとなれば醜聞だ。
トーラスのプライド的にもそんな噂が立つのは望ましくないだろう。
コイツを追い払うには良い手段だ。
「……ちっ。行くぞアイラ。」
予想通り素直に引くトーラス。
しかし、振り返り際に俺に向けられた視線の中に殺気が含まれたことを俺は見逃さなかった。
「何アイツ!!こっちの話なんて全然聞きもしないで!!結局オルカさんへの暴言も撤回しなかったし!!」
トーラスたちが去った後でイリアナの怒りが爆発する。
地団太を踏んでいるが軽量級の彼女がそんな仕草をしても別になんの威圧にもなっていない。
「そうね。言っていることもめちゃくちゃだったし、あの不快な視線。あんな人と一緒にパーティを組むなんて御免だわ。」
レイラもイリアナに同意している。
表面にはっきりと出ているわけではないが、彼女も怒っているようだ。
「まぁ以前所属していたという事もあるし多少のしがらみは覚悟しているさ。ともかく俺はあのパーティに戻るつもりは無い。彼らは俺が抜けて大変みたいだし、もうしばらく後悔していてもらおうか。」
俺がそう言うと2人の表情が穏やかになる。
「そうだよね!!あんな奴らはいっぱい後悔していればいいんだ!!あたしもオルカさんとのデートを楽しまなきゃ!!次何食べようかな~。」
イリアナは完全に思考を切り替えたのかその視線は次の屋台の品定めに入った。
さっぱりしているとは思っていたが切り替えが早い。
しかもデートと来たか。
まぁ男女が遊びに出ているのだからあながち間違いでもない。
ただ女性が2人に男が1人だから普通にこれをデートと言ってもいいものか?
そう思いちらりとレイラを見る。
彼女はにっこり微笑み、口を開く。
「デートを楽しみましょう。」
彼女もイリアナに乗っかったようだ。
俺はその言葉に苦笑し、深く考えずにデートを楽しむことを決めたのだった。
『紅蓮の剣』の追放劇はまだ続くのか?
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