39.君達を我が『紅蓮の剣』に招待しよう
『紅蓮の剣』のアイラ。
彼女は赤髪を少しかき上げるようにしながらこちらを見ていた。
俺は表情に出しはしないものの少し動揺していた。
『紅蓮の剣』を抜けてから元パーティメンバーに会うのが初めてという事もある。
アイラ個人は良くも悪くもさっぱりした性格で、裏表もないので人として付き合うには付き合いやすい部類の人間だとは思う。
今、元パーティメンバーの俺を見る目にも特に特別な感情は宿っておらず、ただ昔馴染みに合った程度のものだ。
ただし、『紅蓮の剣』では公然の事実だったのだが、このアイラとリーダーのトーラスは男女の関係だ。
つまり、彼女がここに居るという事は高確率でここにトーラスが居るという事だ。
そして俺のこの予想は的中することになる。
「アイラ!!こんな所に居たのか……?」
『紅蓮の剣』のリーダーであるトーラスがアイラの元へ来て俺の存在に気が付く。
そしてこちらは俺を認識するなり顔をしかめる。
「オルカ、アイラに何の用だ?パーティに戻れるように懇願でもしていたのか?」
トーラスがアイラを護るように一歩前へと踏み出す。
だが、それは見当違いだ。
「……偶然会っただけだ。それに俺は『紅蓮の剣』に戻りたいとは思っていない。今は『黎明の光』のメンバーだ。」
俺がそう言うとトーラスが不機嫌になったのが分かった。
おそらく俺が『紅蓮の剣』に未練が無いと言ったからだろう。
追い出しておいていったいどういう理屈だ?
トーラスはフンと鼻を鳴らして俺を見下すように見てくる。
「そんなパーティ聞いたことないな。作り話か?」
何故そうなる?
どうもこいつの中で俺は惨めにパーティを追い出されて今も未練タラタラ、かつそれを隠す様に虚勢を張っている奴という認識のようだ。
しかも『黎明の光』というパーティ名を聞いてもピンと来ていないという事は、先日の『戦車騎士団』との模擬戦の事もこいつの耳には入っていないのだろう。
っていうか用は無いんだからさっさとどっか行ってくれ。
「新興パーティだからな、今はこの2人と組んでやってる。」
そう言って俺の両脇に居るイリアナとレイラに視線を送る。
トーラスは俺を見る目とは打って変わり2人をまじまじと見る。
と言うか嘗め回す様に見ている。
あまり知られてはいないが、こいつは結構好色家だったな。
イリアナとレイラを護るように一歩前へ出る。
そうすることでトーラスの視線を俺に向けさせる。
「……見た所新人冒険者か?大方Aランクと言う肩書を使って騙しているんだろう?君達、こいつに何か法外な要求を受けていたりしないか?何かあれば相談に乗るぞ?」
何を言い出すかと思えば。
この物言いには俺も呆れるしかない。
「オルカさんは私達のパーティのリーダーです。Aランクでも全くそれを奢る事のない人格者ですので心配は無用です。」
「そうだよ!!オルカさんの事を悪く言うのは許さないよ!!」
俺が反論を口にしようとしたタイミングでレイラとイリアナから怒りをにじませた言葉が飛ぶ。
どうやら俺を悪く言われていることに我慢がならなかったようだ。
「だそうだ。お前の心配するようなことはないからどっか行ってくれ。」
俺はこれで話は終わりだと言わんばかりに手でトーラスを払う仕草をする。
トーラスの顔に怒りの感情が浮かび上がる。
「ちょっと、トーラス。」
これはマズいと思ったのかアイラがトーラスの肩を掴む。
「オルカなんかに構ってられないでしょ。あたしたちにはやらなきゃいけないことがあるんだから。」
アイラにそう言われてトーラスも落ち着きを取り戻す。
どうやらこの2人は何か目的があってこの広場に来ているらしい。
……食べ歩きだろうか?
「そうだったな。俺達は『紅蓮の剣』に相応しいメンバーの勧誘に来ているんだった。こんな害悪魔術師に構っている暇はなかった。」
おお、酷い言いようだ。
だが、能力低下専門の魔術師なのだからある意味正鵠を射ているな。
今後はそう名乗ってみるか?
そんなことを考えている俺は特に何も感じていなかったが、後ろの2人はそうではなかったようだ。
「オルカさんはすごい人だよ!!昨日の模擬戦だって1人で『戦車騎士団』の3人を倒しちゃったんだから!!」
「そうです。今の発言を撤回してください。」
もう2人が臨戦態勢に入っている。
俺としてはさっさとこいつらと別れたいのだが……
だが、このイリアナの発言が良くなかった。
アイラが昨日の模擬戦と言う単語に反応する。
「トーラス。ギルドで噂になってた模擬戦の事じゃない?新人冒険者の2人が『戦車騎士団』相手に善戦したっていう……」
どうやらアイラはギルドでその情報に触れていたようだ。
『黎明の光』に反応しなかったあたりその新人冒険者目当てという訳ではなかったのだろうが、アイラにそう言われてトーラスの眼の光り方が変わったのを俺は感じた。
「なるほど、君達が噂の新人冒険者か。……よし、君達を我が『紅蓮の剣』に招待しよう。」
「は?」
思わずそう言ってしまう。
だが、トーラスはそんな俺の困惑を意に介する素振りも見せない。
「勿論、君達が加入するならオルカの復帰も認めようじゃないか。この男は口ではこう言っていても『紅蓮の剣』に復帰したがっているからね。」
当然と言わんばかりのトーラス。
彼は本気のようだった。
トーラスさんはアレですが、アイラさんは比較的普通の人です。
オルカさんは『紅蓮の剣』全員に疎まれていたわけではないということですね。
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