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38.一人で外出しちゃだめだよ!!

目の前にあるのは切れ目を入れた楕円のパンに、野菜や鶏肉を甘辛く煮たものを挟んだ料理だ。


それを一口、口に含み咀嚼する。

うん、旨い。


屋台売りされているこのパンはこの南広場に出ている屋台の中でも人気らしく、昼には行列ができるのだとか。

だが今は昼前なので、数人が列を作っているくらいだ。


「美味しい!!やっぱり美味しそうな匂いのするものって食べても美味しいんだね!!」


隣ではイリアナが俺と同じパンを食べてはしゃいでいる。


「風邪なんかで鼻が効かないときは何食べても味がしないって話もあるし、嗅覚と味覚には何か関連があるのかもしれないな。」


俺はまた一口パンを口に含む。

横目にイリアナを確認すると、彼女はもう半分くらい食べ進んでいた。


そこへ少し疲れた顔のレイラがやってくる。

その手にはソフトクリームが握られていたが、少し溶けていた。


「どうしたんだ?」


レイラはこの時間にパンは重いと言って、2つ隣の屋台で出しているデザートの方を見てくると言っていたのだ。


「これを買った後に、ちょっとありまして……」


「?」


俺とイリアナが顔を見合わせる。


「何があったんだ?」


聞けば、ソフトクリームを舐めながらレイラは説明してくれた。

有体に言えば、勧誘を受けていたらしい。

それも2組に。


1組目はレイラの容姿を気に入った夜のお店の経営者から。

どうも今の時間が仕事上がりの帰宅時間らしく、運悪く目に留まってしまったそうだ。

レイラは派手な格好をしているわけではないが、素材が良いので行けると踏んだんだろう。

もしかしたら今のまま清楚系で売る路線だったのかもしれない。

まぁ拒否したらしいが。


厄介だったのが2組目で、こちらは冒険者だったようだ。

男女の2人で所謂引き抜きの話を持ち掛けられたとか。

どうやら先日の模擬戦を見ていたらしく、熱心に誘われたそうだ。


「え?そんな引き抜きなんて普通にあるの?」


イリアナが驚く。


「あるな。特に中堅冒険者パーティは人材不足だから、ギルドに募集をかける以外に将来性のある新人冒険者に声を掛けているのはよく見かけるぞ。」


「そうなんですね。『黎明の光』の所属だと言ったらそんなパーティは知らないって。まぁ作ったばかりのEランクパーティなので仕方ないのですが、そんなパーティよりうちのDランクパーティの方が良いぞと言われて……少し気分が悪くなりました。」


レイラが変わらずソフトクリームを舐めながら少し俯き加減に言う。

まぁ向こうからすれば作ったばかりのパーティなんて続くかどうかも怪しい代物だ。

パーティ消滅してバラバラになった所を他のパーティに獲られる位なら自分たちで、と思うわな。


「こりゃ早い目にパーティランクを上げる必要もありそうだな。俺達がいつ消えるか分からないようなパーティでなく、しっかりとした一パーティだと認識させないとそういう連中はいくらでも来るだろう。」


なまじイリアナもレイラもAランクパーティ相手に奮戦してその様を多くの冒険者に見られている。

一時的に話題になってもおかしくないだろうし……本当にベンさん余計なことばかりしやがるな。


「確かに困ります。パーティランクは迷宮到達階数で決まるんでしたよね?」


「ああ、だが迷宮攻略となると数日がかりになるから野営の方法や食事の問題も出てくる。資金的な面も考えて、そう言った技術も身に付けてという事であれば……挑むまで1月くらいかかるかな?」


俺の予想にイリアナとレイラがお互いを見合わせて頷く。


「オルカさん!!これから迷宮攻略に挑むまでの間、一人で外出しちゃだめだよ!!」


「私かイリアナが必ず同行しますので、よろしくお願いします。」


「なんだ?どうした2人とも?」


2人に詰め寄られ困惑する俺。

そんな俺の態度を見てレイラの視線がジトっとしたものに変わる。


「模擬戦で実力を見せて一番評価されているのが誰か分かっていないんですか?オルカさんですよ。」


そう言われて気付く。

そうか、彼女たちが引き抜きの誘いを受けた様に、俺もそういった誘いを受ける可能性があるのか。

彼女たちはその模擬戦の顛末を聞かされているからそういう思考に至ったわけだ。


「俺を護ろうとしているのか?」


「そりゃそうだよ!!せっかく正式にパーティを組めたのに、引き抜きのせいでご破算なんて嫌だよ!!」


まぁ俺にはそんな気はないが、2人からすれば俺が心変わりしないと信頼するには1週間と言う期間は短いのかもしれない。


「わかった。じゃあ落ち着くまでは外出する際は2人以上にしよう。イリアナとレイラもな?」


2人が俺の言葉に頷く。

納得してくれたのを見て俺はまたパンを一口齧る。


頭の中で今後のスケジュールの組み直しをする。

2週間は訓練重視で、1週間は資金稼ぎ、もう一週間で遠征依頼を受けて野営に関わる技術を教えて……

やはり1ヵ月はかかるな。

それでも十分早い方なのだが……

新人冒険者が組んだパーティがEランクからDランクに上がる平均期間は3ヵ月くらいだったはずだ。

かなりの強行軍にはなるが、やって出来ない事はないだろう。


「あら?オルカじゃない。」


思考の海に沈んでいた俺の意識はそんな呼びかけで浮上してくる。

声を掛けられた方を向くと、そこには『紅蓮の剣』の斥候、アイラが立っていた。

引き抜きってあRWる側もちょっと嬉しかったりしますよね?

創造ですが……

この後の展開を見ても良いと思われましたら是非、評価・ブックマークをお願いいたします。

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