表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/58

33.ここからは|全力で行きます

俺の本気を見せろ……か。


「一つ訂正を。俺は本気で戦っていますよ?」


「それはあくまで彼女たちに経験を積ませるための立ち回りでの事でしょう?」


バーンさんはさも当然という風に返してくる。

やはり俺の狙いは理解されているようだ。


「レイラさんでしたね。彼女と私が戦っている時に私への能力低下(デバフ)ではなく、彼女への能力低下(デバフ)の解除を優先したことからもそれは明白です。……彼女が普段通りの感覚で戦えるようにと言う配慮でしょう。まぁ未だどうやって能力低下(デバフ)を解除しているのかは不明ですが。」


正解。


「お願いしているのはこちらですからね。その想いは理解した上で戦わせてもらいました。……そしてここからはあなた一人。今度は我々の想いに応えていただきたい。」


こう正面から言われると余計に避けづらい。


もともと俺の狙いとしては彼の言う通りイリアナとレイラに対人戦の経験を積ませる事だった。

正直それさえ達してしまえば後は適当にして負けても良いと思っていた。


だが、ベンさんはわざわざ観客を集めて俺が無様に負けれないように外堀を固めてきた。

バーンさんは俺の想いを汲んだうえで戦ってくれ、そしてその上で俺の全力を求めてきている。


……いや、ベンさんのはマジで余計なことしただけだな。

あの人には俺が負けられると困る理由でもあるのだろうか。


バーンさんの想いには応えてあげるのが筋だとは理解している。

しかし、それ以上にイリアナとレイラの戦いに俺は感情を揺さぶられていることに気付いていた。


2人とも格上とのマッチアップ。

負けても誰も文句を言わない場面でも、彼女たちは全力を出した。

さらに、思い起こされるのはこの1週間の訓練風景。

彼女たちは常にひたむきだった。

ひたむきに、全力に。


俺が全力を出さなくなったのはいつからだろう。

『紅蓮の剣』でパーティとの関係が悪くなった頃からだろうか。

何か明確な理由があった気もするが、もう思い出せない。


だが、今の俺には全力を出せない理由も、全力を出さない理由も無い。


こういう気持ちを呼び起せるのなら、新人冒険者の引率も悪くないな。


「分かりました。ここからは全力で(・・・)行きます。」


俺はバーンさんの目をしっかりと見据えて宣言する。

バーンさんは少し驚いたようだがすぐに気を引き締めて武器を構え直した。


「行くよ!!」


バーンさんが叫ぶのと同時に、グレゴリオとバーンさんが突っ込んでくる。


「【恐慌(フィアー)】」


対して俺がしたことはただ一言、魔術発動の言葉(ワード)を発しただけ。

構えることもしない。


そして俺の魔術が発動した瞬間、3人が崩れ落ちた(・・・・・)


3人とも驚きの表情を浮かべるが、声を発することも出来ない。

この魔術は相手を短時間行動不能(スタン)状態にする魔術だ。

具体的には脳からの信号を断っている状態になっている。

治癒(ヒール)】と並び、俺が最も訓練した魔術だ。

無詠唱化は叶っていないが……


3人が3人とも行動不能の状態。

この隙になら剣を突き立てることも容易なので、本来ならこれで試合終了だろう。

だが、これだけではバーンさんたちの想いに応えられているかは分からない。

なので俺は続けて能力低下(デバフ)魔術を行使する。


「【筋力低下・零パワーダウン・ヴォイド】【敏捷低下・零アジリティダウン・ヴォイド】」


能力低下(デバフ)魔術を3人に行使する。

同時に行動不能(スタン)状態から回復した3人が起き上がろうとして、全員がそれに失敗する。

この魔術は筋力と敏捷を極限までゼロに近づける魔術だ。

能力向上(バフ)がかかっていようと関係ない。

どんな数値でもゼロを掛ければゼロになるのだ。


筋力がゼロの状態では服を着て立つのがやっと。

武器など持てないし、鎧なんて着込んでいれば身動きできない。


敏捷もゼロになっているので体勢を崩してもとっさの判断が間に合わず、受け身も取れずに再び地面に突っ伏す。


俺はそんな3人を前にして更に高難度の能力低下(デバフ)魔術を重ね掛けしていく。


「【視力喪失(ロストアイ)】【触覚喪失(ロストスキン)】」


この魔術は人の五感を封じる魔術だ。

補助魔術の中でも最高位に属するものだ。


今彼らは光一つなく、自分が立っているのか地面に這いつくばっているのかすら分からない世界に落ちた。

三人の顔が今まで感じたことのないであろう感覚に歪む。

五感を奪う魔術は長時間その状態が続くと精神崩壊を引き起こすと言われている。


……流石にこれ以上はやり過ぎだろう。


「さて、俺が今披露できるのはこれくらいだが満足して貰えたかな?」


俺は少し明るめの口調で語りかける。

聴覚は残しているので俺の声は聞こえているだろう。

そして、【恐慌(フィアー)】の効果も切れているから声も発することはできる。


「……ああ、参った。降参だ。」


最初に声を発したのはバーンさん。

そして続いて残りの2人も続けて降参の意を示す。


それを聞いたベンさんが宣言した。


「勝者、『黎明の光』!!」


静まり返る闘技場内。


俺は3人に行使した魔術を解除し、今も気を失っているイリアナとレイラに【治癒(ヒール)】をかける。

2人とも骨折や打撲などの重症ではあったが、このくらいなら完治させられる。

じきに目を覚ますだろう。


「嬢ちゃんたちが戦ってる時は結構盛り上がってたんだがな。お前さんが本気を出してから静まり返っちまった。」


ベンさんが観客を見回しながら話しかけてくる。

これは予想外だと言わんばかりだ。


「まぁ俺の戦い方は、傍目には何してるか分からないですからね。盛り上がりようがないでしょう。」


イリアナのように魔剣が生成されるわけでもない。

レイラのように戦術が見えるわけでもない。


ただ、相手が倒れて起き上がらないだけだ。


「だが、俺の狙いは達成できたかな。こいつらからは確かにお前さんに対する畏怖の念を感じる。」


「…ベンさんは俺が舐められると困る理由があるんですか?」


「ねえよ?ただ、実力のある物が不当な扱いを受けてる状況は、ギルドとしてはマイナスなんだよ。力のある奴には働いてもらわないと困るって事だな。」


そう言ってガハハと笑う。


俺はそんな様子のベンさんを尻目に、医務室へ運ばれるイリアナとレイラに続いて闘技場を後にした。

オルカさん圧倒回です。

若い子に感化されることはままありますよね。

設定ではオルカさん19歳、イリアナさんとレイラさん15歳で4歳しか差がないのですが……

この後の展開を見ても良いと思われましたら是非、評価・ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ