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31.まだ!!全力を出し切っていない!!

「【沈黙(サイレス)】」


うおっ!?


補助魔術を発動させようとした俺に対し、ヴァネッサさんが出鼻をくじくように魔術を発動させてきた。

俺は抵抗(レジスト)できずにその魔術を受けてしまう。


だが、問題はない。


治癒(ヒール)


俺の【治癒(ヒール)】は【沈黙(サイレス)】による声帯機能不全もデフォルト状態に戻せる。


「【筋力低下(パワーダウン)】【敏捷低下(アジリティダウン)】」


「なっ!?」「うぉ!?」


俺に【沈黙(サイレス)】がかかったと思っているヴァネッサさんと、急激な能力低下を受けたグレゴリオが同時に驚きの声を漏らす。


「ふはははは!!破魔飾りをしていてもこれか!?ヴァネッサ!!頼む!!」


何が嬉しいのかグレゴリオは大きく笑う。

そして首にかけていた破魔飾りを引きちぎると投げ捨てた。


「【筋力上昇(パワーアップ)】【敏捷上昇(アジリティアップ)】」


そこへすかさずヴァネッサさんの能力向上(バフ)が飛ぶ。

レイラがそれを妨害しようと矢を放ってはいるが、全てバーンさんの【防護壁(プロテクション)】と棍により防がれている。

あの様子ではバーンさんにもバフがかけられているな。


「おおおおおお!!行くぞお嬢ちゃん!!」


「あたしの名前はイリアナだよっ!!」


そして再びイリアナとグレゴリオが剣を交える。

俺はその様子を観察する。


グレゴリオの能力は3割ダウンくらいか?

俺の能力低下(デバフ)とヴァネッサさんの能力向上(バフ)では能力低下(デバフ)の効果が勝っているようだ。

そのおかげかイリアナが引くことなくグレゴリオと相対できている。


イリアナの攻撃を捌くグレゴリオに余裕はない。

ショートソードによる攻撃自体は軽く、グレゴリオの防御を抜けるわけではないが、敏捷が低下しているのが効いているのか、なんとか防御が間に合っているといった具合だ。


だが、グレゴリオの攻撃を受けるイリアナにも余裕はない。

剣速が落ちているので何とかラウンドシールドで受け流す事はできているが、筋力が低下した状態でもその一撃は重く、受け流しそびれれば大ダメージは避けられない。


「【石弾(ストーンショット)】!!」


「む!?」


イリアナはこのギリギリの膠着状態を有利に運ぶため攻撃魔術を行使する。

足元に生成された石弾がグレゴリオに向けて飛ぶ。

そしてそれに合わせるように上段から切りかかるイリアナ。

上段と下段の同時攻撃だ。


「ふっ!!」


グレゴリオの選択は早かった。

大盾を掲げてイリアナの剣を受け止めると、石弾は対処せず(・・・・)に鎧で受ける。

衝撃自体は中に通るだろうが、所詮は第一階位魔術。

それだけで昏倒させられる威力ではない。


「はぁぁあああああ!!!!」


そして石弾に対処しないことで空いた腕で大剣を思いっきり振るう。


「やば!?」


イリアナは咄嗟にラウンドシールドでその剣を受ける。

が、受け流しきれずに吹き飛ばされてしまった。

盾も大きく吹き飛び、イリアナは地面を転がる。


経験の差が出たな。


攻撃魔術と斬撃で意識を散らして防御に穴を作ろうとしたイリアナに対し、グレゴリオは致命傷にならない石弾を取るに足らないと切り捨て、攻撃に意識の大半を割いたイリアナに逆に攻撃を仕掛けた。

戦闘経験の少ないイリアナが攻撃に集中してしまった、その隙を突いた感じか。

正に肉を切らせて骨を断つと言う奴だな。


「っまだだよ!!」


グレゴリオの追撃を阻止するため2人の間に割り込もうとしていた俺をイリアナが声で制する。

見ればもう起き上がって片手で剣を構えている。

盾を装備していた左手は力なく下がっている。

腫れ具合からすれば折れているだろう。

だが、彼女の心は折れていなかった。


「あたしは!!まだ!!全力を出し切っていない!!」


まるで自分を鼓舞するかのように叫び、大きく息を吸い込む。

そして、切り札の名を叫ぶ。


「【岩石巨神剣(アトラスソード)】!!」


魔剣。

魔術を剣に纏わせるように発動する技。


彼女は特殊だった。

転機は【石壁(ストーンウォール)】を使わせたこと。

彼女が第一階位の【土壁(アースウォール)】の短縮詠唱に苦しんでいる時に、ふとした思い付きで試してもらったのだ。

彼女はそれをあっという間に短縮詠唱で発動させてしまった。

彼女曰く、岩石はしっかりとした形があってイメージしやすいとのこと。


言わんとしていることは分かる。

土と言うのは決まった形を持たない流動性のある物だ。

対して岩石は形の違いや大きさは違えど個体だ。

短縮詠唱では魔力を現象に変換する際のイメージが重要になる。

彼女は岩石に限り、それを正確にイメージできるという事だ。


つまり、彼女は地属性魔術の、その中でも特に岩石系魔術の天才だった。


彼女が魔剣の名を発声すると、ショートソードの周りに次々に岩石が出現し、剣の形を形成していく。

その長さは約5m、まるで神話の巨人が持つような巨大な岩石の剣。

練度が低いため剣の形成が不十分でまともに物が切れるような鋭さはないが、鈍器として見ても脅威を覚える大きさだ。


「はぁぁああああああああ!!!!」


そしてイリアナはその魔剣を片手で(・・・)振り下ろす。


この魔剣は魔術により魔力が変化した岩石でできている。

つまり質量を有しつつも重力の影響を受けない(・・・・・・・・・・)ため、本人の感覚としてはショートソードから重さは変わっていない。


「くっ!!」


グレゴリオが盾を構えてその魔剣を正面から受ける。


「がぁああ!!」


轟音と共に魔剣が受け止められ、グレゴリオの両足が闘技場の石畳に沈む。

その両足からは放射状に亀裂が走る。

流石の衝撃だが、グレゴリオを仕留めるには至らなかったようだ。

岩石の質量に加速度が加えられた一撃は相当に重いはずだが、流石Aランク重戦士だ。


そしてそのまま魔剣は魔素となり霧散する。

イリアナがこの魔剣を発動できるのは5秒ほどなのだ。


魔力を使い果たしたイリアナは意識を失い、その場に倒れた。

彼女は全力を出し切ったのだ。

個人的に好きな回です。

イリアナの気迫が伝わっていれば幸いです。

気持ちを書くのって難しい……

この後の展開を見ても良いと思われましたら是非、評価・ブックマークをお願いいたします。

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