26.いや、結構
side.トーラス
『カナリア亭』に戻った俺達は、一度解散した後で俺の部屋に集まることになった。
俺も自室に戻り、汗を流しながら今日の出来事を振り返る。
先の無いオルカをパーティから追い出し、近接戦闘も出来る回復術師のバーンと能力向上・能力低下両方が使える補助魔術師のヴァネッサを迎え入れた。
……ここまでは問題ないはずだ。
スペックだけで言えばオルカの役割を2人で分けてそれぞれ専門職として独立させているような感じではあるが、何より能力向上で得られる恩恵が大きいはずだった。
まさか、能力向上をかけた状態でゴリアテに攻撃が通らないとは……
ゴリアテは確かにBランク魔物の中でも飛びぬけて防御力の高い魔物ではあるが、これまでは何なく倒せていた。
ただの動きの遅い木偶でしかなかったのだ。
それがなんでAランクパーティである俺達が敗走するようなことになったのか……
考えられることは2つ。
1つはあのゴリアテが変異種で防御力が通常種の比でなかったというケースだ。
正直この可能性が一番高い気がする。
だとすれば他の20階層クラスの冒険者では歯が立たないだろう。
ギルドに変異種の可能性のある魔物が出たと報告を入れておくべきか……
もう1つ考えられるのは、オルカが使っていた能力低下の倍率をヴァネッサの能力向上が下回っている可能性だ。
考えてみればバーンの回復魔術も大したことなかったし、2人して自分たちの能力を誇張してパーティメンバー募集に手を上げてきた可能性もそこそこありそうだ。
だが、敗走した後でバーンが言っていたな。
ちゃんと準備して複数の能力向上を重ね掛けしなければ倒せないと。
逆を言えば能力向上の重ね掛けさえすれば倒せるということだ。
ヴァネッサが俺に使える魔術を全て無詠唱で使えるように訓練しさえすればこの問題は解決できるだろう。
バーンの方は回復魔術も近接戦闘も期待外れだから要らないが、ヴァネッサは必要だな。
それに、ヴァネッサは戦闘以外でも使い道がある。
正直、あの容姿・スタイルの女を手放すのは惜しい。
アイラもいい女ではあるが、体型的にはスレンダーなので別タイプだからな。
Sランクになり爵位を得られれば2人とも夫人として迎え入れても問題ない。
ヴァネッサもあの能無しのバーンより有能な俺に惹かれているに違いないだろう。
だが、そうだな。
一応でもバーンの妻という事に引け目を感じている事も考えられるから、2人ともこのパーティに留まらせてほしいのならば、と交換条件を付きつけてやればすぐ俺になびくだろう。
この後のパーティ会議ではその線で行こう。
今回の迷宮攻略失敗の責任をバーンとヴァネッサの2人の責任なのは間違いないからな。
それでこのままでは正式メンバーとしては迎え入れられないという事をほのめかす。
そうすれば奴らはAランクパーティに入りたい一心で縋り付いてくるだろう。
ここで一旦、1晩考えるという事にして解散する。
その後ヴァネッサの部屋に行き、俺と関係を持てば2人とも『紅蓮の剣』の正式メンバーとして迎え入れると持ち掛ける。
後はヴァネッサの気持ちが完全にこっちに向いたタイミングでバーンを切ればいい。
我ながら完璧な作戦だ。
俺は自然とニヤついていた顔を引き締めてシャワールームを出た。
「は?今何と言った?」
俺は耳を疑う言葉にそう返す。
だが、俺の前に座るバーンは表情を変えずもう一度同じ言葉を繰り返す。
「……私達は『紅蓮の剣』の求めるレベルに達していないので別のパーティを探すことにするよ。」
何を言っているんだ?
お前たちは俺たちのパーティに何とか残らせてほしいと懇願するはずだろ?
「確かに君たちの実力はまだこの『紅蓮の剣』には相応しくないかもしれない。だが、光るものがあったのも確かだ。俺としてはもう少し実地試験を行ってから決めてもいいかなと思っていたんだが……」
「いや、結構。『紅蓮の剣』の要望には応えられないという事は私達が一番理解している。」
そう言って席を立つ。
スッとヴァネッサも立ち上がり、迷いなくバーンに追従しようとしている。
まてまて。
今俺の方から歩み寄ってやったよな?
それをなんだ?要らないと言ったか?
「いいんじゃない?やる気のない奴ら引き留めても仕方ないじゃない。」
バーン達の予想外の動きに俺が混乱しているとアイラがそんなことを言い始めた。
「……そうだな。メンバーはまた募集すればいいだろう。」
そこにガイアが同意を示す。
もう、この流れを変えることは出来なかった。
side.バーン
『カナリア亭』を出てギルドを目指す。
本当なら宿を探すところだが、それより気になることがあった。
オルカなる人物についてだ。
『紅蓮の剣』は酷いものだった。
ゴリアテを倒せなかったことから実力的にもBランクあるかどうかで連携や役割分担と言ったものも皆無。
加えて常識も欠如している。
あのパーティをAランクに押し上げたのがそのオルカなる人物なのは間違いないだろう。
中衛として前衛を抜けてきた魔物を処理しながら能力低下で戦況をコントロール。
能力低下の低下倍率はヴァネッサの能力向上に炎獄火炎剣を加えたのより上と言う規格外さ。
加えて破魔飾りをつけた仲間をそのまま治癒する回復術。
……そんな人物居るか?
「もしそんな人物がいるなら会ってみたいものだ。」
ぽつりとつぶやく。
「私も会ってみたい。私達がぶつかっている壁を超えるヒントが得られるかもしれないわ。」
私のつぶやきに応えるようにヴァネッサが言う。
それに私は頷く。
そう、私達は強くならなければならない。
来るべき日の為に。
ここまで描くことのなかったトーラスさんの思考回路は、中々の屑でした。
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