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25.こいつを切り倒すんだろうが!!

side.バーン


私がトーラスから疑惑を向けられている中、予想外の追い打ちがかかった。


「それだけじゃないわ。この男は近接戦闘もろくにこなせていなかった。コボルドの一匹も倒していないわ。」


声の主はレティスだった。

いきなり何を言い出すんだ?


「コボルド程度に後れを取るようじゃこの先の階層では不安だわ。」


「そう言えば俺も背後からコボルドの攻撃を受けたんだった。バーン。君は近接戦闘が出来るのに前衛の補助をしていなかったね。近接戦闘が出来るというのも誇張か?Bランク冒険者なんだからオーガくらい単独で討伐できるんだよな?」


私はレティスとトーラスが何を言っているのか理解できなかった。

私は後衛職だぞ?

トーラスが言っているのはまるで中衛に入れと言っているようなものだ。

しかも前衛のサポートをしながら後衛を護れと?

加えて聞き捨てならないことも言っていた。

オーガを単独で討伐?

そんなの、Bランクの前衛職ですらいけるかどうかのレベルだぞ?


「……トーラス。君たちは本気でそれを言っているのか?……まさかそれもオルカと言う人が?」


私の疑問に彼は首肯する。


「オルカは全部やっていたぞ?このAランクパーティ『紅蓮の剣』に入るにはそれくらいやってもらわなければ困るな。」


若干の呆れを含む言い方だった。


『紅蓮の剣』の常識がおかしいと、どう説明するべきか悩む私だったが、その後の会話は続かなかった。


ガシャン


ガシャン


金属がこすれ合う重たい音が響く。


途端にトーラスたちの表情が明るくなる。


「ツイてる!!ゴリアテだ!!」


鉄巨兵(ゴリアテ)

金属の鎧を纏ったような人型の魔物で、高い攻撃力と耐久力を誇るBランク魔物。

魔石が金貨10枚と高額で売れるのに加え、ドロップに希少金属のインゴットがあるため冒険者が血眼になて探す魔物の1匹だ。

こいつは迷宮の浅層から出現するが、21階層に出てくるのは相当レアだ。

トーラスたちが喜ぶのも理解できる。


彼らはすぐさま音のなる方へと走り出す。

そこには予想通りゴリアテの姿があった。

両の手に大剣と大盾を装備している標準的なパターンのものだ。


「ヴァネッサ!!能力向上(バフ)を!!」


トーラスが叫ぶがヴァネッサは混乱している。

それはそうだ。

ゴリアテは全身鎧を纏った魔物なのだ。

斬撃や打撃が極端に聞きにくいこの魔物と戦うにあたって、剣士に何のバフをかけるのか。

打ち合わせももちろんしていないし、彼らの戦い方も不明だ。


「っ!!【敏捷上昇(アジリティアップ)】」


ヴァネッサは補助魔術を放つ。

妥当な所だ。

前衛がゴリアテのヘイトを稼いでレティスの高威力魔術で倒す。

彼らもきっとそうするだろう。

そう思っていたのだが、どうやらそれもハズレらしい。


「違う!!攻撃力強化だ!!こいつを切り倒すんだろうが!!」


正気か!?

それともトーラスの攻撃力はゴリアテの防御力を超えているのか!?


「【筋力上昇(パワーアップ)】!!」


ヴァネッサも顔に困惑の色を浮かべながらも補助魔術を発動させる。


「よし!!一気にカタをつける!!」


トーラスは能力向上(バフ)のかかった体での高速機動でゴリアテの斬撃を躱し背後に回る。


「はぁぁあああ!!」


無防備な背中への全力の斬撃。


ガァン


トーラスの剣が弾かれる音が響く。

信じられないという表情のトーラス。


「トーラス!!」


呆けているトーラスに対し叫ぶ。

見ればゴリアテが振り向きざまに大剣を振るおうとしている。


「ちっ!!」


すぐに我に返ったトーラスが後方へ跳ぶ。

直後に放たれたゴリアテの斬撃は空を切る。


「なんで切れないんだ!!ヴァネッサ!!」


トーラスがヴァネッサに疑問を投げかける。

だが、それは私達も同じだ。


なぜ、【筋力上昇(パワーアップ)】だけで切れると思ったのか。


もしゴリアテくらいの高防御力の魔物を物理攻撃で倒そうと思えば、【筋力上昇(パワーアップ)】に加えて【斬撃強化(クリティカルエッジ)】などの武器への能力向上(バフ)も織り交ぜ、少なくとも3つは重ね掛けしなければならない。

だが、ここでそれをやりたくても出来ないのだ。

武器を限定するような補助魔術を無詠唱起動できるまで昇華している魔術師などそうはいない。


「クソが!!見てろこの雑魚がっ!!【炎獄火炎剣(インフェルノソード)】!!」


トーラスが剣を掲げる。

その剣が赤く光ったかと思えば、たちまち業火に包み込まれる。


「なんて熱量だ!!」


反射的にヴァネッサの前に立ち、彼女を熱気から守る。

本来ならばこんな洞窟内での高火力火魔法なんて使うのはNGだ。

逃げ隠れする場所も無ければ酸素も尽きかねない。

だが、今の彼はそんなことも考えられないくらいに余裕がなくなっているのだ。


「【防護壁(プロテクション)】!!」


私は自分とガイア、アイラに防御魔術を放つ。

攻撃を防ぎきれずとも無いよりはマシだ。


見ればトーラスが炎に巻かれる剣をゴリアテに振り下ろすところだった。

火力に全振りされた魔剣がゴリアテに叩きつけられ、業火がその巨体を包み込む。



やがて炎が消えると、そこには変わらず立ち続けるゴリアテの姿があった。



「は?」


トーラスは間の抜けた顔でゴリアテを見ている。

渾身の魔剣で倒しきれなかったことを理解できていないようだ。


「退却だ!!」


すぐさま私は後退の判断を下す。

本来は戦況判断する司令塔の役目なのだが、このパーティにその役目を負うものが居ないのは理解していた。


こうして『紅蓮の剣』はBランクのゴリアテを相手に敗走したのだった。

言うまでもなくオルカさんが居た『紅蓮の剣』であれば問題なくゴリアテ討伐出来ていたでしょう。

1章中に彼の強さを書く展開がありますのでお楽しみに。

この後の展開を見ても良いと思われましたら是非評価・ブックマークをお願いいたします。

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