24.あなたが何とかしなさいよ
side.バーン
「さぁヴァネッサ!!俺達に攻撃力強化の能力向上をかけてくれ!!」
アイラがコボルドを誘導してくるのを見てトーラスが言う。
色々言いたいことはあるが、とりあえずあの魔物を討伐しない事にはどうにもならない。
そしてそれは彼女も分かっている。
「【筋力上昇】」
ヴァネッサがトーラスとガイアに能力向上をかける。
それと同時に戦闘が開始された。
「ちょっと!!なんであたしには能力向上掛けないのよ!!」
コボルドの1匹を素早い動きで切りつけながらアイラが怒鳴る。
補助魔法だって有限なのだから無駄打ちできるわけがない。
アイラは短剣使いの斥候なので中衛ポジションに入ると思っていたのだが、ガンガン前に出て行く。
ちょっと待て?
このパーティの司令塔は誰だ?
戦況全体を見ている人は?
トーラス、ガイアも嬉々としてコボルドを狩っている。
周りを見ているようには見えない。
どころかコボルドが2匹、前に出ている3人の間をすり抜けてこちらへと走ってくる。
こっちには私とヴァネッサ、それに攻撃魔術師のレティスの3人しかいない。
「くっ!!コボルドが抜けてきている!1人こっちに回ってくれ!!」
叫びながら私は棍を構える。
私は近接戦闘も出来なくはないが、相手が1匹ならともかく後衛職2人を庇いながら複数匹を相手にするのは難しい。
「がっ!?この雑魚が!!」
怒声が聞こえて視線を向ける。
どうやらトーラスが背後に回られたコボルドに引っ掛かれたようだ。
コボルドの群れに単身突っ込めばそりゃそうなる。
と言うか連携は一体どうなっているんだ?
前に出ている3人はそれぞれが好き勝手動いているし、誰もヘイトコントロールをしているようには見えない。
後衛に魔物が迫っても気にする素振りもない。
「レティス!!コボルド1匹に速射出来る魔術で牽制を!!もう一匹を私が対応する!!」
そう言って私は前へ出てコボルドに横薙ぎの一撃を放つ。
その一撃は躱されてしまったが、そのおかげで少し距離が出来る。
が、そこに信じられない声が投げかけられた。
「なんでコボルド2匹程度に私が魔術を使わないといけないの?あなたが何とかしなさいよ。」
その声の主はレティスだ。
普段喋ることのない彼女が喋るのを私は初めて聞いたかもしれない。
「バーン!!」
ヴァネッサの悲鳴が聞こえる。
ふと見れば私のすぐ脇までもう一匹のコボルドが迫ってきており、鋭い爪のついた腕を振りかぶっていた。
「っ!?」
咄嗟に体をひねって躱そうとするが、躱しきれずに腕を切りつけられる。
鋭い痛みに顔をしかめながらも棍を振り、コボルドとの距離を稼ぐ。
1匹はレティスが足止めしてくれるものだと思って1匹に集中し過ぎた。
レティスの対応には疑問しかないが、戦う気がないのであればここは俺が何とかするしかない。
時間を稼ぎながら前衛が戻ってくるのを待つ。
「【筋力上昇】【敏捷上昇】」
ヴァネッサの能力向上がかかる。
本来ならば後衛職にかけるなんて魔力の無駄遣いでしかないが……
「助かる。」
私は彼女に礼を言ってコボルドに相対する。
2匹に挟まれないように立ち位置を調整し、距離を測る。
「うぉ!?」「あっ!?」
今度は前衛の2人から困惑の声が聞こえる。
見るとトーラスは立っていられないのか片膝をついており、アイラもふらふらしている。
あれは……!?
「能力向上が切れたのか!?」
「そんな!?流石に短すぎるわ!!」
私とヴァネッサが混乱する。
一体何が起こっているというのか。
その後、能力向上の掛けなおしで復活したトーラスたちがコボルドを駆逐することで事なきを得た。
だが、彼らも私達も思い描いていた初戦とは違う結果に雰囲気は悪い。
皆予想外の苦戦に、コボルドの魔石回収も行わずに座り込んでいた。
「バーン。回復してくれ。」
やがて声を発したのはトーラスだった。
コボルドに背後からやられた傷を指しているようだ。
「【治癒】」
私はトーラスのそばまで行き、言われた通り回復魔術を行使する。
だが、トーラスの傷はなかなか塞がらない。
「どうしたんだ?さっさと治してくれ。」
こっちも自分の腕の傷を治す前にトーラスに回復術を行使しているというのに……
だが、回復が遅すぎる。
一体何が起こっているのか。
と思っているとある物が目に入った。
「トーラス!!まさか破魔飾りを着けているのか!?」
私が見たのはトーラスが首に付けている飾りだった。
「それがどうかしたか?」
トーラスはこともなげにそう言う。
私はあまりの常識の無さに立ち眩みを覚える。
「トーラス。破魔飾りは装備者の魔術抵抗値を大幅に上げる装飾品だ。これを装備していれば敵からの攻撃魔術のダメージを減らせるし、能力低下のような妨害魔術にかかる率も大幅に抑えられる。だが、味方からの能力向上は効果時間が大幅減少され、回復魔術も効かなくなる。」
まずは破魔飾りの効果について説明する。
こんなものを装備されたままではいくら回復魔術を行使しても傷は塞がらない。
そう思ったのだが、思わぬ反論があった。
「オルカは普通に回復させていたぞ?」
オルカと言うのは私達が『紅蓮の剣』に加入する前に居た補助魔術師の名前だったはず。
補助魔術師の回復魔術が破魔飾りの抵抗を超えて効果を発揮する?
にわかには信じられない内容だ。
そんなことが出来るのは世界でも有数の回復術師くらいだろう。
だが、トーラスは嘘を言っている雰囲気ではない。
どころかこちらを訝しんでいる雰囲気さえある。
「バーン。君は実はたいしたことない回復術師なんてことはないよね?」
私は口を結ぶ。
自分では程度の低い回復術師では無いと思っていても、それを説明する方法はない。
彼らの中では破魔飾りを付けた状態で回復術を受けて治癒するというのが常識なのだ。
ここで一般の回復術師の話をしても受け入れられないだろう。
私はここで反論する術を持っていなかった。
非常識を押し付けられる理不尽な展開ですね。
バーンさんの心中や如何に。
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