22.報酬に目がくらんで死んでいく冒険者が居ることも忘れるな
俺達は今日の狩りを終えてオルティアに戻ってきた。
特に何も感じていない俺とは違い、イリアナとレイラの顔には疲労の色が見える。
しかもその表情は暗い。
俺はそんな2人を見てため息をつく。
「だからそんな気にすることはないって。全部上手くいくことなんてないんだから。」
「でも悔しい!!絶対明日リベンジする!!」
「私も悔しいです。」
2人が言っているのはヘルハウンド狩りだ。
今日は目標の10には届かなかった。
だが、依頼達成の3匹を超える6匹の討伐に成功している。
まぁ戦闘事態は苦戦が続き、ダメージなく討伐できたのは最後の1匹くらいだが……
「元々Dランクの依頼なんだ。格上の相手なんだから仕方ないさ。逆に言えばあの魔物を討伐できるようになればDランク冒険者相当の力がついているって事だ。」
それよりも俺は明日以降の2人の訓練方法について考えていた。
剣術、盾術、短剣術、弓術、体術、地属性魔術、光属性魔術……
残された時間は短いが教えるべきことは多い。
ギルドに入ると自然とミリカさんを探す。
引率の話があって以来よく話す様になったという事もあるが、単に俺たちの事情を知っているという意味でも話しやすいのだ。
彼女は今日は受付カウンターに居た。
だが、ミリカさんのカウンターには長蛇の列ができている。
流石人気受付嬢。
俺は素直に諦めて列の短いカウンターに並ぼうとするが、先にミリカさんが気付いて受付カウンターを他の受付嬢に変わってもらおうとしている。
担当者交代を要求された受付嬢はかなり嫌そうな顔をしているが……
だが、渋々交代を了承してその長蛇の列の処理を行う事にしたようだ。
……可哀そうに。
フリーになったミリカさんは俺達の方へ。
列に並ぶ冒険者の恨みがましい視線が俺達の方へと向いて来たので、イリアナとレイラを前に押し出す。
これで俺がミリカさんと会話でもすれば、この冒険者たちから不興を買ってしまうだろう。
なのでここはこの2人がミリカさんと仲が良いという体にしておけば、彼女たちに批判が集中するという事もないだろう。
「オルカさんおかえりなさい。イリアナさんとレイラさんも。何でも今日はヘルハウンド討伐の依頼を受けたとか…オルカさんが居ますから滅多なことはないと思いましたけど、無事で何よりです。……オルカさん、どうかしましたか?」
ミリカさんが頭を抱えていた俺を見て心配そうに声を掛けてくる。
いや、第一声から固有名詞出しちゃダメでしょ。
何のために2人を前へ出したと思っているんだ。
そしてその心配そうな顔でこちらの顔を覗き込んでくる仕草もアウトです。
ちらりと長蛇の列を見やると、その列に並んでいる人のほとんどがこちらを見ていた。
視線の強さは先ほどの比ではない。
ミリカさんは自分が人気だと気づいていないのだろうか?
だとしたらド天然だな。
とりあえず俺達は受付カウンターから見えない打ち合わせスペースに移動し、報酬の清算を行う事にした。
ミリカさんは空いている受付カウンターに俺たちを連れて行こうとしていたが、俺が断固拒否したためこの受付スペースで清算することになったのだ。
「ヘルハウンドの討伐依頼、達成報酬が銀貨4枚、討伐が6匹なので追加報酬が銀貨1枚と銅貨5枚、魔石買取が1個銅貨8枚なので銀貨4枚と銅貨8枚。合計で金貨1枚と銅貨3枚ですね。」
「おおー!!さすがDランクだね!!6匹だけだったのにゴブリン討伐30匹と同じくらいの報酬だよ!?」
「当然その分危険も高くなるからな?報酬に目がくらんで死んでいく冒険者が居ることも忘れるなよ?」
「うっ……」
イリアナと俺とのやり取りを見ていたミリカさんがくすくすと笑う。
「やはりオルカさんを紹介して正解だったようですね。しっかり教育してくれているようですし、わずか数日でDランクの魔物を相手にしてるなんて驚きです。」
「戦闘訓練に当てている時間が多いから稼ぎとしてはまだまだですけどね。」
実際、この稼ぎでは1人当たり銀貨5枚程度しか稼げていないので、普通なら宿代を出すのでいっぱいいっぱいと言う所だ。
しかも俺の事を勘定に入れずに、だ。
まぁあの2人は優しい金額設定の『まぐまぐ亭』で2人部屋を借りているので、これでも1人銀貨2枚くらいの余裕が出てはいるが……
「なんとかあと4日で一人前の冒険者として生活できる稼ぎを得られるようにしてやらないとな……」
「あ、そうだ!!オルカさんに会いたいって人が居たんでした!!」
唐突にミリカさんが大声を出したので俺達は驚く。
俺に会いたい人?
「今日はまだ帰ってきてないと伝えたら待つって言うんで個室で待ってもらってるんです。ちょっと呼んできますね!!」
そう言ってミリカさんはバックヤードへと消える。
若干焦っているようにも感じたが、いったいどんな人でどんな用件なのだろうか?
因みに心当たりはない。
少ししてミリカさんが連れてきたのは魔術師系の装備の2人の冒険者だった。
1人は男で良くも悪くの印象の薄い感じの顔の中肉中背。
もう1人は女で、少し自信なさげな表情と反して豊満なスタイルの女性。
どちらも面識はない。
俺は椅子から立ち上がり、訪ねてきた2人を見据える。
「オルカです。何の用件でしょうか。」
俺の名乗りに男の方が口を開く。
「急にすみません。私はバーン。彼女は私の妻でヴァネッサと言います。……実は『紅蓮の剣』に仮加入していたのですが、いろいろ問題がありまして。その中であなたの存在をお聞きしたので話をしてみたいと思いましてこうして尋ねさせてもらいました。」
俺は予想外の名前が出てきたことに驚く。
そして『紅蓮の剣』のリーダーであるトーラスの言葉を思い出す。
俺の後釜の回復術師と補助魔術師。
この2人がそうだというのか?
でもなぜ?
新キャラ登場です。
『紅蓮の剣』絡みになりますが、オルカさんが抜けた後の彼らについて次話より少し回想回に入ります。
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