18.ちゃんとケアしておやり
『まぐまぐ亭』の中に入ると、受付前でベリルさんとリンカさんが何かを話していた。
俺の姿を見たリンカさんが声を掛けてくる。
「おかえりなさい。ちょうど今オルカ君たちの事を話してた所なんよ。」
「ただいま戻りました。珍しいですね、リンカさんが受付に居るのも……何かあったんですか?」
俺の返事に若干呆れたように息をつくリンカさん。
「まったく。さっき帰って来たイリアナちゃん、足が震えてたんだよ。うちの旦那も気付いてなかったみたいだし……男どもは女の子の機微に敏感でないといけないよ。」
そう言われて俺は頭をかく。
心当たりはある。
今日は格上のオーガとの戦闘があり、おそらく今までとは比較にならないストレスがかかっていたはずだ。
死にかけたと言ってもいい。
俺はもう何度もそう言った経験をしてきているので、そういったものに鈍感になり過ぎていたのかもしれない。
「ちゃんとケアしておやり。それもオルカ君の仕事でしょう?」
リンカさんに言われて俺は頷く。
「ええ、教えて下さりありがとうございます。」
リンカさんに礼を言って俺は2人の部屋へと向かった。
こう言った時にどんな声を掛ければいいかを考えていたが、正解は思い浮かばない。
まぁまずは話を聞くところからだろう。
どんな気持ちでいるかを、吐き出してもらおう。
2人の部屋の前に着くと俺はドアをノックした。
「オルカだ。……大丈夫か?」
こういう時なんて言えばいいのか分からず、ありきたりにも大丈夫かと聞いてしまう。
そんな聞き方されれば大丈夫と答えるしかないだろうに。
だが、ドアの向こうからは少し思っていたのと違う返事が返ってきた。
「ダメ!!あ、いやダメじゃない!!じゃなくて大丈夫!!」
なんだ?
全然深刻なテンションの返事じゃないぞ??
これ……気にし過ぎか?
「そうか?……俺も部屋に居るから何かあったら言ってくれ。」
そう言って2人の部屋を離れる。
もう立ち直っているという事なら過干渉は避けるべきだろう。
その後、着替えとシャワーを済ませた俺が食堂へ行くとイリアナとレイラは先にテーブルに付いていた。
「あ、オルカさんこっちこっち!!」
俺が食堂に来たことに気付いたイリアナが手を上げて呼んでくる。
ぱっと見無理をしているようには見えない。
「お疲れさん。」
それだけ言って俺もテーブルに着く。
少ししてリンカさんが俺の分の食事をテーブルに運んでくる。
去り際にウィンクされたが、多分よくやったという意味だろう。
いや、何もしてないんですけどね?
都合が悪いわけではないので訂正はしないけど。
行儀が悪いと言われるとそうかもしれないが、俺達は色んなことを話しながら食事をとる。
午前中の戦闘訓練の話から今日のゴブリン討伐の事、そしてオーガとの戦闘の事。
オーガの単語が出た時に厨房に居るリンカさんの顔が引きつったような気がする。
もしかしたらリンカさんもオーガに何か思う所があるのかもしれない。
まぁあの厳つい魔物は後衛職にとっては天敵みたいなもんだからな。
そして明日の予定なんかの話をしている内に食事を食べ終わる。
「さて、じゃあちゃっちゃと装備品のメンテナンスを済ませてしまおう。」
そう言って俺達は席を立つ。
リンカさんの所へ食器を運び、お礼を言って2人の部屋へと移動した。
「じゃあまずは防具のメンテナンスから始めよう。……ちなみに養成所ではどんな風に教わったんだ?」
「えーっと、なんて言ってたっけ?」
「武器防具は使用していると細かな傷が入ったり凹んだりするからある程度そういった損傷が増えてきたら買い換えた方が良いと教わりました。」
「なるほど……」
メンテナンスではなく買い替えを推奨か。
まぁそれ自体間違いという訳ではない。
自分の強さや敵の強さに合わせて装備品御グレードを上げていくことも必要だし、常に新品の装備品であれば戦闘中に損壊してピンチに陥る可能性も低くなる。
かつ経済を回すという意味で購買を推奨するというのもあるだろう。
だが、流石に新人冒険者に装備品の買い替えを推奨するのはどうかと思う。
なにせ日銭を稼ぐのも大変なのだ。
「まぁ装備品の買い替えも身に合ったものに変えていく必要はあるが、日々のメンテナンスをしっかり行えば装備品の寿命は格段に長くなる。節約にもなるからこういった方法も覚えておいた方が良い。」
言いながらふと思い出す。
そう言えば『紅蓮の剣』の奴らは装備品のメンテナンスもろくにしてなかったな。
ちょっと目立つ傷なんかがあると買い換えるか、俺にメンテナンスを押し付けたりしていた。
まぁあいつらはもうAランクだから金に物を言わせればいいだけだろう。
俺は装備品のメンテナンスキットを取り出す。
「まずは棒部の汚れをふき取り、傷や凹みが無いかを確認する。」
俺は言いながら自分の革製の胸当てを布で磨く。
2人は真剣な表情でそれを見ている。
「細かな傷はそのまま使用すると次に負荷がかかった際に力が集中してそこを起点に大きな割れに発展することが有る。だから細かな傷は放置せずにこのパテで全部埋めてしまうんだ。」
俺は言いながらパテを容器に取り出し、硬化剤を混ぜて防具に念入りに塗り込んでいく。
そしてそれが固まり切る前に防具の表面に凹凸が出来ないように、余計にパテを盛ってしまった部分を削り取る。
「次は凹みについてだ。これは特にイリアナのラウンドシールドなんかでは特に注意が必要だ。変な凹みがあると敵の攻撃が引っ掛かったりして受け流しにくくなるからな。そしてこれは裏からハンマリングして形を整えていく。」
俺は先端が樹脂でできたハンマーを取り出し、防具の裏から叩く真似をする。
「防具については基本この2つだ。」
2人が頷くのを見て俺はロングソードを取り出す。
「次に武器だが、剣の場合は刃毀れが無いかを確認して研ぐ作業になる。細かな傷についても削り取って滑らかにするというのが基本だな。衝撃が何度も加わる剣なんかはパテでは強度が足りないんだ。弓については専門外だが、基本は使用に有害な傷なんかの損傷が無いかを確認し、補修が可能なら修繕するという形になるはずだ。今度専門の人に聞いてみる。……じゃあやってみよう。」
こうしてそれぞれが次の依頼に向けて備品のメンテナンスを行い、夜が更けていった。
仕事道具のメンテナンスは重要ですよね。それと節約も。
オルカさんは金遣いが荒いタイプではないようです。
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