17.依頼主の事を教えてもらおうか
イリアナさんがレイラさんにひん剥かれている間のオルカさんのお話です。
『まぐまぐ亭』の前でイリアナ達と分かれる。
彼女たちには食事をとって休むように言い含める。
オーガとの戦闘というイレギュラーもあったし、出歩くというようなことはないだろう。
そして俺は寄るところがあると言って『まぐまぐ亭』を離れる。
彼女たちが宿に入ったのを確認して人気のない路地へと入る。
その先の少し開けた空地で立ち止まった。
「用件を聞こうか?」
少し待つが返事はない。
だがギリギリ感じ取れるくらいの視線は今も向けられている。
気が付いたのはギルドを出た直後。
もしかしたらもっと前からつけられていたのかもしれないが、とにかく誰かに見られていると気づいたのはついさっきだ。
視線の薄さから、その主がチンピラのような奴らではなく、訓練を受けた人間であることが分かる。
であれば何かしら目的があるはずだ。
『まぐまぐ亭』でイリアナ、レイラと別れた後も視線は離れなかったので、つけられていたのは俺のようだ。
俺が人気のない所で一人になれば姿を現すだろうと思ったのだが……
「っつ!?」
急に視線に混じった殺気に身をかがめる。
その頭上を何かが通り、俺の背後の地面に落ちる。
見ればそれは短剣だった。
問答無用で殺しに来たぞ……
続けて暗闇から姿を現したのは全身黒ずくめの人間だった。
顔も目を除いて布で覆われている為、性別の判断すらできない。
その黒づくめの人間は黒塗りの曲刀を抜き放ち構える。
誰かに頼まれて俺を消しに来た殺し屋で確定だ。
であれば俺の方も手加減する必要はない。
殺し屋が姿勢を低くし駆け出す。
「【敏捷低下】【影拘束】」
迫る殺し屋にを冷静に観察し、俺は魔術を放つ。
殺し屋は接地した足を自身の影から伸びた帯に絡めとられて転倒する。
すぐに起き上がろうとするが、動きが遅くなったその体を起こしきる前に影から伸びる帯に全身を拘束されてしまう。
「馬鹿な……無詠唱に多重起動でこの力だと……破魔飾りも効かないとは……」
身動きを封じられた殺し屋が驚いたように何かを呟いている。
どうやら俺は1対1なら問題なく殺れる対象と思われていたらしい。
能力低下には大きく3つの種類がある。
身体能力を下げるものと、戦闘に不利な状態異常を引き起こすもの、対象者以外に効果を及ぼすものだ。
身体能力低下には【敏捷低下】【筋力低下】などがあり、術の強度により成功率と能力低下量が決まる。
状態異常には【沈黙】のように喋れなくしたり、【麻痺】のように行動に制限をかけるものがある。
こちらも術の強度により成功率と状態異常の強度が決まる。
そして、今回使用した【影拘束】や、先日使った【重量増加】は対象者以外に効果を及ぼすものに含まれる。
この種の魔術の特徴としては、対象者に直接かける魔術ではないために抵抗される心配がないと言う特徴がある。
代わりにそれぞれデメリットがあり、使用できる環境は限られている。
【影拘束】は影から伸びる帯で対象を絡めとる魔術だが、拘束力がそこまで高くないため力の強い対象であれば引きちぎられてしまう事があったり、巨体の魔物なんかは帯の長さの限界のせいで拘束自体が難しかったりする。
そしてそもそも影と接していない宙に浮いている対象は拘束が出来ない。
【重量増加】も重量を加算する魔術だが、元の重量への積算であるため軽量の物質には効果が大きく及ばなかったり、装飾品を使用していない魔物なんかには使いどころが無かったりする。
俺はゆっくりと殺し屋に近づいていく。
そこまで力が強そうには見えないが、拘束を力づくで抜けてくる可能性は否定できない。
「お前は殺し屋だな?依頼主の事を教えてもらおうか。」
拘束されて身動きが取れなくなっている殺し屋は視線をこちらへと向けてくる。
「…話すわけがないだろう。」
そう呟いたかと思えば、大きく目を見開き吐血する。
やはり毒を仕込んでいたか。
「【治癒】」
「?……!?」
一瞬何をされたか理解できていなかった殺し屋は、自身の意識が薄れないことに気が付く。
「解毒はした。……ああ、舌を噛み切るとかも無駄だぞ?即死以外は回復できる。」
俺の言葉を理解したのか、殺し屋は震えはじめる。
「ばかな!?ただの【治癒】で致死毒を解毒など出来るはずがない!?いったいどうやって!?」
わざわざ説明する義理はないが、俺の【治癒】は少々特殊なのだ。
そもそも聖魔術に適性のない俺は本来【治癒】なんて使用できない。
疑似的に【治癒】を再現しているだけの魔術を【治癒】と称しているだけなのだ。
問題はこの魔術、身体能力低下系と状態異常系の能力低下も解除してしまうのだ。
今回はこういう展開になることも考えて【影拘束】を選んで使っている。
「さて、この魔術は疲れるから嫌なんだが……」
俺はそんなことを言いながら地面に魔法陣を描いていく。
戦闘中に使用する魔術については全て無詠唱で発動できるように昇華しているが、普段使う事のない魔術についてはその限りではない。
魔術を補助する方法は詠唱と魔法陣があるが、俺は後者を好んで使っていた。
完成した魔法陣の中に殺し屋を引きずり入れる。
そして魔法陣の外まで移動すると魔術を発動させた。
「【自我喪失】」
その魔術が抵抗されずに殺し屋にかけられる。
同時にその殺し屋の瞳から光が消える。
俺は【録音】の魔道具を取り出し起動させた。
「俺の質問に答えろ。お前を雇って俺を殺そうとしたのは誰だ?」
「トリエラ伯爵だ。」
「理由は聞いているか?」
「トリエラ伯爵の息子が犯罪者として捕まったことにより名誉を傷つけられたと言っていた。」
ベンさんが言っていた奴と同一人物だろうな。
本当、貴族って奴は……
ここで俺は【録音】の魔道具を停止させる。
「よし、お前の依頼主を殺せ。」
「わかった。」
殺し屋が頷くのを確認した俺はかけていた能力低下を解く。
自由になった殺し屋はそのまま闇へ消えていった。
あいにく、俺は聖人君子ではない。
人を人と思っていないような輩を排除することに躊躇いもない。
この貴族を放って置けばまた刺客を放ってくる可能性もある。
俺が対象なら問題ないが、パーティメンバーの2人を狙われると厄介だ。
後はちゃんとあの殺し屋が仕事を果たしたことを確認しなければならないが、まぁ貴族が暗殺でもされれば嫌でも話は耳に入ってくるだろう。
俺は地面に書いた魔法陣を丁寧に消して宿へと戻った。
ちょっと解説多めでしたね。
そしてオルカさんの強さが見えた回でもありました。
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