本当の終わりの物語
何故ナシカは魔女をやっつけることができたのでしょうか?
「それは私が魔族だからですよ」
ナシカは快活に話した。そんな彼を見て、私はとても心が温かくなった。
素敵な人、だと思う。
ずっとその笑顔を見ていられたら、それだけで良い。
「アイラ、今何を考えている?」
「え? ナシカのこと」
「ずるいですね、本当に」
ナシカは、「そんな顔をして私のことを考えるなんて」と呟き、唇を寄せてきた。まだ、この行為に不慣れなアイラは、ぎゅっと目を瞑ってしまう。
そんな彼女を見るたびに、彼は優しく頭を撫で、頬へとキスをするのだった。
「可愛い」
耳元で呟かれ、アイラの鼓動が未だかつてないほど、早鐘を打つ。
「あ、あ、あの。それってつまり、ハーフってことですよね?」
アイラが問いかけると、彼は苦笑をもらした。
「そうなりますね」
「魔族って素敵な響きですね!」
焦った彼女は、やはり可愛い。
ナシカはもう一度、頬に唇をよせた。
「そうですか?」
アイラの見えないところで、彼の瞳は少しだけ影を得た。
「厄介ですよ、結構。私は人間の血が入ってましたからどちらからも受け入れてもらえなくて……」
彼は優しく笑いかける。
「あなたの父に助けられたのです」
私は嫉妬をする
それはそれは大きな
でも、どちらに対しての嫉妬だったのだろう。
「あなたは陛下に愛されています」
突きつけられた現実はそれはそれは重いものだった。
「あのお方は魔女に操られてはいなかった。だけど、ずっと脅されていたのです。何か魔女邪魔をしたら、アイラを殺すと脅されていたそうです」
彼は少し間を置いた。
アイラの表情は凍りついたまま動くことはなく、ただ一点、目の前の壁を見つめているだけだった。
「アイラと食事をしたときはひどく心を痛めておいでだった」
「嘘よ!」
彼女はずっと溜めていたものを吐き出していった。
「お父様は私のことを愛していないから……だからっ。だから、ナシカは私のことを傷つけないために嘘を言っているのでしょう?」
声は枯れ、涙まで出てきた。
だが、その激情をみてもナシカは声色を変えることなく微笑んでいた。
「違います」
その会話が行われてから彼女の心は羽ばたき始めた。
やっと狭い牢から抜け出した。
「愛しています、ナシカ」
彼はにっこりと微笑んでから答えを返した。
「もちろん私も」
しかし、終わりは全てではない。
たとえばこんな話。
「娘を魔族なんかの混血にやるわけにはいかない。」
ずるがしこい男は、この国で一番偉い方にひざまずく。
「もちろんですとも」
「魔族の血が入っているから生かせておいたんだ。魔女を倒すためにな」
男は、娘のことを想い、間違いを犯し始めていた。
彼女を想うあまり、彼女の幸せを理解できていなかった。
「お前にまかせていいな? ナシカを……娘から離してくれ。」
一つ物を手にした者は傲慢となる。それは一つ試練を乗り越えた者も同じだった。
「おおせのままに」
こうして間違いは間違いのまま進んでいく。
騎と姫と奇と記を記す物語
始まりは終わりだ