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27話 大会終了 

●主人公視点


 食べました。


 手当ても、してもらいました。


 そして今、猛烈に眠いです。


 どうも、修羅です。


 食卓に肘をつきそうになって、慌てて姿勢を戻した。


 隣では、イトが俺の袖を掴んでいる。


 本人も眠いらしく、さっきから瞬きがゆっくりだった。


「……もう少しだけ、起きていましょうか」


「うん」


 返事が、少し遅れて返ってきた。


 広場の向こうでは、壊れた装備がまとめられている。


 怪我をした人も、順番に治療所へ入っていた。


 戦いが終わっても、すぐに全部が終わるわけではない。


 それでも。


 城壁の上から聞こえる声は、少し明るかった。


 俺は水を一口飲み、メニューを開いた。


「先に、今の状態を確認しておきます」


〈ステータス!〉

〈進化後、ちゃんと見たい〉

〈阿修羅になったんだよな〉

〈まず体格変わってないか確認しろw〉


「そこは、大丈夫でした。服、着られてます」


 少しだけ上着の肩を引く。


 破れているのは、戦闘で傷ついたところ。


 進化で小さくなったわけではない。


 俺は表示を開き、配信へ共有した。


【ステータス】


プレイヤー名:修羅

種族:阿修羅

種族Lv:5

冒険者ランク:D


【称号】


〈初代闘技王〉

βテスター公式大会の初代優勝者。


〈山主を討つ者〉

筋力+5%

耐久+5%


【基本能力】


最大HP:5,060

最大MP:1,120

最大スタミナ:3,360


筋力:920+46【称号】=966

耐久:870+43【称号】=913

敏捷:900

魔力:612

器用:632


獲得経験値:+10%【装備】


※最大HPは、基礎値4,600+首飾り補正460。

※現在のHP・MP・スタミナは戦闘により消耗中。


【種族特性】


〈怪力の芽〉

〈健啖〉


【スキル】


〈打撃 Lv.1〉

〈踏ん張り Lv.1〉

〈短剣術 Lv.2〉

〈斧術 Lv.6〉

〈索敵 Lv.4〉

〈鑑定 Lv.2〉

〈鬼装 Lv.4〉

〈受け流し Lv.2〉

〈踏み込み Lv.4〉

〈崩し Lv.4〉

〈灯火 Lv.1〉

〈夜目 Lv.2〉

〈戦声 Lv.1〉

〈斧閃 Lv.5〉

〈修羅腕 Lv.1〉


【修羅腕 Lv.1】


背中から、最大二対・四本の魔力腕を形成する。

形成数に応じて、維持する魔力と操作の負担が増す。

〈羅刹腕〉で得た操作経験を引き継ぐ。


【装備】


主武器:黒角の大戦斧

副武器:白糸大蜘蛛の牙短剣×2

外套:黒嶺熊の短外套〈回収済み・要修繕〉

胴:岩鱗の胴当て

腕:岩鎧補強の籠手

腰:岩鱗の腰当て

脚:岩鱗の脛当て

足:鬼用の革靴

首:始祖鬼の首飾り

鞄:旅人の収納鞄


【始祖鬼の首飾り・解放効果】


〈鬼力〉

〈鬼震〉

〈鬼王の威圧〉


 表示を、しばらく眺める。


 阿修羅。


 まだ、見慣れない。


「……強く、なりましたね」


〈筋力もう千近いんだけど〉

〈これで種族レベル5です〉

〈魔力も六百超えたな〉

〈六本腕でその筋力、怖すぎる〉


 俺は、自分の手を見る。


 今は、二本。


 指を曲げても、普通に動くだけだ。


 あんな大きな相手へ斧を振っていた実感が、少しずつ遠くなっていく。


 でも、掌の疲れは残っていた。


 隣から、イトの手が伸びる。


 俺の指へ、ちょんと触れた。


「つよい?」


「……前よりは、たぶん」


 俺が答えると、イトが頷く。


 それから、袖を掴み直した。


 強くなっても、そこは変わらないらしい。


     ◇


 広場の映像板へ、光が集まり始めた。


 周りの人たちが、顔を上げる。


「結果、来るぞ!」


 誰かの声。


 俺も、ステータスを閉じた。


 世界地図。


 十の都市を示す光。


 その全部へ、防衛成功の印がついていた。


【第一回ワールドイベント】


【世界大侵攻・結果発表】


 音楽が流れる。


 画面の中へ、見慣れた二人の司会者が現れた。


 男性司会者が、大きく両手を広げる。


『三日間にわたる大侵攻! 防衛に参加された皆さん、本当に、本当にお疲れ様でしたあっ!』


 広場から、拍手が起きた。


 俺も手を叩く。


 少しだけ、掌が痛い。


『各地で多くの被害が出ましたが、全十都市で都市中枢を維持! すべての戦域で、最終侵攻の撃退が確認されました!』


 王都の城門。


 炉都の修理所。


 樹都の壊れた橋。


 港の桟橋。


 映像が、短く切り替わっていく。


 傷ついた場所は、たくさんあった。


 でも、そこを歩く人がいる。


 片づける人がいる。


 帰ってくる人も。


 女性司会者が、静かに頭を下げた。


『前線で戦われた方も、後方で支えられた方も。三日間のご参加、ありがとうございました』


 その言葉に、近くの誰かが小さく息を吐いた。


 俺も、肩の力を抜いた。


 本当に、終わったんだな。


     ◇


『それでは、報酬と貢献度の集計について、ご案内します!』


 画面へ、項目が並んだ。


【防衛成功報酬】


【個人貢献度に応じた通貨報酬】


【貢献ポイント交換】


【都市別個人順位】


【全都市総合個人順位】


 男性司会者が、画面を指した。


『今回の順位は、プレイヤーの皆さんを対象とした評価です! 各都市の兵士や騎士団、最強と名高い守護者たちは、ランキングには含まれません!』


「……そりゃ、ゼルガさんが入ったら」


 俺が呟くと、少し離れた場所から声がした。


「何だい?」


 いた。


 俺は、そちらへ顔を向ける。


 ゼルガさんが、大きな器を持って座っていた。


「いえ。強かったな、と」


「そうかい。あんたたちも、よくやったよ」


 笑って返される。


 俺は、少し頭を下げた。


〈聞こえてたw〉

〈絶対近くにいると思った〉

〈NPC抜きなら、誰が一位だろ〉


『なお、従魔や召喚した魔物による働きは、管理するプレイヤーの貢献として集計しています』


 俺は、隣を見る。


 イトが、画面を見上げていた。


「イトの分も、入ってるそうですよ」


 顔が、こちらへ向く。


「いっしょ?」


「はい。一緒です」


 イトが、少し嬉しそうに頷いた。


     ◇


『評価は、討伐数や与えたダメージだけではありません』


 女性司会者が説明を続ける。


『敵の足止め、味方の救助、防衛線の維持、治療、補給、修繕、情報共有などを、活動した戦況と役割を踏まえて集計しています』


 画面に、いくつもの映像が並ぶ。


 盾で止める人。


 負傷者を運ぶ人。


 矢を渡す人。


 道へ目印をつける人。


『総合順位も、単純な討伐数の比較ではありません。各都市で異なる状況の中、どのような働きで防衛へ貢献したかを評価しています』


 近くの机で、職人らしいプレイヤーが姿勢を正した。


 運搬担当の人も、自分の表示を開いている。


 俺は、午前中に守った荷車を思い出した。


 あの中の水。


 薬。


 布。


 届いたから、俺たちも戻れた。


 ちゃんと、その仕事も見られていたらしい。


     ◇


 個人向けの集計結果が、先に届いた。


 俺も、通知を開く。


【防衛都市:魔都ヴァルグ】


【個人貢献度集計が完了しました】


【都市別順位:第1位】


「……一位」


 声が、出た。


 隣のイトが、俺を見る。


 リィナさんも、顔を向けた。


 その直後、公式画面へ同じ文字が現れた。


【魔都ヴァルグ・個人貢献度 第1位】


【修羅】


『ヴァルグの都市別第一位は、修羅選手!』


 広場が、沸いた。


「おおおおっ!」


「やっぱり!」


「おめでとう、修羅!」


 俺は、周りを見た。


 手を上げる人。


 器を持ち上げる人。


 さっきまで隣で戦っていた槍兵も、笑っている。


「……ありがとうございます」


 思わず、頭を下げた。


 ガランさんが、俺の肩の無事な方を軽く叩く。


「よかったな」


「はい。でも、俺だけじゃ――」


「分かってる」


 すぐ返された。


「それでも、お前の仕事が評価されたんだ。受け取れ」


 俺は、少し黙った。


 それから、頷く。


「……はい」


〈一位おめでとう!〉

〈三日間見てたぞ!〉

〈イトもおめでとう!〉

〈みんなの分も背負ってたもんな〉


 俺は、イトへ顔を向けた。


「もらえましたよ。一位」


 イトが、俺の手を掴む。


「いちばん?」


「はい。この街の、プレイヤーの中で」


 小さな手が、きゅっと握られた。


「やった」


 俺も、笑った。


「……やりましたね」


     ◇


 都市別の紹介が続いた。


 レオンさんの名前が、王都の一位として呼ばれる。


 バルドさんは、炉都。


 フィーネさんは、樹都。


 ヴァイスさんは、獣都。


 海都では、俺の知らないプレイヤーが紹介されていた。


 内港で負傷者の搬送と救護を続け、最後の迎撃でも治療班をまとめていた人らしい。


 映像には、ずっと人の出入りする救護所。


 その真ん中で、短く指示を出す姿が映っていた。


 俺は、その人の名前を覚えておこうと思った。


 世界には、まだ会ったことのない人がいる。


 強い人だけではない。


 誰かを、帰してきた人も。


     ◇


 音楽が、少し変わった。


 画面の背景が暗くなり、十の都市の旗が並ぶ。


 男性司会者が、身を乗り出した。


『さあ、ここからは! 全都市を通じた、総合個人貢献度の上位十名を発表します!』


 広場が、静かになった。


 俺は、水を一口飲んだ。


 都市別で一位。


 それだけで、十分すぎる。


 十分すぎるんだけど。


 続きは、気になった。


〈総合来た!〉

〈ここが本番か〉

〈誰が入るんだろ〉

〈戦闘以外の人もありそうだな〉


『第十位!』


【ガラン】


 俺は、隣を見た。


 ガランさんが、口を少し開けている。


『ヴァルグの前線で、強力な突進を受け流し、味方の攻撃と帰還を支え続けました!』


 盾の映像。


 俺が、その右へ出る。


 下がる人の前へ、盾が寄る。


 広場から、拍手が上がった。


 俺も、すぐに手を叩く。


「おめでとうございます!」


 ガランさんは少し顔を掻いた。


「……ああ。驚いた」


 でも、嬉しそうだった。


     ◇


『第九位、フィーネ選手!』


 樹都の映像。


 登ってくる魔物の脚を射抜く。


 最終ボスの関節へ、続けて矢を入れる。


『地形を生かした射撃と、重要な部位の発見・共有が高く評価されました!』


 俺は頷いた。


 あの矢は、何度見ても正確だった。


『第八位、ロック選手!』


 次に映ったのは、修理所だった。


 盾を受け取り、裏側を見る。


 留め具を直し、次の人へ渡す。


『前線へ装備を戻し続けた、その手仕事! 防衛能力を維持する継続的な貢献が、総合上位へ入りました!』


 広場で、声が上がる。


「おおっ!」


「修理の人、入った!」


 俺も、少し嬉しくなった。


 ロックさん。


 大会で盾を作っていた人が、今度はみんなの盾を直していた。


「……よかったですね」


 小さく呟いた。


『第七位、ヴァイス選手!』


 白い狼が、草原を走る。


 敵を向かせ、仲間の場所へ戻る。


 群嵐の双狼の脚へ、噛みつく。


『機動力を生かした誘導、救援、そして最終ボスへの対応! 獣都の戦線を、広く支えました!』


 ガランさんが、横で頷いた。


「あいつも、よく走ってたな」


「はい」


     ◇


『第六位!』


【マルク】


 少し離れた机で、音がした。


 見ると、マルクさんが器を置き損ねかけていた。


 隣の人が、慌てて支える。


『物資の集積と輸送、受け渡しの調整、緊急時の荷車の退避! 前線と後方をつなぎ続けた商人、マルクさんが入賞です!』


 画面には、荷車の列。


 箱を数える姿。


 俺たちが補給路へ来たとき、声を出していた場面。


 夜、空の容器を確認する姿まで映っていた。


 俺は、マルクさんへ手を上げた。


「おめでとうございます!」


 彼が、こちらを見る。


 それから、困ったように笑った。


「……これは、商会の皆さんの分も入っていますね」


「それ、さっき俺も言おうとしました」


 返すと、ガランさんが笑う。


 マルクさんも、少しだけ笑った。


〈肉の人、総合六位!〉

〈戦えなくてもここまで行けるのいいな〉

〈荷台のすみさん、おめでとう!〉


 そのコメントを見て、俺もまた笑った。


     ◇


『第五位、バルド選手!』


 炉都の大盾。


 押されても、隣と位置を合わせる。


 最終ボスの横から来た魔物を止め、ドグラムさんが槌を振る時間を作る。


『防衛線の維持と、重要局面での護衛! 盾の働きが、高く評価されました!』


『第四位、セレネ選手!』


 氷。


 炎。


 敵の隊列が崩れ、騎士団が入る。


『広範囲の足止めに加え、味方の動きへ合わせた魔法の運用! 王都の複数の戦闘局面で、大きな貢献を記録しました!』


 俺は、画面から目を離せなくなっていた。


 知っている人たちが、次々に呼ばれる。


 それぞれ、違うことをしていた。


 同じくらい大事なことを。


     ◇


『第三位!』


 赤銅色の翼が、画面へ広がった。


【リュカ】


 近くにいた本人が、背筋を伸ばす。


『上空の敵への対応、進路の誘導、地上部隊と連携した攻撃! 最終戦でも、ガルムドの姿勢を変える重要な役割を果たしました!』


 炎の映像。


 ガルムドが、腕を上げる。


 その下で、俺たちが動く。


 あの一瞬を、上から作ってくれていた。


 俺はリュカさんへ顔を向けた。


 彼も、こちらを見ている。


 目が合った。


 俺が手を上げると、少し照れくさそうに返してくれた。


『第二位!』


 白い剣が、光った。


【レオン】


 広場が、ざわめく。


 俺は、顔を上げた。


『王都の前線で戦い続け、魔法への対処と騎士団との連携を両立! 最終ボス、ヴァルゼイドの撃破にも大きく貢献しました!』


 黒い騎将へ、レオンさんが踏み込む。


 槍が、肩をかすめる。


 それでも、剣を前へ押し込む。


 俺は、息を止めて見た。


 こんな戦いを、していたのか。


「……すごいですね」


 呟く。


 手元へ、通知が来た。


 レオンさんから。


『そちらの発表も、見ているよ』


 俺は画面と通知を、交互に見た。


 返事を打とうとした、そのとき。


 音楽が、止まった。


     ◇


『そして――』


 男性司会者が、ゆっくり口を開く。


『第一回ワールドイベント〈世界大侵攻〉! 総合個人貢献度、第一位は!』


 画面が、暗くなる。


 最初に映ったのは、朝の東門。


 ガランさんの盾。


 その横へ、斧を持った鬼が出る。


 次に、荷車。


 木の上から下りてくる猿。


 夜の灯り。


 暗闇へ放たれた、赤い刃。


 黒旗が、折れる。


 巨大な膝が、地面へ落ちる。


 最後に、背中から四本の腕が伸びた。


【総合個人貢献度 第1位】


【修羅】


 俺は、何も言えなかった。


 一瞬、周りの音が遠くなる。


 画面に、自分の名前がある。


 何度見ても、変わらない。


『三日間にわたる継続した前線活動! 補給路の防衛、味方への援護、指揮個体の撃破!』


 司会者の声が、少しずつ耳へ戻ってくる。


『そして、従魔イトとの連携を含む数々の働きと、〈城喰い〉ガルムド迎撃への貢献!』


 広場が、沸いた。


『修羅選手、おめでとうございます!』


 肩を、叩かれた。


 ガランさんだった。


 リュカさんが拍手している。


 カゲロウさんも、少し笑っている。


 リィナさんが、こちらを見ていた。


「……おめでとうございます」


 その声で、ようやく口が動いた。


「ありがとうございます」


 小さかった。


 もう一度、息を吸う。


「……ありがとうございます!」


〈総合一位きたああああ!〉

〈修羅! 修羅!〉

〈イトも一位だぞ!〉

〈三日間、見ててよかった!〉

〈おめでとう!!〉


 イトが、俺の手を引いた。


 顔を向ける。


「いちばん?」


 さっきと同じ質問。


 俺は、頷いた。


「……はい。今度は、全部の都市で」


 イトが、目を丸くした。


 それから、小さく笑う。


「やった」


 俺も、笑った。


「はい。やりました」


     ◇


 報酬の通知が、届いた。


 まず、防衛成功の報酬。


 記念品。


 通貨。


 個人貢献度に応じた、追加の通貨。


 それから、貢献ポイント。


 交換品の一覧には、希少素材や薬、拠点で使う設備が並んでいた。


 俺は、そこで指を止める。


【ダンジョン改築用資材セット】


 石材。


 補強材。


 扉に使う金具。


 床や壁を整えるための材料。


「……これ、いいですね」


〈早速、家を見てるw〉

〈熊の部屋だ!〉

〈忘れてなかったか〉


「通路も、広げたいので」


 ポイントは、足りる。


 ただ、今日は全部を勢いで交換しない。


 内容を確認して、資材セットを一つ選ぶ。


 残りは、家へ帰ってから考えることにした。


 その下に、順位報酬。


【魔都ヴァルグ・個人貢献度 第1位報酬】


【〈守城の腕輪〉を獲得しました】


【効果:最大スタミナ+10%】


 俺は、表示を読む。


「……スタミナ」


 思わず、自分の腕を見る。


 昨日の夜。


 何度も交代して、戻って、立ち上がった。


 斧を握る指より、脚が重くなっていた。


 これがあれば、少し余裕が増える。


「ありがたいですね、これ」


〈修羅に一番欲しかったやつでは〉

〈HPは喰命あるけどスタミナは戻らないからな〉

〈ちゃんと休めよ、それでも〉


「休みます。そこは、変えません」


 次の通知。


【全都市総合個人貢献度 第1位報酬】


【〈不屈の耳飾り〉を獲得しました】


【効果】


【最大HP+10%】


【疲労によるスタミナ回復低下を軽減】


 俺は、少し黙った。


 休憩しても、最初の頃ほど楽にならない。


 あの夜の後半に感じたことを、思い出す。


「……こっちも、助かりますね」


 受け取りを選ぶ。


 小さな箱が、手元へ現れた。


 中には、暗い銀色の腕輪と、小さな耳飾り。


 派手ではない。


 でも、灯りを受けると、内側に刻まれた模様が光った。


 俺は、一つずつ手に取った。


     ◇


 装備する前に、傷へ当たらないか確かめた。


 腕輪は、籠手の邪魔にならない位置。


 耳飾りは、リィナさんに留め方を教えてもらう。


「これで、外れませんか?」


「はい。軽く動かしてみてください」


 顔を左右へ向ける。


 大丈夫そうだ。


 イトが、耳元を覗き込んできた。


 指が、少し伸びる。


「引っ張らないでくださいね」


 先に言うと、手が止まった。


〈確認したかったんだなw〉

〈光ってるから気になる〉


 俺は、もう一度ステータスを開いた。


【装備補正が更新されました】


最大HP:5,060 → 5,520【UP!】


最大スタミナ:3,360 → 3,696【UP!】


【最大HP内訳】


基礎値:4,600

始祖鬼の首飾り:+460

不屈の耳飾り:+460


【最大スタミナ内訳】


基礎値:3,360

守城の腕輪:+336


 俺は、数字を見た。


 また、少し増えた。


 戦って得た力と、三日間の働きでもらった物。


 その両方が、今の自分へ足されている。


 ただ、現在のスタミナは減ったまま。


 装備したから、元気いっぱいになるわけではない。


「……眠いのは、変わりませんね」


〈当たり前だw〉

〈一位の感想それかよ〉

〈今日は寝ろ!〉


 俺は、笑った。


     ◇


 手元へ、また連絡が来た。


 レオンさん。


『おめでとう。次に会うのが楽しみだ』


 俺は、その文章を見た。


 次に会う。


 同じ街で食事をするのか。


 また、剣と斧を向け合うのか。


 どちらも、少し楽しみだった。


『ありがとうございます。レオンさんも、おめでとうございます』


 打ってから、少し考える。


 もう一行。


『次までに、腕をちゃんと使えるようにしておきます』


 送る。


 すぐに、返事が来た。


『それは、少し困るね』


 俺は、声を出して笑ってしまった。


 隣のガランさんが、こちらを見る。


「どうした」


「レオンさんです。次、会うのが楽しみだって」


「……お前ら、休めよ」


 呆れたように言われる。


 でも、本人も笑っていた。


     ◇


 公式放送では、最後の挨拶が始まっていた。


『順位は、皆さんの働きを振り返る一つの形です。ここに名前が出なかった方々の活動も、各都市の防衛を支えました』


 画面には、たくさんの映像。


 箱を運ぶ人。


 壁を直す人。


 旗を振る人。


 負傷者へ肩を貸す人。


 その中に、俺が水を受け取った場面もあった。


 渡してくれた人の名前を、俺は知らなかった。


 でも、顔は覚えている。


 後で会えたら、もう一度お礼を言おう。


『三日間、本当にお疲れ様でした!』


 音楽が、静かに終わる。


 広場へ、話し声が戻ってきた。


 順位の話。


 報酬の話。


 帰ったら何をするか。


 俺は、耳飾りへ軽く触れた。


 腕輪も、少しだけ動かす。


 ちゃんと、ここにある。


 リィナさんが、空になった器を重ねた。


「そろそろ、戻りましょうか」


「……はい」


 俺は立ち上がる。


 イトが、手を握った。


 ガランさんたちへ挨拶をして、広場を離れる。


 通りの向こうに、いつもの屋台が見えた。


 まだ、開いている。


 壊されなかった。


 また、買いに来られる。


 俺は、その灯りを少し見つめた。


「……守れて、よかったですね」


 言うと、隣から返事があった。


「はい」


「うん」


 俺は二人の顔を見て、笑った。


 一位も、嬉しい。


 もらった装備も、大事に使いたい。


 でも、明日この通りを歩けることも、同じくらい嬉しかった。


 今日は、それを確かめながら帰ろう。


 宿へ着くまで、イトの手は離さなかった。



●王都アルセリア・レオン視点


 修羅からの返事を、もう一度読んだ。


『次までに、腕をちゃんと使えるようにしておきます』


 四本の魔力腕。


 普通の腕と合わせれば、六本。


 あれが、それぞれ別の動きをするようになったら。


 僕は少し考えて、息を吐いた。


「……困るね」


 剣を受けられても、別の手が伸びてくる。


 盾で防いでも、縁を掴まれるかもしれない。


 そちらへ気を取られれば、斧。


 考えるだけで、覚えておきたいことが増えていく。


 でも、不思議と嫌ではなかった。


 僕は通信を閉じ、椅子の背へ体を預けた。


 借りている宿の部屋は、静かだった。


 廊下から、人の話し声。


 窓の外では、まだ街の灯りがともっている。


 配信は、結果発表の後に終了していた。


 最後に視聴者へ礼を伝え、また明日と挨拶をした。


 今は、誰にも見られていない。


 ようやく、一人になれた時間だった。


「先に、確認だけしておこう」


 未読の通知が、いくつも残っていた。


 報酬。


 貢献ポイント。


 装備の状態。


 そして、戦闘中に何度も出ていた成長の記録。


 僕は、その一つを開いた。


【職業レベルが上がりました】


【聖騎士Lv:99 → 100【UP!】】


 目が、止まった。


「……百?」


 表示を閉じず、もう一度読む。


 聖騎士。


 百。


 間違いではなかった。


 ヴァルゼイドを相手にしていた間、何度かレベルアップの光は見えていた。


 ただ、次の槍と、隣の騎士と、後ろの合図を見ていて、それどころではなかった。


 その続きに、新しい通知がある。


【現在の職業におけるレベル上限に到達しました】


【職業進化の条件を満たしました】


 僕は、背もたれから体を起こした。


     ◇


【上位職業:聖剣騎士】


【剣による魔力干渉の経験を確認】


【防衛戦における継続した戦闘実績を確認】


【味方を守りながら上位個体へ挑んだ実績を確認】


【職業を進化させますか?】


 文字を、ゆっくり目で追った。


 大会で、聖騎士になった。


 あのときは、目の前の相手へ届くことばかり考えていた。


 魔法を斬り、前へ出る。


 剣を振る。


 それでも、修羅には押し切られた。


 今回は、違った。


 僕の後ろには、弓を構えた人がいた。


 風壁を張るノエルがいて、敵の足を止めるセレネがいた。


 僕が受けた攻撃の、その次を止めてくれる人がいた。


 だから、踏み込めた。


 だから、戻って、もう一度前へ出られた。


「……そこまで、見られていたんだね」


 僕は、剣へ目を向けた。


 椅子の横へ、鞘に収めて立てかけてある。


 傷のついた握り。


 何度も汗を拭いた、柄の革。


 手を伸ばし、膝の上へ置いた。


 配信の設定を、一度確かめる。


【配信:終了】


 その表示を見てから、進化の確認へ指を伸ばした。


 今は、静かに確かめたかった。


「お願いします」


 光が、胸の奥へ灯った。


     ◇


 熱い、というより。


 今まで体の中で揺れていた物が、細く、一つにまとまっていく感覚だった。


 剣を抜いていないのに、刃の位置が分かる。


 鞘の中へ、魔力が通っている。


 僕は両手を開いた。


 白い光が、指の間を流れる。


 やがて、それも薄くなった。


【職業進化が完了しました】


【聖騎士 → 聖剣騎士】


【職業Lv:100 → 1】


【既存の職業スキルを引き継ぎます】


【職業スキル〈聖剣纏装 Lv.1〉を獲得しました】


 僕は、息を吐いた。


 体格は変わっていない。


 痛めた肩も、急に治ったわけではなかった。


 でも、剣へ力を通す感覚が違う。


 新しいスキルを開く。


【聖剣纏装 Lv.1】


【手にした剣へ聖属性の魔力をまとわせ、斬撃と魔力干渉を強化する】


【形成した力は、接触時の攻防に利用できる】


【維持にはMPを消費する】


【相手の威力や性質によっては、攻撃を防ぎきれない】


 僕は、しばらく説明を読んでいた。


 防ぐか、斬るか。


 その瞬間だけ剣へ集めていた力を、まとわせたまま戦える。


 うまく使えれば、攻撃を外した直後でも、次へつなげられるかもしれない。


 柄を握る。


 ただ、抜かなかった。


 ここは宿だ。


 昼の訓練場とは違う。


「……試すのは、明日」


 自分へ言って、剣を戻した。


 窓へ映る自分の顔が、少し笑っていた。


     ◇


 通信を開きかけて、止めた。


 修羅へ伝えようと思った。


 こちらも、進化したよ。


 そう送れば、きっと何か返してくれる。


 けれど、相手もようやく休めるところだ。


 今夜は、これ以上起こしたくなかった。


 僕は画面を閉じる。


 代わりに、明日の予定へ一行足した。


『新しい職業の確認』


 その下へ、もう一行。


『剣を振る場所を借りる』


 それで、少し笑ってしまった。


 修羅も、増えた腕の使い方を考えているのだろうか。


 僕も、明日から覚えることがある。


 灯りを落とす前に、剣の置き場所を確かめた。


「次も、楽しみだね」


 小さく呟く。


 誰に聞かせるつもりもなかった。


 ただ、今日より少し先へ進めたことが、嬉しかった。


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