↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
92/143

22話 ワールドクエスト 二日目

俺はガランさんの右へ入り、斧を構えた。


 午後の光が、刃の縁へ反射している。


 前方の林は、まだ静かだった。


 ただ、後ろから聞こえる話し声は、いつもと違う。


「……海の方らしいぞ」


 隣の列から、そんな声がした。


 盾の向きを確かめていた兵士が、顔を上げる。


「どこだ?」


「ラグナート。港へ入られたって」


 俺の手が、少し止まった。


 昨夜の映像が浮かぶ。


 船。


 長い桟橋。


 鉤槍を持つ、日に焼けた男。


 その後ろを走っていた人たち。


 あの場所か。


 ガランさんも、声の方を見ていた。


「……街の中までか」


「分からん。今、確認してる」


 話していた人も、それ以上は続けなかった。


 誰かが知っている。


 でも、誰も全部は知らない。


 昼の食事中から、その状態が続いていた。


     ◇


 ほどなくして、伝令が来た。


 指揮役へ紙を渡し、短く何かを伝える。


 受け取った人は一度目を通し、近くの列へ声をかけた。


「他戦域の情報を共有する。手は止めず、聞いてくれ」


 俺たちは、顔を向けた。


「海都ラグナートで、外港の防衛線を突破された。敵の一部が倉庫地区へ上陸。現在、内港の防衛線で迎撃中だ」


 誰かが、低く息を吐いた。


 俺も、斧の柄を握り直す。


「住民の避難と物資の移送は継続している。都市中枢が落ちたという報告ではない。こちらから戦力を動かす指示も、今のところ出ていない」


 そこまで聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。


 終わったわけではない。


 まだ、守っている。


 隣の槍兵が、小さく呟いた。


「……耐えてるんだな」


 俺は、頷いた。


「はい」


 指揮役は、紙を畳んだ。


「水中から別の群れが入り込んだという報告もある。こちらも正面だけを見るな。横と後ろは、決められた担当が確認する。全員で振り返る必要はない」


 何人かが、前へ顔を戻した。


 俺も、そうする。


 今、見るべき場所。


 俺の前には、まだ敵が来ていない。


 でも、来る。


 そのとき、ここを空けるわけにはいかなかった。


     ◇


〈ラグナートだったか〉

〈現地の配信、倉庫の間で戦ってる〉

〈全部落ちたわけじゃないって〉

〈商人の人たち、荷車動かしてるぞ〉

〈オルゼンさんが戻ってきたって話もある〉


 コメントも、少しずつ一つの場所へ集まり始めた。


 大きな海獣へ対応している間に、別の魔物が入り込んだ。


 荷物を下ろす場所で、戦いになった。


 木箱を並べて、道を塞いでいる。


 逃げる人と、戻る人を分けている。


 短い言葉だけど、さっきまでより景色が浮かんだ。


「……倉庫の人たちも、戦ってるんですね」


 俺が言うと、ガランさんが頷いた。


「こっちも、さっき荷車を守った」


「はい」


「あっちは、それが街の中まで来たんだろうな」


 俺は、午前中の道を思い出す。


 マルクさん。


 止まりかけた荷車。


 木の上から下りてきた猿。


 あれが、もっと広い場所で起きているのかもしれない。


 視界へ、新しいコメントが流れた。


〈ラグナート組です。俺のいる通りは、まだ持ってる〉

〈後ろに人が逃げてるから、今は下がれない〉


 俺は、それを読んだ。


 返事を考える。


 頑張れ。


 それだけでいいのか、少し迷った。


 結局、短く口を開いた。


「……こっちも、守ります」


 ガランさんが、隣で盾を持ち上げた。


 そのとき、城壁の上から笛が鳴った。


     ◇


【世界大侵攻・第二日】


【第5波を確認しました】


【主要接近方向:東・北東】


 前方の林が、揺れた。


 黒い背中。


 灰色の翼。


 そして、太い腕で木の枝を押しのける、大きな影。


 角盾オーガ。


 昨日より、盾の数が多い。


「……また、前を固めてきますね」


 俺は、近づく一体へ鑑定を使った。


【角盾オーガ Lv.71】


【HP:4,260/4,260】


 数字を、声に出して伝える。


 指揮役が頷く。


「前列、受ける準備! 外側の警戒は継続!」


 ガランさんが、盾を低く構えた。


 俺も、斧を持つ。


 足元を見る。


 朝に埋めた地面は、まだ大丈夫だ。


 後ろの道。


 目印の布。


 イトは、その外側で糸を張っていた。


「イト。戻る場所は、さっきと同じです」


 前脚が上がる。


 俺は、前へ向き直った。


     ◇


 最初の走狗が、盾へぶつかった。


「右!」


「出ます!」


 踏み込む。


 斧。


 低く戻す。


 次の一体は、俺の足元を狙っていた。


 魔力の手を出す。


 頭を外へ流し、普通の両手で斧を返した。


 倒れる。


 後ろで、糸が張る音。


 俺は顔を向ける。


 右前に、止まった走狗。


 その向こうに味方はいない。


「右前、撃ちます!」


 斧閃。


 赤い弧が、走った。


 午前中より、狙う時間が短くなっている。


 刃へ集めた力が、散らずに前へ抜ける。


 走狗が崩れた。


【経験値を獲得しました】


 斧を戻す。


 息を吐く。


 次。


 斧術の補助も、少し変わっていた。


 腕で無理に刃を引っ張らなくても、体の回転に斧がついてくる。


 振り終わった場所から、次の構えへ戻しやすい。


 力が増えたから、振り回す。


 それだけでは、なかった。


〈動きが止まらない〉

〈午前中より斧返すの速いな〉

〈近距離と斧閃の切り替えが自然になってる〉


 ガランさんの盾が、鳴った。


 俺は、すぐ隣へ戻る。


 その右へ、また道が開いた。


     ◇


 オーガの列が、近づいてきた。


 前の盾が、矢を受ける。


 その後ろを、別の個体が歩く。


 さらに、盾の間から走狗が出てくる。


 正面で止まったと思った瞬間、足元へ潜ろうとする。


「低いの、来ます!」


 俺は斧を短く持ち、頭へ柄を当てた。


 カゲロウさんの槍。


 倒れる。


 その上から、棍棒が落ちた。


「下がる!」


 ガランさんの声。


 俺も、同時に足を引いた。


 地面が弾ける。


 土が、籠手へ当たる。


 オーガが、棍棒を引き抜こうとする。


 俺は、そこへ斧閃を放った。


 腕へ、赤い刃。


 動きが、少し遅れる。


 ガランさんが盾を押し込んだ。


「今!」


 俺は、右へ入る。


 羅刹腕で、盾の上縁へ触れる。


 相手が、引き戻そうとする。


 その力へ、逆らいすぎない。


 足を動かす。


 斜めへ。


「〈崩し〉!」


 盾が開く。


 肩の下へ、斧。


 深く入った。


 オーガが吠える。


 俺は、すぐ戻った。


 その瞬間、後ろのオーガが前へ出た。


 また、盾。


「……入れ替わり、速いですね」


 俺が言うと、ガランさんが息を吐いた。


「ああ。正面から順番にやってたら、こっちが先に疲れる」


 右の林を見る。


 横から近づく、別の影。


 カゲロウさんが声を出す。


「北東からも、来てる!」


 前だけではない。


 分かっていた。


 分かっていたけど、実際に両方から来ると、胸の奥が狭くなる。


     ◇


 北東側の列で、大きな音がした。


 盾が、地面へ倒れる。


 一人のプレイヤーが、尻から滑った。


 その前へ、猪。


 鎧背牙猪が、頭を振る。


 近くの槍兵が、慌てて下がった。


「右、押されてる!」


 誰かが叫ぶ。


 俺は、そちらへ顔を向けた。


 走りたい。


 でも、目の前にもオーガがいる。


 ここを離れれば、ガランさんの右が空く。


 俺は、声を出した。


「右側、援護が必要です!」


 指揮役が頷く。


 予備の盾役が、そちらへ走る。


 その間に、猪がもう一歩進んだ。


 倒れた人が、起きようとしている。


 手をつく。


 でも、すぐ前に大きな頭がある。


 足が、動かない。


 俺は、斧を握った。


 距離がある。


 十メートル、少し。


 近くへ出る必要がある。


「ガランさん、二歩だけ前へ! 右へ撃ちます!」


「行け! 前は受ける!」


 俺は、踏み込んだ。


 猪の顔ではない。


 上がった前脚の、内側。


 赤い弧を、低く放つ。


 刃が当たる。


 猪が、こちらへ首を向けた。


 倒れた人の前から、牙が離れる。


「今! 立って、盾の後ろへ!」


 俺は叫んだ。


 その人が顔を上げる。


 駆け寄った兵士が腕を掴み、引き起こした。


 猪が、こちらへ向こうとする。


 その後脚へ、白い糸。


 イトだった。


 体が揺れる。


 予備の盾が、その正面へ入った。


 俺は、斧を引き戻す。


 戻る。


 ガランさんの右へ。


「戻りました!」


「分かった!」


 盾が、少し寄る。


 俺は、その後ろで息を吸った。


 助かった。


 そう思ったところで、右側から別の声が聞こえた。


「……港も破られたんだろ。こっちも、下がった方が――」


 最後までは、聞こえなかった。


 でも、その一言で周りの足が少し止まった。


 さっきの猪。


 倒れた盾役。


 昼に届いた、海都の話。


 全部が、重なっている。


     ◇


 俺も、怖かった。


 下がるときに下がるのは、大事だ。


 でも、今の声は、合図ではない。


 隣へ伝える前に、一人ずつ足が引けたら。


 その隙間へ、敵が入る。


 俺は、ガランさんを見た。


 盾は、まだ立っている。


 カゲロウさんの槍も、前を向いていた。


 イトの糸が、右側へ渡る。


 少し遠くでは、ゼルガさんが大きな盾を戦槌で横へ弾いていた。


 誰も、ここを捨てていない。


 俺は、大きく息を吸った。


「大丈夫です!」


 思っていたより、大きな声が出た。


 近くの人が、顔を向ける。


 俺は、前を指した。


「盾、立ってます! 右も、止まりました!」


 言いながら、自分でも確かめる。


 嘘ではない。


 実際に、止まっている。


「一人で受けなくていいです! 戻るなら、声をかけて! 俺も、ここにいます!」


 声が、喉を抜けた。


 胸の奥で、魔力が動く。


 斧へ通したときとは、違う感覚。


 自分の声へ、少しだけ力が乗った。


【行動経験が一定値に達しました】


【仲間との継続した協同行動を確認しました】


【〈戦声 Lv.1〉を獲得しました】


 俺は、文字を読む暇がなかった。


 正面の走狗が、飛びかかってくる。


 ガランさんが、盾で止めた。


「右、空ける!」


「出ます!」


 俺は、斧を振った。


 倒す。


 戻る。


 右側から、返事が来た。


「こっちも、持ってる!」


「交代、入った!」


「槍、出せるぞ!」


 止まりかけていた足が、また動いた。


〈新スキル!?〉

〈戦声って出た!〉

〈今の声、ちょっと響き違ったぞ〉

〈見てるこっちまで背筋伸びた〉


 ガランさんが、盾の向こうで笑った。


「いい声だな」


「……喉、少し疲れました」


「なら、毎回叫ぶなよ」


「はい!」


 返事だけは、まだ大きかった。


     ◇


 右の猪が倒れた。


 予備の盾役が、その前へ立つ。


 負傷した人は、後ろへ運ばれていった。


 入れ替わりに、別の前衛。


 列が、戻る。


 指揮役が、短く声を上げた。


「そのまま維持! 押し返すのは、中央から!」


 俺たちは、すぐには前へ出なかった。


 ゼルガさんが、正面のオーガへ近づく。


 棍棒が落ちる。


 彼女は横へ半歩ずれ、戦槌を下から振った。


 盾が跳ね上がった。


 そこへ、隣の兵士たちの槍。


 オーガが、後ろへ下がる。


 合図。


「前へ、二歩!」


 ガランさんが進む。


 俺も、合わせた。


 足元を見る。


 倒れた走狗を、踏まない。


 右の道が、少し開く。


 カゲロウさんが、こちらを見る。


 頷いた。


「脚、狙う」


「はい」


 槍が、オーガの足元へ入る。


 盾が下がる。


 俺は、魔力の腕で上縁を押さえた。


 普通の両手で、斧。


 脇へ。


 抜く。


 戻る。


 オーガの体が傾く。


 そこへ、斧閃。


 赤い弧が、開いた肩へ当たった。


 大きな体が膝をつく。


 最後は、ガランさんの斧が首元へ入った。


【経験値を獲得しました】


【種族レベルが上がりました】


 俺は、息を吐いた。


 誰が最後に倒すかは、気にならなかった。


 前へ来た相手が、止まった。


 それで、よかった。


     ◇


 交代で後ろへ戻ったとき、手が汗で濡れていた。


 水を受け取る。


 一口。


 喉が、少し痛い。


 俺は、新しいスキルを開いた。


【戦声 Lv.1】


【魔力を乗せた声で、近くの仲間の動揺を和らげ、意識を戦闘へ向けやすくする】


【恐怖や混乱を完全に無効化するものではない】


【声の届く範囲と、相手の状態によって効果が変わる】


【消費MP:20】


【再使用まで:180秒】


「……味方へ使う、声なんですね」


〈威圧と逆方向か〉

〈敵を怯ませて、味方を立て直す〉

〈初めて支援っぽいスキル覚えたな〉

〈修羅が声出すと、実際に前にいるから説得力あるんだよな〉


 俺は、少し首を傾げた。


 みんなを指揮したかったわけではない。


 ここには、まだ盾がある。


 まだ、一緒に戦える人がいる。


 それを、伝えたかっただけだ。


 近くへ、さっき倒れた盾役の人が歩いてきた。


 腕へ布が巻かれている。


「……さっき、ありがとう」


 俺は、顔を上げた。


「いえ。腕、大丈夫ですか?」


「しばらく休めって。でも、折れてはいない」


 その人は、俺の前で少し迷った。


「声、聞こえた。俺、起きた後も、もう一回受けるのが怖くてさ」


 視線が、前線へ向く。


「でも、右に人が戻ったって分かって……足が、止まらなくなった」


 俺は、手の中の器を持ち直した。


「……よかったです」


「うん」


 短く頷いて、その人は治療所へ戻っていった。


 俺は、その背中を少し見送った。


 声にも、使い道がある。


 斧を振るだけでは、届かない所へ。


     ◇


 前へ戻ると、太陽が少し西へ傾いていた。


 まだ、夕方ではない。


 第5波は、続いている。


 ただ、最初ほど敵の列は揃っていなかった。


 盾持ちの間が、空く。


 走狗が、先へ出すぎる。


 鳥が、上空で旋回する。


 そこへ、リュカさんが大きく回り込んだ。


 飛行する影が外へ押し出され、城壁の弓兵が狙う。


 俺たちは、地上。


 鬼装を維持し、目の前へ来る相手を倒した。


 斧。


 槍。


 盾。


 糸。


 何度も、同じことを繰り返す。


 その中で、斧閃が少し変わった。


 放った刃が、遠くでも散りにくい。


 狙った場所へ、真っすぐ進む。


 猪の脚へ当てる。


 オーガの武器を持つ腕へ。


 追わずに、止める。


【〈斧閃〉のレベルが上がりました】


【Lv.3 → Lv.4】


 俺は、表示を横へ送った。


 次に、盾を引いたとき。


 相手の足が、どちらへ踏ん張っているか。


 腕に伝わる力で、少し早く分かった。


【〈崩し〉のレベルが上がりました】


【Lv.2 → Lv.3】


 強くなっている。


 でも、その変化を試すために、列を離れる必要はない。


 同じ場所で、同じ相手を受ける。


 その一回が、少しずつ速くなっていた。


〈斧閃も崩しも上がった!〉

〈どんどん隙がなくなっていく〉

〈昨日より一回で削る量が増えてるな〉

〈味方との合わせ方もよくなってる〉


 ガランさんが、盾を少し開く。


 俺は、その隙間へ迷わず入った。


     ◇


 最後のオーガは、二体並んで来た。


 片方が前。


 もう片方が、少し後ろ。


 俺たちだけで追いかけず、隣の部隊と足並みを合わせた。


 右側は、ガランさん。


 左側は、別の大盾。


 真ん中を、槍が狙う。


 オーガが盾を寄せる。


 その外側へ、イトの糸。


 腕が、少し引かれる。


 俺は、斧を持ち上げた。


「右、入ります!」


 ガランさんが押す。


 相手の盾が止まる。


 羅刹腕を、縁へ。


 引く。


 開く。


 斧を、肩へ。


 その後ろから、もう一体の棍棒。


 俺は低く下がった。


 振り抜かれた腕が、前のオーガへぶつかりかける。


 動きが止まった。


 俺は斧閃を、斜めに放つ。


 棍棒を持つ腕へ当たる。


 カゲロウさんの槍が、その脚を突いた。


 二体の間が、崩れる。


「前、詰める!」


 指揮役の声。


 ガランさんと、隣の盾が進んだ。


 俺も、その横へ。


 今度は、大きく振らない。


 短く。


 確実に。


 一体目が倒れる。


 もう一体は、後ろへ下がろうとした。


 足元へ、白い糸。


 俺は斧を、もう一度振った。


     ◇


【第5波の撃退を確認しました】


【東門および北東防衛線を維持しました】


 表示が出た。


 俺は、その場で斧を下ろした。


 隣から、大きな息。


 ガランさんだった。


「……止めたな」


「はい」


 俺も、頷く。


 すぐに大きな歓声は上がらなかった。


 みんな、疲れていた。


 ただ、一人が盾を軽く叩いた。


 隣の人が、それに応える。


 少しずつ音が増えて、最後に声が上がった。


「守ったぞ!」


 俺は、口元を緩めた。


 怖いまま、戦った。


 不安が消えたから勝てたわけではない。


 隣の盾が見えていた。


 後ろの糸があった。


 戻る場所を、知っていた。


 それで、もう一度前へ出られた。


     ◇


 休憩場所へ戻り、俺は通知を開いた。


 何度も出ていた、成長の記録。


【種族レベルが上がりました】


【羅刹Lv:72 → 85【UP!】】


「……八十五」


 数字を、声に出す。


〈八十五!?〉

〈進んだあああ!〉

〈第二日の午後でここまで来た!〉

〈あと十五……〉


 百。


 上限の数字を、少しだけ意識した。


 でも、今は追いかけない。


 次の相手が来れば、また戦う。


 必要な場所で、必要なことをする。


 その先で届けばいい。


 俺は、スキルの通知も確認した。


【新規獲得】


〈戦声 Lv.1〉


【スキル成長】


〈斧閃 Lv.3 → Lv.4〉

〈崩し Lv.2 → Lv.3〉


 新しい声。


 届くようになった刃。


 前より、引きやすくなった盾。


 できることが、また増えていた。


 そこへ、リィナさんが来た。


 手には、水と布。


「お帰りなさい」


「ただいまです」


 いつもの返事をする。


 彼女は俺の手を確かめてから、少し声を落とした。


「海都の続報が、来ています」


 俺は顔を上げた。


 近くにいたガランさんも、こちらを見る。


「倉庫地区の内側で、新しい防衛線を作れたそうです。避難と物資の移送も、進んでいると」


 俺は、しばらく黙った。


 全部取り戻した、という話ではない。


 安全になった、と言えるわけでもない。


 でも、止まっていない。


 まだ、守っている。


「……そうですか」


 胸の奥から、少しだけ力が抜けた。


〈こっちでも聞いた〉

〈海都、持ち直してる〉

〈まだ戦ってるけど、線は作れたって〉


 俺は、コメントへ目を向けた。


 昼より、言葉が少しはっきりしている。


 どこで。


 誰が。


 何をしているか。


 それが分かるだけで、こんなに違う。


 俺は、水を受け取った。


「ありがとうございます。伝えてくれて」


 リィナさんが頷く。


 隣で、イトが人の姿へ戻り、椅子へ座った。


 俺の器を見る。


「みず」


「はい。イトの分も、ありますよ」


 小さな器が渡される。


 俺たちは、並んで飲んだ。


 まだ日は、落ちていない。


 今日も、最後の波が残っている。


 でも、その前に少し休める。


 俺は斧を足元へ置き、空を見上げた。


 遠くの海でも、誰かが同じように水を飲めていたらいい。


 そんなことを思いながら、次の鐘を待った。


次の鐘が鳴ったのは、日が傾き始めた頃だった。


【第6波を確認しました】


【主要接近方向:東】


 俺は、空になった水の器を返した。


 ガランさんが盾を持ち上げる。


 イトは、椅子から下りてリィナさんの横へ行った。


 少しして、白い蜘蛛の姿で戻ってくる。


「……行きましょうか」


 前脚が上がった。


 リィナさんが、俺の鞄へ小さな包みを入れる。


「食べられるときに、少しずつ」


「はい。ありがとうございます」


 俺は斧を取り、門へ向かった。


     ◇


 第6波は、始まった直後から激しかった。


 走狗の群れ。


 その後ろに、盾を並べたオーガ。


 空には、鉤鳥。


 昨日より、互いの距離が近い。


 一体を倒したところへ、次の影が入ってくる。


「右、出ます!」


 盾の横へ。


 斧を振る。


 戻す。


 赤い弧を、糸に止まった走狗へ放つ。


 倒れる。


 そこへ、猪。


「大きいの、来る!」


 ガランさんの声。


 俺は、立つ場所を変えた。


 正面へ入らない。


 盾が流す側の外へ。


 鬼装の刃を、前脚の内側へ叩き込む。


 猪の体が傾いた。


 イトの糸。


 カゲロウさんの槍。


 俺は、倒れかけた首へ斧閃を放つ。


【経験値を獲得しました】


 次。


 前へ。


 戻る。


 もう、そのたびに頭の中で順番を唱える必要はなかった。


 ガランさんの盾が動けば、空く場所が分かる。


 イトの糸が張れば、止まる相手が見える。


 俺が声を出す前に、槍が少し引かれることもあった。


〈噛み合ってるなあ〉

〈最初の訓練見てたから感動する〉

〈午前中よりさらに速い〉


 日が沈むにつれ、目印の布の横に灯りが置かれた。


 城壁の上にも、火。


 影が、揺れる。


 俺は、相手の顔より足元を見る時間を増やした。


 暗くなると、距離が少し分かりにくい。


 飛び込む前に、一度確かめる。


 それでも、数は多かった。


 交代して、水を飲む。


 食べ物を一口。


 また、前へ。


 最後のオーガを倒したときには、空から赤い色が消えていた。


【第6波の撃退を確認しました】


【東門防衛線を維持しました】


 俺は、長く息を吐いた。


「……止めましたね」


「ああ」


 ガランさんが盾を下ろす。


 肩が、大きく上下していた。


 表示を開く。


【種族レベルが上がりました】


【羅刹Lv:85 → 94【UP!】】


 九十四。


 俺は、その数字へ少し見入った。


「……あと、六つ」


〈近い!〉

〈明日には百いきそう〉

〈また進化か?〉

〈羅刹の次、何になるんだろ〉


 分からない。


 でも、少し楽しみになった。


 鬼のときは、百で上限だった。


 次も同じなら、あと六つ。


 俺は表示を閉じ、斧を持ち直した。


「まずは、戻ります」


     ◇


 門の内側には、温かい灯りが並んでいた。


 料理の匂い。


 水を注ぐ音。


 空いた器を重ねる人。


 昨日と、似た景色。


 俺は、その中へ戻った。


 リィナさんが俺たちの姿を見つけ、こちらへ来る。


「お帰りなさい」


「ただいまです」


 装備を外す。


 手を見せる。


 脚の傷も、確かめてもらう。


 大きな怪我はなかった。


 小さな擦り傷へ薬を塗ってもらい、俺は椅子へ座った。


 イトも人の姿へ戻り、隣へ腰を下ろす。


 匙が渡される。


 器から、湯気。


「……いただきます」


 一口食べる。


 ようやく、肩が下がった。


 ガランさんは、食事の前に盾を修理所へ持っていった。


 カゲロウさんは報告。


 ユズリハさんも、糸を張った場所の確認へ向かっている。


 それぞれの仕事が、少しずつ終わっていく。


 俺は、頭上を見た。


 星が、出始めていた。


「今日も、長かったですね」


 呟くと、リィナさんが頷いた。


「はい。海都の方も、内港で迎撃を続けているそうです」


「……まだ、続いてるんですね」


「物資を動かす準備は、こちらでも進めています。今は、送れる便がないので、必要な物を揃えていると」


 俺は頷いた。


 向こうも、今頃食べられているだろうか。


 そんなことを考えながら、もう一口。


 そのときだった。


 広場の奥から、怒鳴り声がした。


「灯りを増やせ!」


 顔を上げる。


 城壁の上で、火が一つ動いた。


 続けて、短い笛。


 一度ではない。


 何度も。


 休憩していた人たちが、そちらを向く。


 俺も、匙を止めた。


 夜の空を、何かが横切った。


     ◇


 最初は、鳥かと思った。


 でも、翼の動きが違う。


 大きな膜。


 長い尾。


 そいつが城壁の灯りを避け、暗い場所へ向かっている。


 次の瞬間、壁の上から叫び声が上がった。


「上だ! 頭を下げろ!」


 何かが、石へぶつかった。


 重い音。


 火の粉が散る。


 広場の空気が、一瞬止まった。


 それから、鐘が鳴り始めた。


 昼とは違う。


 短く、速く。


【緊急警報】


【第7波を確認しました】


【夜間侵攻が発生しています】


【各防衛部隊は指示を確認してください】


「……七?」


 声が出た。


 周りでも、椅子が鳴った。


「まだ来るのか!?」


「昨日は、なかっただろ!」


「夜番、外の様子は!」


 俺は、器を机へ置いた。


 昨日と同じように、夕方の波を越えれば休めると思っていた。


 でも、告知に出ていたのは、主要な侵攻時間。


 それ以外は絶対に来ないなんて、書いていなかった。


 頭で理解するより先に、門の方から声がした。


「東外周、接触!」


 俺は、立ち上がった。


     ◇


「全員、勝手に門へ集まるな!」


 ゼルガさんの声が、広場を通った。


 戦槌を持っている。


 いつ、手へ取ったのか分からなかった。


「夜の担当は持ち場へ! 休憩中の部隊は、指揮の下で交代する! 灯りのない場所へ走るな!」


 人の流れが、変わった。


 立ち上がったまま止まっていた人が、担当者の前へ向かう。


 荷車が、道の端へ寄せられる。


 治療所の入口へ、灯りが追加された。


 俺は足元の斧を取った。


 ガランさんが、修理所から戻ってくる。


 手には、別の盾。


「行けるか」


「はい。少しは、休めました」


「俺もだ」


 イトが、俺の袖を掴む。


 顔を向ける。


 眠そうだった目が、今は大きく開いていた。


「いく」


 俺は一度、その顔を確かめた。


「一緒に。暗い所へ、一人で出ないでください」


 頷きが返る。


 リィナさんが、水の容器を差し出した。


 補充したばかりらしい。


 俺は受け取り、鞄へ入れた。


「……また、戻ります」


「はい」


 返事の後、彼女はすぐに治療所へ向かった。


 俺たちも、持ち場へ走り出した。


     ◇


 夜の門外は、昼と別の場所だった。


 灯りの届く地面。


 その先の、黒い草地。


 林は、ほとんど見えない。


 音だけが、先に来る。


 草を踏む音。


 低い息。


 爪が、石を擦る音。


「……見えにくいですね」


 俺は灯火を出した。


 手元と、足元。


 全部を照らせるわけではない。


 でも、目印の杭は見えた。


 ガランさんが盾を構える。


「遠くは見張りに任せる。近づいたのを、受けるぞ」


「はい」


 城壁から、光が放たれた。


 魔法の灯りが草地の上へ浮く。


 その下で、何体もの黒い体が動いていた。


 犬に似ている。


 でも、昼の走狗より脚が細く、耳が大きい。


【夜走狗 Lv.63】


【HP:1,120/1,120】


【暗所での活動を得意とする魔物。

 優れた聴覚を持ち、足音や武器の接触音を頼りに獲物へ接近する。】


 俺は、情報を声に出した。


「音で、来るみたいです!」


 近くの人が頷く。


 その直後、一体が灯りの縁から飛び込んだ。


 盾へ、衝撃。


「右!」


「出ます!」


 いつもの声。


 俺は、その一言で足を動かせた。


 斧を振る。


 黒い体が倒れた。


 低く戻す。


 次は、左。


 糸が張る。


 イトの白い腹が、壁際の灯りに見えた。


 位置が分かる。


 俺は、赤い刃を放った。


 止まった影へ当たる。


【経験値を獲得しました】


 数字を見る前に、次の音がした。


     ◇


 頭上で、羽ばたき。


 俺は、顔を上げすぎないようにした。


 地上の相手は、まだいる。


「上、二!」


 城壁から、報告。


 膜の翼を持つ魔物が、灯りへ向かって下りる。


 狙いは、人ではなかった。


 松明の台へ、爪が掛かる。


 灯りが、倒れた。


 暗くなる。


「灯り、守れ!」


 誰かが叫ぶ。


 俺は、斧を構えた。


 味方のいない方向。


 翼が開く。


 その胸へ、斧閃。


 赤い弧が、闇を切った。


 魔物が、地面へ落ちる。


 近くの槍兵が仕留め、その後ろで別の人が灯りを立て直した。


〈灯り狙うのかよ!〉

〈夜の敵、嫌すぎる〉

〈赤い斬撃が見えるの助かるな〉


 俺は、呼吸を整えた。


 何を狙っているか。


 ただ、噛みつくだけではない。


 暗くしてから、地上の群れが入ってくる。


 俺は、そのことを指揮役へ伝えた。


 灯りのそばへ、盾が一枚追加された。


 人も、変わる。


 驚いたままではいられない。


 気づいたことから、直していく。


     ◇


 夜走狗は、速かった。


 ただ、体は重くない。


 近づいてきた瞬間を、斧で取る。


 無理に大きく振らない。


 影を追って、暗闇へ出ない。


 昼のうちに練習した戻り方が、ここでも助けになった。


 ガランさんの右。


 その少し後ろに、灯り。


 俺が下がれば、盾が正面を向く。


 新しい敵でも、全部を最初から覚え直すわけではなかった。


「右前、止まった!」


 ユズリハさんの声。


 俺は、目印の向こうを見る。


 糸に絡んだ、一体。


「撃ちます!」


 斧閃。


 倒れる。


【種族レベルが上がりました】


 表示が、端へ出た。


 九十七。


 あと、三つ。


 俺は斧を引き戻した。


 今は、数えない。


 前の相手。


 横の味方。


 足元。


 そこを、一つずつ。


     ◇


 前線へ、重い足音が近づいた。


 黒い体。


 低い頭。


 額と肩を、厚い外殻が覆っている。


 昼の鎧背牙猪より、毛が長い。


【黒鎧牙猪 Lv.74】


【HP:2,860/2,860】


 俺は情報を伝えた。


 ガランさんが、足を置き直す。


「一体目、右へ流す!」


「分かりました!」


 猪が止まる。


 暗い地面を、前脚が掻いた。


 突進。


 盾へ、激突する。


 ガランさんの体が、半歩押された。


 でも、向きは変わる。


 俺は、左へ入った。


 脚の内側へ、斧。


 刃が通る。


 猪が、走り抜ける。


 その先へ、イトの糸。


 後脚が、引かれた。


 俺は追わずに、斧を構える。


「右前、斧閃!」


 赤い刃が、首の下へ入った。


 猪が傾く。


 カゲロウさんの槍が、横から伸びた。


 大きな体が、地面へ倒れる。


 その後ろから、二体目。


 俺は、もう一度位置へ戻った。


 同じことを、繰り返す。


 ただし、同じ相手だとは思わない。


 速さ。


 頭の高さ。


 踏み込む脚。


 見える範囲で、確かめる。


 斧を振る。


 戻る。


 三体目を倒したとき、通知が重なった。


【種族レベルが上がりました】


【羅刹Lv:99 → 100【UP!】】


 俺は、その数字を見た。


 百。


 来た。


 そう思った。


 でも、その下には何も出なかった。


     ◇


 次の走狗が、盾へ飛びついた。


 俺は反射的に、右へ出る。


 斧。


 戻る。


【経験値を獲得しました】


 表示は、それだけだった。


 上限に到達したという文字も。


 進化できるという通知も。


 何も、ない。


「……あれ」


〈百!〉

〈カンスト!?〉

〈進化通知は?〉

〈今、何も出なかった?〉


 俺も、そう思っていた。


 でも、確認する時間はない。


 前から、また黒い影。


 俺は、斧を構えた。


 鬼力を発動する。


 体の奥が熱くなり、夜の冷たい空気が頬へ当たった。


 肩へ飛び込んでくる一体を、柄で外す。


 魔力の腕で、次の一体の進路をずらす。


 斧を、低く振った。


 倒れる。


 イトの糸が、右を止める。


 そこへ、赤い刃。


 次。


 もう一体。


 しばらくして、また表示が出た。


【種族レベルが上がりました】


【羅刹Lv:100 → 101【UP!】】


「……上がるんだ」


 声が、漏れた。


〈えっ〉

〈百一!?〉

〈上限じゃない!〉

〈羅刹、百超えるのかよ!〉


 俺は、一瞬だけガランさんを見た。


「まだ、上がるみたいです」


「それは、いい知らせだな!」


 盾が、また鳴った。


「詳しい話は、戻ってから頼む!」


「はい!」


 俺は前へ向き直った。


 百で終わりではない。


 なら、まだ強くなれる。


 それは、今の俺にはありがたかった。


     ◇


 交代で下がったときには、空は完全に黒くなっていた。


 夜番の部隊と、入れ替わる。


 俺たちは、灯りのある場所へ戻った。


 水を受け取る。


 指を開く。


 イトが、横へ体を下ろした。


 俺は、その前脚へ手を添えた。


「……大丈夫ですか」


 脚が、一度動く。


 俺は頷き、表示を開いた。


【種族:羅刹】


【Lv:103】


 それだけ。


 上限の数字は、書かれていない。


 進化の項目も、増えていなかった。


 俺は、少し考える。


「鬼のときは、百だったんですけどね」


〈種族で違うんじゃない?〉

〈上位種だから必要レベル増えるのかも〉

〈百二十とか?〉

〈百五十説〉

〈二百だったらどうする〉


「……二百は、ちょっと遠いですね」


 苦笑する。


 百五十。


 その数字を、頭の中で並べてみた。


 鬼になったときも、小鬼の頃より先が長かった。


 羅刹は、さらにその上。


「もしかして、百五十まで上げないといけないんですかね」


 言ってから、首を傾げる。


 分からない。


 百十かもしれない。


 百五十かもしれない。


 進化に、別の条件があるのかもしれない。


 今、分かるのは一つだけだった。


「百で終わりでは、なかったです」


〈確定してるのはそこだな〉

〈まだ伸びる余地あるの熱い〉

〈ただ、今から五十は大変だぞ〉


 俺は、前線を見た。


 灯りの向こうで、まだ盾が動いている。


 矢が飛ぶ。


 魔法が、夜を照らした。


「……戦う相手は、まだ来てますね」


 そう言うと、横から声がした。


「だからって、休憩を飛ばすんじゃないよ」


 ゼルガさんだった。


 俺は、器を持ち直した。


「飛ばしません」


「よし」


 彼女は夜の前線へ顔を向けた。


 少しの間、そのまま見ている。


「今夜は、交代を短くする。眠いまま立たせるわけにはいかないからね」


 近くの担当者が頷く。


 新しい時間割が、紙へ書き込まれた。


 夜は休めると思っていた。


 でも、敵は来た。


 そのせいで、俺たちもやり方を変えなければならない。


     ◇


 少しして、セイルさんから全体への連絡が届いた。


【ヴァルグ防衛隊への連絡】


【夜間侵攻に対応するため、部隊の交代予定を変更します】


【各担当窓口で、休息と配置の時間を確認してください】


【現在、東門および北東側の防衛線は維持されています】


 俺は、最後の一行を読んだ。


 維持している。


 まだ、通していない。


 リィナさんが、新しい水を持ってきた。


 その顔には、疲れが見えた。


 でも、俺を見つけると、足を少し速める。


「修羅さん」


「はい。大きな怪我はありません」


 先に言う。


 彼女は俺の手と顔を確かめてから、頷いた。


「分かりました。次の交代まで、こちらで休んでください」


「はい」


 器を受け取る。


 温かかった。


 冷えた指へ、熱が移る。


 隣で、イトが脚を畳む。


 その白い体へ、リィナさんが布をかけてくれた。


 俺は、斧を横へ置いた。


 百を超えても、終わらなかった。


 夜になっても、敵は来た。


 思っていたより、先は長い。


 でも、前には盾があり、後ろには灯りがある。


 交代する人も、戻る場所も。


 俺は、少しだけ目を閉じた。


 次に呼ばれたら、また立とう。


 そのときには、今より少し強い自分で。


 遠くで鳴る盾の音を聞きながら、俺は器を両手で包んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。