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18話 ワールドクエスト 魔都攻防戦

●主人公視点


 食べました。


 休みました。


 装備も、見てもらいました。


 どうも、修羅です。


 現在、東門の内側で、斧を構えています。


 目の前には、木の的。


 その横に、ゼルガさん。


「力を込めるところ、見せてごらん」


「はい」


 斧へ、鬼装をまとわせる。


 赤い光が、刃に沿って伸びた。


 そこから、薄く。


 前へ。


 俺は斧を振った。


「〈斧閃〉!」


 赤い弧が飛ぶ。


 的へ当たり、木の表面が削れた。


 でも、少し斜めに入っている。


「……右へ、ずれましたね」


「振った後、肩が開いてる」


 ゼルガさんが、俺の肩へ指を置く。


「刃を飛ばしたいからって、体まで追いかけなくていい。振り終わる場所を決めな」


 俺は、自分の足を見た。


 さっきより、少し前へ出ている。


 近くの相手を斬る癖で、距離を詰めようとしていたらしい。


「その場から、ですか」


「今はね。動きながら使うのは、その後だ」


 もう一度。


 足を置く。


 肩を落とす。


 刃へ、力。


 振る。


 今度は、的の中央へ当たった。


「……お」


「それを、覚える」


〈当たり方変わった!〉

〈先生いるのありがたい〉

〈覚えた後も練習するのいいな〉


 俺は斧を引き戻した。


 新しく覚えた技は、嬉しい。


 使いたい。


 でも、外してばかりではMPがなくなるだけだ。


 届く距離も、分かっておきたい。


 五メートルの位置。


 その少し手前。


 的を動かしながら、何度か試した。


 遠いほど、刃は薄くなる。


 近ければ、深く入る。


「……近すぎず、遠すぎずですね」


「間に味方がいないことも、忘れずに」


「はい」


 ゼルガさんは頷き、空を見た。


「そこまで。次までに、魔力を戻しておきな」


 俺も、斧の光を消した。


     ◇


 午後は、第一波と第二波の記録を聞いた。


 抜けた走狗が、どこで止まったか。


 鉤鳥が、どの辺りで低く飛んだか。


 猪を流した先に、十分な空間があったか。


 ミチシルベさんの地図には、朝よりずっと多くの線が引かれていた。


「こちらの糸は、一度外します。回収に入る方が通りにくかったので」


 ユズリハさんが言う。


 イトが、その位置を見て頷く。


 ガランさんは、盾の裏の革紐を触っていた。


「猪を受けるとき、左足が少し沈んだ。次は、半歩後ろから立つ」


「俺も、それに合わせます」


 俺は、自分の立つ場所を指した。


 朝は、決められた通りに動くので精いっぱいだった。


 今は、少しだけ違う。


 ここを通ると、振りやすい。


 この場所は、戻るときに狭い。


 自分で感じたことを、話せるようになってきた。


 その後は、休憩。


 日陰へ座る。


 水を飲む。


 イトも、蜘蛛の姿のまま敷物へ脚を畳んだ。


 俺は、その隣へ腰を下ろした。


「……疲れましたね」


 前脚が、少し動く。


「次まで、ちゃんと休みましょう」


 目を閉じる。


 遠くで、修理の音がしていた。


     ◇


 目を開けたとき、光の色が変わっていた。


 城壁の上へ、橙色の日が差している。


 西の空が、ゆっくり赤くなり始めていた。


「修羅。そろそろだ」


 ガランさんの声。


 俺は、起き上がった。


 体を動かす。


 肩。


 肘。


 指。


 重さは、随分取れていた。


「はい。行けます」


 立ち上がり、鞄を確かめる。


 薬は、補充した。


 水も、ある。


 イトも脚を伸ばし、俺の横へ来た。


 そのとき、鐘が鳴った。


 一度。


 少し間を置いて、もう一度。


【第三侵攻波を確認しました】


【第一日・最終侵攻波】


【東門および北東防衛線に接敵予測】


 俺は、表示を見上げた。


「……今日、最後ですね」


〈夕方の部きた!〉

〈初日ラスト!〉

〈ここ止めて飯だ!〉

〈修羅、まだ伸びるぞ〉


 城壁の上から、声が飛ぶ。


「大型、多数!」


 俺たちの間から、雑談が消えた。


 ガランさんが盾を持つ。


 俺も、斧を取った。


     ◇


 門の外は、昼より影が長かった。


 杭。


 草。


 倒れた魔物を運んだ跡。


 その全部が、橙色に染まっている。


 風の向こうから、地面を踏む音が聞こえた。


 黒い群れ。


 その中に、灰色の大きな背中。


 さらに後ろでは、角のある頭が動いている。


「……最初から、一緒ですね」


 俺が言うと、ガランさんが頷いた。


「分けて来てくれりゃ、助かるんだがな」


 黒牙走狗。


 鎧背牙猪。


 角盾オーガ。


 空にも、鉤鳥。


 朝から相手をしてきた魔物が、まとめて来ていた。


 ゼルガさんが、前線を歩く。


「小さいのを抜かせない! 大きいのが重なったら、無理に全部受けず、隣へ伝えな!」


 声が、列を走る。


 俺は、ガランさんの盾の右へ立った。


 後ろの道を見る。


 目印の布。


 イトの位置。


 ユズリハさんの糸。


 カゲロウさんが、少し外側から手を上げる。


 俺も、返した。


 走狗が、地面を蹴った。


     ◇


 最初の十体ほどは、驚くくらい滑らかに倒せた。


 盾へ当たる。


 右へ出る。


 斧。


 低く戻す。


 横へ回る個体には、槍。


 糸に止まった相手へ、斧閃。


 午前中と、同じ動き。


 でも、迷う時間が減っていた。


「右、二体!」


「一体、取ります!」


 俺は踏み込んだ。


 近い方を、斧で。


 もう一体は、糸へ脚を取られていた。


 味方がいないことを確かめる。


 少し離れた場所へ、赤い刃を飛ばした。


 走狗が倒れる。


【経験値を獲得しました】


 戻る。


 次。


 振る。


 戻る。


 刃へ通す力が、途切れなくなってきた。


 鬼装を出すたび、握り直す必要もない。


 必要な強さだけ、残す。


 厚く、薄く。


 近くを斬るときと、飛ばすとき。


 その切り替えが、少しずつ指へ馴染んでいく。


【〈鬼装〉のレベルが上がりました】


【Lv.2 → Lv.3】


 表示が出た。


 俺は斧を振り終えてから、それを見た。


「……鬼装も、上がりましたね」


〈おおお!〉

〈使い続けてたもんな〉

〈光、さっきよりまとまって見える〉


 刃の赤が、薄く、濃くなっていた。


 無駄に揺れていた光が、刃へ沿って収まっている。


 手応えも、変わる。


 走狗の肩へ入った刃が、思った位置を抜けた。


 俺は、すぐに引き戻した。


「……いいですね」


     ◇


 猪が来る。


 今度は、五体。


 横一列ではない。


 少しずつ、ずれている。


 一体を受けたところへ、次が来る形だ。


「間隔、狭い!」


 カゲロウさんの報告。


 ガランさんが、短く息を吐いた。


「一体目は右! 二体目、左へ回してくれ!」


 隣の盾役が、返事をする。


 俺は、一体目の進路へ目を置いた。


 止まる。


 頭が下がる。


 来る。


「右へ、出ます!」


 盾が当たった。


 斜めへ、流れる。


 俺は、その外側へ踏み込んだ。


 斧を、前脚の内側へ。


 刃が入る。


 猪が抜ける。


 追わない。


 白い糸が、後脚へ絡む。


 体が傾く。


 その首の下へ、斧閃。


 赤い弧が、短い距離を走った。


 猪が崩れた。


 俺が走って追いつくより、早かった。


〈今の速い!〉

〈脚斬って、流して、遠距離で止めた!〉

〈第二波で覚えた技がもう組み込まれてる〉


 でも、喜ぶ時間はない。


 二体目が、左へ流されている。


 そちらは、別の槍兵が見る。


 三体目。


 ガランさんの盾が、鳴った。


 俺は、また右へ。


 前脚。


 糸。


 今度は倒れない。


 猪が踏ん張り、無理に体を起こした。


「まだ、動きます!」


 声を出す。


 カゲロウさんの槍が、首元へ入った。


 俺は斧を、低く返す。


 倒れた。


【種族レベルが上がりました】


【羅刹Lv:35 → 38【UP!】】


 数字を、横目で見る。


 体が、少し動かしやすい。


 でも、立ち位置は変えない。


 新しい力が増えても、通る道は同じだ。


     ◇


 五体目の猪が倒れる頃には、俺たちの足元も随分荒れていた。


 蹄の跡。


 削れた土。


 倒れた体。


「三歩、下げる!」


 指示が来る。


 ガランさんが盾を構えたまま、足を引いた。


 俺も、合わせる。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 隣の列も、動く。


 空いた前の空間へ、矢が飛んだ。


 走狗が数体、倒れる。


 その間に、後方の人が負傷者を運ぶ。


 糸も、張り替えられた。


 俺は、自分の立つ場所を確かめた。


 ほんの数歩。


 でも、その数歩をみんなで動くのが、こんなに難しいとは思わなかった。


「……下がれましたね」


 ガランさんへ言う。


「ああ。誰も、置いてない」


 その言葉で、俺は後ろを見た。


 イトが、少し遅れて新しい杭へ移っていた。


 無事だ。


 俺は頷き、前へ顔を戻した。


     ◇


 角盾オーガは、走狗の向こうから来た。


 今度は、盾を前へ出し、頭を低くしている。


 城壁から矢が飛んだ。


 盾へ、何本も刺さる。


 止まらない。


【角盾オーガ Lv.67】


【HP:3,980/3,980】


 俺は、数字を伝えた。


 その後ろにも、一体。


 さらに、左の列にも大きな影。


「……増えましたね」


「こっちは一体、受け持つ!」


 ガランさんが声を上げる。


 指揮役が頷いた。


 左は、ゼルガさんへ。


 中央は、別の部隊。


 俺たちは、右の一体。


 カゲロウさんが、槍を持ち直した。


「周りから、減らす」


 俺も頷く。


 オーガへ近づきたい。


 でも、その横を走る小さいのが先だ。


 俺は鬼力を使った。


 腕に、赤黒い紋様が浮かぶ。


 走狗へ、一撃。


 次へ、斧閃。


 倒れる。


 斧を返す。


 もう一体。


 ガランさんが前へ出た。


 オーガの盾と、ぶつかる。


 今度は、棍棒が上から来た。


「上!」


 俺は、声を出した。


 ガランさんが盾を傾ける。


 衝撃。


 膝が沈む。


 俺は、その右へ入った。


 羅刹腕を出す。


 片方を、盾の縁へ。


 もう片方を、棍棒の柄へ。


 全部を止めるのではない。


 盾が戻る方向を、遅らせる。


 棍棒が返る道を、少し外へ。


 普通の両手で、斧を振った。


 脇へ入る。


 オーガが吠える。


 離れる。


 その腕が返る。


 魔力の手を離して、俺も下がる。


 ガランさんの盾が、間へ入った。


「戻った!」


「分かった!」


 息を吐く。


 次は、俺が受ける番ではない。


 槍が、横から伸びた。


 オーガの脚へ、白い糸。


 ユズリハさんとイトが、左右から引いている。


 大きな体が、少しだけ揺れた。


 俺は、その揺れへ合わせた。


「〈崩し〉!」


 盾の上縁へ斧を掛け、斜めに引く。


 足を、一歩。


 前ではなく、横。


 ガランさんが、押した。


 盾が、下がる。


 開いた肩へ、俺の斧。


【〈崩し〉のレベルが上がりました】


【Lv.1 → Lv.2】


 今までより、引く方向が分かった。


 力を加える場所。


 相手が、耐えている場所。


 そのずれが、手のひらへ少し伝わる。


 俺は斧を抜き、低く戻した。


〈崩しも上がった!〉

〈今の、盾が一気に開いたぞ〉

〈糸と盾の押し込みに合わせたのか〉

〈修羅、どんどん動きよくなってる〉


 オーガが、後ろへ下がる。


 俺は追わずに、斧を構え直した。


 右前。


 味方はいない。


「撃ちます!」


 赤い弧が飛んだ。


 傷ついた肩へ、当たる。


 オーガが膝をつく。


 そこへ、カゲロウさんの槍。


 俺は、最後だけ踏み込んだ。


 首元へ、刃。


 大きな体が、倒れた。


【経験値を獲得しました】


【種族レベルが上がりました】


     ◇


 交代で戻ったときには、日が随分傾いていた。


 城壁の影が、長い。


 水を受け取る手に、汗がついている。


 俺は籠手を少し緩め、指を動かした。


 痛みは、小さい。


 でも、疲れている。


 イトも、俺の横へ体を下ろした。


 白い腹が、ゆっくり上下する。


「……休みましょう。今度は、こっちが待つ番です」


 前脚が、俺の靴へ触れた。


 表示を開く。


【羅刹Lv:38 → 45【UP!】】


「……四十五」


〈もう進化前の頃の数字に戻ってきた〉

〈種族違うから中身全然違うけどな〉

〈この一日で伸びすぎだろ〉


 俺も、そう思った。


 でも、前を見れば理由は分かる。


 まだ、戦っている。


 矢が飛び、盾が鳴り、魔法の光が上がる。


 どれだけ倒しても、林の向こうから群れが来る。


 その中で、一人ずつ交代している。


 俺だけが、休んでいるわけでもない。


 俺だけが、強くなっているわけでもない。


 隣へ戻ってきた槍兵が、座り込んだ。


「上がった」


 自分の表示を見て、笑う。


「やっと、あいつの脚へ槍が通るようになった」


 俺は、その顔を見た。


 朝、隣へ立っていた人だ。


「……次、またお願いします」


「ああ。頼む」


 水の器を、軽く持ち上げ合った。


     ◇


 休憩を終えて戻ると、空が赤くなっていた。


 夕日が、魔物たちの後ろから差している。


 目を細める。


 少し、見えにくい。


「前、影で分かりづらいぞ!」


 指揮役の声。


 俺は、遠くばかり見ないようにした。


 近づいてきた輪郭。


 足元。


 土の跳ね方。


 聞こえる音。


 黒牙走狗が、低く飛び込む。


 斧を、短く。


 倒す。


 その向こうで、鉤鳥が翼を畳んだ。


「右上!」


 声を出す。


 俺は斧を構えた。


 昼なら、ただ追いかけて振っていた。


 今は、少し待つ。


 鳥の胸が、こちらを向く。


 下りる線が、決まる。


 その先へ、斧閃。


 赤い弧が、夕方の空を走った。


 翼へ、当たる。


 鳥が傾いた。


 地上へ落ちる前に、弓兵の矢が入る。


【経験値を獲得しました】


【〈斧閃〉のレベルが上がりました】


【Lv.1 → Lv.2】


 俺は、斧を戻した。


「……当たるように、なってきましたね」


〈今の狙ったな!〉

〈鳥の今いる場所じゃなくて前に撃った〉

〈弓の人との連携もできてる〉


 射程の説明も、変わっていた。


 五メートルから、七メートル。


 遠くまで、形が残るようになったらしい。


 ただ、数字を喜んでいる時間はなかった。


 ガランさんの盾へ、また走狗。


 俺は、右へ出た。


     ◇


 第三波の最後尾には、角盾オーガが並んでいた。


 大きな盾。


 棍棒。


 その間を、鎧背牙猪が走る。


 先に猪を受け、流す。


 そこへオーガが近づく。


 休む間を与えないような進み方だった。


「……最後まで、嫌な組み合わせですね」


 俺が言うと、ガランさんが鼻で笑った。


「こっちも、組んでるだろ」


 俺は、頷いた。


「はい」


 猪の先頭が来る。


 盾で流す。


 俺は脚へ一撃。


 糸が、張る。


 傾いた体へ、槍。


 俺が追撃しようとしたところで、オーガの棍棒が上がった。


 止まる。


 下がる。


 頭上を、大きな木の塊が抜けた。


 その瞬間、空が赤く光った。


「攻撃区域、前方外側! 退避確認済み!」


 合図。


 リュカさんが、低く通り過ぎる。


 炎が、俺たちよりさらに前の地面を舐めた。


 走狗の群れが、進路を変える。


 オーガの足が、止まる。


 炎が消える。


 指揮役の旗が、動いた。


「前へ、三歩! 取り残された敵を処理!」


 俺たちは、進んだ。


 ガランさんの盾が、オーガへ当たる。


 俺は、右へ。


 羅刹腕を出す。


 片方を、棍棒の柄へ。


 もう片方を、盾の外側へ。


 ガランさんが、押す。


 カゲロウさんの槍が、脚を狙う。


 オーガの重心が、揺れた。


 俺は、盾を下へ引いた。


「開きます!」


 斧を、脇へ。


 深く、入る。


 抜く。


 戻る。


 オーガが、棍棒を振った。


 届かない。


 俺は、もう一度構えた。


「右前、斧閃!」


 赤い刃が飛ぶ。


 盾の上へ出ていた首元を、かすめた。


 浅い。


 でも、顔が上がる。


 その下へ、槍。


 オーガが、膝をついた。


 俺は踏み込む。


 斧を引き上げ、振り下ろした。


【経験値を獲得しました】


 次の一体が、来る。


 俺は、まだ前へ出なかった。


 ガランさんが、盾を戻すのを待つ。


 息を吸う。


 並ぶ。


「……次、行けます」


 ガランさんが、頷いた。


「よし」


〈強くなってる〉

〈火力だけじゃないんだよな〉

〈出るのも戻るのも迷わなくなった〉

〈この組、めちゃくちゃ安定してきたぞ!〉


     ◇


 最後のオーガが倒れたとき、夕日が山の向こうへ隠れかけていた。


 俺は、斧を構えたまま前を見る。


 林。


 草地。


 倒れた魔物。


 動く影は、もう少ない。


 遠くで、リュカさんが旋回した。


 城壁の上から、確認の声。


 少し待つ。


 誰も、勝手には前へ走らない。


 やがて、鐘が鳴った。


【第三侵攻波の撃退を確認しました】


【第一日の主要侵攻が終了しました】


【魔都ヴァルグ・都市中枢健在】


【防衛成功】


 俺は、表示を見上げた。


 すぐには、声が出なかった。


 隣で、ガランさんが盾を下ろす。


 その肩が、大きく上下している。


「……終わったか」


 誰かが呟く。


 次の瞬間。


「守ったぞおおおっ!」


 歓声が、前線へ広がった。


 城壁の上からも、声が返る。


 槍が上がる。


 弓が、振られる。


 俺は、ようやく息を吐いた。


「……一日目、守れましたね」


 ガランさんが、こちらを見た。


 笑っている。


「ああ」


 拳が、出る。


 俺も、合わせた。


 軽く。


 でも、その感触は、朝よりずっとはっきりしていた。


     ◇


 戻る前に、通知を確認した。


 何度も出ていたレベルアップ。


 それから、スキルの変化。


【羅刹Lv:45 → 58【UP!】】


 俺は、数字を見た。


「……五十八」


〈は!?〉

〈初日で!?〉

〈朝十三だったよな!?〉

〈四十五も上がったの!?〉

〈これが大規模戦の経験値か〉


 俺も、少し黙った。


 朝は、十三。


 今は、五十八。


 斧を振った回数は、もう分からない。


 でも、全部覚えているわけではなくても、体には残っている。


 盾の右から出る足。


 刃を低く戻す腕。


 糸の前で止まる歩幅。


 そこへ、力が増えていた。


 続きを開く。


【スキル成長】


〈鬼装 Lv.2 → Lv.3【UP!】〉

〈崩し Lv.1 → Lv.2【UP!】〉

〈踏み込み Lv.3 → Lv.4【UP!】〉

〈羅刹腕 Lv.2 → Lv.3【UP!】〉

〈斧閃 Lv.1 → Lv.3【UP!】〉


「……斧閃も、もう一つ上がってますね」


 最後のオーガたちを相手にしている間に、通知が出ていたらしい。


 説明を読む。


 有効射程は、約十メートル。


 刃の形が安定し、飛ばすときの魔力の損失も減っている。


〈十メートル!?〉

〈朝まで遠距離なかった人です〉

〈一日で戦い方変わりすぎだろw〉

〈四本腕も三になった!〉


 俺は、魔力の腕を少しだけ出してみた。


 赤い輪郭が、はっきりしている。


 右だけ、開く。


 左は、そのまま。


 普通の両手も、動かない。


「……動かしやすい」


 すぐに消した。


 今は、見せるために魔力を使う時間ではない。


 イトが、隣へ来る。


 白い脚に、土がついていた。


 俺はしゃがみ、手を差し出した。


「イトも、上がってますよ」


 従魔の表示には、何度もの成長記録。


 糸の扱いも、粘着糸の強さも伸びていた。


 前脚が、俺の掌へ重なる。


 俺は、それを軽く支えた。


「今日は、本当に助かりました」


 小さく、脚が動く。


 その後ろで、ゼルガさんが声をかけた。


「喜ぶ続きは、中でやりな。暗くなるよ」


 俺は顔を上げた。


 西の空に、最後の赤い光。


 足元には、長い影。


「……はい。戻ります」


     ◇


 門の内側には、たくさんの人がいた。


 水を渡す人。


 器を並べる人。


 担架を受け取る人。


 壊れた盾を見て、すぐ作業台へ運ぶ人。


 歓声の後も、街は止まらなかった。


 俺たちが帰ってくる場所を、みんなが整えてくれていた。


 リィナさんが、こちらへ駆け寄る。


 でも、途中で足を緩めた。


 俺の顔を見る。


 腕を見る。


 歩き方を見る。


「……お帰りなさい」


 少し、息が混じった声だった。


 俺は、頷いた。


「ただいまです」


「怪我は?」


「細かいのは、いくつか。全部、見せます」


 先に言うと、彼女は少し笑った。


「はい。お願いします」


 その横で、ガランさんが腰を下ろす。


 盾が地面へ置かれた。


 腕が、少し震えている。


 でも、本人は笑っていた。


「次は、もう少し上手くできるな」


 俺は、隣へ座る。


 斧を、静かに置いた。


「はい。俺も、そう思います」


 初日が、終わった。


 まだ二日ある。


 最後には、あの巨大な影が来る。


 朝の俺なら、ただ大きいとしか思えなかったかもしれない。


 今は、少し違う。


 どこへ立つか。


 誰に止めてもらうか。


 どこまでなら、自分の刃が届くか。


 考えられることが、増えている。


 俺は、布を巻き直してもらう自分の手を見た。


 今日、何度も斧を握った手。


 明日も、これを使う。


「……もっと、強くなれそうですね」


 呟くと、リィナさんが顔を上げた。


「そのためにも、今日は休んでくださいね」


 俺は、少し笑った。


「はい」


 隣で人の姿へ戻ったイトが、俺の袖を掴む。


「ごはん」


「……そうですね。まず、ご飯です」


 温かい器が、目の前へ置かれた。


 俺たちは匙を取り、夕闇の降りたヴァルグで、今日最後の食事を始めた。



【ステータス】


プレイヤー名:修羅

種族:羅刹

種族Lv:58

冒険者ランク:D


【称号】


〈初代闘技王〉

βテスター公式大会の初代優勝者。ステータス補正なし。


〈山主を討つ者〉

地域の主を単独で討伐した証。

筋力+5%/耐久+5%


※所持しているだけで効果が有効。


【基本能力】

項目羅刹Lv.58の数値補正込み

最大HP2,4552,700〈装備+245〉

最大MP531531

最大スタミナ1,9701,970

筋力501526〈称号+25〉

耐久481505〈称号+24〉

敏捷491491

魔力274274

器用284284



獲得経験値:+10%【装備】


※HPは首飾りで+10%。割合補正の端数は切り捨て。

※防具の防御性能は、耐久の数値とは別に扱う。


【種族特性】


〈怪力の芽〉

体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。


〈健啖〉

食事によるスタミナ回復量が多い。


【スキル】

スキル主な効果

打撃 Lv.1拳や武器の柄などによる打撃を補助

踏ん張り Lv.1構えた状態で押し倒されにくくなる

短剣術 Lv.2短剣の攻撃と取り回しを補助

斧術 Lv.4斧の攻撃と取り回しを補助

索敵 Lv.4周囲の物音や気配を察知しやすくなる

鑑定 Lv.2対象の名前、能力、特徴、素材などを確認

鬼装 Lv.3【UP!】武器へ力をまとわせ、攻撃力と耐久性を強化。魔力の制御が安定

受け流し Lv.2攻撃の勢いを逃がす動作を補助

踏み込み Lv.4【UP!】スタミナを消費し、一歩の速度と力を高める

崩し Lv.2【UP!】相手の姿勢を崩す動作を補助。力を加える方向を捉えやすくなる

灯火 Lv.1手元を照らす小さな光球を生成

羅刹腕 Lv.3【UP!】背中から一対の魔力腕を形成。操作と形成が安定し、維持消費が軽減

斧閃 Lv.3【NEW!】鬼装の魔力を、飛ぶ斬撃として放つ



【斧閃 Lv.3】


有効射程:約10メートル

消費MP:20

発動条件:鬼装をまとった斧を振ること


・距離とともに威力が減衰する。

・威力と命中精度は、振り方と魔力制御に左右される。

・追尾効果はない。味方にも注意が必要。


【装備】


主武器:黒角の大戦斧

副武器:白糸大蜘蛛の牙短剣×2

外套:黒嶺熊の短外套

胴:岩鱗の胴当て

腕:岩鎧補強の籠手

腰:岩鱗の腰当て

脚:岩鱗の脛当て

足:鬼用の革靴

首:始祖鬼の首飾り

鞄:旅人の収納鞄


【黒角の大戦斧】


〈喰命〉

この斧による討伐時、最大HPの5%を回復する。

現在の回復量:HP135/体


※MPとスタミナは回復しない。


【始祖鬼の首飾り】


・最大HP+10%

・獲得経験値+10%


〈第一段階:鬼力〉

30秒間、基礎筋力と基礎耐久の50%分を加算。

消費MP10/効果終了から60秒後に再使用可能。


発動中の筋力:501+25+250=776

発動中の耐久:481+24+240=745


〈第二段階:鬼震〉

地面を叩き、前方5メートルの扇状範囲へ衝撃を放つ。筋力に応じたダメージと、姿勢を崩す効果。

消費MP25/再使用60秒。


〈第三段階:鬼王の威圧〉

周囲10メートルへ威圧を放つ。効果は実力差や精神抵抗によって変わる。

消費MP40/再使用180秒。


【拠点・仲間】


保有ダンジョン:無名の常設型ダンジョン〈全三階層〉

従魔:イト〈白糸の織蜘蛛〉

同行者:リィナ〈魔人〉


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