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5話 3日目

●主人公視点


 はい。猪倒した修羅でーす!


 今回は、猪の攻略をどんどん進めていこうと思います!


 そのための準備も、ちゃんとしてきました。


 では、早速ですが配信を始めましょうかね。


「……配信っと。ッお?」


 何か、多くね?


〈こんにちは〉

〈きた!〉

〈猪の人だ〉

〈火起こしから来ました〉

〈今日は何食べるんですか?〉


「……狩りです。今日は狩りをします」


 配信をつけたばかりなのに、コメントが流れている。


 表示を開く。


 視聴者数、八十六人。


「……八十六?」


 昨日までは、こんなにいなかった。


 見間違いかと思って確認すると、九十二人になった。


 増えた。


「皆さん、どこから来たんですか?」


〈掲示板〉

〈おすすめ〉

〈猪と戦ってるところ見た〉

〈肉がおいしそうだったので〉


「最後の人、今日はまだ焼かないですよ」


 少し緊張する。


 知らないところで、俺の配信を知ってくれた人がいたらしい。


 なんか、うれしい。


 けど、挨拶って何を言えばいいんだ?


「えー……修羅です。小鬼です。よろしくお願いします」


〈知ってるw〉

〈よろしく〉


「それでですね。今日は、新しい武器があります」


 俺は両手を持ち上げた。


 右に一本。


 左にも一本。


 白く湾曲した、短い刃。


〈短剣?〉

〈買ったの?〉

〈それ、猪の牙じゃない?〉


「正解。昨日の猪からもらいました」


 棍棒は、もう長く使えそうになかった。


 そこで、配信前に牙を削ってみたのだ。


 平たい岩に何度もこすりつけて、形を整える。


 握る部分には細く切った猪の皮を巻き、外れないように結んだ。


 言葉にすると簡単。


 やってみると、これが長い。


「朝から、ずっと岩をこすってました」


〈配信してくれればよかったのに〉


「いや、昨日に続いて、何も起こらない画面になるかと思いまして……」


〈昨日は火が起きただろ〉


「うまいこと言わなくていいんですよ」


 右の短剣を、軽く振る。


 棍棒と比べると、随分軽い。


 先端はとがっているし、削った内側には刃もついた。


 ただ、左右で少し形が違う。


 右は長め。


 左は短く、曲がりが強い。


「手作りなので、その辺はご愛敬です」


〈装備として認識されてる?〉


「されてますね」


【右手:岩背猪の牙短剣】

【左手:岩背猪の牙短剣】


〈自分で作っても装備になるのか〉

〈ちゃんと名前つくんだ〉


「便利ですよね。あとは、使えるかどうかです」


 草の茎で試したときは、一応切れた。


 猪相手に通じるかは、これからだ。


     


 岩山の斜面を歩いていると、すぐに一匹見つかった。


 灰色の背中。


 石を押しのける鼻先。


 岩背猪だ。


 今日も元気に地面を掘っている。


「...いましたね」


〈やっぱでかいな〉

〈その短剣だと近づかないと届かなくない?〉


「そこが問題なんですよね」


 棍棒より短い。


 昨日と同じ距離で攻撃しても、刃が届かない。


 その分、小回りは利くはずだ。


 俺は周りを見た。


 少し先に、斜めに突き出した岩がある。


 横の隙間は、俺なら通れそうだ。


 地面を確認してから、猪へ近づいた。


 耳が動く。


 鼻先が上がる。


 目が合った。


「今日は、背中は殴りません」


 猪が鼻を鳴らした。


 地面を蹴る。


「っ!」


 横へ避ける。


 巨体が通り過ぎたところへ、右手を伸ばした。


 短剣の先が、脇腹をかすめる。


 浅い。


 しかも、刃の側面が皮膚を滑った。


「……あれ?」


 猪が踏ん張る。


 向き直る。


 俺は慌てて腕を引き、牙から離れた。


〈届いてない?〉

〈当たったけど浅そう〉


「……刃の向き、ずれましたね」


 棍棒なら、先が当たればそれなりに殴れる。


 短剣はそうもいかないらしい。


 切れる側をちゃんと当てないと、ただの硬い牙だ。


 猪が間合いを詰める。


 俺は岩の横へ下がった。


 牙が下から跳ねる。


 右へ逃げようとして、左手の短剣が自分の腕に触れた。


「うわっ、危ね!」


〈自分を切るなよ〉

〈二本だと難しいのか〉


「左手が、仕事しようとしすぎてます」


 持ったからには使わなきゃと思って、無駄に振っていた。


 それで右手まで邪魔している。


 ……まずは、一本でいい。


 左を体の近くに置く。


 右だけで攻撃する。


 猪が回り込んできた。


 俺は岩の隙間を抜け、反対側へ出る。


 巨体は通れない。


 けれど、顔は入ってきた。


 牙が岩を擦った。


「そこまでは届くんだよな……」


 さらに一歩離れる。


 猪が鼻先を引いたところで、俺も岩から離れた。


 広い側へ、少しだけ姿を見せる。


 それを追って、猪が走った。


 昨日より、動きが見える。


 俺の敏捷が上がったからか。


 それとも、一度戦って慣れたのか。


 どちらでもいい。


 牙を避け、踏み込む。


 今度は腕を大きく振らない。


 刃先を向けて、前脚の内側へ突き込んだ。


 手応え。


 猪が鳴いた。


「よしっ!」


 短剣を抜き、すぐに離れる。


 背後で頭が振られた。


 空を切る牙。


 間に合った。


〈入った!〉

〈今のは効いてる〉


「斬るより、突くほうがやりやすいですね」


 右手の握りを確かめる。


 皮を巻いておいてよかった。


 ただの牙を握っていたら、今ので滑っていたかもしれない。


 猪は傷めた脚を少し引き、体ごと向きを変えた。


 正面に、牙。


 横には、硬い背中。


 こっちの攻撃しやすい場所は、ちゃんと隠してくる。


「……そう簡単にはいかないか」


 俺は左右へ小さく動いた。


 猪の頭が、それを追う。


 右へ。


 左へ。


 踏み込むふりをすると、牙が上がった。


 まだ早い。


 俺は下がる。


 もう一度、近づく。


 今度は鼻先が少し動いただけ。


「見てるなぁ……」


 むやみに突っ込むと、刺される。


 かといって、待ちすぎれば俺のほうが疲れる。


 俺は岩を背にしない位置へ移動した。


 猪との間に、少し距離ができる。


 その瞬間、相手が地面を蹴った。


 来た。


 右へ避ける。


 俺を追って、頭が曲がる。


 そこで、もう半歩。


 巨体の横に沿うように動く。


 右手の短剣を、柔らかい腹の下へ。


 突く。


 抜く。


 猪が体をひねった。


 俺の右腕が戻りきらない。


 反対側から、左手が出た。


 短い牙の切っ先が、近づいてきた鼻先をかすめる。


 猪が顔を引いた。


 その一瞬で、距離が取れた。


「っ、は……!」


 危なかった。


 でも、今の左手は邪魔にならなかった。


 両方で同じことをしなくていい。


 右が攻撃している間、左は次に備える。


 俺は二本を構え直した。


 猪が、また前へ出る。


 持ち上がった頭をかわす。


 右で突く。


 抜いた刃を体の近くへ戻す。


 追ってくる動きに、左を合わせる。


 今度は刃がぶれなかった。


【戦闘行動が一定の習熟度に達しました】


【スキル〈短剣術 Lv.1〉を獲得しました】


「……お!」


〈今、何か出た?〉


「短剣術、覚えました」


〈戦いながら覚えるのか!〉

〈まだ戦闘中だぞ〉


「分かってます!」


 表示の向こうで、猪が動く。


 俺は短剣を握り直した。


 何となく、違う。


 さっきまで手首で無理に直していた刃の向きが、自然に収まる。


 腕を伸ばしたとき、どこへ先端が向くのかもつかみやすい。


 ただ、それだけだ。


 猪が止まって見えるわけでも、勝手に手が動くわけでもない。


「……なるほど。補助って、こういうことか」


 猪が突進する。


 俺は横へ抜けた。


 踏ん張った前脚。


 そこへ、右の短剣を入れる。


 今度は、狙ったところに通った。


 脚が崩れる。


 猪の肩が地面についた。


 俺はすぐに回り込んだ。


 頭から離れる。


 蹴る後脚にも近づかない。


 狙うのは、腹の前側。


 右で突いて、抜く。


 体が動くのを待ち、今度は左。


 一本ずつ。


 焦らず。


 硬い場所に当たりそうなら、無理に押し込まない。


 猪が起き上がろうとするたび、俺も位置を変えた。


 やがて、その動きが止まる。


【経験値を獲得しました】


【レベルが上がりました】


 俺は短剣を下ろした。


「……倒せた」


〈おお!〉

〈二刀流になってる〉

〈最後、かなり動きよくなかった?〉


「スキルのおかげもありますね。あと、二本いっぺんに振ろうとするの、やめました」


 両手を見る。


 右の短剣。


 左の短剣。


 刃先は、どちらも残っている。


 巻いた皮も、緩んでいない。


 俺は思わず、笑った。


「……使えましたね」


〈自作武器で初討伐〉

〈猪で作った武器で猪狩ってる〉

〈素材が次の装備になるの、いいな〉


「ですよね。これ、ちょっと楽しいです」


 昨日は、棍棒が折れないか心配しながら殴っていた。


 今日は、自分で作った武器で勝てた。


 しかも、新しいスキルまで手に入った。


 俺は装備欄を開く。


【右手:岩背猪の牙短剣】

【左手:岩背猪の牙短剣】


 その下に、増えた文字。


【〈短剣術 Lv.1〉】


「よし」


 まだ、家はない。


 防具も腰巻きだ。


 だけど、武器は少しよくなった。


 俺は二本の短剣を、配信用の視点へ向けて持ち上げた。


「小鬼、装備更新です」


〈なお服〉

〈次は服ですね〉


「……分かってますよ」


 視聴者数は、百人を超えていた。


【ステータス】


プレイヤー名:修羅

種族:小鬼〈こおに〉

種族Lv:10→13【UP!】


最大HP:121→137【UP!】

最大MP:25→28【UP!】

最大スタミナ:130→145【UP!】

筋力:24→27【UP!】

耐久:18→21【UP!】

敏捷:22→25【UP!】

魔力:5

器用:10


獲得経験値:+10%【装備】


※最大HP:基礎値125+装備補正12=137。補正の小数点以下は切り捨て。


【種族特性】


〈怪力の芽〉

体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。


〈健啖〉

食事によるスタミナ回復量が多い。


【スキル】


〈打撃 Lv.1〉

棍棒や拳による攻撃を補助する。


〈踏ん張り Lv.1〉

足を止めて構えると、押し倒されにくくなる。


〈短剣術 Lv.1〉【NEW!】

短剣を扱う際の刃の向きや動作を補助する。命中は使用者の操作に左右される。


【装備】


右手:岩背猪の牙短剣

左手:岩背猪の牙短剣

防具:ぼろ布の腰巻き

首飾り:始祖鬼の首飾り


【始祖鬼の首飾り】


・最大HP+10%

・獲得経験値+10%


≪封印効果≫

???

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