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6話 集落と装備

●主人公視点


 はい。武器ができたので、次は防具です。


 いつまでも腰巻き一枚というのも、どうかと思いますし。


 材料もある。


 岩背猪の皮。


 あれだけ殴っても平気だった背中なら、俺の腹くらい守ってくれるはずだ。


「……というわけで、作ってみました」


〈何を?〉

〈着てから言って〉


「着てます」


〈え?〉


 俺は両腕を広げようとした。


 途中で止まった。


 猪の皮を胸へ巻き、細く切った皮紐で縛っている。


 ここまではよかった。


 問題は、硬い部分が脇まで来ていることだ。


「……腕が上がりません」


〈駄目じゃん〉

〈強そうではある〉


「動かなければ、結構よさそうなんですけどね」


 試しに短剣を抜こうとする。


 右手が、腰に届かない。


 左手も、届かない。


 俺は空を見た。


「防御に専念する装備になりました」


〈敵を倒せないw〉


 結び目をほどこうとした。


 届かない。


「……あれ?」


〈まさか〉

〈脱げなくなった?〉


「少々お待ちください」


 体をひねる。


 皮がきしむ。


 腕を無理に引くと、首元へ端が食い込んだ。


「痛っ。ちょっと、これ……」


「お前、何してる?」


 知らない声がした。


 俺は動きを止めた。


 岩の上に、小鬼がいた。


 片手に短い槍。


 胸には革の防具。


 腰には道具袋。


 そして、足には靴。


 ……靴だ。


「そちらこそ、どなたですか?」


「狩りに来た。お前は?」


「防具を作ってました」


 小鬼が俺を見る。


 胸の皮を見る。


 もう一度、俺の顔を見る。


「それを?」


「はい」


 少し、間があった。


「脱げるか?」


「……今、そこを試してます」


〈助けてあげて〉

〈第一声で見抜かれてる〉


 小鬼は槍を岩へ立てかけ、下りてきた。


「動くなよ」


 腰から小刀を抜く。


 俺は少し身構えたが、小鬼が切ったのは背中の皮紐だった。


 胸を締めつけていた皮が緩む。


 腕が動く。


「おぉ……ありがとうございます」


「締めすぎだ。それに、そこは曲がらん」


 小鬼が、猪の背に当たる部分を指でたたく。


 硬い音がした。


「使うなら、小さく分けろ。脇には当てるな」


「なるほど……」


 俺は脱いだ皮を見た。


 強い素材なら、そのまま巻けばいいと思っていた。


 なかなか難しい。


 相手は俺の腰へ視線を落とした。


「その牙は?」


「あ、これは自分で削りました」


 短剣を一本抜き、刃を自分へ向けて柄を差し出す。


 小鬼は受け取り、削った面を眺めた。


 指で皮の巻き具合を確かめる。


「……使えるか?」


「さっき、猪を一匹」


 相手が、そばに置いた素材へ顔を向けた。


 それから、短剣を返してくる。


「なら、悪くない」


 お。


 ちょっと、うれしい。


「こっちの服は、駄目でした」


「見れば分かる」


〈容赦ない〉

〈武器は褒めてもらえたから……〉


 小鬼は俺の肩越しを見て、首をかしげた。


「さっきから、誰と話してる?」


「あぁ、俺の様子を見てる人たちです」


「見張りか?」


「……見張りではないです」


〈見守りです〉

〈だいたい合ってる〉


 小鬼は納得したのか、していないのか、短く鼻を鳴らした。


「服が欲しいなら、下へ来い。作れるやつがいる」


「下?」


「川沿いだ。俺たちの集落がある」


 俺は思わず顔を上げた。


 集落。


 住民がいて、職人がいる。


 もしかして、ちゃんとした暮らしができる場所か。


「……行ってもいいんですか?」


「その皮、持ってこい。ただでは作ってもらえんぞ」


「持っていきます!」


 即答した。


     


 初期地点の南にある、水場まで戻る。


 そこから先は、まだ歩いていなかった。


 川は森の間を縫うように、さらに南へ続いている。


 案内してくれる小鬼の名前は、ガドというらしい。


 俺が名乗ると、「妙な名前だな」と言われた。


 悪かったですね。気合い入れて決めたんですよ。


〈魔物側にも集落あるんだ〉

〈どこから行ける?〉


「最初の水場から、川に沿って南ですね。ただ、皆さんの開始地点から同じように来られるかは分からないです」


 ガドが歩く道は、獣道より少し広い。


 よく見ると、枝が払われている。


 ぬかるんだ場所には平たい石が置かれていた。


 誰かが使い続けている道だ。


「その皮、重くないか」


 前を歩くガドが振り返った。


「結構、重いです」


「引きずるなよ。傷む」


「……はい」


 持ち直す。


 道具袋が欲しい。


 背負えるやつ。


 欲しいものが、歩くたびに増えていく。


 木々の間から、細い煙が見えた。


 さらに進むと、丸太を並べた柵が現れる。


 その向こうに、屋根があった。


「……おぉ」


 小さな家。


 薪の山。


 何かを干している竿。


 中央では焚き火が燃え、鍋のそばに小鬼が座っていた。


 いた。


 普通に、暮らしている。


〈町だ!〉

〈畑ある〉

〈靴履いてる〉


「そこ、俺も気になりました」


 入口にいた小鬼が、ガドへ手を上げる。


「戻ったか。そいつは?」


「服を作るのが下手なやつだ」


「紹介、それですか?」


 門番らしき小鬼が、俺と抱えた皮を見た。


 笑った。


 ……否定できないので、俺も軽く頭を下げておく。


 ガドについて入ると、焚き火のそばにいた子供が俺を見た。


 小さな角。


 短い脚。


 俺とあまり変わらない背丈だ。


 その子は俺の腰巻きを見て、自分の上着を見下ろした。


 何も言わなかった。


 言わなかったけど。


「……早く服を作りましょう」


〈分かる〉

〈今のは効いた〉


     


 案内された工房には、革の匂いがこもっていた。


 壁に掛けられた道具。


 骨の針。


 細い紐。


 大きな台の前で、片角の欠けた小鬼が手を動かしていた。


「客だ」


 ガドが声をかける。


 職人は顔を上げ、俺の持っている皮を見た。


「広げろ」


 言われたとおり、台へ載せる。


 職人は皮の裏を確かめ、端を引っ張った。


「剥ぐのが下手だな」


「……初めてなので」


「穴もある」


「戦ったときのです」


「こっちは、切り損じだろ」


「はい……」


〈全部ばれる〉

〈頑張れ修羅〉


 職人は鼻を鳴らしたが、皮を返しはしなかった。


 使える場所を探すように、指を滑らせている。


「胴当てか?」


「それと、できれば靴を」


「足、出せ」


 俺は片足を上げた。


 職人が足の大きさを測り、肩と胸へも紐を当てる。


「作れる。残りの皮と牙をもらうぞ」


「全部ですか?」


「胴当てと靴だ。紐も裏地も、こっちで出す」


 台の上の素材を見る。


 自分では着ることさえできなかった皮。


 それが、ちゃんとした防具になる。


「……お願いします」


 職人はうなずき、道具へ手を伸ばした。


 俺は息を吐く。


 やっとだ。


 ようやく、腰巻き一枚から卒業できる。


「山で狩るなら、西の森へは気をつけろ」


 皮を切りながら、職人が言った。


「西?」


「糸を張る蜘蛛がいる。踏めば脚を取られる」


 俺は短剣へ目を落とした。


「牙で切れますか?」


「切れるものもある。だが、絡まってから試すな」


 手が止まる。


「……なるほど」


「木の間が妙に静かなら、上も見ろ」


〈上かぁ……〉

〈地面ばっかり見てたら危ないやつ〉


 俺は工房の窓から、森のほうを見た。


 新しい魔物。


 新しい素材。


 その先には、まだ見ていない場所もあるはずだ。


 行ってみたい。


 けど、まずは装備を整える。


 俺は台の向こうへ向き直った。


「あの、ついでに袋も作れたりします?」


 職人が手を止めた。


 俺の顔を見る。


 素材の残りを見る。


「足りん」


「……猪、もう一匹ですかね」


〈仕事ができた〉

〈家より先に通う店ができたな〉


 俺は笑って、うなずいた。


 次に狩る理由が、また一つ増えた。


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