10話 さらなる探検
●主人公視点
家に、椅子が増えました。
どうも、修羅です。
昨日、村の職人さんへ余っていた木材を持っていき、もう一脚作ってもらいました。
これで、お客さんが来ても俺が石に座らずに済みます。
素晴らしい。
なお、石は入口近くへ移動しました。
靴を履くとき、座るのに便利だったので。
〈石の就職先が決まった〉
〈長い付き合いになりそう〉
〈家具が増えて生活がよくなっていくの好き〉
「俺も、そう思います」
食卓の端で、最後の干し肉を包む。
収納鞄へ入れる物を、一つずつ確かめた。
水。
食料。
薬。
包帯。
縄。
火起こし道具。
替えの布。
前より、荷物は多い。
それでも、肩に掛かる重さは随分軽くなった。
運営からもらった鞄には、早速助けられている。
「……忘れ物、ないですね」
「こちらも、持っていってください」
リィナさんが、小さな包みを差し出した。
平たいパンに、焼いた肉と野菜を挟んだ物。
朝食のとき、台所で何か作っていると思ったら、これだったらしい。
「途中で食べやすいように、してみました」
「ありがとうございます。楽しみです」
受け取って、食料とは別の場所へしまう。
潰したくはない。
窓代わりに開けた換気口の近くで、イトが振り返った。
今日は、蜘蛛の姿。
脚の間に張った糸へ、乾かしている布を掛けていた。
「今日は、留守番をお願いします」
声をかけると、前脚が上がる。
今日は、一人で出かける。
西の山を、少し登ってみたかった。
◇
帰宅してから、何日か経った。
荷物を片づけ、寝床を整え、留守中の記録を確認した。
装備を着けて動いても、傷が痛むことはない。
羅刹腕の練習も、少しずつ続けている。
最初は、普通の手と一緒に動いてしまった。
今は、右手で器を持ち、魔力の腕で布を取るくらいならできる。
ただし、気を抜くと両方の手で同じ物を取りにいく。
まだまだだ。
そんな練習の合間に、何度か西の空を見ていた。
木々の向こうに見える、山の稜線。
黒牙山脈。
王国領と魔境ガルドを隔てる、大きな山々だ。
ヴァルグへ向かったときは東。
その後も、街の周囲や東側で戦うことが多かった。
西は、まだほとんど歩いていない。
ガドに聞くと、麓へ続く狩りの道はあるらしい。
ただし、山の中腹より先は、村の狩人たちも普段は近づかない。
『でかい獣がいる』
そう言われた。
『熊だ。岩を返して、下の物を食う。見たら下がれ』
俺は、その話を覚えていた。
今回の目的は、山越えではない。
麓から登れるところまで歩き、地形と魔物を確かめる。
戻る時間も決めた。
リィナさんへ、地図に経路を書いて渡してある。
「昼を過ぎて、道が分からなくなりそうなら戻ります」
「はい。気をつけて」
「無理そうな相手も、避けます」
言うと、リィナさんが少しだけこちらを見た。
俺は、頷き直す。
「……ちゃんと、見て判断します」
イトが近づいてきた。
前脚が、俺の籠手へ触れる。
白い糸が、一本。
金具の横へ、きれいに巻かれた。
「お守り、ですか?」
前脚が上がる。
俺は、その糸を指で撫でた。
「行ってきます」
◇
麓までは、見覚えのある森だった。
角兎の姿も見える。
前なら、あの一匹を追いかけていた。
今は、道を塞がなければ、そのままにする。
小さな体が草の向こうへ消えるのを見送って、俺は西へ歩いた。
地面の傾斜が、少しずつ急になる。
土には石が混じり、木の根が階段のように伸びていた。
湿った葉の匂い。
どこかで、水が流れている。
「……山ですね」
〈見れば分かる感想〉
〈今日は一人だから静かだな〉
〈頭の上にイトがいないとちょっと寂しい〉
「俺も、たまに確認しちゃいますね」
枝をくぐるとき、頭の上を気にしてしまう。
今は、角しかない。
その角を枝に引っかけないよう、少し頭を下げた。
木々の間から、空が見える。
振り返ると、森が広がっていた。
遠くに、川の一部。
さらに向こうには、小さな煙が立っている。
集落だろうか。
地図を開く。
概略図でしか知らなかった山裾に、自分の歩いた道が加わっていた。
「……登ると、結構見えますね」
少しだけ、立ち止まって眺めた。
それから、足元の石を確かめて進む。
景色がいいからといって、歩きやすいわけではなかった。
◇
最初に見つけた魔物は、山羊に似ていた。
灰色の毛。
後ろへ曲がった、太い角。
俺の肩くらいの高さの岩へ、軽々と飛び乗った。
【岩跳山羊 Lv.34】
【HP:610/610】
【岩場を移動する強い脚を持つ草食獣。
縄張りへ近づいた相手を、角による突き上げと体当たりで追い払う。】
「……俺より、登るのうまいですね」
〈そりゃ山羊だからな〉
〈人型が勝てる場所じゃない〉
こちらを見ている。
俺は、少し距離を取って回り込んだ。
山羊も、こちらに合わせて顔を向ける。
それ以上は、来なかった。
進む。
地面へ、小さな石が転がった。
音に反応して、別の岩陰から何かが走る。
細長い体。
灰色の鱗。
【鳴き石蜥蜴 Lv.29】
頭を持ち上げた。
喉が、膨らむ。
「……あ」
甲高い声が、山へ響いた。
すぐ近く。
少し遠く。
別の岩の隙間から、返事がした。
〈あいつ仲間呼ぶぞ〉
〈総合スレで見たやつだ〉
〈近くの岩、見ろ!〉
「聞こえましたね」
俺は斧を構えた。
右から一体。
前から、二体。
鳴いた一体が、岩を蹴って飛びかかってきた。
半歩、横へ。
斧を短く振る。
刃が、首元へ入った。
そのまま体を回し、次へ向く。
足元へ潜ろうとした蜥蜴を柄で止め、踏み込んだ一体を斬る。
最後の一体は、岩へ戻ろうとした。
追いかけず、距離を取って待つ。
やがて、隙間からまた頭が出た。
今度は、鳴く前に倒せた。
【経験値を獲得しました】
「……なるほど。あの声、覚えておいた方がいいですね」
〈ちゃんと情報が役立ってる〉
〈知ってても最初の一回は止められなかったな〉
「初めて聞く音だったので」
素材になる部位を取り、残りの処理をする。
収納鞄は、こういうときにありがたい。
まだ重さにも余裕がある。
ただ、今日は山の様子を見に来た。
鞄が埋まるまで狩るつもりはなかった。
斧を拭いて、先へ進んだ。
◇
木々の間隔が、広くなってきた。
太い木が、斜面へ根を張っている。
下草は少ない。
その代わり、倒木と岩が多かった。
時々、妙な跡がある。
地面の土が、大きくめくれている。
人が掘ったにしては、雑だ。
猪かと思ったけど、幅が違う。
「……これ、何か掘ってますね」
しゃがんで見る。
土には、大きなくぼみ。
その横へ、爪を引きずったような線が残っていた。
俺は、自分の手を並べた。
大きい。
かなり。
〈熊じゃない?〉
〈ガドが言ってたやつか〉
〈跡だけで嫌な大きさだな〉
立ち上がり、周囲を見る。
索敵。
鳥の声。
風。
水。
近くに、大きな足音はない。
でも、少し先の木へ目を向けて、俺は黙った。
幹に、傷があった。
縦に、何本も。
高い。
俺が腕を上げても、少し届かない辺りまで続いている。
「……背伸び、してます?」
〈してたとしてもでかい〉
〈ここまで届く爪があるってことだぞ〉
俺は、登ってきた道を確かめた。
下りるなら、あちら。
右には、浅い沢。
左は、木の間隔が狭い。
背後を確認してから、もう少しだけ斜面を進む。
その先で、音がした。
ごりっ。
硬い物が、擦れる音。
大きな石が、ゆっくり動いた。
石の向こうから、黒い腕が伸びていた。
◇
熊だった。
ただ、知っている熊より、ずっと大きい。
分厚い肩。
黒い毛。
前脚には、灰色の岩のような盛り上がりがある。
そいつは、大人の男が抱えても持ち上がらなさそうな石を、片腕で転がしていた。
下から、白い虫が何匹か出てくる。
熊が、鼻先を近づけた。
口を開く。
食べる。
俺は、木の陰で止まった。
「……でっか」
声が、小さくなった。
鑑定。
【黒嶺の岩鎧熊 Lv.58】
【HP:6,840/6,840】
【黒牙山脈東斜面の一帯を縄張りとする、岩鎧熊の成長個体。
長年にわたり魔力を蓄えた前脚と肩は硬い外殻に覆われ、爪による一撃は岩を砕く。
強い嗅覚を持ち、縄張りに侵入した大型の相手を執拗に排除する。】
【主な素材:爪、牙、岩鎧、毛皮、肉】
俺は、数字を見た。
六千八百四十。
もう一度、熊を見る。
食事が、終わっていた。
鼻先が上がる。
風を、嗅いでいる。
〈HP!?〉
〈主だろ、これ〉
〈名前ついてる!〉
〈岩鎧熊の成長個体って普通のやつじゃないぞ〉
〈修羅、一回引こう〉
「……引けますかね」
ゆっくり、足を下げた。
石を踏まないように。
枝を折らないように。
熊の顔が、こちらへ向いた。
黒い目。
じっと、見られる。
鼻が、一度動いた。
喉の奥で、低い音が鳴る。
胸へ響いた。
俺は斧を、両手で持った。
熊が、石の横を回る。
四つ足で歩くだけなのに、肩が高い。
木の幹が、一瞬、そいつを隠した。
次に見えたときには、走っていた。
「速っ!」
◇
横へ跳ぶ。
黒い塊が、すぐ横を通った。
風が、体を押す。
熊の肩が木へ当たり、乾いた音がした。
幹が揺れる。
葉が、一斉に落ちた。
俺は着地し、すぐに斧を振る。
後脚。
刃が毛皮へ入る。
浅い。
でも、手応えはあった。
熊が、振り返る。
前脚が、横から来た。
俺は斧を持ち上げた。
受ける、というより、間へ差し込む。
岩の外殻と、柄がぶつかった。
「ぐっ!」
体が、横へ持っていかれた。
足が地面を離れる。
肩から落ち、枯れ葉が顔へかかった。
息が詰まる。
目の端で、HPが減った。
起きる。
熊が、来ていた。
前脚が上がる。
俺は、地面を転がった。
すぐ横へ、爪が落ちる。
土が弾けた。
「……っ!」
立ち上がる。
後ろへ、二歩。
熊も、止まった。
鼻息が、白く見える。
俺は、痺れた指を握り直した。
「……強いですね」
〈今の一発でそんな減るのか〉
〈受け流しきれてない〉
〈正面で受けるな!〉
〈進化直後でもこれかよ〉
「俺も、今、よく分かりました」
左の肩が痛い。
腕は、動く。
斧も、折れていない。
ただ、もう一度まともに受けるのは嫌だった。
熊が、こちらを見ている。
俺の足元。
斧。
顔。
ゆっくり、左右へ動いた。
こちらも、合わせて向きを変える。
逃げ道を見た。
下り坂。
木の間。
でも、さっきの速さで追われたら、背中を向けて走るだけでは追いつかれる。
俺は、息を吐いた。
「……少し、お付き合いしてもらいましょうか」
◇
鬼装を使う。
斧へ、赤い光が宿る。
熊が、低く唸った。
踏み込んでくる。
今度は、すぐに跳ばない。
前脚が、動く。
右。
横薙ぎ。
俺は、体を低くした。
爪が頭の上を抜ける。
その腕の下へ、斧を振り上げた。
脇。
刃が入る。
熊が吠えた。
離れる。
すぐに。
体を引いたところへ、もう片方の前脚が落ちた。
土が跳ねる。
さっきまで俺がいた場所に、爪の跡。
「……二本、ありますよね」
〈それはそう〉
〈一発避けたら終わりじゃないぞ〉
〈足も口もある〉
熊の口が、開いた。
牙が見える。
次は、噛みつきだった。
俺は木の横へ回り、幹を挟む。
大きな頭が、追ってくる。
木が邪魔になり、一瞬だけ止まった。
その鼻先へ、斧の柄尻を突き出す。
当たった。
熊が、顔を振る。
俺は反対へ抜けた。
前脚が幹へ当たり、樹皮が裂けた。
「……木、ごめんなさい」
〈謝ってる場合かw〉
〈でも今の動きいい〉
〈熊、怒ってるぞ〉
怒っている。
ものすごく。
俺は熊の足元を見た。
厚い前脚。
その上の、岩みたいな外殻。
そこへ斧を当てても、さっきは弾かれた。
でも、脇には通った。
腹。
脚の内側。
首の下。
硬い所を、避ける。
それは今までと同じだ。
ただし、近づくと殴られる。
しかも、ものすごく痛い。
「……難しいな」
熊が、立ち上がった。
俺は、顔を上げた。
高い。
見上げるほど。
太い両腕が、開く。
影が、落ちた。
〈立った!〉
〈でっか!〉
〈下がれえええ!〉
俺は、後ろへ跳んだ。
両前脚が、地面へ叩きつけられる。
重い音。
土が沈む。
衝撃が足元を伝い、膝が揺れた。
転びかける。
踏み直す。
その間に、熊が顔を上げた。
もう、次へ来る。
「……俺の技みたいなの、使うんですね」
冗談を言っても、息は整わなかった。
◇
俺は、鬼力を発動した。
腕の紋様が、赤黒く浮かぶ。
脚へ力が戻る。
熊が踏み込む。
今度は、避けながら斧を振った。
肩の外殻へ、刃が当たる。
硬い。
でも、さっきより深く食い込んだ。
灰色の欠片が、飛ぶ。
熊が、吠えた。
「……割れる」
そう思った瞬間、前脚が返ってきた。
斧を抜こうとする。
少し、遅い。
「〈羅刹腕〉!」
背中から、赤い腕が伸びた。
迫る前脚へ、掌を当てる。
止めるつもりだった。
無理だった。
魔力の腕が押し込まれる。
指の輪郭が、揺れた。
それでも、爪の軌道が少しずれる。
俺は斧を引き抜き、体を捻った。
胸元へ、衝撃。
かすめた爪が、胴当てを削った。
俺は数歩下がり、木へ背中をぶつけた。
「……止めるのは、無理ですね」
〈腕、消えかけたぞ〉
〈今の熊パンチを片手で止めようとしたのか〉
〈MP一気に減った〉
表示を見る。
確かに、余分に持っていかれている。
羅刹腕は、魔法の盾ではない。
俺の体とは別に、何でも受け止めてくれる物でもない。
ガルゼンの言葉を思い出す。
見てからでは、遅い。
俺は、赤い手を一度閉じた。
使い方が、違った。
受け止めるために出すんじゃない。
相手が動く前に、置いておく。
◇
熊が、また近づいてきた。
俺は斧を、少し低く構えた。
左へ動く。
熊が、右の前脚を上げる。
その前に、魔力の左腕を伸ばした。
熊の腕の外側へ。
触れる。
掴まない。
掌を添えるだけ。
前脚が振られる。
俺は、その力に逆らわず、腕を外へ押した。
軌道が、わずかに変わる。
同時に、体を内側へ。
「〈踏み込み〉!」
斧を、脇へ叩き込む。
深い。
熊の声が、頭の上で響いた。
すぐに、抜く。
魔力の右腕で、近くの幹を押した。
体を横へ逃がす。
次の前脚が、空を切った。
「……よし!」
〈入った!〉
〈今の四本全部使った?〉
〈熊の腕ずらして、斧振って、木を押した〉
〈忙しすぎる〉
忙しい。
頭が、ものすごく忙しい。
でも、できた。
熊が振り返る。
俺は、息を吐きながら足を運んだ。
一度できたから、毎回できるとは限らない。
次は無理に近づかず、噛みつきを避ける。
その次は、前脚へ斧を当てて下がる。
魔力の腕を消す。
MPを残す。
熊のHPを確かめた。
【HP:5,112/6,840】
「……まだ、そんなにあるんですか」
〈削れてはいる〉
〈長期戦だな〉
〈焦るなよ〉
分かった。
焦っても、硬くなるだけだ。
俺は、斧を握り直した。
◇
少しずつ、熊の動きが変わってきた。
最初は、大きく腕を振っていた。
今は、短い。
俺が脇へ入ろうとすると、すぐに肘を下げる。
横へ回れば、尻を振って向き直る。
木を挟もうとしても、幹ごと押すように近づいてくる。
「……覚えてきてますね」
〈相手も学習してるのか〉
〈同じ避け方してると狩られるぞ〉
俺も、同じことばかりではいられない。
斧を振るふりをする。
熊が、前脚を寄せて守った。
そこで止め、脚の内側を狙う。
浅く、切る。
離れる。
熊が地面を掻いた。
その爪へ、石が巻き込まれる。
岩の欠片が、飛んできた。
「うおっ!」
肩へ当たる。
重い。
反射的に顔を庇った、その隙に黒い体が迫った。
間に合わない。
「〈踏ん張り〉!」
脚へ力を込める。
斧を斜めに差し込む。
熊の肩が、ぶつかった。
息が、飛んだ。
地面を滑る。
止まれない。
背中が岩へ当たり、視界が揺れた。
HPが、大きく減った。
熊の顔が近い。
口が開く。
俺は斧の柄を、上下の牙の間へ入れた。
がちん。
挟まれる。
両手で、押す。
「……っ!」
近すぎる。
鼻息が、顔へかかる。
前脚が、俺の横へついた。
逃げる場所が、狭い。
〈やばい〉
〈押さえ込まれる!〉
〈威圧!〉
俺は、熊の目を見た。
鬼王の威圧。
使う。
胸の奥へ、意識を向ける。
「〈鬼王の威圧〉!」
空気が、沈んだ。
熊の目が、揺れた。
一瞬。
顎の力が、緩む。
それだけだった。
でも、十分だ。
魔力の腕を出す。
片方で、熊の肩を押す。
もう片方を、岩へ。
俺は体を捻り、隙間へ滑り込んだ。
斧を引き抜く。
転がるように、横へ出る。
立ち上がる。
熊の爪が、岩を掻いた。
嫌な音がした。
「……はぁっ、は……!」
〈抜けた!〉
〈よかった!〉
〈威圧、一瞬しか止まらないのか〉
〈山の主だからな……〉
俺は、熊を見た。
相手も、こちらを見ている。
怯えて逃げる様子は、ない。
前脚が、土を踏みしめる。
低い声。
俺は、乾いた喉で唾を飲んだ。
「……そっちも、引く気ないですよね」
◇
距離ができた。
俺は鞄から薬を取り出し、口へ流し込む。
苦い。
ものすごく、苦い。
でも、脇腹の痛みが少し薄れた。
瓶をしまう。
空き瓶も、持ち帰る。
そこは、忘れない。
熊は、すぐには来なかった。
俺の横へ、回ろうとしている。
背後には、斜面。
その下に、倒木。
足元を見た。
砂利が、多い。
ここで下がり続けたら、足を取られる。
俺は、横へ動いた。
熊も動く。
黒い肩の外殻に、赤い筋が走っていた。
最初に斧を当てた場所。
欠けた岩鎧の下に、毛皮が見える。
俺は、そこへ目を置いた。
「……同じ所、ですね」
硬いなら、割る。
ただし、正面から何度も殴り合うのは無理だ。
振らせる。
避ける。
傷のある所へ、当てる。
俺は、斧の位置を変えた。
刃を、少し立てる。
鬼力の再使用が可能になっていた。
発動する。
赤黒い紋様が、腕へ浮かんだ。
熊が、吠える。
踏み込んでくる。
右前脚。
俺は、左へ。
避ける。
肩へ、斧。
硬い音。
外殻が、さらに割れた。
左前脚が返る。
低く潜る。
魔力の腕で、地面を押す。
横へ抜けた。
「……一回」
息を吐く。
熊が、向き直る。
今度は噛みつき。
俺は後ろではなく、斜めへ動く。
牙が空を切る。
肩が、近づく。
同じ場所へ、刃。
欠片が、落ちた。
「二回」
〈鎧、剥がれてきた〉
〈一点狙いか〉
〈当ててすぐ離れるの徹底してる〉
熊が、立ち上がった。
また、叩きつけ。
俺は、下がるふりをした。
両腕が上がる。
体が、前へ倒れる。
そこで、横へ踏み込んだ。
地面が鳴る。
足元が揺れる。
でも、熊の腕は、今、地面についている。
上から、狙える。
「三回目!」
両手で、斧を振り下ろした。
岩鎧が、割れた。
灰色の板が、毛皮から剥がれて落ちる。
その下へ、赤い刃が入った。
熊の声が、山へ響いた。
◇
熊が、暴れた。
前脚が、木へ当たる。
幹が折れ、斜面へ倒れた。
俺は、慌てて距離を取る。
枝が、地面へ広がる。
葉が舞う。
視界が、一瞬だけ塞がった。
その向こうで、黒い体が動いた。
右。
違う。
左から。
俺は、音のした方へ向く。
熊が、倒木を踏み越えていた。
片方の肩から、血が流れている。
でも、速い。
傷ついたせいで、動けなくなる相手ではなかった。
俺は斧を構えた。
正面から来る。
前脚。
避ける。
次。
柄で流す。
爪が籠手を削る。
火花。
指が痺れる。
噛みつき。
顔を引く。
牙の先が、頬をかすめた。
熱い。
血が、顎へ流れた。
「……忙しいですね!」
〈喋れるならまだいける!〉
〈いや無理して喋るなw〉
〈HP見て!〉
見る。
減っている。
まだ半分以上はある。
でも、熊も、まだ動く。
【HP:2,306/6,840】
あと、三分の一。
俺は、息を整えた。
斧へ通す魔力を、少し絞る。
羅刹腕は、消す。
必要なときだけ。
脚を止めない。
熊の肩。
割れた場所。
そこを、見続けた。
◇
次の突進で、俺は倒木の横へ回った。
熊が追う。
太い前脚が、幹を踏む。
乗り越える。
その瞬間だけ、体が斜めになった。
俺は、低く踏み込んだ。
脚を狙う。
後脚の内側へ、刃。
深くはない。
だが、熊の体が揺れた。
すぐに、肩へ回る。
前脚が来る。
魔力の腕を出す。
外側へ、掌。
流す。
今度は、無理に止めない。
爪が、顔の前を抜ける。
空いた肩へ、斧。
熊が、片膝をついた。
「……っ、今!」
もう一発、入れようとした。
その前に、黒い頭が跳ね上がった。
顎が、迫る。
俺は反射的に斧を引いた。
柄が、牙へ当たる。
重い衝撃。
手が、滑りかけた。
駄目だ。
欲張った。
俺は、足を引く。
熊が、立ち上がる。
その前脚が、倒木の枝へ引っかかった。
ほんの、一瞬。
俺は地面へ、斧を下ろした。
「〈鬼震〉!」
衝撃が、土を走る。
熊の足元が揺れた。
傷ついた後脚が、滑る。
巨体が、横へ傾いた。
倒れる。
地面が、鳴った。
〈倒れた!〉
〈いける!〉
〈起きる前に!〉
俺は、走った。
頭の正面へは、行かない。
振られる前脚の、外側。
肩の傷。
そこへ、斧を叩き込む。
一撃。
抜く。
熊が、暴れる。
岩の爪が、俺の脛をかすめた。
痛み。
足が、揺れる。
踏み直す。
もう一撃。
熊の首が、持ち上がる。
噛みつこうとしている。
俺は、魔力の腕を伸ばした。
片方で、地面を押す。
もう片方を、熊の頬の横へ。
押さえつけるのではなく、顔の向きをずらす。
ほんの少し。
牙が、俺の肩の横を通った。
その隙へ、斧を引き上げる。
鬼装の赤が、濃くなった。
「……これで!」
首と肩の、境目へ。
両手で、振り下ろした。
◇
熊が、動かなくなった。
俺は斧を引き抜き、すぐに下がった。
一歩。
二歩。
木へ、背中が触れる。
そのまま、待つ。
熊の脚が、少し動いた。
俺は、斧を握った。
もう一度、待つ。
やがて、その動きも止まった。
【黒嶺の岩鎧熊を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
表示を見た瞬間、息が抜けた。
「……倒した」
声が、思ったより小さかった。
斧を下ろす。
腕が重い。
肩も、脇腹も、脚も痛い。
でも、立っている。
俺は、その場へ座り込んだ。
枯れ葉が、尻の下で鳴った。
〈うおおおおお!〉
〈勝ったあああ!〉
〈討伐!〉
〈強すぎただろあの熊!〉
〈最後、四本の腕ちゃんと使ってたぞ!〉
〈お疲れ!〉
〈まず回復!〉
「……はい。まず、回復します」
鞄を開く。
水。
薬。
布。
手順を、一つずつ。
薬を飲む。
苦い。
今日も、しっかり苦い。
頬の血を拭く。
脚を確かめる。
脛当てには、深い擦り傷があった。
でも、割れてはいない。
「……直してもらっておいて、よかったですね」
〈防具、大事〉
〈職人に感謝しろ〉
〈ガルゼンにもな〉
「はい。本当に」
俺は、斧を見た。
赤い光は、もう消えている。
刃には、毛と土がついていた。
折れていない。
欠けも、小さい。
俺は柄を、軽く叩いた。
「……今回も、助かりました」
◇
レベルアップの表示が、残っていた。
戦っている間は、見ている余裕がなかった。
俺は、それを開く。
【種族レベルが上がりました】
【羅刹Lv:1 → 8【UP!】】
「……八」
少し、黙った。
指で、表示を確かめる。
八。
一から、八。
〈七つ!?〉
〈進化後のレベルだぞ!?〉
〈そりゃあの強さなら入るだろ〉
〈首飾りもあるしな〉
〈山の主、経験値も主だった〉
「……命懸けでしたけどね」
嬉しい。
嬉しいんだけど、もう一回同じ相手と戦えと言われたら、少し待ってほしい。
次の表示。
【〈羅刹腕〉のレベルが上がりました】
【Lv.1 → Lv.2】
【魔力腕の形成が安定しました】
【維持に必要な魔力が軽減されます】
俺は、自分の背中を少し意識した。
出してみる。
赤い腕が、左右へ伸びた。
さっきより、輪郭がはっきりしている。
指を、開く。
閉じる。
「……お」
普通の手は、動かなかった。
魔力の手だけが、ゆっくり握られる。
〈上達してる!〉
〈さっき無理やり実戦で使ってたもんな〉
〈今度こそ服破かずに着替えられる〉
「そこから、ですかね」
笑おうとして、脇腹が痛んだ。
俺は、息だけで笑った。
その後、腕を消す。
今は、休もう。
◇
しばらく座ってから、食事の包みを取り出した。
リィナさんが作ってくれたやつだ。
布を開く。
パン。
肉。
野菜。
少し、潰れていた。
でも、ちゃんと残っている。
「……いただきます」
かじる。
冷めている。
それでも、うまかった。
噛んで、飲み込む。
水を飲む。
木々の向こうで、鳥が鳴いた。
俺は、顔を上げた。
風が吹いている。
葉が揺れる。
さっきまで、熊の足音ばかり聞いていた。
今は、いろいろな音が聞こえる。
〈飯、食えてるなら安心〉
〈リィナさんの弁当だ〉
〈帰ったらちゃんと礼言えよ〉
「言いますよ。ものすごく、うまいです」
もう一口。
最後まで食べて、布を畳んだ。
立つ。
脚へ体重をかける。
少し痛む。
でも、歩ける。
熊を見る。
改めて近づくと、さらに大きかった。
俺が横に立つと、肩の厚みがよく分かる。
倒れているのに、高い。
「……これ、持って帰りたいですね」
〈出た〉
〈全部は無理だろ〉
〈収納鞄にも限界あるぞ〉
〈熊肉のこと考えてる?〉
「毛皮も、爪も、気になります」
俺は鑑定を使った。
爪。
外殻。
毛皮。
それぞれ、情報を確かめる。
毛皮は、斧を何度も入れた肩の周辺が傷んでいた。
でも、背中側は綺麗だ。
岩鎧も、割れた物と、残っている物がある。
問題は、俺一人で全部を綺麗に取れるかどうか。
無理だと思った。
さっきまで戦っていた腕で、巨大な熊を解体する。
しかも、毛皮を傷つけずに。
「……村の人、呼びます」
〈賢い〉
〈今日はそこで欲張るな〉
〈まず帰って、場所を伝えよう〉
地図へ、細かく印をつける。
登ってきた道。
沢。
爪痕のある木。
戦った場所。
途中で倒木が増えたことも、書いておいた。
回収に来る人が、困らないように。
ただ、死体をそのままにしておけば、別の獣が来るかもしれない。
俺は周囲を確かめ、血のついた場所から少し離れて、村との連絡用に借りていた合図の笛を取り出した。
ガドから、麓まで下りてから使えと言われている。
ここで吹いても、届かない。
熊の場所をもう一度確かめる。
それから、斧を持った。
「……帰りましょう」
◇
下りは、登りより足元に気を使った。
石が動く。
根が滑る。
疲れた脚は、思ったより上がらない。
俺は、何度も立ち止まった。
水を飲む。
息を整える。
地図を確かめる。
コメントも、少し落ち着いていた。
〈足元な〉
〈今の根、行きも越えたやつだ〉
〈焦らなくていいぞ〉
「はい。ゆっくり、戻ってます」
木々の向こうに、麓の森が見えてきた。
そこで、笛を吹く。
少し待つ。
もう一度。
やがて、遠くから短い返事がした。
俺は、ほっと息を吐いた。
しばらくして、茂みが動く。
槍。
見慣れた顔。
ガドだった。
俺を見る。
防具を見る。
頬の傷。
脚。
「……熊か」
俺は、少しだけ笑った。
「はい」
「逃げたか」
「倒しました」
ガドが、止まった。
その後ろにいた狩人も、止まる。
俺は、地図を出した。
「大きかったので、一人で持って帰れなくて。場所、ここです」
ガドは、地図を見なかった。
俺を見ていた。
「黒い毛か」
「はい」
「腕に、岩があるか」
「ありました。ものすごく硬かったです」
ガドが、ゆっくり息を吐いた。
後ろの狩人へ、何か短く言う。
その人が、集落の方へ走っていった。
「……何人か、呼んでくれるんですか?」
「ああ」
ガドが、俺の肩へ手を置いた。
「お前は、帰れ」
「案内は――」
「地図で分かる」
目が合う。
俺は、少し黙ってから頷いた。
「……お願いします」
ガドは、俺の斧を見た。
それから、山へ顔を向ける。
「主を、倒したか」
小さく、そう言った。
〈やっぱり主だった!〉
〈村でも知られてる熊か〉
〈ガドが驚いてるの珍しいな〉
俺は、後ろの山を見た。
高い木々。
その向こうの、岩の稜線。
今日、登れたのは、ほんの一部だ。
まだ、上がある。
あの熊より強いものが、いるのかもしれない。
少し、楽しみになった。
その直後、脚が痛んだ。
「……まずは、帰って休みます」
ガドが頷く。
「そうしろ」
◇
家の入口に、リィナさんがいた。
手には、小さな籠。
干していた布を取り込んでいたらしい。
俺に気づく。
顔が、上がる。
「お帰りなさ――」
途中で、止まった。
視線が、頬へ。
胴当てへ。
脚へ。
俺は、少しだけ背筋を伸ばした。
「……ただいま、です」
奥から、イトが出てくる。
蜘蛛の姿だった。
俺の足元まで来て、止まる。
前脚が、傷のついた脛当てへ触れた。
リィナさんが、籠を置く。
「座ってください」
「はい」
早かった。
俺も、素直だった。
入口の石へ座る。
靴を脱ぐ前に、リィナさんが水と布を持ってきた。
イトは、俺の横から離れない。
「熊に、会いまして」
「……はい」
「倒しました」
「それは、分かりましたので」
頬へ、濡れた布が当たる。
少し、しみた。
「まず、怪我を見せてください」
俺は、頷いた。
コメントが、また流れ始める。
〈帰宅!〉
〈おかえり〉
〈主討伐より先に傷の報告〉
〈それでいいんだよ〉
籠手を外す。
その金具の横に、白い糸が残っていた。
朝、イトが巻いてくれた物。
少し汚れていたけど、切れてはいない。
俺は、それを指で触った。
「……帰ってきましたよ」
イトが、顔を上げる。
前脚が、俺の手へ重なった。
リィナさんが、頬の傷へ薬を塗る。
俺は少し顔をしかめて、それから笑った。
「お昼のやつ、おいしかったです」
彼女の手が、少し止まった。
「……ちゃんと、食べました?」
「全部」
「それなら、よかったです」
今度は、少しだけ笑ってくれた。
山の主を倒した。
レベルも上がった。
新しい腕も、前より動くようになった。
でも、今日の残りの予定は、もう決めた。
椅子へ座って。
ご飯を食べて。
熊の毛皮がどれくらい大きいか、みんなで話そう。
次に山へ行くのは。
この傷が治ってからにする。
そう決めたところで、視界の端に通知が残っていることに気づいた。
レベルアップの表示は、もう見た。
羅刹腕も、確認した。
まだ、何かある。
「……あれ」
「動かないでくださいね」
リィナさんに言われ、顔を戻す。
頬へ、薬を塗った布が当てられた。
しみる。
俺は口を閉じたまま、通知を開いた。
【討伐実績を確認しました】
【地域の主〈黒嶺の岩鎧熊〉を単独で討伐しました】
【称号を獲得しました】
【〈山主を討つ者〉】
「……称号?」
思わず声が出た。
リィナさんの手が止まる。
「どうしました?」
「熊を倒したので、称号ももらえたみたいです」
俺は、続きを開く。
【山主を討つ者】
【地域の主として認定された魔物を、他者の戦闘支援を受けずに討伐した者へ贈られる称号】
【効果】
【筋力+5%】
【耐久+5%】
俺は、その二行を見た。
もう一度、見た。
「……ステータス、上がりますね」
〈えっ〉
〈効果付き!?〉
〈筋力と耐久5%!?〉
〈初代闘技王は効果なかったよな〉
〈これはでかい〉
コメントが、一気に増えた。
俺は説明を下まで読む。
称号は、持っているだけで効果が出るらしい。
人に見せる称号とは、別。
表示を切り替えなくても、補正は受けられる。
「大会の称号と、どっちか選ばなくていいんですね」
〈それはありがたい〉
〈称号集める意味が出てきたな〉
〈ただし山の主を一人で倒してください〉
〈急に難易度上げるのやめろ〉
俺も、そこは気になった。
単独討伐。
今日は一人だったから、条件を満たしたんだろう。
隣にいるイトを見る。
大きな白い体が、俺の脚へ寄り添っていた。
「……イトと一緒だったら、別の結果だったのかもしれませんね」
前脚が上がる。
俺は指を差し出した。
「次は、一緒に行きましょうか。今日の熊は、ちょっと大変でした」
〈ちょっと?〉
〈かなり大変だったぞ〉
〈次も主を探す気になってない?〉
「探すとは、言ってないですよ」
そこへ、頬の布が押し当てられた。
「っ、しみる……!」
「まだ、傷が開いていますから」
リィナさんが、静かに言う。
俺は、顔を動かさないようにした。
〈山主を討つ者、治療中〉
〈耐久5%増えてもしみるものはしみる〉
〈リィナさんの前では素直〉
「……治してもらってるので」
言い返すと、リィナさんが少し笑った。
◇
頬の手当てが終わり、次は脚だった。
脛当てを外す。
爪がかすめた場所には、赤い痕が残っていた。
リィナさんが傷を洗っている間に、俺はステータスの補正欄を確かめた。
【称号補正】
【筋力:基礎値×5%】
【耐久:基礎値×5%】
【端数切り捨て】
鬼力とは、基礎値から計算して加算される。
細かい説明まで書いてあった。
「……5%って、思ったよりありますね」
〈修羅、元の数字が大きいからな〉
〈今後さらに育つこと考えるとおいしい〉
〈俺も欲しいけど一人で主に挑むのは無理だわ〉
「無理は、しない方がいいです。本当に」
熊の前脚が迫った場面を思い出す。
あれを受け止めようとしたら、魔力の腕ごと押し込まれた。
普通の腕だけだったら、もっとひどいことになっていたと思う。
「俺も、次はもう少し調べてから行きます」
「お願いします」
すぐに返事が来た。
俺は、リィナさんを見る。
彼女は脚の傷へ薬を塗りながら、こちらを見上げた。
「強くなったのは、嬉しいです。でも、帰ってきてから痛そうにしていると、心配になります」
俺は、少し黙った。
足元で、イトの前脚が動く。
俺の籠手へ巻いた、白い糸に触れていた。
「……はい。気をつけます」
今度は、ちゃんと頷いた。
◇
手当てが終わり、家の中へ戻る。
斧を壁際へ置いて、防具を外す。
普段着へ着替えたところで、肩がようやく軽くなった。
椅子へ座る。
買っておいて、よかった。
リィナさんは鍋を火へかけ、イトは俺の隣で人の姿へ戻った。
着替えを手伝ってもらってから、椅子に座る。
俺の顔を見て、首を傾げた。
「くま」
「はい。熊です」
「つよい?」
「ものすごく」
両手を広げてみせる。
「俺より、ずっと大きかったです。腕も太くて、石をこう……ひっくり返してました」
イトが、自分の両手を見る。
真似して、持ち上げる動き。
「そう。それです」
すると、背中の魔力の腕まで出しそうになった。
慌てて止める。
今日はもう、練習しない。
〈熊の説明が身振り手振り〉
〈イト、ちゃんと聞いてる〉
〈そのうち再現するために机持ち上げそう〉
「机は、持ち上げなくていいですからね」
先に伝えると、イトが頷いた。
鍋から、いい匂いがしてきた。
俺は称号の表示を、もう一度だけ開く。
〈山主を討つ者〉。
少し、格好いい。
でも、その下には今日の戦いで減ったHPも見えていた。
勝ったからといって、何もなかったことにはならない。
俺は表示を閉じた。
「……今日は、たくさん食べて寝ます」
「はい。できましたよ」
リィナさんが、器を置く。
温かい湯気が、顔の前を上がっていく。
イトが匙を持った。
俺も、手を合わせる。
「いただきます」
称号で増えた力を試すのは、また今度。
今日は、この椅子から食卓まで手が届けば、それで十分だった。
【ステータス】
プレイヤー名:修羅
種族:羅刹
種族Lv:8
【称号】
〈初代闘技王〉
βテスター公式大会の初代優勝者。ステータス補正なし。
〈山主を討つ者〉【NEW!】
地域の主を単独で討伐した証。
**筋力+5%/耐久+5%**
※称号効果は、所持しているだけで有効。
【基本能力】
最大HP:1,875【装備補正込み】
最大MP:381
最大スタミナ:1,470
筋力:351+17【称号】=**368**
耐久:331+16【称号】=**347**
敏捷:341
魔力:174
器用:184
獲得経験値:+10%【装備】
※最大HP:基礎値1,705+装備補正170=1,875。
※称号・装備の割合補正は、端数切り捨て。
【種族特性】
〈怪力の芽〉
体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。
〈健啖〉
食事によるスタミナ回復量が多い。
【スキル】
| スキル | 効果 |
|---|---|
| 打撃 Lv.1 | 拳や武器の柄などによる打撃を補助 |
| 踏ん張り Lv.1 | 構えた状態で押し倒されにくくなる |
| 短剣術 Lv.2 | 短剣の攻撃と取り回しを補助 |
| 斧術 Lv.4【UP!】 | 斧の攻撃と取り回しを補助 |
| 索敵 Lv.4【UP!】 | 周囲の音や気配を察知しやすくなる |
| 鑑定 Lv.2 | 対象の能力、特徴、素材などを確認 |
| 鬼装 Lv.2 | 武器へ力をまとわせ、攻撃力と耐久性を高める |
| 受け流し Lv.2 | 攻撃の勢いを逃がす動作を補助 |
| 踏み込み Lv.3 | スタミナを消費し、一歩の速度と力を高める |
| 崩し Lv.1 | 接触した相手の姿勢を崩す動作を補助 |
| 灯火 Lv.1 | 手元を照らす小さな光球を生成 |
| 羅刹腕 Lv.2【UP!】 | 背中から一対の魔力腕を形成。形成が安定し、維持消費が軽減 |
※斧術と索敵は、蟻の迷宮で上がった分を反映。
【装備】
主武器:黒角の大戦斧
副武器:白糸大蜘蛛の牙短剣×2
胴:岩鱗の胴当て
腕:岩鱗の籠手
腰:岩鱗の腰当て
脚:岩鱗の脛当て
足:鬼用の革靴
首:始祖鬼の首飾り
鞄:旅人の収納鞄
※防具はヴァルグで補修・調整済み。今回の熊との戦闘で傷あり。
【黒角の大戦斧】
〈喰命〉
この斧による討伐時、最大HPの5%を回復。
**現在の回復量:HP93/体**
【始祖鬼の首飾り】
・最大HP+10%
・獲得経験値+10%
〈第一段階:鬼力〉
30秒間、基礎筋力と基礎耐久の50%分を加算。
消費MP10/効果終了から60秒後に再使用可能。
**称号込みの発動中能力**
筋力:351+17+175=**543**
耐久:331+16+165=**512**
〈第二段階:鬼震〉
地面を叩き、前方5メートルの扇状範囲へ衝撃を放つ。筋力に応じたダメージと姿勢を崩す効果。
消費MP25/再使用60秒。
〈第三段階:鬼王の威圧〉
周囲10メートルへ威圧を放つ。効果は実力差や精神抵抗によって変わる。
消費MP40/再使用180秒。
【所属・拠点】
冒険者ランク:D
登録組合:ヴァルグ冒険者組合
拠点:無名の常設型ダンジョン〈全三階層〉
従魔:イト〈白糸の織蜘蛛〉
同行者:リィナ〈魔人〉
※羅刹の成長値は今回、1Lvにつき「基礎HP+15、MP+3、スタミナ+10、筋力・耐久・敏捷+3、魔力・器用+2」で統一して計算。




