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6話 新スキルとイトの成長

●主人公視点


 ベッドって、すごいですね。


 どうも、修羅です。


 昨晩は、宿のベッドで寝ました。


 草を敷いた寝床とは違って、横になっても背中に何も刺さらない。寝返りを打っても、下の石が主張してこない。


 そして、枕。


 柔らかい。


 あれを作った人には、何か賞をあげた方がいいと思う。


〈朝から寝具の感想〉

〈おはよう〉

〈ちゃんと休めたようで何より〉


「おはようございます。今日は、依頼を受けてレベル上げに行こうと思います」


 宿の部屋で、装備を確かめる。


 胴当ての留め具。


 短剣の鞘。


 斧の柄。


 昨日ぶつけた脇腹は、もう痛まなかった。防具には擦れた跡が残っているけど、紐も金具も問題ない。


 最後に、窓際の椅子を見る。


「イト。行きますよ」


 椅子の背と壁の間に、小さな網ができていた。


 その真ん中で、イトが体を起こす。


 前脚を伸ばし、一本ずつ足場を確かめてから、俺の手へ下りてきた。


「……寝心地、よかった?」


 指先を、ちょんと触られる。


 分からない。


 でも、元気そうだ。


 手のひらに乗せたまま、従魔の表示を開く。


【従魔情報】


名前:イト

種族:糸吐き蜘蛛

Lv:12


【スキル】


〈糸吐き Lv.2〉

〈壁歩き Lv.1〉


 昨日の鎌脚鳥と砕顎獣との戦闘でも、経験値は入っていた。


 家で待っている蜘蛛たちも成長しているけど、一緒に外を歩くイトとは、経験することが違ってきているらしい。


「今日は、イトも強くなりましょうか」


 頭の上へ乗せる。


 小さな脚が、角の付け根へ収まった。


〈相棒育成回だ〉

〈イトの戦闘、結構頼りになるからな〉

〈まだ小さいのに仕事が的確〉


「無理はさせませんよ。危なかったら、俺の後ろです」


 そう言って、斧を持ち上げた。


     ◇


 組合は、朝から人が多かった。


 掲示板の前で相談している集団。


 荷物を数える人。


 受付で、何やら必死に説明している人。


 奥からは、肉の焼ける匂いもする。


 朝ご飯は宿で食べた。


 食べたけど、いい匂いは、いい匂いだ。


「……後にしましょう」


〈自分に言い聞かせた〉

〈まず仕事〉


 受付へ向かうと、リゼさんが顔を上げた。


「おはようございます、修羅さん」


「おはようございます。今日は討伐の依頼を探してまして」


「承知しました。昨晩は、よくお休みになれましたか?」


「はい。枕がすごかったです」


 リゼさんの耳が、少し動いた。


「……それは、何よりです」


 たぶん、思っていた答えと違ったんだろう。


 何枚かの依頼書を確かめ、そのうちの一枚を俺へ差し出した。


【旧東街道・盾持ち蜥蜴兵の討伐】


【依頼ランク:E】


【討伐目標:盾持ち蜥蜴兵、五体以上】


【出没地点:旧街道沿いの廃砦と、その周辺】


【討伐証明:対象の尾の先端】


【注意事項:武装した群れ。砦内部の個体数は未確認】


「盾持ち蜥蜴兵……」


「街の蜥蜴人とは異なる、魔物の一種です。古い建物に群れで棲みつき、街道へ出て荷物を奪うことがあります」


 リゼさんが、地図を広げた。


 ヴァルグの東門から延びる道。


 途中で、大きな街道から細い線が分かれている。


「現在使われている街道の、少し北側です。廃砦には、昔の街道を監視する役割がありました」


「今は、そこから襲いに出てくるんですね」


「はい。今回は街道沿いの個体を減らす依頼です。砦全体を制圧する必要はありません」


 そこは、はっきり念を押された。


「数が多い場合や、別の個体がいた場合は、戻って報告してください」


「分かりました」


「……昨日も、そのお返事を伺いましたね」


 俺は、少しだけ目を逸らした。


〈昨日の今日だからな〉

〈受付さんの記憶は新しい〉

〈今日はちゃんと偵察してからな〉


「今日は、逃げる人もいないので。無理せず行きます」


 依頼を受け、地図へ場所を取り込む。


 昨日もらったガルドの概略図には、この細い道までは載っていなかった。


 街の近くにも、まだ知らない場所がある。


 それを確かめながら、東門へ向かった。


     ◇


 廃砦は、緩い丘の上にあった。


 崩れた壁。


 屋根を失った見張り台。


 手前には、古い石畳が残っている。


 その横を、二体の魔物が歩いていた。


 二足歩行する、緑褐色の蜥蜴。


 背丈は俺と同じくらい。


 片手には剣。


 もう片方には、金属の板を打ちつけた丸盾を持っている。


 歩くたび、長い尾が地面を擦った。


「……本当に、盾持ってますね」


【鑑定】


【盾持ち蜥蜴兵 Lv.39】


【分類:魔物】


【HP:690/690】


【武器と盾を扱い、群れで行動する蜥蜴型の魔物。

 盾で攻撃を受け流し、体勢を立て直す前の相手を剣で狙う。

 脚と尾を使った踏ん張りが強い。】


【主な素材:皮、牙、尾】


〈普通に戦士だ〉

〈盾の構え、ちゃんとしてる〉

〈正面から殴るだけだと面倒そう〉


 俺は、崩れた石壁の陰へしゃがんだ。


 砦の中からも、時々、金属の触れ合う音が聞こえる。


 見えている二体だけではない。


 ただ、すぐ近くに大勢いる様子もなかった。


「まずは、外の二体ですね」


 イトを手へ下ろす。


 足元の石と、少し離れた木の根元を指した。


「追いかけられたら、ここまで下がります。糸、張っておいてもらえますか」


 イトが、石の上へ移った。


 俺は袋を壁の陰へ置き、斧を構える。


 小石を拾った。


 少し前へ、投げる。


 かつん。


 二体の顔が、同時にこちらを向いた。


 ……一体だけ来るとは、思ってませんでしたよ。


 本当です。


     ◇


 最初の一撃は、盾で受けられた。


 がんっ。


 斧の刃が、金属の補強へ当たる。


 手応えは重い。


 でも、蜥蜴兵は盾を傾け、その勢いを横へ逃がした。


 斧が流れる。


 その陰から、剣が伸びた。


「っ!」


 体を引く。


 剣先が、胴当ての前を擦った。


 もう一体が、右へ回り込む。


 俺はすぐに下がり、二体を正面へ戻した。


「……嫌な戦い方しますね」


〈人が相手みたいだ〉

〈今の連携、普通にうまい〉

〈一体目が守って二体目が横から来るのか〉


 蜥蜴兵が、盾を並べる。


 俺が横へ動けば、そちらへ向く。


 尾を地面へつけて、低く構えていた。


 なるほど。


 踏ん張りが強い、か。


 俺は、手前の盾へ短く斧を振った。


 金属が鳴る。


 蜥蜴兵が、腰を落とす。


 その横から、もう一体の剣。


 避ける。


 また、盾。


「……ちゃんと、順番に来るなぁ」


 殴って、相手が耐えて、その隙に刺される。


 同じことを繰り返していたら、俺だけ傷が増える。


 鬼力を使って、盾ごと叩き潰す。


 それも、できるかもしれない。


 でも。


 俺は、蜥蜴兵の足を見た。


 両脚と、尾。


 三か所で支えている。


 前から押されることには、強そうだった。


 ガルゼンの木の棒が、頭の中をよぎる。


 正面に、立ち続けるな。


「……そっか」


 俺は一歩、下がった。


 二体が追ってくる。


 石の間へ入る。


 先頭が盾を上げた。


 その後ろで、白い糸が揺れる。


 二体目の足が、一瞬止まった。


 イトだ。


「今!」


 先頭の盾へ、斧を振る。


 蜥蜴兵が、また傾けた。


 その盾の上縁へ、刃の下側を掛ける。


 引いた。


 蜥蜴兵が、踏ん張る。


 強い。


 盾は、動かない。


 なら。


 俺は、相手の盾側へ足を運んだ。


 正面ではなく、斜め。


 腰を捻り、斧を低く引く。


 盾が傾いた。


 蜥蜴兵の肩が、前へ出る。


 踏ん張っていた脚が、慌てて動いた。


 そこへ、俺の足を置く。


 押す。


 蜥蜴兵が、横へ崩れた。


「……開いた」


 斧を引き戻す。


 むき出しになった首の横へ、短く振った。


 一体目が倒れる。


【経験値を獲得しました】


 すぐに下がった。


 二体目が、糸を引きちぎってくる。


 剣が迫る。


 俺は斧の柄で弾き、横へ動いた。


 盾が、ついてくる。


 もう一度。


 盾の縁へ、刃を掛ける。


 今度は、最初から横へ引いた。


 蜥蜴兵の上半身が流れる。


【行動経験が一定値に達しました】


【〈崩し Lv.1〉を獲得しました】


 表示が現れた。


 でも、読むのは後。


 俺は開いた脇腹へ、斧を叩き込んだ。


     ◇


「……よし」


 二体目が動かなくなったのを確かめ、息を吐く。


 肩へ戻ってきたイトに、指を差し出した。


「助かりました。二体同時は、やっぱり面倒ですね」


〈新スキル!〉

〈崩し!?〉

〈今、盾を引っ張ってたやつか〉

〈防御ごと相手の姿勢を壊すのね〉

〈バルドさんに見せてはいけない〉

〈もう見てそう〉


 表示を開く。


【崩し Lv.1】


【武器や体を接触させた状態から力を加え、相手の姿勢を崩す動作を補助する。】


【使用時、スタミナを消費する。】


【相手の体格、姿勢、足場によって効果が変動する。】


「……なるほど」


 斧を見る。


 刃は、切るだけじゃない。


 引っかけることもできる。


 柄なら、押せる。


 相手がどこで踏ん張っているかを見れば、使い方は増えそうだった。


 ただ、何でも転ばせられるわけではない。


 さっきも、真っすぐ引いたときは動かなかった。


「これ、結構練習が要りますね」


〈覚えた瞬間に完璧にはならないか〉

〈でも修羅の力でやられると怖い〉

〈盾を持つ側の気持ちを考えてください〉


「俺も、盾で殴られたので」


 お互い様です。


     ◇


 その後は、砦の外を慎重に回った。


 裏手の崩れた壁から中を見て、数を確かめる。


 狭い通路。


 屋根のない中庭。


 奥には、まだ使えそうな建物もあった。


 見張りに出てくる個体を狙い、一体か二体ずつ相手にする。


 毎回、同じようにはいかなかった。


 盾へ斧を掛けたところで、剣を振られる。


 引こうとした瞬間、自分から盾を離される。


 横へ回りすぎて、石につまずきかける。


「……うまくいったやつだけ、真似しても駄目ですね」


〈今のは相手がうまかった〉

〈盾離す判断するのか〉

〈魔物も必死だからな〉


 イトも、毎回同じ場所に糸を張っているわけではなかった。


 足元へ低く渡したり。


 逃げ道の片側を塞いだり。


 壁の上から、盾の表面へ糸を吐いたり。


 最初は、盾へ張りついた糸を、どうするのか分からなかった。


 蜥蜴兵が盾を上げる。


 糸が、隣の壁との間で張った。


 盾が少しだけ、横へ引かれる。


「あ」


 俺は踏み込んだ。


 その隙に斧を振る。


 蜥蜴兵が倒れた。


 イトは、壁の上で前脚を持ち上げていた。


「……それ、自分で考えたの?」


 返事は、ない。


 でも、糸の付いた盾と俺を、交互に向いている。


〈イトも学習してる〉

〈今の、修羅の真似じゃない?〉

〈盾を引っ張って開かせた〉

〈かわいい顔して戦術が的確〉


 少し、嬉しくなった。


 俺が強くなるだけじゃない。


 イトも、見て、試している。


「いいですね。もう一回、やってみましょう」


     ◇


 依頼の五体は、既に倒していた。


 経験値も入り、何度かレベルアップの表示が出ている。


 休憩を挟み、外周を一通り確かめたところで、俺は袋を持ち上げた。


「今日は、ここまでに――」


 砦の中で、重い音がした。


 木の扉が、押し開けられる。


 奥の建物から、一体の蜥蜴兵が出てきた。


 大きい。


 他の個体より、頭一つ以上。


 手にしている盾も、丸盾ではなかった。


 体の半分以上を隠す、縦長の大盾。


 もう片方には、槍。


【大盾蜥蜴兵 Lv.49】


【分類:魔物】


【HP:1,260/1,260】


【大型の盾を扱う蜥蜴兵の上位個体。

 盾の下端を地面へ当て、尾で体を支えながら正面を防ぐ。

 槍の間合いへ入った相手を盾で押さえ込み、逃げ道を奪う。】


【主な素材:皮、牙、尾】


「……大きいの、いましたね」


〈上位個体きた〉

〈依頼終わってるぞ〉

〈帰ってもいいんだからな〉


 俺は、退路を見た。


 崩れた門まで、障害物は少ない。


 大盾蜥蜴兵の後ろにも、今のところ別の影はない。


 イトを見る。


 小さな体は、俺の肩でじっとしていた。


 脚に傷はない。


 MPも、まだ残っている。


「一回、試します。駄目なら、下がりましょう」


 袋を、もう一度置いた。


 大盾蜥蜴兵が、槍の石突きで地面を叩いた。


 こちらへ、歩いてくる。


     ◇


 盾へ斧を掛けた。


 引く。


 動かない。


「……でしょうね!」


 横から槍が伸びた。


 体を捻る。


 脇腹のすぐ横を、穂先が通る。


 俺は斧を外し、後ろへ跳んだ。


 大盾蜥蜴兵は、追いかけてこなかった。


 盾を、地面へ置く。


 尾を後ろへ伸ばす。


 低く、構える。


 正面には、盾。


 その横から、槍。


「……完成してるなぁ」


〈動かない要塞〉

〈それは引っ張っても無理だろ〉

〈地面に盾が刺さってるぞ〉


 そう。


 地面に、ついている。


 俺は、足元を見る。


 崩れた壁の破片。


 石畳。


 土の露出した場所。


 ずっと同じ姿勢で待たれたら、攻めにくい。


 なら、歩いてもらうしかない。


 俺は、わざと大きく右へ回った。


 盾が、向きを変える。


 槍が、ついてくる。


 もう少し、右へ。


 大盾蜥蜴兵が、盾を持ち上げた。


 一歩。


 その足が動く。


「イト!」


 壁の上から、白い糸が飛んだ。


 盾の上角へ張りつく。


 でも、蜥蜴兵は止まらない。


 腕を振り、糸を切ろうとする。


 イトが、もう一本吐いた。


 今度は、同じ盾から反対側の石へ。


 二本。


 糸が、違う方向へ張る。


 大盾蜥蜴兵の動きが、一瞬鈍った。


 俺は走った。


「〈鬼装〉!」


 槍が突き出される。


 斧の柄で、斜めに弾く。


 完全には流れない。


 穂先が籠手を擦り、火花が散った。


 それでも、入った。


 盾の、すぐ横へ。


「〈崩し〉!」


 刃を上縁へ掛ける。


 引く。


 蜥蜴兵が踏ん張る。


 まだ、重い。


 盾が、少ししか動かない。


 俺の足が滑りかけた。


 その瞬間。


 上から、さらに白い糸が重なった。


 盾の上角が、斜め下へ引かれる。


 イトが、壁の縁へ全ての脚を掛けていた。


 小さな体を低くし、糸を支えている。


 今だ。


「〈鬼力〉!」


 俺は、腰を捻った。


 斧を引く。


 糸も、張る。


 盾の端が、地面を擦った。


 大盾蜥蜴兵の肩が前へ出る。


 それを支えようと、脚が動いた。


 盾が、開いた。


「そこ!」


 斧を外す。


 むき出しになった脇へ、短く叩き込んだ。


 大盾蜥蜴兵が叫ぶ。


 槍の柄が、俺の肩を打った。


 痛い。


 でも、離れない。


 盾を戻される前に、もう一歩、横へ。


 斧を引き戻す。


 足を止めず、相手の背中側へ回った。


 長い尾が振られる。


 跳び越える。


 着地。


 蜥蜴兵が、慌てて振り返る。


 その重い盾が、今度は動きを遅らせていた。


「もう、一発!」


 赤い刃を、首の横へ振り下ろした。


     ◇


【経験値を獲得しました】


【種族レベルが上がりました】


 俺は、斧を下ろした。


 大盾蜥蜴兵の指が、槍から離れる。


 もう、動かない。


「……はぁ」


〈倒した!〉

〈今の連携すごい!〉

〈盾、二人で開けた!〉

〈イトがめちゃくちゃ頑張ってたぞ〉


「ですね。イト――」


 呼ぶ前に、表示が重なった。


【従魔〈イト〉のレベルが上がりました】


【糸の使用経験が一定値に達しました】


【〈糸吐き〉のレベルが上がりました】


【条件を満たしました】


【従魔〈イト〉が〈粘着糸 Lv.1〉を獲得しました】


 俺は、止まった。


「……新しいスキル?」


 壁の上を見る。


 イトは、張っていた糸から離れ、ゆっくりとこちらへ下りてきていた。


 手を差し出す。


 小さな脚が、手のひらへ乗る。


「イト。今、新しいの、覚えたみたいですよ」


〈おおおお!〉

〈イトもスキル獲得!〉

〈粘着糸!?〉

〈最後、盾にしっかり張りついてたやつか〉

〈成長回だあああ〉

〈修羅だけじゃなく相棒も強くなるのいいな〉

〈今ので覚えたの、納得しかない〉


 従魔の表示を開いた。


【従魔情報】


名前:イト

種族:糸吐き蜘蛛

Lv:12 → 16【UP!】


【スキル】


〈糸吐き Lv.2 → Lv.3【UP!】〉

〈壁歩き Lv.1〉

〈粘着糸 Lv.1【NEW!】〉


【粘着糸 Lv.1】


【MPを消費し、物に付着しやすい糸を生成する。】


【通常の糸より剥がれにくく、拘束や物の固定に利用できる。】


【付着面の状態や対象の力によっては、剥がれたり、糸そのものが切れたりする。】


 俺は、説明を読んだ。


 次に、手の上のイトを見る。


「……すごいじゃないですか」


 前脚が、上がる。


 俺は、指先でそっと触れた。


「最後のやつ、助かりました。俺だけだと、盾を戻されてたかもしれません」


〈褒められてる〉

〈イト、胸張ってるように見える〉

〈かわいい〉

〈戦えるマスコットから普通に相棒になってきた〉

〈普通にっていうか最初から相棒だろ〉

〈粘着糸、袋作りにも使えるんじゃない?〉

〈修羅の家具、固定できるぞ〉


「まずは、俺がくっつかないように気をつけます」


 イトが、糸を一本出した。


 俺の籠手へ、ぺたり。


 白い糸が、貼りつく。


 引っ張ってみる。


「……あ」


 剥がれない。


 もう少し、引く。


 イトの方が、手の上で滑りかけた。


「待って待って。分かりました。強いです」


〈早速やられてる〉

〈性能確認完了〉

〈新スキル最初の対象、修羅〉


 俺は慌てて糸を緩めた。


 イトが前脚で糸を扱い、少しずつ外していく。


 その間、配信のコメントはずっと笑っていた。


     ◇


 砦の奥へは、行かなかった。


 大盾蜥蜴兵が出てきた建物は、まだ暗い。


 何体残っているか、分からない。


 俺もイトも、随分動いた。


「今日は、ここまでです」


〈賛成〉

〈ちゃんと帰るところまでが依頼〉

〈受付さんに怒られずに済む〉


「……大きいのがいた報告は、しますけどね」


 証明部位を数える。


 外周で倒した盾持ち蜥蜴兵は、合計九体。


 大盾蜥蜴兵が、一体。


 持ち帰る素材を選び、使っていた盾や剣も確認した。


 ほとんどは、錆と刃こぼれがひどい。


 ただ、大盾の金属部分は、まだ何かに使えそうだった。


 全部は持てないので、場所を地図へ記録する。


 組合で相談しよう。


 最後に、自分の表示を開いた。


【種族Lv:35 → 40【UP!】】


【新規スキル】


〈崩し Lv.1【NEW!】〉


「……四十」


 五つ、上がった。


 戦い続けただけのことは、ある。


 肩へ戻ったイトを見た。


「そっちも、四つ上がりましたね」


 小さな前脚が、頬に触れる。


 俺は、少し笑った。


「次は、もっと上手くできますよ。たぶん」


〈二人とも強くなった〉

〈連携の伸びしろもあるな〉

〈次の大会、従魔あり部門ほしい〉


「それは……イトに怪我してほしくないので、考えます」


 袋を背負う。


 斧を持つ。


 来た道へ戻りながら、空を見る。


 まだ明るい。


 これなら、組合へ報告してからでも、ゆっくりご飯が食べられそうだった。


「今日は、イトに何か買ってあげましょうか」


〈ご褒美!〉

〈肉だな〉

〈肉屋行こう〉


「肉以外にも、何かあるんですかね。柔らかい寝床とか」


 肩の上で、イトが動いた。


 角の付け根へ登り、いつもの場所へ収まる。


 脚を折り、ぴたりと止まった。


 俺は、少しだけ歩く速度を落とした。


「……そこ、そんなに寝心地いいんですか」


 返事はなかった。


 ただ、頭の上の重みが、少しずつ力を抜いていく。


〈定位置〉

〈最高級、鬼の頭〉

〈枕を買う必要なかったな〉


「俺の枕は、買いますよ」


 できれば、宿のやつと同じくらい柔らかい物を。


 イトを起こさないように。


 俺は、なるべく静かな道を選んで歩いた。

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