41話 決勝トーナメント 決勝戦
●主人公視点
舞台へ続く扉の前で、俺は斧を握り直した。
右手。
左手。
どちらも、動く。
リュカとの試合で負った傷は消え、MPもスタミナも戻っていた。
それでも、握った手の奥には、鱗を割った感触が残っている。
扉の向こうで、歓声が膨らんだ。
『お待たせいたしました!』
ミナの声が響く。
『百二十八名から始まった大会も、ついに最後の一戦! 初代王者を決める、決勝戦です!』
金具が鳴った。
重い扉が、開いていく。
明るい光。
その向こうに、舞台。
俺は、一歩踏み出した。
◇
中央には、何もなかった。
平らな石床。
広い円形の舞台を、低い柱が囲んでいる。
その外側で、薄い青色の光が揺れていた。
客席を守る、防御障壁。
今までの試合でもあったはずなのに、今日は妙にはっきり見えた。
反対側から、レオンが歩いてくる。
片手剣。
金属の防具。
腰で揺れる、青い布。
昼に同じ卓で飯を食べた相手だ。
そのとき、決勝で会おうと言われた。
俺も、行きたいと思った。
今、本当に向かい合っている。
「……来ました」
声をかけると、レオンが笑った。
「ええ。待ってました」
『隠しクラス〈聖騎士〉の力を明かし、ここまで勝ち抜いたレオン選手!』
拍手が響く。
『対するは、第三封印を解放し、幼龍を破った修羅選手! 剣と斧、聖なる力と鬼の力! 最後に立つのは、どちらでしょうか!』
レオンが、剣を抜いた。
俺も、斧を下ろす。
刃先を、相手へ向ける。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そこから先は、少しも笑えなかった。
【決勝戦】
【レオン 対 修羅】
【試合開始】
◇
レオンが、来た。
速い。
予選でも、本戦でも、見ていた。
それでも、目の前では違った。
剣先が、顔へ伸びる。
俺は斧の柄を上げた。
触れる前に、剣が下がる。
脚。
「っ!」
右足を引く。
膝の横へ、鋭い痛み。
浅く切られた。
斧を短く振る。
レオンは、もう外にいた。
その剣が、俺の手元へ戻ってくる。
右手首。
俺は柄を引きつけ、刃の付け根で受けた。
金属が鳴る。
その音の途中で、レオンの足が動いた。
横。
俺の脇へ。
剣が、胴当てをかすめた。
「……近い!」
体を回す。
斧の柄を、胸へ突き出した。
レオンが下がる。
剣先は、まだ俺へ向いていた。
息を吐く。
開始から、まだ少ししか経っていない。
もう、三か所切られていた。
「……」
周りを見て、足を置き直す。
レオンの目が、俺の斧から脚へ動いた。
全部、見られている気がした。
◇
今度は、俺から振った。
右上から、斜めに。
レオンの肩へ。
彼は大きく逃げなかった。
半歩。
刃が、胸の前を通る。
そのすぐ後ろへ、剣。
俺の腕を狙っている。
「〈受け流し〉!」
柄を斜めに入れ、剣を外へ流した。
わずかに、レオンの右肩が開く。
そこへ、柄の先。
彼の左手が、上がった。
「〈聖盾〉」
白い面が現れた。
柄がぶつかり、光が揺れる。
俺はそのまま、押した。
レオンの靴が、床を擦る。
半歩、下がった。
その瞬間、右の剣が来た。
俺の脇腹。
押すのをやめ、腰を引く。
刃が、革の端を裂いた。
俺も斧を引き戻し、下から返す。
レオンが、白い盾を斜めに向けた。
斧の先が滑る。
その向こうで、彼の顔が少し歪んだ。
受ける腕へ、重さは伝わっていた。
俺は離れ、斧を戻す。
レオンも、一歩引いた。
「……重いですね」
「そっちは、速いです」
短く返す。
その間も、目は離さなかった。
◇
レオンの剣に、白い光が走った。
聖断。
セレネの火球を切った技だ。
俺は、柄を握る手へ力を込めた。
魔法を切れるなら、鬼装も削られるのだろうか。
確かめたい。
でも、正面から試すのは危ない。
レオンが、剣を肩へ寄せた。
遠い。
まだ、普通の剣では届かない。
その刃が、横へ振られた。
「〈聖閃〉」
白い光が、剣から離れた。
薄い弧。
それが、床のすぐ上を飛んでくる。
「――っ!」
斧を前へ出した。
広い側面。
衝撃が、両腕へ入った。
靴が、石を擦る。
光の端が肩を抜け、後ろへ飛んだ。
青い障壁が、光った。
高い音。
客席の前で、白い波紋が広がる。
近くの観客が、思わず身を引いた。
『飛ばしました! レオン選手、ここで遠距離の斬撃! 防御障壁にまで届いています!』
俺は、斧の陰から顔を出した。
「……剣、飛ぶんですか」
レオンが、構え直す。
「近づくと、危ないので」
「もう、十分近づいてましたよね……!」
返す間に、二発目。
俺は横へ走った。
白い弧が、すぐ脇を抜ける。
その後ろに、レオンがいた。
斬撃を追って、走ってきていた。
◇
顔へ、剣。
斧を上げる。
下へ。
脚。
俺は体を外した。
でも、脇腹へ刃が届く。
痛い。
その腕へ、柄を当てた。
剣が、少し外れた。
俺は前へ出る。
肩から、押す。
レオンの体が下がった。
そこへ、斧。
短く振る。
白い盾が現れた。
刃が、正面から当たる。
ひびが走った。
レオンが、盾を引いた。
受け止めきらず、斜めへ逃がす。
俺の斧が、少し外へ開いた。
その隙間へ、剣。
右腕に、熱い線。
指が、開きかけた。
「っ……!」
握り直す。
左手で柄を引き、反対の端を突き出した。
レオンの胸へ、当たった。
初めて、まともに。
息が漏れる。
俺は斧を戻し、追った。
レオンの剣が、下から来る。
受け流す。
そのまま、肩へ刃を入れた。
浅い。
でも、赤いものが散った。
レオンが離れる。
俺も、止まった。
追いすぎれば、また手元へ来る。
【HP:592/814】
視界の端を、確かめる。
もう、二百以上減っていた。
レオンも、胸と肩へ傷。
でも、剣は下がらない。
◇
このまま、長く続けたくない。
俺は息を吸った。
「〈鬼力〉」
首元が、熱くなる。
腕へ。
脚へ。
斧の重さが、変わる。
レオンの目が、わずかに細くなった。
剣を、体の前へ。
白い光が、濃くなる。
俺は、もう一つの力へ意識を向けた。
リュカを前に、解けた封印。
今度は、自分で使う。
「〈鬼王の威圧〉」
赤黒い波が、床を走った。
◇
●レオン視点
息が、止まった。
修羅の姿が、大きく見えた。
いや。
大きさは、変わっていない。
足元から広がったものが、胸へ届いた。
後ろへ下がりたい。
一度、距離を取りたい。
剣の切っ先が、わずかに揺れた。
修羅が、動く。
来る。
分かっている。
なのに、右足がすぐには前へ出なかった。
レオンは、奥歯を噛んだ。
左足を、床へ押しつける。
剣を、握る。
「……まだ」
左手へ、光を集めた。
〈聖盾〉!
出す位置は、顔の前ではない。
修羅の斧が来る、斜め上。
白い面が生まれた瞬間、赤い刃が落ちてきた。
◇
セレネは、レオンの左手を見ていた。
白い盾が現れる。
斧を受ける。
傾け、外へ流す。
消える。
その直後には、剣へ光が集まっている。
「……そんなに、切り替えられるんですね」
自分との試合でも、見た技だった。
でも、今は間隔が違う。
相手の斧が戻るまでの短い時間へ、盾と剣を差し込んでいる。
少し遅れれば、体へ刃が入る。
実際に、入っていた。
それでも、次の盾は間に合わせた。
セレネは、自分の杖へ目を落とした。
「私、あそこで手が止まると思います」
「僕は、脚も止まったよ」
リュカが答えた。
修羅の威圧を受けた瞬間を、思い出していた。
前へ出したかった脚が、下がった。
レオンも、確かに一度揺れた。
それなのに、あの剣士は立ったまま斧を受け、胸へ剣を返した。
リュカが、自分の膝を手でこする。
「……あれ、どうやって立ってたんだろう」
セレネも、答えを持っていなかった。
◇
●主人公視点
白い盾へ、斧が入った。
「〈鬼装〉!」
赤い光が、刃先まで走る。
盾に、ひび。
レオンの膝が、深く曲がった。
でも、倒れなかった。
目が、こちらを見ていた。
歯を食いしばっている。
左腕が震えていた。
俺は、さらに押した。
盾が、割れた。
白い欠片が散る。
その向こうへ、刃を通そうとした。
レオンの剣が、当たった。
側面。
斧の軌道が、わずかにずれる。
刃が、肩へ入った。
深い。
でも、首ではなかった。
レオンの剣が、俺の胸へ来た。
同時だった。
胴当ての隙間へ、鋭いものが入る。
「ぐっ!」
俺は、後ろへ引いた。
斧を抜く。
レオンも、剣を戻す。
互いの血が、床へ落ちた。
『耐えました! レオン選手、威圧を受けながら体勢を保っています!』
ミナの声が、大きくなる。
『聖盾を割られ、肩へ斧を受けました! それでも剣を返した! 両者、一歩も譲りません!』
俺は、胸へ力を入れた。
痛い。
息を吸うと、そこが引きつる。
でも、レオンも肩を傷めた。
右腕。
剣を持つ側だ。
今なら。
俺は、もう一度前へ出た。
◇
斧を振る。
レオンが、外へずれる。
その動きを追い、柄を返す。
剣が、横から当たる。
白い光と、赤い光が擦れた。
鬼装の膜が、一部はじける。
俺は、目を細めた。
聖断。
やっぱり、削られる。
でも、斧そのものは残っている。
刃の重さも。
腕の力も。
俺は両手で、押し込んだ。
レオンの剣が、下がる。
足が、半歩引かれる。
その胸へ、柄。
当たる直前、彼の左手が動いた。
小さな盾。
横向きに、柄を外す。
剣が、低く来た。
腿。
膝が、揺れる。
俺は踏み直し、斧を短く返した。
脇腹へ。
レオンの体が、横へ折れた。
それでも、目は逸れなかった。
◇
次の剣は、速かった。
「〈連撃〉」
右腕。
肩。
顔。
全部を、斧で追えない。
一つ、柄で外す。
二つ目は、籠手へ。
三つ目が、頬を切った。
俺は、下がらなかった。
近いところでは、短く振る。
ガルゼンに教わった。
バルド相手にも、やった。
斧を、肩へ引きつける。
そこから、落とす。
レオンが聖盾を出した。
盾が、砕ける。
その衝撃で、剣の先が下がった。
俺は、床を蹴る。
肩から、入った。
レオンが、後ろへ押される。
二歩。
そこで、足を残した。
白い剣が、俺の顔へ上がる。
俺は、首を引いた。
切っ先が鼻先を通る。
そのまま、光が剣から離れた。
至近距離の、聖閃。
◇
斧を、前へ寄せた。
間に合ったのは、顔と胸だけだった。
白い斬撃が、刃をたたく。
両腕が、持ち上がる。
光の端が、脇腹を切った。
俺の体が、後ろへ滑る。
靴が床を擦り、止まった。
背後で、障壁が鳴った。
鋭い音。
客席のすぐ前へ、白い波紋が広がっていた。
観客の顔が、光に照らされる。
悲鳴と歓声が、混ざった。
『障壁に直撃! 観客の皆さん、そのままお座りください! 防御は正常です!』
ミナが、早口で告げた。
俺は、顔を上げた。
レオンが、剣を持ち上げている。
右肩から、血が落ちていた。
もう、軽々とは上がらない。
でも、刃の光は消えない。
俺は、斧を握った。
【HP:247/814】
低い。
次の一発が、急所へ入れば終わる。
レオンの呼吸も、荒かった。
鬼力は、まだ少し残っている。
この間に、終わらせたい。
◇
●選手観戦席
白い斬撃と赤い衝撃が、舞台の中央でぶつかった。
客席の前に、青い障壁が浮かび上がる。
広がった波紋へ、砕けた石が次々に当たった。
ハルトが、反射的に顔をかばう。
音が収まってから、ゆっくり腕を下ろした。
「……ここ、客席だよね」
誰も、すぐには答えなかった。
舞台は、砂ぼこりに包まれていた。
その中から、金属のぶつかる音がする。
一度。
すぐに、もう一度。
ミリアが、手すりを握った。
「まだ、やってる」
薄れていく砂の向こうで、白い剣が走った。
修羅の腕へ入る。
血が散る。
その腕で、斧が戻ってきた。
レオンの肩へ。
白い盾が砕け、その欠片の中から、また剣が伸びる。
ミリアの口が、少し開いた。
「……どっちか、一回離れません?」
●主人公視点
俺が前へ出ると、レオンも動いた。
引かない。
剣を、腰の横へ。
白い光が、細く絞られた。
聖閃。
飛ばす斬撃。
その構えを見て、俺は斧を持ち上げた。
盾にするためではない。
足元へ、向ける。
レオンの目が、そこへ落ちた。
互いに、もう分かっていた。
止める。
ここで。
「〈鬼震〉!」
「〈聖閃〉!」
斧が、床へ落ちた。
剣が、前へ振られる。
赤い衝撃と、白い弧がぶつかった。
◇
音が、腹へ響いた。
砕けた石が、宙へ浮く。
赤と白の光が、中央で押し合った。
次の瞬間、横へはじけた。
舞台の縁へ、光が走る。
防御障壁が、広く輝いた。
青い面が、客席の前へ浮かび上がる。
いくつもの波紋。
床から飛んだ石片が、その手前で止まった。
観客が、身を引いた。
誰かの杯が落ちる。
その音さえ、衝突の残響に飲まれた。
『ぶ、ぶつかったーっ!』
ミナの声が、裏返る。
『鬼震と聖閃、正面衝突! 余波が、客席の防御障壁にまで達しています! 両選手は――!』
砂ぼこりが、舞台を覆った。
俺は、その中で足を踏み出していた。
◇
向こうにも、人影。
レオンも、来ていた。
剣が見える。
白い光は、さっきより薄い。
俺の斧も、赤い膜が揺れていた。
鬼装を、握った手から押し直す。
レオンの剣が、下から上がる。
手元。
俺の右手を狙っている。
柄を引いた。
剣が、指の前を抜ける。
そのまま、肩へ斧を返す。
レオンが体を外した。
刃が上着を裂く。
浅い。
彼の剣は、もう戻っていた。
脇腹へ。
俺は左肘を寄せた。
刃が、籠手の下へ入る。
腕が、熱くなった。
左手の力が、抜けかける。
俺は、右手を刃へ近づけた。
短く。
まだ、振れる。
◇
斧を、横へ。
レオンが下がる。
刃先が、胸を切った。
彼の足が、一瞬止まる。
俺は追った。
そこで、剣が来た。
待たれていた。
伸びた右腕。
そこへ、白い切っ先。
「っ!」
俺は斧の柄を立てた。
「〈受け流し〉!」
触れる。
横へ。
剣が、少しだけそれた。
腕の外側を切る。
痛い。
でも、指は残った。
レオンの肩が、近くにある。
俺は、柄の先を突き出した。
胸へ。
彼の体が、後ろへ揺れる。
その左手に、光が集まった。
聖盾。
もう一度。
俺は、斧を戻した。
「……今度こそ!」
振る。
◇
小さな白い盾へ、赤い刃が当たった。
光が、へこむ。
レオンの左腕が、曲がった。
盾は、まだ残る。
俺は、前へ出た。
右足。
床を踏む。
斧を押しつけたまま、左手で柄を引いた。
刃の角度が、変わる。
白い面が、割れた。
レオンの剣が、俺の腹へ向かった。
見えた。
でも、離れなかった。
右の腰を引く。
切っ先が、防具の端へ入る。
痛みが、腹を横切った。
その間に、俺の斧が届いた。
肩から、胸へ。
重い刃が、斜めに通る。
レオンの足が、下がった。
剣を戻そうとする。
俺も、斧を引く。
先に動いたのは、レオンだった。
短い突き。
俺は顔をずらし、柄で剣を押した。
頬が切れる。
切っ先が、耳の横を抜けた。
俺は、両手を握り直した。
もう、大きく振る力は残っていなかった。
肩から、短く。
最後の一撃を、押し込んだ。
◇
刃が、入った。
レオンの右手が、動きを止めた。
剣の先が、下がる。
俺は、まだ構えを戻そうとしていた。
でも、その前に光が上がった。
レオンの体を、包んでいく。
彼が、俺を見た。
何か言おうとしたように、口が動いた。
その姿が、光へ変わる。
【レオン選手、戦闘不能】
文字が、浮かんだ。
俺は、足を止めた。
【勝者:修羅】
その下に、もう一つ。
【第一回アビス闘技大会】
【優勝:修羅】
◇
静かだった。
いや。
会場は、うるさかったのかもしれない。
俺には、しばらく聞こえなかった。
斧を、下ろす。
柄が、床へ当たる。
その音で、ようやく息を吐いた。
【HP:61/814】
喰命の回復が、入っていた。
その数字を見た瞬間、脚から力が抜けた。
膝をつく。
次に、尻。
座り込んだ。
「……勝った?」
声が、かすれた。
その向こうから、ミナの声が届いた。
『決着! 決着ですーっ!』
歓声が、ようやく耳へ戻った。
『聖騎士レオン選手との激戦を制したのは、鬼の修羅選手! 第一回アビス闘技大会、初代王者が決まりましたーっ!』
立っている人が、たくさんいた。
手を上げる人。
名前を呼ぶ人。
俺は、その景色を見上げていた。
斧を、まだ握っている。
指が、離れない。
「……終わったんですね」
誰に言うでもなく、つぶやいた。
◇
回復の光が、体を包んだ。
腹の痛みが引く。
腕も、動くようになる。
それでも、すぐには立たなかった。
目の前の床へ、影が差す。
レオンだった。
元どおりの防具。
腰には、剣。
彼は俺を見ると、少し笑った。
「……本当に、重かったです」
俺も笑おうとして、息が漏れた。
「そっちは……最後まで、速かったです」
レオンの手が、差し出された。
俺は斧から片手を離し、その手を握る。
引いてもらい、立ち上がった。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
握った手へ、少し力が入った。
昼に握手したときと、同じ手。
でも、今は知っている。
この手から、どれだけ速い剣が来るのか。
白い盾が、どれだけ重い斧を受けるのか。
レオンが、俺の首元を見た。
「威圧、効きました」
「……倒れませんでしたね」
「下がったら、終わると思ったので」
短い返事だった。
俺は、うなずいた。
あのとき、剣が返ってきた。
今でも、その瞬間を覚えている。
「次は、もう少しうまく受けます」
レオンが言った。
俺は、その顔を見た。
次。
バルドも、リュカも、ロックも、そう言った。
終わったばかりなのに。
もう、次がある。
「……俺も、もう少し切られないようにします」
レオンが、声を出して笑った。
俺も、ようやくちゃんと笑えた。
◇
客席へ顔を向ける。
ロックが、両手を上げていた。
その横で、ヴァイスが高く吠えた。
リュカも立っている。
バルドが、盾を片手で持ち上げていた。
みんな、こっちを見ている。
俺は斧を左手で支え、右手を上げた。
歓声が、また大きくなった。
頭の上が、少し寂しかった。
いつもなら、そこに小さな重みがある。
「……イト」
小さく、呼んだ。
今は、拠点にいる。
俺が帰るのを、いつもどおり待っているはずだ。
俺は、優勝と書かれた表示をもう一度見た。
伝えることが、できた。
「いい報告、できますね」
そう言うと、配信のコメントが、また一気に流れた。
●バルド視点
バルドは、大盾を自分の前へ置いていた。
試合は終わっている。
ここへ攻撃が届くこともない。
それでも、さっき障壁が光ったとき、自然と持ち上げてしまった。
隣のロックも、盾を膝へ引き寄せている。
二人は一度、互いの盾を見た。
何も言わず、舞台へ顔を戻した。
修羅の斧が、レオンを押す。
レオンの剣が、鬼の脇腹へ入る。
修羅は下がらない。
レオンも、剣を引いた後に離れない。
「……あの剣士、斧の前へ残るのか」
バルドがつぶやいた。
ロックは、レオンの足を見ていた。
「外した先に、次の斧が来るから……中へ入ってるんだと思います」
「分かる」
バルドの眉が寄った。
「分かるが、俺なら盾を置きたい」
舞台で、レオンの聖盾が割れた。
その向こうから、剣が返る。
ロックの石の指が、盾の縁を強く握った。
「……あの人、俺にはあんな戦い方しませんでした」
バルドは、返事をしなかった。




