42話 優勝と家へ
●主人公視点
レオンと握手を終えたところで、係員の人が駆け寄ってきた。
「修羅選手、このまま表彰式へご案内します!」
「……あ、はい」
終わった。
勝った。
その二つを、ようやく頭が受け入れ始めたところだった。
今度は、表彰式。
俺は斧を持ち直し、案内された場所へ歩く。
〈優勝おめでとう!〉
〈初代王者!〉
〈まだ実感なさそうw〉
〈今から表彰式だぞ、顔上げろ!〉
「……上げてますよ」
返しながら、姿勢を正す。
舞台の中央へ、低い台がせり上がってきた。
その前に、ミナさん。
近くで見ると、声を広げる球を握った手が少し震えていた。
「すごい試合でしたね……!」
「ありがとうございます」
「私、最後、何を言ったかちょっと覚えてないです!」
「……俺も、何回振ったか覚えてないです」
ミナさんが笑う。
その向こうで、レオンも小さく肩を揺らしていた。
◇
表彰台へ上がる。
一番高い場所。
足元の段差は、大した高さではない。
でも、そこから見る客席は、さっきまでと少し違った。
みんな、こちらを見ている。
手を振る人。
拍手する人。
大きく口を開けて、何か叫んでいる人。
俺は、斧を立てて軽く頭を下げた。
歓声が、また大きくなった。
『第一回アビス闘技大会!』
ミナさんの声が響く。
『優勝は、修羅選手です! おめでとうございます!』
頭上に、金色の文字が広がった。
【第一回アビス闘技大会】
【優勝:修羅】
その下へ、見慣れた通知。
【称号〈初代闘技王〉を獲得しました】
「……闘技王」
〈かっけえ!〉
〈初代! 初代だぞ!〉
〈これ後から絶対取れないやつ〉
〈小鬼の腰巻きから王になった〉
〈腰巻きは現役です〉
俺は、視線を少し下げた。
防具の下に、ちゃんと履いている。
そこは今、言わなくてもいいと思う。
『この称号は、第一回大会の優勝者にのみ贈られます! 能力への補正はありませんが、その名は大会の記録とともに残ります!』
表示の端へ、称号を設定する項目が出た。
少し迷ってから、選ぶ。
【初代闘技王 修羅】
自分の名前が、変わった。
いや、名前は変わっていないんですけど。
前に、すごいものがついている。
「……ちょっと、照れますね」
〈外すなよw〉
〈堂々とつけてけ!〉
〈実績だからな〉
〈ちゃんと勝って取ったんだぞ〉
俺は、表示をもう一度見た。
勝って、取った。
レオンも、ガルゼンも、似たことを言っていた。
俺は小さくうなずき、そのまま閉じた。
◇
次に渡されたのは、旗だった。
黒い地に、金色の大会紋章。
その下へ、俺の名前が入っている。
【第一回アビス闘技大会・優勝旗】
受け取って広げると、思ったより大きかった。
腕を伸ばさないと、端まで見えない。
「……おぉ」
〈家に飾ろう!〉
〈入口だな〉
〈ダンジョンに初代王者の旗〉
〈初見の冒険者、帰るだろw〉
〈門番の猪より先に旗で止まる〉
「普通に、飾るだけですよ」
〈普通に飾っても意味が重い〉
〈中に斧持った王者いるんだぞ〉
〈受付にイト置こう〉
「イトは、受付できないです」
〈かわいい担当〉
〈仕事はもうある〉
旗を畳んでいると、ミナさんがそばへ来た。
『修羅選手! 優勝賞品は、まだございます!』
俺は顔を上げる。
まだ、ある。
称号と旗だけでも、十分うれしかったんですが。
◇
【優勝賞金を受け取りました】
所持金の数字が増えた。
俺は、その欄を二度見した。
宿代や食事代なら、しばらく困らなさそうな額だった。
「……ありがたいですね」
〈急に実感こもったw〉
〈生活費〉
〈王者、まず家計を見る〉
〈武器買う?〉
〈塩買え、塩!〉
「塩、いいですね」
〈即答すなw〉
〈ちゃんと調味料買えるぞ!〉
〈もう全部素焼きじゃなくていい!〉
「素焼きも、うまいんですけどね」
ただ、毎日となると、やっぱり違う味も欲しい。
集落へ行ったら、何が買えるか聞いてみよう。
そう考えたところで、最後の通知が出た。
【拠点設備交換券×1を獲得しました】
【交換可能な設備から、一式を選択できます】
目の前へ、いくつもの項目が並ぶ。
鍛冶設備。
調理設備。
大型家具。
保管設備。
「……一式?」
俺は、説明を開いた。
◇
『こちらは、所有拠点へ設置できる設備の交換券です!』
ミナさんが、横から画面を示す。
『設備は運営からの記念仕様ですが、使用には通常どおり材料や燃料、作業の知識が必要です! どれを選ぶかは、優勝者のお好みで!』
なるほど。
鍛冶設備を選べば、勝手に名剣が出てくるわけではない。
それでも、炉に金床、道具までまとめてそろうらしい。
俺は、その項目を見た。
〈鍛冶場!〉
〈武器作ろうぜ!〉
〈ロック呼べるぞ!〉
〈専属鍛冶師つけよう〉
〈まだ勝手に就職させるなw〉
「ロックさんに、使ってもらうのは楽しそうですね」
客席へ目を向ける。
小さな石の手が、勢いよく上がった。
聞こえていたらしい。
俺は、少し笑った。
次へ送る。
大型家具。
机。
椅子。
寝台。
棚。
「……椅子も、いいな」
〈石から卒業!〉
〈背もたれ!〉
〈鬼用の耐荷重確認しろ〉
〈座って壊したら伝説になる〉
「壊しませんよ。……たぶん」
椅子に、そんなに自信のない返事をする日が来るとは思わなかった。
さらに、次。
調理設備。
俺の指が、止まった。
◇
【調理設備一式】
【かまど/作業台/鍋/焼き網/調理器具/食器類】
【設置時、拠点構造に応じた排煙設備を付属】
鍋。
大きいのと、小さいの。
ふたも、ある。
包丁。
まな板。
皿。
深い器まで、並んでいた。
「……これ、いいですね」
〈待て〉
〈今、止まったぞ〉
〈鍛冶場だろ!?〉
〈王者、鍋に目を奪われる〉
俺は説明を、もう一度読む。
煮る。
焼く。
切る。
置く場所も、ある。
「汁物、作れますね」
〈そりゃ鍋だからなw〉
〈一番の感想それか〉
〈でも分かる。毎日肉だけだったし〉
〈あの火起こしから、ついに台所か……〉
「雨の日も、中で飯作れますよね。煙、外へ出せるなら」
ミナさんが、画面を確かめる。
『はい! 設置場所の条件を満たせば、可能です!』
俺は、うなずいた。
かなり、いい。
〈決まりそう〉
〈目が真剣〉
〈レオン戦より長く考えてない?〉
〈あっちは考える暇なかっただろ〉
鍛冶場も欲しい。
椅子も欲しい。
でも、武器は直してくれる職人がいる。
椅子は、今のところ石で何とかなっている。
食事は、毎日だ。
俺は、決定へ指を伸ばした。
「調理設備にします」
◇
一拍、静かになった。
それから、会場のあちこちで笑い声と拍手が起きた。
『修羅選手、調理設備一式を選択です!』
ミナさんが、楽しそうに声を張る。
『決め手は、どのあたりでしょうか!』
「……鍋、欲しかったんですよね」
笑い声が、大きくなった。
〈鍋www〉
〈初代闘技王、鍋を獲得〉
〈龍倒して剣士倒して、最後に鍋〉
〈次回、煮込み配信〉
〈絶対見る〉
〈塩も買えるし最強じゃん〉
〈本日の成果:称号、旗、金、台所〉
「いや、結構大事ですよ。食事」
〈知ってるw〉
〈健啖持ちだもんな〉
〈俺らも見たいから正解〉
選択が確定する。
【調理設備一式・設置権を獲得しました】
その文字を見て、顔が緩んだ。
帰ったら、場所を決めよう。
水を運びやすいところ。
寝床からは、少し離して。
イトの糸へ火が近づかないようにも、しないといけない。
もう、やることが浮かんでいた。
◇
『それでは最後に、優勝者から一言お願いします!』
声を広げる球が、こちらへ差し出された。
俺は、固まった。
一言。
何を。
客席を見る。
レオンがいる。
リュカも、バルドも。
ロックとヴァイスが、こちらを見ていた。
俺は球を受け取り、一度息を吸った。
「……修羅です」
〈知ってる〉
〈自己紹介からw〉
〈いいぞ、いつもどおりだ〉
コメントが流れる。
少し、落ち着いた。
「今日、戦った皆さん、ありがとうございました。見てくれた皆さんも、ありがとうございます」
声が、会場へ広がる。
自分の声なのに、少し違って聞こえた。
「どの試合も、結構必死で。まだ、勝った実感はあんまりないんですけど……」
手元の優勝旗を見る。
自分の名前。
初代闘技王。
今日は、確かに取れた。
「正式リリースしてからも、探索と狩り、続けていこうと思います。また、見に来てもらえたらうれしいです」
客席から、声が返った。
「見るぞ!」
「料理もなー!」
俺は、笑ってしまった。
「……はい。料理も、練習します」
〈そっちも宣言したw〉
〈まず煮込みから〉
〈肉は薄く切れよ!〉
〈ガルゼンの教えを忘れるな〉
俺は、もう一度頭を下げた。
「ありがとうございました!」
拍手が、一斉に大きくなった。
◇
表彰台を下りると、ロックが待っていた。
「調理設備、いいですね」
「……鍛冶場じゃなくて、すみません」
「いえ。炉は、もう少し自分で作れるようになってから借ります」
借りる予定は、残っているらしい。
その横で、ヴァイスが鼻を上げた。
「鍋なら、肉も柔らかくなるか」
「煮れば、たぶん」
「なら、いい」
すぐに納得された。
バルドも、近くから声をかける。
「できたら、食わせろ」
「……ちゃんと作れたら、ぜひ」
レオンが笑い、リュカがうなずいた。
「僕も。人型で行くから、入口は普通でいいよ」
「俺に合わせて広げたので、そこは大丈夫です」
〈王者の祝勝会、台所完成待ち〉
〈もう全員呼ぼう〉
〈イト、客いっぱい来るぞ〉
〈修羅、嬉しそうだな〉
俺は、受け取った旗を持ち直した。
拠点へ帰ったら、飾る。
台所を作る。
それから、イトへ報告する。
「……帰るのも、楽しみですね」
今日は、持って帰りたいものがたくさんあった。
●主人公視点
会場を出る前に、みんなと連絡先を交換した。
ロックとは、装備の相談。
ヴァイスとは、狩り。
レオンは「また戦いましょう」と言い、リュカは「次は首飾りが光ったら離れる」と言った。
俺も、次までに強くなっておこう。
そんなことを考えながら、帰還の表示へ触れた。
【元の拠点へ移動しますか?】
「……はい」
足元へ、光が広がる。
大きな会場。
たくさんの屋台。
まだ聞こえていた歓声が、少しずつ遠ざかっていった。
◇
目を開けると、ダンジョンの入口にいた。
夕方の風が、草を揺らしている。
奥からは、猪が地面を掻く音。
会場に比べると、驚くほど静かだった。
「……帰ってきました」
〈おかえり!〉
〈家だ〉
〈イト呼ぼう〉
〈報告の時間!〉
俺は斧を壁へ立てかけた。
背負い紐を外し、肩を回す。
朝はあんなに気になった装備の重さが、今は妙に落ち着いた。
「イト。ただいま」
入口の奥へ、声をかける。
少し待った。
天井で、細い糸が揺れた。
白い腹。
黒い前脚。
イトが、糸にぶら下がって下りてきた。
「いましたね」
手を差し出す。
指先へ前脚が触れた。
それから、もう一本。
いつもどおり、手のひらへ移ってくる。
〈いたああ!〉
〈ただいまイト!〉
〈留守番お疲れ!〉
俺は、イトを乗せた手を少し持ち上げた。
「……勝ってきましたよ」
言ってみる。
イトは、俺の親指へ脚をかけた。
「大会。最後まで残って、優勝しました」
小さな体が、手首へ進む。
腕を登り、肩へ。
そこでも止まらず、頭の上へ向かった。
角の根元に、脚が触れる。
いつもの場所で、動きが止まった。
「……はい。そうですね。そこでしたね」
〈いつもどおりw〉
〈王者になっても乗り心地は同じ〉
〈帰宅確認完了〉
〈その席、一日空いてたもんな〉
配信用の視点を動かす。
黒い角の間に、白い蜘蛛。
朝、行くときには乗せていけなかった。
今は、ちゃんといる。
俺は角へ触れないよう、そっと指を近づけた。
イトの前脚が、指先へかかる。
「留守番、ありがとうございました」
しばらく、そのままでいた。
◇
優勝旗は、入口の内側へ飾ることにした。
雨に当たらず、帰ってきたときに見える場所。
広げてみると、思っていたより目立つ。
黒い布。
金色の紋章。
その下に、修羅。
「……すごいですね、これ」
〈お前のだぞ〉
〈ちゃんと名前入ってる〉
〈家が一気に強そうになった〉
少し離れて、眺める。
朝まで、ここには何もなかった。
今は、大会の優勝旗がある。
俺は、首の後ろをかいた。
実感がないと言い続けていたけれど。
こうして自分の家へ持って帰ると、少し違った。
「……本当に、勝ったんですね」
頭の上で、イトが脚を動かした。
旗に興味があるのか、少し体を前へ寄せている。
「それ、糸は張らないでくださいね」
〈早めのお願いw〉
〈固定してくれるかもしれない〉
「それなら、助かりますけど」
俺は笑って、旗の下端を整えた。
調理設備は、明日。
場所をちゃんと決めてからにしよう。
その前に、行きたいところがあった。
◇
集落へ向かう道は、いつもと同じだった。
川の音。
踏み慣れた土。
枝の下を通るとき、少しだけ頭をかがめる。
イトがいるので、いつもより慎重に。
柵の向こうから、夕飯の匂いがした。
煮炊きする煙が、細く上がっている。
入口の小鬼が、俺を見つけた。
「戻ったか」
「はい」
「腕試しは、どうした」
聞かれて、足が止まる。
ここへ来る間、何て言おうか少し考えていた。
でも、聞かれてしまえば、簡単だった。
「……勝ちました」
門番が、俺を見る。
「勝った?」
「はい。最後まで」
少し、間があった。
門番が後ろを振り返る。
「おい! ガド! 帰ってきたぞ!」
「いや、そんな大声じゃなくても――」
間に合わなかった。
焚き火のそばにいた小鬼たちが、こちらを見る。
家の陰から、子供も顔を出した。
その間を、ガドが歩いてくる。
片手に、削りかけの木。
「どうだった」
俺は、改めて向き直った。
「優勝しました」
ガドの足が、止まった。
◇
「……全部、勝ったのか」
「はい」
「一人で?」
「最後のほうは、一人ずつでした。予選は、狼の人と一緒に戦ったところもありますけど」
ガドは俺の顔を見た。
肩。
腕。
脚。
それから、斧へ。
「怪我は」
「試合が終わったら、治してもらえる場所だったので」
「今は、ないんだな」
「はい」
そこで、ようやくガドが息を吐いた。
手に持っていた木を、近くの台へ置く。
「そうか」
短い返事。
それから、俺の肩を一度たたいた。
「よく勝ったな」
思っていたより、重い手だった。
俺は、少しだけ顔を伏せた。
「……はい」
〈ガド……!〉
〈一番聞きたかった言葉かもしれん〉
〈ちゃんと帰ってきたぞ〉
顔を上げると、小鬼の子供がそばまで来ていた。
「強いやつ、いた?」
「いましたよ。いっぱい」
「お前より?」
「……戦う前は、そう思いました」
子供が首を傾げる。
俺も、少し笑った。
「龍も、いました」
周りが、静かになった。
ガドの手が、肩から離れる。
「……龍?」
「はい。大きいのが」
俺が手で高さを示そうとすると、ガドが眉を寄せた。
「何をしに行ったんだ、お前」
〈ごもっともw〉
〈大会です〉
〈説明すると余計おかしくなる〉
「……腕試しです」
「龍と?」
「そうなりました」
ガドは、しばらく俺を見ていた。
やがて片手で額を押さえた。
◇
工房の職人も、出てきた。
俺の周りに集まった顔ぶれを見て、ガドへ何か聞く。
「勝ったんだと」
ガドが言う。
職人は、俺へ視線を向けた。
「そうか」
「はい。防具、助かりました。ありがとうございました」
頭を下げる。
職人は返事の代わりに、胴当ての端を引いた。
留め紐。
脇の革。
肩の鱗。
順番に確かめる。
「傷がないな」
「終わったら、装備も元に戻るんです」
「便利な場所だな」
「すごく」
俺は、うなずいた。
職人の目が、斧へ移る。
「どこを打った」
……そこは、聞かれるんですね。
「剣と、盾と、鱗です」
「盾」
「はい」
「どのくらい打った」
「……結構」
職人が、無言で手を出した。
俺は素直に、斧を渡した。
〈検査始まった〉
〈王者でも避けられない〉
〈先生、盾へこませました〉
刃の角度を確かめ、柄の付け根を揺らす。
職人は鼻を鳴らした。
「戻るからといって、雑に使うなよ」
「……はい」
横で、ガドが少し笑っていた。
◇
気づけば、焚き火のそばへ座らされていた。
手には、深い器。
温かい汁物が入っている。
「勝ったなら、食え」
鍋のそばの小鬼に言われ、俺は器を受け取った。
「ありがとうございます」
湯気の向こうに、みんなの顔がある。
誰と戦ったのか。
どんな武器だったのか。
子供たちに聞かれ、俺は一つずつ話した。
白い狼。
風を使うエルフ。
大きな盾のドワーフ。
人の姿から、龍になる人。
剣で、魔法を切る聖騎士。
ガドは途中から、腕を組んで聞いていた。
「……そいつの剣、切れるのか」
「火の玉、真っ二つでした」
「お前は、どうした」
「斧で受けて、近づいて……最後は、何とか」
職人が、隣で小さく息を吐く。
「何とかで済ませるな」
「……説明、難しいんですよ」
器へ口をつける。
温かい。
肉も、根菜も柔らかかった。
会場の屋台もうまかった。
でも、これも好きだ。
俺は一口飲んでから、顔を上げた。
「賞品で、台所をもらいました」
ガドが、こちらを見る。
「台所?」
「鍋とか、かまどとか、一式。今度、拠点で飯を作れるようになるので」
「火は、外へ出せよ」
「煙を逃がすところも、つくみたいです」
「なら、いい」
納得が早かった。
「ちゃんと作れたら、食べに来てください」
言うと、そばの子供が手を上げた。
「肉!」
「……肉、ですね」
〈祝勝会第二会場、決定〉
〈まず料理練習だな〉
〈優勝して仕事が増えたw〉
俺は笑って、もう一口、汁を飲んだ。
◇
拠点へ戻るころには、空が暗くなっていた。
ガドは集落の入口まで送ってくれた。
帰り際に、明日は少し休めと言われた。
今日は、素直にうなずいた。
入口へ着く。
優勝旗が、奥の灯りを受けていた。
俺は斧をいつもの場所へ置き、防具を外す。
頭の上へ手を差し出すと、イトがゆっくり下りてきた。
「今日は、長かったですね」
手のひらへ収まった体を、寝床のそばへ下ろす。
イトは少し歩き、俺の足元で止まった。
配信の表示を開く。
まだ、たくさんの人が見てくれていた。
〈お疲れさま!〉
〈いい一日だった〉
〈初代王者、おやすみ〉
〈イトもお疲れ!〉
〈正式リリースでもよろしく!〉
「……こちらこそ」
俺は、入口の旗を見た。
レオンの剣。
リュカの翼。
バルドの盾。
ロックとヴァイスの声。
思い返すと、まだ少し胸が熱くなる。
「今日は、ありがとうございました。皆さんが見てくれて、うれしかったです」
頭を下げる。
「また、次の配信で。……次は、台所作るところかもしれませんけど」
〈絶対見る〉
〈鍋配信待ってる〉
〈肉は薄くな!〉
俺は笑って、配信を閉じた。
入口の外から、虫の声が聞こえる。
足元で、イトが動いた。
指へ触れた小さな脚を見て、俺はもう一度だけ言った。
「ただいま」
今日の冒険は、ここで終わりだ。




