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40話 決勝トーナメント 準決勝第二試合

●主人公視点


 舞台へ出ると、熱い風が頬へ当たった。


 向かい側に、龍がいた。


 赤銅色の鱗。


 床をつかむ、大きな爪。


 翼は畳まれている。それでも、俺よりずっと広い場所を使っていた。


 近くで見ると、また違う。


 客席からは見えていた背中が、下からではよく見えない。


 代わりに、顎の下と、前脚の筋肉が目についた。


「……でかいですね」


 思わず、口に出る。


 長い首が下がった。


「今さら?」


 聞き慣れた声だった。


 それが少し、ありがたかった。


 あの牙の奥にいるのは、さっきまで控え室で話していたリュカだ。


 怖い。


 でも、戦いたいと思った相手でもある。


 俺は、両手で斧を構えた。


『準決勝、第二試合!』


 ミナの声が響く。


『大戦斧で大盾を押し切った修羅選手と、龍の体で弩を圧倒したリュカ選手! 決勝へ進む最後の一名が、この戦いで決まります!』


 リュカの前脚が、少し外へ開いた。


 俺も、足を置き直す。


【試合開始】


     ◇


 リュカが、先に動いた。


 前脚。


 爪が、横から来る。


 俺は後ろへ下がった。


 目の前を、赤銅色の鱗が通る。


 すぐに踏み込もうとして、止まった。


 尾。


 床の近くを、長いものが走ってくる。


「っ!」


 斧を体へ寄せ、跳んだ。


 靴の下を、尾が抜ける。


 着地。


 その先に、もう顔があった。


 口が開く。


 牙が、迫った。


 俺は斧の柄を斜めに差し入れ、横へ転がった。


 硬い音がして、柄が手の中で跳ねた。


 立つ。


 顔を上げる。


 リュカは、もう首を引いていた。


〈速い!〉

〈爪の後、尻尾来たぞ〉

〈近づく暇ないな〉


「……見るところ、多いですね」


 息を吐く。


 俺が避けたところへ、次が来る。


 リュカも、ちゃんと考えてきている。


     ◇


 今度は、俺から出た。


 顔を見る。


 前脚を見る。


 リュカの右側へ、斜めに走る。


 爪が持ち上がった。


 その外へ、一歩。


「〈踏み込み〉!」


 前脚の付け根へ、斧を振った。


 刃が、鱗へ入る。


 硬い。


 でも、割れた。


 赤いものが散る。


 リュカの脚が引かれた。


「……通る!」


 俺は斧を抜いた。


 その瞬間、翼が下りた。


 視界を、大きな膜がふさぐ。


 押される。


 体が横へ流れた。


 踏み直した脚へ、尾。


 今度は、避けきれなかった。


 脇腹へ、重い衝撃。


「ぐっ……!」


 床を転がる。


 斧だけは離さず、膝をついた。


【HP:638/814】


 俺は、口の中の土を吐いた。


 リュカも、傷ついた脚を一度動かしていた。


 血が落ちる。


 でも、立っている。


 さっきの一撃で、動けなくなる相手ではなかった。


     ◇


●リュカ視点


 入った。


 僕は、自分の前脚へ目を落としかけて、やめた。


 斧は、鱗を割った。


 分かっていたつもりだった。


 盾がへこんだ映像を、何度も見た。


 それでも、自分の脚へ刃が入ると、思っていた以上に嫌な感触が残った。


 修羅が、立ち上がる。


 脇腹を打ったはずなのに、もう斧を構えていた。


 やっぱり、止まらない。


 僕は、首を下げた。


 近くで殴り合わない。


 同じ場所へ、二度入れさせない。


 翼を畳み、前脚を引く。


 修羅が追った。


 その足元へ、顔を向ける。


 炎なら、どうだ。


     ◇


●主人公視点


 喉が、赤くなった。


 俺は走る方向を変えた。


 リュカの顔が追う。


 まだ、口は開かない。


 引きつけている。


 俺が近づくところを、待っていた。


 なら、もう少し外へ。


 右足で床を蹴る。


 炎が、放たれた。


 熱い。


 頬が、腕が、熱い。


 俺は斧の側面を顔の前へ寄せ、炎の端を抜けた。


 背中へ、熱がまとわりつく。


 止まらない。


 首の横。


 今なら、届く。


 そう思ったところで、リュカが前脚を引いた。


 体が、斜めになる。


 翼が、俺の前へ下りた。


「……また、それですか!」


 潜れば、持ち上げられる。


 フィーネとの試合で見た。


 俺は翼の手前で、足を止めた。


 斧を構えたまま、顔を上げる。


 翼の向こうで、リュカの首が動いた。


 牙。


 そこへ、踏み込んだ。


 逃げるためではない。


 斧を、届かせるために。


 その瞬間だった。


     ◇


 首元が、焼けるように熱くなった。


 思わず、息が詰まる。


 鬼力を使ったわけではない。


 なのに、首飾りから熱があふれてくる。


【始祖鬼の首飾りが反応しています】


 文字が、視界へ浮かんだ。


 リュカの牙が近い。


 読む余裕なんて、ない。


 俺は体を外し、斧の柄で顎の横を押した。


 顔が、それる。


 その下を抜け、振り返る。


 文字が、続いた。


【第三封印・解放条件を達成しました】


【自身を上回る体格の存在との対峙:達成】


【上位生命種〈龍〉への挑戦:達成】


【恐怖に屈せず、自ら攻撃を仕掛ける:達成】


「……今?」


 首飾りが、脈を打った。


 胸の奥へ、重いものが落ちる。


 熱いのに、頭は妙にはっきりしていた。


【始祖鬼の首飾り――第三封印が解放されました】


【〈鬼王の威圧〉を使用できます】


     ◇


●リュカ視点


 修羅が、止まった。


 今だ。


 僕は前脚を踏み出そうとして――。


 止まった。


 自分の意思ではなかった。


 いや、脚は動く。


 動かせる。


 ただ、目の前の鬼へ近づくことを、体がためらった。


 首飾りから、赤黒い光が漏れている。


 修羅の足元で、砂が外へ流れた。


 空気が、重くなった。


「……何、それ」


 声が出た。


 修羅が、こちらを見る。


 さっきまでと、同じ顔だった。


 傷もある。


 息も荒い。


 僕より、ずっと小さい。


 それなのに。


 前脚を下げたくなる。


 首を引きたくなる。


 龍の体が、目の前の鬼を警戒していた。


 こんなスキル、聞いていない。


 配信でも見ていない。


 僕は、思わず一歩下がった。


 その動きを、修羅が見た。


     ◇


●主人公視点


 リュカの脚が、引かれた。


 構えが、開く。


 俺も、何が起きたのか全部は分かっていなかった。


 でも、隙は見えた。


「〈鬼力〉」


 胸の熱に、新しい力が重なる。


 斧が、軽くなった。


 俺は、前へ出た。


「〈踏み込み〉!」


 前脚。


 さっき刃を入れた、その場所。


「〈鬼装〉!」


 赤い光が、斧を包む。


 振る。


 鱗の割れ目へ、刃が入った。


 今度は、深い。


 リュカの脚が、崩れた。


 低い声が、頭の上で響く。


 俺は引き抜いた。


 戻す。


 尾が、来る。


 遅い。


 ためらった一歩のぶん、リュカの体がうまく回っていない。


 俺は尾を外し、斧を低く振った。


 鱗へ。


 赤い刃が、尾の側面を裂いた。


 大きな体が、揺れる。


 俺は、もう一歩出た。


     ◇


『修羅選手の首飾りに、変化です!』


 ミナの声が、跳ね上がった。


『第三封印が解放されています! 新たな力は、〈鬼王の威圧〉!』


 客席が、ざわめく。


『リュカ選手の動きが、一瞬止まりました! 龍を前に、鬼が踏み込む! しかも、速い!』


 翼が、下りてきた。


 俺を押し返すために。


 今度は、避けなかった。


 斧を、両手で持ち上げる。


 翼の骨。


 膜ではなく、その根元に近いところへ。


 振り下ろした。


 鈍い音。


 翼が、途中で止まった。


 俺は刃を引き、柄の先を前へ出した。


 リュカの肩へ。


 押す。


 大きな体が、傷ついた前脚へ重さを乗せた。


 脚が、沈む。


 顔が、近づいた。


 口が開く。


 喉に、赤い光。


 俺は、斧を地面へ落とした。


「〈鬼震〉!」


     ◇


 床が、割れた。


 赤い衝撃が、リュカの胸元へ走る。


 前脚が、浮いた。


 巨体全部が飛ぶわけではない。


 でも、支えが外れた。


 胸が、床へ落ちる。


 衝撃で、口元がずれた。


 炎が、俺の横を抜けた。


 熱が、肩をかすめる。


 俺は顔を伏せ、走った。


 首の横。


 斧が届く場所へ。


 リュカの目が、俺を見た。


 はっきりと、驚いていた。


 でも、もう体は動こうとしている。


 威圧で生まれた隙は、ほんの短いものだった。


 その間につけた脚と翼の傷が、今度はリュカを止めていた。


「……止まりませんよ」


 俺は、両足を床へつけた。


 斧を、振る。


     ◇


●リュカ視点


 戻さないと。


 脚を、体の下へ。


 翼を畳む。


 首を引く。


 頭では、分かっていた。


 でも、前脚に力が入らない。


 肩を動かせば、翼の根元が痛む。


 その目の前で、赤い斧が戻っていた。


 さっきまで、あれほど近づかせないようにしていた鬼が。


 もう、僕の懐にいる。


「……こんなの」


 知らない。


 威圧だけじゃない。


 隙ができた瞬間、迷わず入ってきた。


 同じ傷を狙い、脚を崩し、翼を落とした。


 僕が逃げ直す前に、次の刃が来る。


 修羅が、斧を握り直す。


 僕は首を引いた。


 間に合わなかった。


     ◇


●主人公視点


 刃が、首の横へ入った。


 重い手応え。


 抜く。


 リュカの前脚が、床を掻く。


 立とうとしている。


 俺は、離れなかった。


 肩へ、もう一撃。


 鱗が割れる。


 翼が、床へ落ちた。


 尾が動く。


 俺は前へ入り、根元から遠い先端の動きをやり過ごした。


 斧を、短く。


 首を支える筋肉へ。


 振る。


 赤い刃が、通った。


 リュカの体から、力が抜けた。


 大きな顎が、床へ触れる。


 光が、鱗の間からあふれた。


【リュカ選手、戦闘不能】


【勝者:修羅】


 俺は、斧を引き戻した。


 目の前の龍が、光へほどけていく。


 翼。


 尾。


 大きな前脚。


 すべてが消えた後も、俺はしばらく構えたままだった。


     ◇


『け、決着ーっ!』


 ミナの声が、歓声を突き抜けた。


『第三封印の解放から、一気に押し切りました! 龍の脚を崩し、翼を止め、そのまま懐で斧を振り続けた!』


 会場の音が、大きくなる。


 足元まで、震えているようだった。


『な、なんという攻めでしょうか! 鬼の修羅、幼龍を破って決勝進出ですーっ!』


 俺は、ようやく斧を下ろした。


 腕が熱い。


 首元は、それ以上に熱かった。


 手を当てる。


 首飾りは、そこにあった。


 いつもと同じ形。


 でも、さっき確かに、何かが開いた。


〈三段階目!?〉

〈龍が下がったぞ!〉

〈あそこから一気だった!〉

〈決勝だああ!〉


「……勝った」


 声にすると、ようやく足の力が緩んだ。


 斧の柄を支えに、深く息を吐く。


 強かった。


 最初の爪も、尾も、炎も。


 正面から順番に相手をしていたら、どうなっていたか分からない。


 俺は首飾りから手を離し、空いた床を見た。


 新しく得た力。


 あの一瞬を、逃さず使えた。


     ◇


 回復を終えたリュカが、人型で戻ってきた。


 こちらへ歩いてくる。


 顔を見て、俺は斧を下ろしたまま頭を下げた。


「ありがとうございました」


 返事が、すぐには来なかった。


 リュカは俺の首元を見ていた。


「……それ、何?」


「俺も、今、初めてです」


「初めて?」


 目が、大きくなる。


 俺はうなずいた。


「大きくて、上位の生物に挑むのが条件だったみたいで。龍って、表示が出てました」


 リュカは、しばらく黙った。


 それから、片手で顔を覆う。


「……僕、解放しちゃったんだ」


「そういうことに、なるんですかね」


「よりによって、自分と戦ってる最中に」


 その言い方に、俺は返事を迷った。


 リュカが手を下ろす。


 まだ驚いた顔のまま、少し笑った。


「一歩、引いたんだ。自分でも、びっくりした」


「……見えました」


「だろうね。すぐ来たもんね」


 俺は、斧の柄へ目を落とした。


 行かなければ、戻されると思った。


 あの脚も、翼も、また動く。


 だから、踏み込んだ。


 リュカが、自分の前腕へ触れる。


「威圧より、その後のほうが怖かったよ。脚、同じところだったでしょ」


「はい。最初に、通ったので」


「……覚えてたか」


 少し、悔しそうだった。


 でも、差し出された手は真っすぐだった。


「次は、あの一歩、引かないようにする」


 俺も、手を出す。


「俺は、引かせなくても入れるようにします」


 リュカが、一瞬黙った。


 それから、笑った。


「本当に、困るなあ」


     ◇


 握手を終え、客席へ顔を上げる。


 ロックが、両手を上げていた。


 ヴァイスは、その隣。


 少し離れた場所には、バルドもいた。


 そして、通路の入口。


 レオンが立っていた。


 こちらを見ている。


 俺が気づくと、軽く片手を上げた。


 俺も、上げ返す。


 頭上の枠が、光った。


【決勝】


【レオン 対 修羅】


 その文字を、しばらく見た。


 飯を食いながら話したときには、まだ遠かった。


 四つのうち、三つ。


 ようやく、ここまで来た。


 俺は、黒角の大戦斧を持ち直した。


 次は、あの剣だ。




●観客席


 龍の姿が光へほどけても、ロックは手を上げたままだった。


 拍手をしようとして、途中で止まっている。


 舞台の中央には、斧を下ろした修羅。


 その足元を見て、ようやく石の手がゆっくり下がった。


「……勝ちましたね」


 隣のヴァイスは、返事をしなかった。


 白い耳を前へ向け、修羅を見ている。


 少しして、短く息を吐いた。


「ああ」


「龍に」


「ああ」


 また、間が空いた。


 周りでは歓声が上がっていた。立ち上がり、修羅の名前を呼ぶ人もいる。


 けれど、近くで試合を見ていた選手たちは、すぐに声を出せずにいた。


「……あそこから、何秒?」


 ミリアが聞いた。


 誰も、すぐには答えなかった。


 頭上の映像では、最後の攻防が再生されている。


 赤黒い光。


 わずかに下がった龍の前脚。


 その隙間へ、鬼が飛び込む。


 一撃目が、すでに傷ついていた脚へ入った。


 ミリアは、自分の膝へ置いた手を握った。


「あれ、私なら一回、様子を見ると思う」


 相手は龍だ。


 突然動きが止まったからといって、罠かもしれない。次の爪が来るかもしれない。


 修羅は入った。


 迷っている時間が、映像の中にはほとんどなかった。


     ◇


「……僕、最初の二発、撃ったんだよな」


 ハルトが、膝の弩を見下ろした。


 先ほど、自分の矢を弾いた鱗。


 そこへ斧が入り、赤いものが散っている。


 ロックは映像へ顔を上げたまま答えた。


「見てました」


「うん。見てたよね」


 ハルトは、それ以上続けなかった。


 手袋をした指が、弩の木部を一度なぞる。


 隣ではバルドが、大盾を床へ置いていた。


 傷はない。


 修羅にへこまされた鉄は、試合後に元へ戻っている。


 それでも、左腕をゆっくり動かした。


「盾は、まだよかったな」


 低い声に、セレネが顔を向ける。


「……まだ?」


「外せる」


 バルドは、それだけ言った。


 映像では、リュカの翼が床へ落ちた。


 セレネの目も、そちらへ戻る。


 何か言おうとして、口を閉じた。


     ◇


 ユズリハは、石の床へ脚を畳んでいた。


 再生映像の中で、修羅が尾を避ける。


 龍の懐へ残り、斧を戻す。


 また、振る。


 ユズリハの前脚が、自分の腹の近くへ寄った。


「……私、体ごと斧より小さいんですけど」


 ヴァイスが、そちらを見る。


「当たらなければいい」


「今の見た後に、それ言えます?」


 白い狼は答えなかった。


 代わりに、舞台へ顔を戻した。


 自分も予選で、あの斧のすぐ横を走っていた。


 槍を外してもらい、同じ方向へ敵を追った。


 味方でよかった。


 口には出さなかったが、尾が床へぴたりとついていた。


     ◇


「でも、威圧がなかったら、もう少し違いましたよね」


 サラが言った。


 誰かに確かめるような声だった。


 カゲロウが、細い目を映像へ向けた。


「違っただろうな」


「ですよね」


「ただ、効いた後に何をするか、読む時間はなかったはずだ」


 サラの耳が、少し下がる。


 画面の端へ、封印解放の通知が映っていた。


 初めて得たスキル。


 初めて起きた反応。


 修羅は、その直後に鬼力を使った。


 踏み込んだ。


 鬼装をまとわせた刃を、傷へ入れた。


「……新しい技出たら、普通ちょっと嬉しくなりません?」


 サラが、ぽつりと言った。


 ロックは、ガルゼンとの訓練でスキルを覚えた修羅の動画を思い出していた。


 文字が出て、声が上がって、その間にも攻撃が来た。


 何度も、そういう場面があった。


「後で、喜ぶんだと思います」


 ロックの返事に、ハルトが小さくうなずいた。


「今は、斧が届くほうが大事だったんだろうね」


 誰も、それを否定しなかった。


     ◇


 通路の入口で、レオンは映像を見上げていた。


 最後の一撃。


 龍の首へ、赤い刃が通る。


 光。


 映像が、止まった。


 レオンの手が、腰の剣へ触れた。


 握りを確かめるだけの、短い動きだった。


 セレネが、彼へ気づいた。


「……決勝、ですね」


「ええ」


「受けられそうですか、あれ」


 レオンは、少し黙った。


 それから、笑う。


「できれば、受けたくないですね」


 準々決勝の前にも聞いたような言葉だった。


 けれど今度は、笑った後の息が少し長かった。


 バルドが、盾の上へ腕を置く。


「避けても、戻ってくるぞ」


「見ました」


「近づいても、短く振る」


「それも」


 レオンは舞台へ目を戻した。


 修羅が、リュカと握手していた。


 人型へ戻った青年と並ぶと、鬼の体格がよく分かる。


 肩幅。


 腕。


 そして、その横の大戦斧。


 レオンは、もう一度だけ剣へ手を添えた。


「……近くで見ると、また違うんでしょうね」


 バルドは笑った。


 笑いながら、自分の脇腹を押さえた。


     ◇


●主人公視点


 通路へ戻ると、みんながいた。


 思ったより、たくさん。


 ロック。


 ヴァイス。


 ハルトに、ミリア。


 バルドまで、大盾を持って立っている。


「……どうも」


 軽く頭を下げた。


 誰も、すぐには返事をしなかった。


 俺の顔を見る。


 斧を見る。


 また、顔を見る。


「……何か、ついてます?」


 頬へ手を当てる。


 傷は戻っている。


 血も、残っていないはずだ。


 ミリアが、一歩近づいた。


「さっき、初めて解放されたんですよね。あのスキル」


「はい」


「それで、すぐ行ったんですか」


「……リュカさん、下がったので」


 答えると、少し静かになった。


 何か、おかしかっただろうか。


 あそこで待ったら、また炎が来る。


 脚も翼も動く。


 だから、先に行った。


 それだけなんですが。


 ハルトが、片手で顔をこすった。


「そうなんだよな。下がったら、来るんだよな」


 ヴァイスが、横で鼻を鳴らした。


「覚えておけ。こいつの前で、迷うな」


「……本人、いるんですけど」


〈みんな引いてるw〉

〈そりゃあれ見たらな〉

〈修羅だけ分かってない〉


 コメントを見て、顔を上げた。


「引いてるんですか?」


 ユズリハの前脚が、すっと上がった。


「少し」


 正直だった。


     ◇


 ロックが、俺の斧へ近づいた。


 手を伸ばしかけて、こちらを見る。


「触ってもいいですか」


「はい。もちろん」


 刃先を下げ、柄を支える。


 石の指が、斧の側面へ触れた。


 きれいに戻っている。


 鱗へ入れた跡も、翼を打った傷もない。


 ロックは、それを確かめてから顔を上げた。


「……大会の後、試すって言ったじゃないですか」


「盾ですか?」


「はい」


 周りの人が、こちらを見た。


 ロックは、少しだけ間を置いた。


「最初は、鬼力なしでお願いします」


 俺は、うなずいた。


「もちろんです」


「鬼装も、なしで」


「はい」


「踏み込みも」


「……普通に、振ればいいんですね」


 ロックが、強くうなずいた。


 その後ろで、バルドが短く笑う。


「最初は、振らせるな。押すところからにしろ」


 ロックが、真面目に考え始めた。


 俺は斧を持ったまま、少し困った。


 そんなにだろうか。


 すぐ横で、ハルトが弩を背負い直した。


「決勝、遠くから見よう」


 ミリアがうなずく。


「私も」


 ヴァイスまで、否定しなかった。


 俺は、ようやく少し分かってきた。


 たぶん、さっきの俺は。


 自分が思っているより、怖かったらしい。

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