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26話 決勝トーナメント抽選

●主人公視点


 休憩時間になって、俺たちは客席を出た。


 通路には、まだ試合の熱が残っている。


「あの龍、最初から正体出してたらどうなったかな」


「フィーネ、翼狙ってたよな」


「第三組の鬼と当たったら、どっちが勝つんだろ」


 最後の声が聞こえて、少し背筋が伸びた。


 俺も、それは気になる。


 ただ、今は。


「……腹、減りましたね」


 横を歩いていたロックが、顔を上げた。


「さっき、串食べてませんでした?」


「食べました。一本」


「足りないんですね」


「全然」


 ヴァイスが、鼻を上げた。


 屋台のほうから、香ばしい匂いがする。


 俺たち三人の足が、自然とそちらへ向いた。


 そのとき、広場へ鐘の音が響いた。


『本戦出場選手の皆さん、中央広場へお集まりくださーい! これより、決勝トーナメントの公開抽選を行います!』


 俺は、足を止めた。


 肉の焼ける屋台を見る。


 中央の壇上を見る。


「……先に、抽選ですね」


〈肉は逃げない〉

〈対戦相手決めようw〉


 分かってますよ。


     ◇


 壇上の前には、十六人分の場所が用意されていた。


 立つ位置を示す、小さな光の輪。


 人型だけではないので、間隔は広い。


 俺は案内された輪へ入り、斧を背負い直した。


 すぐ隣に、黒髪の青年が立つ。


 リュカだった。


 今は、普通の人間にしか見えない。


 思わず顔を見ていると、向こうもこちらを見た。


「……何か、ついてる?」


「あ、いえ。すみません。さっきの試合、見てました」


 リュカが、自分の肩へ目を落とす。


 もう、傷はない。


「人型のほう?」


「両方です」


「なら、後半だけ覚えておいてほしいな」


 少し困った顔で笑われた。


 俺も笑う。


「龍、初めて見ました」


「俺は、あんな数を斧で倒す鬼を初めて見たよ」


 ……お互いさま、らしい。


『皆さん、お待たせいたしましたー!』


 壇上で、ミナが片手を上げた。


 広場の大きな光の板へ、十六の枠が浮かぶ。


『本戦に進出した十六名! ここから優勝までは、四連勝が必要です! 一度負ければ、そこで終了!』


 隣で、リュカが口を閉じた。


 俺も、壇上へ顔を向ける。


『抽選に先立ち、選手の皆さんをご紹介しましょう! 今回は、公開に同意いただいた得意技も、併せてご紹介します!』


〈全員の紹介来た〉

〈知らない人の情報助かる〉


 俺は自分が提出した内容を思い出した。


 斧と短剣。


 鬼力と鬼震。


 配信で使っているので、隠すようなものでもない。


 ただ、ほかの人はどうだろう。


 紹介される技だけで、全部だと思わないほうがいい。


     ◇


 最初に、第一組を通過した四人が映し出された。


『剣士、レオン選手!』


 少し離れた位置で、人間の男が手を上げた。


 腰の剣。


 青い布。


 近くで見ても、落ち着いた顔だった。


【レオン/人間】


【武器:片手剣】


【公開スキル:〈剣術〉〈見切り〉〈連撃〉】


『相手の動きを見抜き、短い攻撃をつなぐ剣士! 予選最多の十一撃破を記録した第一組、その中心にいた選手です!』


 続いて、ロック。


【ロック/小型ゴーレム】


【武器:丸盾・戦鎚】


【公開スキル:〈盾術〉〈硬化〉〈槌術〉】


『自ら仕立てた盾と鎚で本戦へ! レオン選手にも一撃を入れた、粘り強い戦いに注目です!』


 ロックが、少しぎこちなく手を上げた。


 俺も、小さく拍手する。


 その隣には、灰色の外套を着たエルフがいた。


【ノエル/エルフ】


【武器:杖】


【公開スキル:〈風刃〉〈風壁〉〈浮歩〉】


『風を操り、岩場から岩場へ軽やかに移動! 予選では最後まで囲まれずに残った、ノエル選手!』


 ノエルは片手を胸へ当て、静かに会釈した。


 表情は穏やかだが、視線がずっと動いている。


 選手の位置。


 武器。


 足元まで、見ていた。


 最後の一人は、褐色の肌に長い耳を持つ女性だった。


【サラ/兎人】


【武器:長槍】


【公開スキル:〈跳躍〉〈槍術〉〈足払い〉】


『長い脚を生かした跳躍と槍の間合い! サラ選手です!』


 槍を持ち上げ、笑って手を振る。


 受付で、俺と握手した女性だった。


 こちらに気づくと、軽く片目を閉じた。


 俺は、会釈を返した。


 全員、残ってきたんだな。


     ◇


 第二組の四人が、並んで映る。


【セレネ/人間】


【武器:杖】


【公開スキル:〈火球〉〈霜域〉〈氷柱〉】


『地面も、逃げ道も、彼女の狙いのうち! 炎と氷を使い分ける、セレネ選手!』


 セレネは小さく手を振った。


 横のバルドへ何か言い、二人で少し笑っている。


【バルド/ドワーフ】


【武器:大盾・片手槌】


【公開スキル:〈盾術〉〈重心固定〉〈砕打〉】


『魔法の中でも歩みを止めず、第二組を突破! 大盾のバルド選手!』


 バルドは拳を上げた。


 その仕草だけで、近くの客席から声が飛ぶ。


【カゲロウ/蜥蜴人】


【武器:槍・小刀】


【公開スキル:〈擬態〉〈忍び足〉〈刺突〉】


『姿を隠し、隙を突く! カゲロウ選手は、本戦の舞台でどこへ潜むのでしょうか!』


 細い瞳が、こちらへ向いた。


 首元の鱗が、少しだけ周囲の色へ変わる。


 ……目の前にいても、見づらい。


【ミリア/猫人】


【武器:双短剣】


【公開スキル:〈短剣術〉〈軽業〉〈瞬歩〉】


『一瞬の隙へ入り込み、乱戦を駆け抜けました! ミリア選手!』


 黒い耳が揺れた。


 ミリアは短剣の柄へ指を置き、こちらの並びを眺めていた。


 目が合うと、少し笑った。


 戦っているときと違って、普通に愛想のいい人だった。


 それが、ちょっと怖い。


     ◇


『続いて第三組! 大波乱の予選を突破した四名です!』


 俺の姿が、大きく映った。


【修羅/鬼】


【武器:大戦斧・双短剣】


【公開スキル:〈鬼力〉〈鬼震〉〈踏み込み〉】


『十九撃破! 包囲を正面からこじ開けた、大戦斧の修羅選手!』


 声が、飛んできた。


 俺は片手を上げた。


 画面の中の自分も、手を上げる。


 ……慣れない。


【ヴァイス/白狼】


【武器:牙・爪】


【公開スキル:〈疾駆〉〈鋭牙〉〈嗅覚強化〉】


『追うにも、逃げるにも、目を離せません! 白狼ヴァイス選手!』


 隣から、短い遠吠えが響いた。


 腹に、少し来る声だった。


 続く二人は、最後の同時撃破で追加選出された選手だった。


 俺にも、見覚えがある。


【ハルト/人間】


【武器:弩・片手剣】


【公開スキル:〈弩術〉〈速装填〉〈狙撃〉】


『終盤まで残り、遠距離から修羅選手を苦しめた、ハルト選手!』


 受付で握手した男だ。


 ハルトは、俺を見るなり苦笑した。


「また当たったら、今度はもう少し遠くからにするよ」


「……探すところから、頑張ります」


 俺の返事に、肩を揺らした。


【ジン/犬人】


【武器:片手剣・小盾】


【公開スキル:〈剣術〉〈追走〉〈盾打ち〉】


『最後までヴァイス選手を追い、食らいつきました! ジン選手!』


 短い茶色の耳。


 頬に古い傷をつけた青年が、拳を握った。


「次は、ちゃんと剣を当てる」


 その視線の先で、ヴァイスの耳が動く。


「追いつけたらな」


 二人とも、少し笑っていた。


     ◇


 第四組。


 フィーネが呼ばれ、弓を掲げる。


【フィーネ/エルフ】


【武器:長弓・短刀】


【公開スキル:〈弓術〉〈速射〉〈曲射〉】


『木々の隙間から、龍の懐まで! 射線を生み出す弓使い、フィーネ選手!』


 リュカが、その紹介に小さく息を吐いた。


「痛かったんだよな、あれ」


「……見てて、そう思いました」


【リュカ/幼龍】


【武器:人型時は片手剣/龍体時は牙・爪・尾】


【公開スキル:〈人化〉〈飛行〉〈火炎ブレス〉】


『剣士の姿から現れた、赤銅色の幼龍! リュカ選手!』


 歓声が、一段大きくなった。


 本人は、人型のまま手を振っている。


 あの翼が、今どこにあるのか。


 何度見ても、不思議だった。


【ガラン/牛人】


【武器:大盾・片手斧】


【公開スキル:〈突進〉〈盾押し〉〈斧術〉】


『最後の乱戦を押し切り、本戦の切符をつかみました! ガラン選手!』


 湾曲した角を持つ大男が、うなずいた。


 俺と、あまり背が変わらない。


 分厚い首と肩を見ると、盾ごとぶつかられたときの重さが想像できた。


【ユズリハ/小型蜘蛛】


【武器:牙・糸】


【公開スキル:〈糸罠〉〈壁歩き〉〈毒牙〉】


『そして、第四組で最後まで姿を捉えさせなかった、ユズリハ選手!』


 壇上の端で、蜘蛛が前脚を上げた。


 イトより、ずっと大きい。


 腹には、淡い紫の模様がある。


 俺は思わず、そちらへ顔を向けた。


 ユズリハも、こちらを見た。


 前脚が、もう一度動く。


 挨拶だろうか。


 俺も、手を上げ返した。


〈蜘蛛見たら反応したw〉

〈イトで見慣れてるからな〉

〈でも毒牙あるぞ〉


 はい。


 そこは、気をつけます。


     ◇


『それでは、抽選を始めます!』


 十六の枠へ、線が伸びた。


 組み合わさって、トーナメントの形になる。


『同じ予選組を通過した選手同士は、一回戦では当たりません! それでは最初の組み合わせ、どうぞ!』


 名前が、光の中で回る。


 一つが止まる。


【第一試合】


【レオン 対 ガラン】


 ガランが、レオンへ顔を向けた。


「剣、受けてみたかったんだ」


「僕も、その盾は気になります」


 レオンは笑って答えた。


 軽い会話なのに、互いの武器を見ている。


【第二試合】


【ロック 対 カゲロウ】


 ロックが、小さく息を吸った。


 カゲロウの首が、少し傾く。


「硬そうだな」


「……隙間は、できるだけ塞いできました」


 俺は思わず、ロックを見た。


 試合を見た後では、その言葉が頼もしかった。


【第三試合】


【セレネ 対 ジン】


【第四試合】


【ヴァイス 対 ユズリハ】


 ヴァイスが、蜘蛛へ視線を向ける。


 ユズリハの前脚が、静かに床へ下りた。


「糸か……」


 低いつぶやきが、聞こえた。


 走る相手に、罠。


 どうなるんだろう。


 名前が、また回る。


 俺は、光の板を見上げた。


【第五試合】


【修羅 対 ノエル】


 止まった。


 一瞬、周りの声が遠くなる。


 風の魔法使い。


 第一組を、ほとんど囲まれずに残ったエルフだ。


 ノエルが、こちらへ向き直った。


「よろしくお願いします」


 静かな声だった。


 俺も、頭を下げる。


「こちらこそ。よろしくお願いします」


 長い耳の下で、穏やかな目が細くなる。


「斧の届くところには、あまりいたくありませんね」


「……なるべく、来てもらえるようにします」


 ノエルが笑った。


 俺も笑ったが、頭の中ではもう、岩を渡る姿を思い出していた。


 浮歩。


 地面へ打つ鬼震は、届くだろうか。


【第六試合】


【バルド 対 サラ】


【第七試合】


【ミリア 対 ハルト】


【第八試合】


【フィーネ 対 リュカ】


 最後の名前が出た瞬間、広場が沸いた。


 隣でリュカが、空を仰いだ。


「……もう?」


 少し離れた場所で、フィーネが弓を抱え直した。


 目が合うと、二人とも笑う。


 ただ、楽しそうなだけの顔ではなかった。


 さっきの続きを、もうやる。


 そういう笑いだった。


『決まりましたー! 一回戦から、予選の続きを思わせる対戦もあります! どの試合も、お見逃しなく!』


 拍手が、広場へ広がった。


 俺は、第五試合の枠をもう一度見た。


 勝てば、バルドかサラ。


 その先にも、誰かがいる。


 ……先を見すぎるのは、やめよう。


 まず、ノエル。


 目の前の一人だ。


     ◇


 抽選が終わったところで、腹が鳴った。


 結構、大きく。


 隣のリュカが、こちらを見る。


「食事、まだ?」


「……串、一本だけです」


「そりゃ足りないね」


 否定できなかった。


 俺はロックたちへ声をかけ、屋台の並ぶほうへ向かった。


 ヴァイスは肉の匂いを確かめ、別の店へ行くらしい。ロックも、盾の留め具を見てもらうため、道具屋へ寄ると言った。


 ひとまず別れて、俺は大きな鉄板の前へ並んだ。


 薄く焼かれたパン。


 その上へ、細かく切った肉と野菜。


 湯気の立つ汁がかけられ、店主が手早く包んでいく。


 うまそうだ。


「二つ、お願いします」


「はいよ!」


 受け取って、空いた卓を探す。


 広場の端に、一つ席があった。


 その向こうで、青い布が揺れている。


 剣の鞘。


 レオンだった。


 片手にパンを持ち、もう片方で紙の皿を押さえている。


 目が合った。


 向こうが、先に笑った。


「空いてますよ」


「……ありがとうございます」


 斧を卓へぶつけないよう、ゆっくり腰を下ろす。


 さっきまで、遠くの映像で見ていた人だ。


 近くで見ると、俺よりずっと細い。


 なのに、十一人倒した。


 俺がそんなことを考えていると、レオンが口を開いた。


「予選、見ました。すごかったですね」


「いや、そちらこそ。三人相手のところとか……俺、あんなにきれいにはできないです」


「僕は、あんなふうに押し切れませんよ」


 レオンは、俺の斧へ目を向けた。


「盾の向こうまで、体勢が崩れてましたから」


「力は、種族にかなり助けられてます」


「でも、崩れたところへ入るのは、自分でしょう」


 俺は、返事をしそこねた。


 レオンはパンを一口かじった。


 特別なことを言ったつもりは、ないらしい。


 俺も、包みを開く。


 肉を挟んだパンへかじりついた。


 柔らかい。


 汁が、口の中へ広がる。


「……うま」


 思わず漏れた。


 レオンが、少し笑う。


「それ、僕も迷ったんですよね」


「おすすめです。肉、柔らかいです」


「大事なんですね、そこ」


「……最近、少し」


〈料理修行の成果を感じる〉

〈レオンと飯食ってるぞ〉

〈普通に話してて変な感じ〉


 俺も、そう思ってます。


     ◇


「ロックさんと、話しました?」


 レオンが聞いた。


「はい。さっきまで一緒に観戦してました」


「盾、自分で作ったそうですね」


「言ってました。大会終わったら、俺の斧を受けてみたいって」


 レオンの手が止まった。


 それから、楽しそうに笑った。


「それは、思い切った試験だ」


「いきなり全力では、やらないですよ」


「ええ。でも、受けた後の形まで見たい人なんでしょうね」


 俺は、予選の最後を思い出した。


 盾の裏で、鎚を握り直していたロック。


 傷を負っても、構えを捨てなかった。


「最後、もう一撃、いくところでしたよね」


「そのつもりでした」


 レオンは、あっさり答えた。


「ただ、鎚が戻っていたので。入る場所は、まだ選んでました」


「……そこまで、見てたんですか」


「修羅さんも、次を見てたでしょう。倒した直後に、別の矢が来てましたし」


 確かに、来ていた。


 見ないと、刺さる。


 実際、何本か刺さった。


「見るもの、多いですね。このゲーム」


「多いですね」


 二人で、少し笑った。


 屋台の煙が、風に流れていく。


 すぐ横を、翼を小さく畳んだプレイヤーが通った。


 その後ろで、狼が店主へ肉の焼き方を頼んでいる。


 大会の途中なのに、普通に腹が減る。


 相手も、こうして飯を食う。


 少しだけ、肩の力が抜けた。


     ◇


「ノエルさん、どうでした?」


 聞いてから、俺は少し迷った。


「……すみません。試合前に聞くのも、あれですけど」


「公開されてる試合の話なら」


 レオンは、中央の建物へ顔を向けた。


「無理に倒しに来ない人でした。近づかれる前に、別の場所へ移る。追った人ほど、足場を崩されてましたね」


「足場……」


「風で少し浮かされるだけでも、踏ん張れませんから」


 俺は、自分の靴を見た。


 踏み込みの途中で、押されたら。


 着くはずの場所へ、足がつかなかったら。


 嫌な想像が、できてしまった。


 レオンが、こちらを見る。


「でも、追わなければ安全というわけでもないです」


「風刃、ですよね」


「ええ。あれ、見えにくいですよ」


 俺は、パンを持ったまま黙った。


 レオンも、それ以上は言わなかった。


 答えをもらったところで、動くのは自分だ。


 俺は、残りをかじった。


「……見つけます。近づくところ」


「僕も、見たいです」


 その言葉に、顔を上げる。


 レオンは、まっすぐこちらを見ていた。


「勝ち上がったら、反対の山ですね」


 俺はトーナメントを思い出した。


 第一試合と、第五試合。


 当たるとすれば、最後だ。


「……決勝ですか」


「そこまで行けたら」


 簡単な約束ではない。


 互いに、四人ずつ残る側の一人にすぎない。


 それでも。


「やってみたいです。レオンさんと」


 口に出すと、気持ちがはっきりした。


 レオンが、笑った。


「僕も。あの斧の内側へ、入れるか試したい」


「……なるべく、入れません」


「でしょうね」


 空になった皿が、卓へ置かれた。


 俺も、最後の一口を飲み込む。


 さっきまで、ただ強い人だった。


 今は少し、戦いたい相手になっていた。


     ◇


『本戦第一試合の選手は、準備エリアへお越しください!』


 声が、広場へ響いた。


 レオンが立ち上がる。


 腰の剣を、軽く確かめた。


「では、先に行ってきます」


「はい。見てます」


 俺も立ち上がり、手を差し出した。


 レオンの手が、重なる。


 普通の手だった。


 でも、指の当たるところが硬い。


 何度も、剣を握ってきた手。


「また、後で」


「ええ」


 手が離れる。


 青い布が、人混みの向こうへ消えていった。


〈決勝で会おうってこと!?〉

〈まず一回戦だな〉

〈飯食ってるだけで緊張した〉


「……俺は、少し落ち着きました」


 斧を背負い直す。


 腹も、満ちた。


 体の準備は、できている。


 あとは、見る。


 考える。


 自分の番が来たら、動く。


 会場の入口へ向かうと、通路の先でロックが手を上げた。


「修羅さん。第一試合、始まりますよ」


「はい。今、レオンさんと会ってました」


 ロックの顔が、少し上がった。


「……何か、言ってました?」


「ロックさんの鎚、最後まで戻ってたって」


 石の指が、腰の鎚へ触れる。


 それから、ロックは一度だけうなずいた。


「次も、戻します」


 俺は笑って、隣へ並んだ。


 客席の向こうから、歓声が聞こえる。


 いよいよ、一対一。


 本戦が、始まる。

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