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24話 トーナメント3組目

●主人公視点


 準備エリアへ入ると、話し声が少し小さくなった。


 俺を見る人。


 背中の斧を見る人。


 それから、隣のヴァイスを見る人。


 白い狼は気にした様子もなく、床へ腰を下ろした。


 俺は壁際へ寄り、斧の背負い紐を外す。


 両手で、柄を握った。


 重さは、いつもどおり。


 手が滑る感じもない。


「……まず、周りを見るところからですね」


 声に出して、息を吐く。


 すぐ近くで、誰かが小声で話していた。


「……先に、あの二人」


「分かってる」


 俺は顔を上げた。


 声が、止まる。


 目が合ったのは、受付で握手した人だった。


 背中に、弩。


 男は少し困ったように笑った。


 俺も、軽く頭を下げた。


 なるほど。


 見られている。


 それも、随分と。


「聞こえたか」


 隣から、低い声。


 ヴァイスだった。


「……少し」


「俺もだ」


 白い耳が、後ろへ動く。


 でも、口元は少しだけ開いていた。


「人気者はつらいな」


「そっちもですよ」


「そうらしい」


 ヴァイスが立ち上がる。


 俺も、斧を持ち直した。


【予選第三組】


【選手配置を開始します】


 足元に、光。


 俺は正面を向いた。


「……じゃあ、また後で」


「ああ」


 景色が、白く消えた。


     ◇


 目を開ける。


 低い石壁。


 その向こうに、林。


 右には、崩れた塔のようなものがあった。


 俺は動かず、耳を澄ませた。


 足音。


 少し遠い。


 右から、一つ。


 左にも。


 さらに奥で、金属が触れる音がした。


 俺は短剣へ手を添え、斧を構えた。


【試合開始まで、5秒】


 足元を見る。


 小石。


 乾いた土。


 踏める。


【3】


 石壁の上へ、視線を上げる。


 人影は、まだない。


【2】


 息を吸う。


【1】


 ゆっくり、吐いた。


【試合開始】


 合図が鳴った。


     ◇


 俺は、すぐには中央へ向かわなかった。


 塔の陰へ移り、周りを見る。


 林から、人が出た。


 槍持ち。


 こちらを見た瞬間、走る向きを変える。


 逃げた。


 ……いや。


 少し先で、誰かへ手を振っている。


 その向こうにも、一人。


 弓。


 俺は塔の壁へ寄った。


 矢が、飛んできた。


「っ!」


 石へ当たり、跳ねる。


 一本。


 すぐに、もう一本。


 俺は塔の裏へ回った。


 そこへ、短剣を持った男が走ってくる。


 右。


 後ろには、盾。


「いたぞ!」


 声がした。


 別の方向から、返事。


「そっちへ回せ!」


 ……早くないですか。


〈もう来てる!?〉

〈囲もうとしてるぞ〉

〈移動しろ!〉


 俺は、塔から離れた。


 低い壁を越える。


 その先に、槍。


 突き出される。


 柄を斜めに立てた。


「〈受け流し〉!」


 切っ先が、肩の横へ抜ける。


 相手の腕が伸びた。


 俺は足を止めなかった。


 斧を短く持ち、柄の先を前へ。


 胸へ当たる。


 男が下がった。


 その脚へ、刃。


 膝が崩れる。


 斧を戻し、もう一撃。


【撃破しました】


【〈喰命〉が発動しました】


【残り31名】


 光が、消える。


 俺はすぐ顔を上げた。


 矢が来る。


 体をひねる。


 肩へ、硬いものが刺さった。


「っ……!」


 浅い。


 腕は動く。


 ただ、止まっていられない。


 俺は廃屋の陰へ走った。


     ◇


●実況席


『第三組、開始直後から大きく動いています!』


 ミナが、中央の映像へ顔を近づけた。


 表示された全体図。


 選手を示す光が、二か所へ集まり始めている。


 一方は、修羅。


 もう一方は、ヴァイス。


『これは……ほかの選手同士で、ほとんど戦っていませんね!?』


 隣に座る解説役が、手元の画面へ目を落とした。


『開始前の会話を見る限り、二人を先に狙う方針が広まっていたようです』


『一時的な共闘は認められていますが……まさか、ここまで人数が集まるとは!』


 客席が、ざわめく。


「それ、ありなの?」


「二人落としてからってことか」


「さすがに多すぎだろ……」


 映像が切り替わる。


 林を走る白い狼。


 その行く先へ、火球が落ちた。


 ヴァイスが方向を変える。


 待っていた盾持ちが、前へ出る。


 さらに横から、槍。


『ヴァイス選手も、包囲されています! 優勝候補二名へ、残る選手が牙をむいた第三組!』


 ミナの声が、高くなる。


『この状況を、突破できるのでしょうか!』


     ◇


●主人公視点


 廃屋の壁へ、矢が刺さる。


 入口には、盾が二枚。


 窓の外には、杖。


 俺は肩の矢を抜き、床へ落とした。


「……結構、集まってますね」


 俺は、入口を見た。


 盾の隙間から、槍が伸びる。


 下がる。


 切っ先が、鼻先を抜けた。


 すぐ、別の槍。


 左。


 斧の柄で外す。


 窓が赤く光った。


 俺は床を蹴り、壁際へ。


 炎が部屋へ入り、反対の壁を焼いた。


 熱い。


 でも、逃げ道は見えた。


 奥の崩れた壁。


 肩幅くらいの隙間がある。


 俺は、そちらへ走った。


「出るぞ!」


 外から声がする。


 隙間の向こうへ、刃が見えた。


 待っている。


 俺は足を止めた。


 背後では、盾が入口を越えようとしていた。


 なるほど。


 出口を狙う。


 入ってくる。


 飛び道具もある。


 俺は、斧を握り直した。


「……じゃあ、こっちから出ますか」


 入口へ向き直る。


 盾持ちの目が、見開かれた。


 俺は、胸の奥へ意識を向けた。


「〈鬼力〉」


 首元が、熱くなる。


 腕へ。


 脚へ。


 握った斧が、軽くなった。


     ◇


 盾は、二枚。


 その後ろに、槍。


 さらに後ろには、弓が見える。


 狭い入口へ、まとめて入ろうとしている。


 俺は斧を持ち上げた。


 盾持ちが、腰を落とす。


「受けろ!」


 声。


 俺は、刃を盾へ向けなかった。


 足元へ。


「〈鬼震〉!」


 石床が、割れた。


 赤い衝撃が、入口を抜ける。


 二枚の盾が、跳ね上がった。


 前脚が浮く。


 その後ろの槍持ちも、体をのけぞらせた。


 俺は、走った。


「〈踏み込み〉!」


 一歩で、入口へ。


 盾の上端が、まだ戻っていない。


 斧を、短く横へ振る。


 右の盾持ちへ。


 腕と肩へ、刃が入った。


 光。


 止めずに、足を踏み替える。


 左の盾持ちが、剣を出す。


 その腕へ、柄を打ちつけた。


 剣が下がる。


 斧を戻す。


 落ちた盾の上から、もう一撃。


【撃破しました】


【撃破しました】


【〈喰命〉が発動しました】


 肩の痛みが、薄れた。


 槍持ちが、後ろへ下がる。


 俺は踏み込んだ。


 切っ先が来る。


 柄で、外へ。


 相手の胸元が近づいた。


 斧の刃を、引きつけるように通す。


 光が、上がった。


「下がれ! 下がれって!」


 弓使いが、矢をつがえながら叫んだ。


 俺は床を蹴った。


 廃屋の外。


 もう、頭の上には何もない。


 斧を、肩の横へ構える。


「……近くへ来てもらえるのは、助かりますね」


     ◇


●実況席


『突破しましたー!』


 ミナが、立ち上がりかけた。


 映像の中で、修羅が廃屋から出る。


 矢が、その肩へ当たった。


 さらに、横から剣。


 鬼が、斧を引き戻す。


 剣へ柄を合わせる。


 押し流す。


 相手の体が、横へ開いた。


 重い刃が、その脇へ入った。


 撃破。


 鬼の傷が、薄れる。


『攻撃を受けています! ですが、そのたびに押し返す! そして、HPが戻っています!』


『大戦斧の特殊効果です。撃破を取るたびに、最大HPの五%を回復しています』


 修羅へ、二人が同時に近づいた。


 片方は、剣。


 もう片方は、槌。


 鬼が、一歩踏み込む。


 槌持ちの側へ。


 二人の距離が、ずれる。


 剣士が追う前に、斧が振られた。


 槌の柄が、弾かれる。


 体勢が崩れた相手へ、柄頭。


 後ろへ押し出された体が、剣士の進路を塞ぐ。


 鬼は、その横を抜けていた。


『正面で、打ち合いません! 自分から近づき、一人ずつ崩しています!』


 次の一撃で、槌持ちが消えた。


 剣士が下がる。


 そこへ、斧。


 観客席から、声が上がる。


『な、な、なんという強さぁーっ!!』


 ミナの声が、会場へ響いた。


『包囲したはずの選手たちが、次々と倒れていきます! 鬼の修羅、止まりません!』


     ◇


●主人公視点


 斧を振る。


 抜く。


 戻す。


 次を見る。


 右に、剣。


 遠くに、弓。


 左から、魔法。


 全部は避けきれない。


 頬へ、矢がかすめた。


 腕に、炎が触れる。


 でも、止まらなかった。


 ガルゼンの一撃ほど、重くない。


 蜥蜴の炎より、広くない。


 見える。


 どこから来るか、分かれば。


「〈鬼装〉」


 赤い光が、刃へ走る。


 剣が、斧を受けた。


 相手の手が、大きく下がる。


「うそだろ……!」


 俺は押し込まなかった。


 刃を引き、足をずらす。


 次は、横から。


 構えの外へ、短く。


 光が上がる。


【残り22名】


 そこで、白いものが視界を横切った。


 ヴァイス。


 林から、飛び出してくる。


 後ろには、何人もの選手。


 俺の前にも、まだいる。


 目が合った。


 白い狼が、歯を見せた。


「そっちもか!」


「そっちもですね!」


 ヴァイスの足元へ、矢が刺さる。


 彼が横へ抜けた。


 追ってきた槍使いが、俺のほうを見る。


 足が、止まった。


 俺は、前へ出た。


     ◇


 二人の間へ、選手たちが集まる。


「狼、逃がすな!」


「鬼から離れろ! 遠くから撃て!」


「そっち回れって!」


 声が、重なる。


 言われた方向へ、一人が走る。


 別の一人と、ぶつかりかける。


 狭い。


 互いの武器も、近い。


 俺は、斧を構えた。


 ヴァイスが、低く身を沈める。


 すぐ横を、白い影が抜けた。


 弓使いへ。


 俺は、その前にいた盾持ちへ向かった。


 盾が上がる。


 斧を見ている。


 俺は振りかぶらず、柄を前へ出した。


 盾へ、強く当てる。


 相手の足が、下がった。


 半歩。


 その後ろには、仲間。


 下がれない。


 盾が傾いた。


 俺は刃を、低く振った。


 脚。


 膝が落ちる。


 斧を戻して、肩へ。


 光。


 その後ろの男が、武器を上げた。


 遅い。


 盾が消えたところへ、俺の刃が届いた。


 横で、狼の低いうなり声。


 弓使いが光へ変わる。


 ヴァイスは着地した瞬間、もう次の相手へ向いていた。


 槍が、白い背中を追う。


 俺はその柄へ、斧を打ちつけた。


 切っ先が下がる。


 ヴァイスが、槍使いの横へ入った。


 光が、上がった。


「助かった!」


「どうも!」


 返した直後、俺の脇へ短剣が来た。


 近い。


 斧では、間に合わない。


 右手を離す。


 腰へ。


 自分の短剣を抜き、刃を外へそらした。


 相手の顔が、近くにある。


 俺は肩を当て、押し離した。


 右の刃を、前へ。


 一撃。


 下がったところへ、大戦斧を持ち直す。


 短剣をしまう時間はない。


 左手で斧を引き寄せ、その柄で相手を押す。


 体勢が崩れたところを、右の短剣で切った。


【撃破しました】


 光が消える。


 俺は短剣を戻し、斧を両手で握った。


「……忘れてませんよ、ガド」


 小さく、つぶやく。


 使えるものは、使う。


     ◇


【残り13名】


 気づけば、周りの声が変わっていた。


「近づくな!」


「先に、距離取れ!」


「まだ鬼力切れないのか!?」


 切れます。


 もうすぐです。


 だから、俺も急いでいた。


 広い場所に残ると、弓と魔法をまとめて受ける。


 俺は、岩の側へ走った。


 向こうに、弩の男。


 受付で、握手した人だった。


 こちらを見ている。


 弩を、構えた。


 俺は足を止めない。


 放たれる。


 横へ。


 太い矢が、脇腹の防具へ当たった。


「っ……!」


 痛い。


 深くはないが、足が少し乱れた。


 男の手が動く。


 次を装填する。


 その前に。


「〈踏み込み〉!」


 距離が、一気に詰まった。


 男が弩を手放す。


 剣を抜く。


 俺は、刃を振り下ろさなかった。


 剣の動きを見る。


 下から。


 斧の柄で、外す。


 相手の腕が開く。


 斧を引き、短く返した。


 刃が、胴へ通る。


 光が上がる直前、男が笑った。


「……近づかれたか」


「何本か、食らいました」


 俺が返すと、男の姿が消えた。


【〈喰命〉が発動しました】


 脇腹の痛みが、少し引く。


 でも、息は荒い。


 スタミナも減っていた。


 俺は、鬼装を切った。


 刃の赤が消える。


 続けて、腕へ重さが戻った。


【〈鬼力〉の効果が終了しました】


 前を向く。


 残った選手が、こちらを見ていた。


「切れたぞ!」


 声がする。


 俺は、息を吐いた。


「……よく、見てますね」


     ◇


 剣士が、走った。


 その後ろから、炎。


 横には、槍。


 三人。


 俺は一歩、下がる。


 背後は、岩。


 逃げ続ける場所はない。


 斧を、短く持った。


 剣が来る。


 斜めに受ける。


 流す。


 相手の足が、前へ出た。


 柄の先を、胸へ。


 押す。


 剣士の体が、後ろの槍へ近づく。


 槍使いが、手を止めた。


 俺はその横へ踏み込んだ。


 炎が、岩へぶつかった。


 熱い風。


 でも、俺はもう前にいる。


 槍の内側。


 斧を、短く打ち込む。


 相手が崩れる。


 剣士が振り返った。


 その刃へ、柄。


 外す。


 斧を戻し、脚へ。


 倒れた相手から離れ、先に槍使いへもう一撃。


 光。


 振り返って、剣士。


 また、光。


 魔法使いが、杖を上げていた。


 俺は、そちらを見た。


 杖先が、揺れる。


 何を撃つか、迷ったのかもしれない。


 その一瞬で、走った。


「うわっ……!」


 火球が飛ぶ。


 体を外す。


 頬を、熱が抜けた。


 斧が届く。


 俺は、両足を地面へつけた。


 短く。


 強く。


 刃を通す。


【残り9名】


 会場の歓声が、遠く聞こえた。


     ◇


●実況席


『鬼力が切れても、止まりません!』


 ミナは、ほとんど叫んでいた。


『正面で受けず、相手を重ねる! 近づかれれば短剣! 離れれば、一歩で詰めてくる!』


 映像の端で、白い狼が跳ぶ。


 盾の上を越え、着地と同時に振り返る。


 盾持ちが向き直る前に、脚へ食らいついた。


 倒れた相手が、光へ変わる。


【残り8名】


『ヴァイス選手も、撃破! 包囲を抜けた二人が、逆に戦場を削っていきます!』


 客席では、ロックが立っていた。


 石の手を、強く握っている。


 その近くで、レオンが映像を見上げていた。


 剣の柄へ置かれた指が、一度だけ動いた。


 フィールドの中央。


 修羅が斧を下ろす。


 ヴァイスも、足を止めた。


 残った六人が、少し離れたところへ集まっていた。


 そのうちの一人が、後ろを見た。


 迫る境界。


 もう、林の大半は外へ出ている。


 前には、鬼と狼。


 誰も、すぐには動かなかった。


     ◇


●主人公視点


 俺は、水を飲みたかった。


 すごく。


 でも、そんな時間はなさそうだった。


 ヴァイスが、隣から少し離れた位置へ立つ。


 白い毛が、ところどころ赤い。


 呼吸も、速かった。


「……まだ、六人いるな」


「ですね」


 前の六人を見る。


 盾。


 槍。


 剣。


 弓。


 杖が、二本。


 一人が言った。


「もう、まとめて行くしかない」


 俺は斧を持ち上げた。


 鬼力は、まだ使えない。


 鬼震も、少し待つ必要がある。


 MPは残っている。


 スタミナも、まだ動ける。


「……俺、前行きます」


「好きにしろ」


 ヴァイスの腰が、低くなった。


「俺も、そうする」


 六人が、動いた。


     ◇


 矢が来た。


 魔法も。


 俺は、横へ走った。


 ヴァイスは、反対側。


 狙いが、二つに分かれる。


 盾持ちが、俺へ向いた。


 槍が、その横から出る。


 今度は、盾の後ろへ隠れていない。


 ちゃんと、俺の横を狙っている。


 俺は、槍の側へ踏み込んだ。


 切っ先が来る。


 柄を合わせる。


 横へ流す。


 そのまま、槍の柄へ左手を伸ばした。


 つかむ。


 引いた。


 相手の足が、前へ出る。


 盾持ちの横。


 俺の斧が、届く。


 右手で短く振った刃が、肩へ入った。


 すぐに槍を離し、両手へ持ち替える。


 盾が迫る。


 俺は、横へずれた。


 盾の端。


 そこへ、斧の刃をかけた。


 引く。


 相手も、引き戻そうとする。


 腕に、力がこもる。


 俺は、さらに引いた。


 盾が、開いた。


「――っ!」


 柄の先を、胸へ。


 体が下がる。


 後ろの杖持ちへ、ぶつかった。


 その横で、白い影が跳ねた。


 剣士が、ヴァイスを追って振る。


 当たらない。


 弓使いが、矢を放とうとする。


 その腕へ、白い牙。


 光。


 俺は、目の前へ集中した。


 盾を戻そうとする相手。


 杖を持ち直す相手。


 もう一人の魔法使いが、こちらへ手を向ける。


 その足元まで、近い。


 表示が、浮かんだ。


【〈鬼震〉が再使用可能になりました】


 俺は、斧を引き上げた。


「……そこです」


 地面へ。


「〈鬼震〉!」


 赤い衝撃が、前を走った。


 盾が、跳ねる。


 杖持ちの脚が、浮く。


 傷ついていた槍使いの体が、光へ変わった。


 俺は踏み込んだ。


 盾の内側。


 斧を、横へ。


 一人。


 戻して、もう一人。


 杖が、手から落ちた。


 光が重なる。


【〈喰命〉が発動しました】


【〈喰命〉が発動しました】


 傷の熱が、引いていく。


 俺は斧を構え直した。


 目の前には、最後の魔法使い。


 後ろへ下がっている。


 杖先に、火。


 俺を見て、撃とうとした。


 その横へ、ヴァイスが走った。


 顔が、そちらへ向く。


 俺は、一歩。


「〈踏み込み〉!」


 刃が、届いた。


 光が、消えた。


     ◇


【残り2名】


 俺は、足を止めた。


 ……二人?


 ヴァイスも、動かなかった。


 少し離れた地面で、最後の剣士が光へ変わっていた。


 白い狼が倒した相手。


 それと、俺が倒した魔法使い。


 ほとんど、同時だったらしい。


 一拍遅れて、大きな合図が鳴った。


【予選第三組、試合終了】


 体から、力が抜けた。


 俺は斧の先を地面へ下ろす。


「……終わり?」


 ヴァイスが、荒い息を吐いた。


「ああ。らしいな」


 頭上に、案内が出た。


【最終撃破の同時処理により、通過条件を満たした選手が4名を下回りました】


【同時に撃破された選手のうち、試合記録に基づき2名を追加選出します】


 なるほど。


 あと二人。


 俺たちが、決めることではない。


 だったら、今は。


「……水、飲みたいですね」


 ヴァイスが、こちらを見た。


 それから、短く笑うように息を吐いた。


「俺もだ」


     ◇


『しゅ、終了です! 第三組、試合終了ーっ!』


 会場の声が、降ってきた。


 さっきまでより、ずっと大きい。


『なんという展開でしょう! 二人を先に落とすはずの包囲が、まさかの壊滅! 最後に立っていたのは、修羅選手とヴァイス選手でしたー!』


 俺は、顔を上げた。


 客席。


 たくさんの人が、立っている。


 何か、叫んでいる。


 自分の名前が聞こえた。


 ヴァイスの名前も。


 少し、笑ってしまう。


 緊張が抜けたせいかもしれない。


 頭上へ、結果が浮かんだ。


【修羅】


【撃破数:19】


【予選通過】


 十九。


 俺は数字を見た。


 もう一度、見た。


「……そんなに?」


 隣の表示。


【ヴァイス】


【撃破数:11】


【予選通過】


 白い狼が、俺の表示を見上げた。


「取ったな」


「……お互い、ですね」


 俺は、斧を持ち直した。


 ヴァイスへ向き直る。


「助かりました。槍のところとか」


「こっちも、あれは助かった」


 少し、間があった。


 最初は、この狼と戦うかもしれないと思っていた。


 それが、二人で囲まれて。


 気づいたら、隣にいた。


 ヴァイスが、一歩近づく。


「次、当たったら」


 黄色い目が、俺を見る。


「今度は、お前の足を狙う」


 俺は、腰の短剣へ手を添えた。


「……抜けられないように、気をつけます」


 白い狼が、前脚を上げた。


 俺はしゃがみ、その足へ手を添える。


 軽く、一度。


 客席の声が、また大きくなった。


『さあ、本戦へ進む二人が健闘をたたえ合います! ですが、次に向き合うときは敵同士! この対決が見られるのかにも、期待しましょう!』


 ミナの声を聞きながら、俺は立ち上がった。


 転送の光が、足元へ広がる。


 斧を握った手を見る。


 震えていた。


 怖かった。


 途中、どこを見ればいいか分からなくなる瞬間もあった。


 でも、動けた。


 受け流して、踏み込んで。


 何度も練習したことを、ここで使えた。


「……残れましたね」


 配信へ、小さく言った。


 返ってくる文字は、もう読みきれなかった。

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