23話 トーナメント2組目
●主人公視点
客席へ戻ると、中央のフィールドが変わっていた。
崩れた壁が、少し多い。
林の間には細い道があり、中央へ向かうにつれて岩と廃屋が増えている。
「……さっきと、配置が違いますね」
「同じ場所を覚えて待つ、ってできないんですね」
ロックが隣へ座った。
膝の上へ盾を置く。
俺も大戦斧を脚の間へ立てた。
並べると、随分と物騒な観戦席だ。
〈第二組!〉
〈魔法対盾、楽しみ〉
〈ロックも一緒か〉
「はい。一緒に見ます」
頭上の映像へ、選手が映し出される。
銀髪の女性。
杖を持つ、セレネ。
そのすぐ横の映像には、大盾を背負ったドワーフ。
バルドがいた。
『第二組、三十二名が配置につきました!』
ミナの声が、会場へ響く。
『第一組では、レオン選手が十一名を撃破! 圧巻の戦いを見せましたが、こちらの選手たちは、どんな予選を見せてくれるのでしょうか!』
セレネが、杖を握り直した。
足元を確かめ、木の陰へ少し寄る。
バルドは盾を下ろした。
左腕へ通す。
右手の槌を、一度だけ肩へ乗せた。
【予選第二組】
【試合開始まで、5秒】
俺は、膝へ手を置いた。
「……始まりますね」
ロックが、小さくうなずいた。
【試合開始】
◇
最初に動いたのは、セレネの近くにいた剣士だった。
木の陰から、走り出す。
距離は、まだある。
でも、魔法を使わせる前に詰めたいのだろう。
セレネが、杖を向けた。
小さな火球。
剣士は横へ避けた。
止まらない。
また、火球。
今度は剣で払うように振り、脇へ抜ける。
「……近づいてますね」
俺が言うと、ロックが映像を指した。
「足元」
白いものが、地面を走っていた。
霜。
セレネの正面から、左右へ広がっている。
剣士が、気づいた。
足を止めようとする。
けれど、前へ出た靴が滑った。
体が、わずかに傾く。
そこへ、火球。
今までのものより、大きい。
剣士は跳んだ。
白い地面を越えるように、前へ。
セレネの杖は、もうその先を向いていた。
「……あ」
空中の相手へ、炎がぶつかった。
体が後ろへ流れる。
着地できないまま、もう一発。
光が、剣士を包んだ。
【残り31名】
『セレネ選手、最初の撃破! 足場を奪い、逃げる先へ魔法を合わせました!』
拍手が起きる。
セレネは倒した方向を見ず、木の反対側へ移っていた。
その背後の幹へ、矢が刺さる。
俺は、少し息を吐いた。
「……あれ、最初の火球からなんですかね」
「足元へ目を向けさせないように、ですか?」
「たぶん」
〈正面の炎見ちゃうよな〉
〈地面まで見てる余裕ない〉
俺は、自分の靴を見下ろした。
踏み込む先が、凍っていたら。
その一歩は、攻撃どころじゃなくなる。
◇
別の映像へ、バルドが映った。
狭い道。
前には、槍使い。
横の岩からは、弓が狙っている。
二人組だ。
槍使いが、大盾へ切っ先を向けた。
「そっちへ行くぞ!」
矢が飛ぶ。
バルドは盾を少し上げた。
鉄に当たる音。
そのまま、一歩進む。
槍が、脚へ来た。
盾の下端が落ちる。
切っ先が弾かれた。
バルドは、また一歩。
「……止まらないですね」
俺の隣で、ロックが前のめりになった。
槍使いが下がる。
バルドが追う。
矢が、盾をたたく。
それでも、進む。
ただ、まっすぐではなかった。
岩側へ、少しずつ寄っている。
「弓、見えなくしてます」
ロックが言った。
確かに。
岩の縁へ近づいたせいで、弓使いの位置からバルドの体が隠れ始めた。
槍使いが、焦ったように大きく突く。
バルドは、その瞬間だけ盾を前へ出した。
槍が、横へ跳ねる。
踏み込んだ小さな体が、一気に近づいた。
槌。
槍使いの膝へ、低く入る。
脚が落ちた。
続けて、盾の縁が胸へ当たる。
男が仰向けに倒れた。
槌が下りる。
【残り29名】
その間に、別の場所でも一人倒れていた。
『バルド選手、二方向からの攻撃をしのぎ、まず一人! 残った射手は、どうするのか!』
弓使いが、岩の上から離れようとした。
バルドは追って走らない。
盾を向け、岩の下を通る。
射手が顔を出せば、盾がそこにある。
矢を放つ。
弾かれる。
次をつがえる。
その間に、また距離が縮まる。
「……嫌ですね、あれ」
俺がつぶやくと、ロックがうなずいた。
「ちゃんと、間に合う分だけ動いてる」
逃げようと飛び下りた射手の前へ、大盾が来た。
着地。
その直後、槌。
光が上がった。
ロックが、自分の盾へ目を落とした。
「……あそこまで、落ち着いて動けるんだ」
俺は、横顔を見た。
試合が終わったばかりなのに、もう次を覚えようとしている。
俺も、見ておこう。
◇
中央の林で、枝が揺れた。
映像が、そちらへ寄る。
何もいない。
……いや。
木の幹の色が、一か所だけ動いた。
〈何かいた?〉
〈擬態?〉
名前が表示される。
【カゲロウ】
長い尾。
細い槍。
蜥蜴人だった。
鱗の色が、周りの木や土へ近づいている。
完全に消えているわけではない。
でも、映像が寄らなければ、俺は見つけられなかった。
カゲロウが、足を進める。
その先には、セレネ。
彼女は廃屋の脇へ移り、別の相手と戦っていた。
片手斧を持った男。
炎を避けながら、壁沿いに距離を詰めている。
セレネが、後ろへ下がった。
その背後へ、カゲロウが回る。
「……挟まれますね」
杖が光る。
男が、壁の陰へ逃げた。
火球が角へぶつかる。
炎が、広がった。
その間に、槍が近づく。
あと数歩。
セレネの足元へ、白い霜が走った。
後ろにも。
カゲロウの足が、止まる。
すでに、一歩入っていた。
白い地面に、爪の跡。
セレネが、振り返った。
槍が、突き出される。
彼女は杖を引き、横へ跳んだ。
肩を、切っ先がかすめた。
初めて、赤い傷が見える。
カゲロウが、擬態を解いた。
もう隠れる必要はない。
槍を引き戻し、さらに一歩。
「速い……!」
俺は身を乗り出した。
杖が上がる。
カゲロウは、先端を槍で払った。
火球が、上へ逸れた。
その下から、槍。
セレネの体へ――。
横から、短い刃が飛び込んだ。
槍の柄へ、一撃。
切っ先がずれる。
セレネの脇を、鋭いものが抜けた。
黒い耳。
二本の短剣。
獣人の女性だった。
【ミリア】
『ここでミリア選手が介入! セレネ選手を助けた――いえ、違います!』
短剣が、今度はセレネへ向いた。
俺は、思わず声を出した。
「そっちも!?」
ミリアが踏み込む。
セレネは廃屋の入口へ下がった。
短剣が、肩をかすめる。
カゲロウが槍を構え直す。
今度は、ミリアの背中へ。
彼女は振り返らず、体を低くした。
槍が、頭の上を通る。
片手を地面へつき、そのまま横へ抜けた。
セレネのいた入口へ、槍が突き刺さる。
木が割れた。
その向こうで、杖が光った。
炎。
カゲロウが飛び退く。
ミリアは、もう壁の外へ消えていた。
会場に、歓声が上がる。
〈三人とも怖え〉
〈全員敵だった〉
〈助けたわけじゃないのかよ!〉
ロックが、低く息を吐いた。
「……乱戦ですね」
「はい。すごく」
誰かが攻撃した瞬間を、別の誰かが狙う。
俺の予選も、こうなる。
分かっていたはずなのに、目の前で見ると違った。
◇
【残り18名】
ミリアは、戦い続けなかった。
三人が集まった場所から離れ、岩陰へ移る。
その先で、二人の選手が打ち合っていた。
剣と、棍棒。
どちらも、傷が多い。
ミリアは止まった。
低く構えたまま、二人を見る。
剣が振られる。
棍棒が受けた。
両方の腕が、上がる。
その横へ、ミリアが入った。
短剣が、棍棒使いの脇腹へ。
振り返った剣士の腕へ、もう一本。
抜く。
離れる。
棍棒使いが光へ変わった。
剣士が、追う。
ミリアは岩を回った。
追ってきた足が見えた瞬間、低い位置から切りつける。
脚が崩れた。
彼女は、その外側へ。
一度も、剣の正面へ立たなかった。
【残り16名】
『ミリア選手、二名を撃破! 相手が武器を戻せない瞬間を、逃しません!』
俺は腰の短剣へ触れた。
「……あの入り方、うまいですね」
〈修羅、参考になりそう〉
〈でも斧で同じことは難しいな〉
「ですね。持ち替える前に、決めないと」
斧を使うか。
短剣を使うか。
相手を見てから考え始めたら、あの人はもう近くにいるかもしれない。
◇
セレネは、肩を確かめていた。
傷は残っている。
杖を握る腕は、動く。
廃屋の裏から外を見る。
カゲロウの姿は、消えていた。
ミリアもいない。
追わず、少しだけ水を飲む。
その前方で、地面の色が変わった。
【戦闘可能エリアが縮小します】
白い境界が、林の外側から迫ってくる。
隠れていた選手たちが、動き始めた。
中央へ。
セレネも、杖を持ち直して歩く。
行き先には、低い石壁。
その向こうから、大盾が出てきた。
「……来ましたね」
バルドだった。
盾の縁に、何本も傷がある。
それでも、歩みは変わらない。
セレネが、杖を向ける。
バルドが止まる。
距離は、まだ十数歩。
火球が飛んだ。
大盾が、斜めになる。
炎が、鉄の表面をなめた。
バルドは、岩の陰へ寄った。
セレネの杖が、地面へ向く。
白い霜。
バルドは、その手前で止まった。
槌の先を下ろし、凍った地面を一度たたく。
砕けた氷が、跳ねた。
「……割るんですか?」
ロックが、身を乗り出した。
セレネは、次の魔法を構えていた。
バルドも、それを見ている。
氷を全部割って進む時間は、ない。
大盾が前へ向く。
小さな体が、岩の裏へ消えた。
セレネの杖先が、その出口を追う。
その背後。
崩れた壁の色が、わずかに動いた。
俺は、息を止めた。
カゲロウだ。
槍の先だけが、静かに持ち上がる。
『中央で、注目の二人が接触! しかし、その戦いを見ている選手が、もう一人います!』
会場の声が、大きくなっていく。
俺は、斧の柄を握った。
「……どこも、見逃せないですね」
ロックは映像から目を離さず、うなずいた。
残り人数の表示が、一つ減った。
【残り11名】
セレネの足元で、霜がさらに広がった。
◇
●主人公視点
カゲロウの槍が、伸びた。
セレネの背中へ。
今度は、彼女も振り返っていた。
足元の霜に残った、細い跡。
その先へ、杖を向ける。
白い塊が、飛ぶ。
カゲロウは槍を引き、体をひねった。
氷が、壁へ砕ける。
その破片の向こうへ、もう一発。
カゲロウが下がった。
擬態が解ける。
薄い緑の鱗が、はっきり見えた。
そこへ、岩陰からバルドが出た。
「挟まれた……!」
セレネの正面へ、大盾。
後ろへ、槍。
逃げられるのは、壁の切れ目。
でも、そこへ走れば、槍の間合いを通る。
セレネが杖を下げた。
自分の足元へ。
霜が、一気に広がる。
それから、白いものが立ち上がった。
細い氷の柱。
一本。
もう一本。
地面から突き出た氷が、バルドの前を塞いだ。
大盾が、ぶつかる。
氷が割れた。
けれど、足が止まる。
その一瞬で、セレネが横へ走った。
カゲロウの槍が追う。
杖が振られる。
炎が、二人の間へ広がった。
カゲロウは、踏み込まなかった。
火の向こうで、セレネの姿が壁へ消える。
バルドが、残った氷を槌で砕いた。
目の前には、槍を持つカゲロウ。
二人が、一瞬向き合う。
「……今度は、そっちですか」
俺が言うと、ロックが盾を抱え直した。
見ているだけなのに、力が入っているらしい。
◇
カゲロウが、槍を低くした。
大盾の下。
脚を狙う位置。
バルドは、すぐには近づかなかった。
右足を、少し引く。
カゲロウが突く。
盾の下端が、切っ先を外した。
槍が戻る。
次は、顔。
大盾が上がる。
その下へ、もう一度。
速い。
上下へ、狙いが変わる。
バルドの盾に、何度も金属音が響いた。
〈槍速いな〉
〈盾、ずらされてる?〉
ロックが、小さく首を振った。
「……まだ、近づいてます」
確かに。
打たれるたびに、半歩ずつ。
バルドの足は、前へ出ていた。
カゲロウも下がっている。
でも、後ろには崩れた壁。
尾が、石へ触れた。
カゲロウが横へ抜ける。
バルドの槌が、低く振られた。
当たらない。
尾の先が、すぐ上を通った。
槍が、バルドの脇へ入る。
盾が、間に合わない。
切っ先が、革の防具へ刺さった。
バルドの体が、少し揺れた。
カゲロウが槍を引く。
その柄へ、大盾が押しつけられた。
「……捕まえた」
ロックが言った。
盾と壁の間。
槍が、斜めに挟まっている。
カゲロウの手が開いた。
武器を捨てる。
腰から、小さな刃。
バルドの槌が、その手元へ向かった。
カゲロウは、体ごと横へ跳んだ。
盾が、肩をかすめる。
着地した体が低く沈む。
そのまま、崩れた壁を越えた。
バルドは追わなかった。
挟んでいた槍を地面へ落とし、脇腹を見る。
傷がある。
それでも、盾を構え直した。
『カゲロウ選手、槍を手放して離脱! バルド選手も負傷しましたが、追撃は選びません!』
俺は、長く息を吐いた。
「……俺なら、追っちゃいそうです」
「壁の向こう、見えないですからね」
ロックの言葉に、うなずく。
勝てそうでも、まだほかに敵がいる。
バトルロワイヤル。
目の前の一人だけでは、終わらない。
◇
【残り9名】
境界が、また動いた。
林が、少しずつエリアの外へ出る。
ミリアが木の陰から走ってきた。
頬に傷。
片方の袖が裂けている。
その後ろには、二人。
剣士と、弓使い。
矢が、地面へ刺さる。
ミリアが、横へ跳ぶ。
目の前へ、剣士。
短剣が、剣を外した。
でも、止まらない。
剣士が体ごと押し込む。
ミリアは下がった。
後ろには、境界。
「追い込まれますね」
俺は、足元へ目を向けた。
あの位置では、横へ逃げるしかない。
弓使いも、それを待っている。
ミリアの耳が、ぴくりと動いた。
剣士が踏み込む。
彼女は、後ろへ下がらなかった。
前へ。
剣の内側。
肩が、相手の胸へ近づく。
短剣が、脇腹へ入った。
矢が放たれる。
ミリアは剣士の腕をつかみ、その体の陰へ回った。
男の肩へ、矢が刺さる。
剣士が、崩れた。
光が上がる。
ミリアは、その光の向こうへ走った。
弓使いが、次の矢をつがえる。
間に合わない。
短剣が、弓を持つ腕へ。
弓が下がる。
もう一本が、胴へ入った。
【残り7名】
会場に、歓声が響いた。
『ミリア選手、追い込まれた位置から二名を撃破! 前へ出る判断で、生き残りました!』
「……下がるだけじゃ、駄目なんですね」
俺は腰の短剣を見た。
長い武器の内側へ入る。
言うだけなら簡単だ。
あの矢と剣の間へ飛び込むには、勇気がいる。
ミリアは、すぐには喜ばなかった。
壁際へ寄り、肩で息をしている。
短剣を握った指が、一度開いた。
かなり、疲れている。
◇
カゲロウは、槍を取り戻していた。
バルドが離れた後、壁の裏を回ったらしい。
柄を確かめる。
盾へ挟まれた部分が、少し削れていた。
それでも、使える。
俺は、つい感心した。
「……ちゃんと、拾うんですね」
〈武器大事〉
〈修羅も蜥蜴から取り返したしな〉
「それは、今いいです」
映像の中で、カゲロウが顔を上げた。
近くの廃屋から、人影。
大きな斧を持った男だった。
足取りが、少し重い。
カゲロウが、壁の色へ溶ける。
男は、気づいていない。
そのまま、脇を通る。
槍が出た。
脚へ。
男が膝をつく。
斧が、横へ振られる。
カゲロウは、すでに外へ下がっていた。
槍が戻る。
もう一度。
光が、上がった。
【残り6名】
残る映像が、六つになる。
セレネ。
バルド。
カゲロウ。
ミリア。
それから、弓を持つエルフと、大剣を構えた人間。
あと二人。
俺は、膝へ手を置いた。
「……ここから、ですね」
◇
セレネの背後には、もう逃げる廃屋がなかった。
境界が、壁の向こうまで来ている。
前には、バルド。
大盾が、少しずつ近づいていた。
火球。
盾が受ける。
氷。
バルドは岩の陰へ寄り、直撃を避けた。
セレネが移動する。
同じ方向へ、盾も動く。
遠くへ逃げれば、別の選手へ背中を見せる。
しかも、残りの場所は狭い。
彼女は足を止めた。
「……やる気ですね」
杖を、両手で握る。
地面へ、霜。
バルドは止まらなかった。
凍る前の地面へ、一歩。
盾を斜めに構える。
氷の塊が、表面を削った。
角度を変える。
炎が、縁からこぼれる。
腕へ火が触れた。
それでも、盾は下がらない。
「全部は、防げてない」
俺が言うと、ロックがうなずいた。
「でも、動けるだけ残してます」
バルドの右足が、石の出た場所を踏む。
次は、乾いた土。
霜の薄いところを、選んでいる。
歩く速度は遅い。
でも、セレネの魔法は、そのたびに使われる。
杖先の光が、少し小さくなった。
〈MPきついか?〉
〈ずっと撃ってたもんな〉
セレネが、息を吐いた。
次の火球は、来なかった。
杖を下げる。
バルドが、一歩進む。
その足元へ、氷の柱。
大盾が、ぶつかる。
砕ける。
破片が、上がった。
その向こうで、セレネが横へ動いていた。
バルドの、盾を持たない側へ。
杖が、至近距離で光る。
「近い……!」
バルドが、体を回した。
盾の縁が、間へ入る。
炎が、二人を照らした。
盾の裏へ、セレネの手が見える。
彼女は、杖先を下げた。
狙いは、脚。
バルドの槌が、動いた。
杖の横へ。
硬い音がして、先端が跳ねる。
火が、地面を走った。
セレネが、後ろへ飛ぶ。
大盾が追う。
もう、近い。
◇
そのとき、別の映像で、ミリアが走った。
狙いは、エルフの弓使い。
矢が飛ぶ。
彼女は壁へ寄り、肩を低くする。
矢が、石へ当たった。
弓使いが、下がる。
その横から、槍。
カゲロウだった。
弓使いの足が止まる。
ミリアが、そこへ入った。
短剣。
槍。
同じ相手へ、二つの武器が向く。
弓使いは片手で短い刃を抜いた。
槍を外す。
だが、ミリアの短剣には間に合わなかった。
光が、上がる。
【残り5名】
カゲロウとミリアが、向き合った。
どちらも、すぐには攻撃しない。
短い呼吸。
握り直される武器。
その背後で、大剣を持った男が走り始めた。
狙いは、二人ではない。
大盾。
バルドの背中。
「後ろ!」
思わず、声が出た。
もちろん、届かない。
バルドの前には、セレネがいる。
大剣が、振り上げられる。
セレネの目が、その男へ動いた。
杖が上がる。
バルドも、気づいた。
盾が、回った。
大剣が、鉄へぶつかる。
すさまじい音がした。
バルドの膝が、沈む。
その横を、炎が抜けた。
大剣の男へ。
男がのけぞる。
剣を戻そうとした。
その足元へ、槌。
脚が崩れた。
炎の残る体が、光へ変わる。
【残り4名】
【予選第二組、試合終了】
合図が、会場へ響いた。
◇
バルドの槌が、途中で止まった。
セレネの杖も、彼の顔へ向いたままだった。
近い。
あと一歩。
あと、一撃。
二人とも、しばらく動かなかった。
先に杖を下げたのは、セレネだった。
長く息を吐く。
バルドも、盾を下ろした。
『第二組、決着です! 本戦へ進む四名は――!』
光の板へ、名前が浮かぶ。
【セレネ】
【バルド】
【カゲロウ】
【ミリア】
『以上の四名となりましたー!』
歓声が、客席を揺らした。
俺も、手をたたいた。
隣で、石の手がぶつかる音がする。
ロックだった。
膝の盾を脇へ置き、身を乗り出したまま拍手している。
「……最後、二人で倒しましたね」
「はい。でも、その直後には、もうお互いへ向いてた」
映像の中で、セレネが何か言った。
バルドが顔を上げる。
二人とも、少し笑った。
それから、それぞれ別の方向へ歩いていく。
〈本戦で続き見たい!〉
〈第二組も熱かった〉
〈全員役割違うのいいな〉
俺は、手を下ろした。
強い魔法。
大きな盾。
見えにくい槍。
近づいてくる、二本の短剣。
どれも、俺の狩り場にはいなかった。
「……見ておいて、よかったですね」
言うと、ロックがこちらを向いた。
「修羅さん、次ですよ」
「……あ」
そうだった。
見入っていた。
第三組。
俺の番だ。
◇
【予選第三組・出場選手へ】
【準備エリアへ移動してください】
通知が、浮かんだ。
俺は、大戦斧を持ち上げた。
背負い紐を通す。
腰の短剣へ触れる。
右。
左。
どちらも、ある。
ロックが、長椅子から下りた。
「応援してます」
「ありがとうございます」
握手をしようとして、俺が手を出す。
ロックも、石の手を伸ばした。
軽く握る。
「本戦で、会いましょう」
ロックが言った。
俺は、うなずいた。
「はい。……残ってきます」
手を離す。
通路へ向かって、歩く。
背後では、ミナの声が響いていた。
『さあ、次は第三組! 白狼ヴァイス選手、そして鬼の修羅選手も登場します! 接近戦の強者たちに、ほかの選手はどう挑むのでしょうか!』
客席から、声が上がった。
自分の名前が、混ざっている。
俺は、少しだけ深く息を吸った。
〈いよいよだ〉
〈頑張れ!〉
〈イトにいい報告しようぜ〉
「……ですね」
通路の先に、選手用の扉。
その横で、白い狼が待っていた。
ヴァイス。
俺を見ると、ゆっくり立ち上がる。
「よく見てたな」
「……ええ。勉強になりました」
「俺もだ」
白い耳が、扉の向こうへ向く。
俺は隣へ並んだ。
さっきまで、見ている側だった。
今度は、見られる側だ。
背中の斧の重さを確かめ、扉へ手を伸ばした。




