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20話 特訓に特訓

●主人公視点


 はい。今日は教わりに来ました、修羅です。


 場所は、黒角の峡谷。


 目の前には、ガルゼン。


 そして、俺が持ってきた肉。


「……これは?」


「お礼です。あと、稽古をお願いしたくて」


 ガルゼンは包みを開いた。


 焼いた火喰い蜥蜴の肉が、入っている。


 少し眺めてから、一つつまんだ。


 食う。


 噛む。


「硬いな」


「……そうですね」


〈第一声それw〉

〈塩も欲しいな〉


 俺も、もう少し柔らかくできればと思ってます。


 ガルゼンは残りの肉を石段へ置き、立ち上がった。


「振ってみろ」


 俺は、黒角の大戦斧を持ち直した。


     ◇


 前に戦った広場へ出る。


 ガドとイトは、少し離れた石段のそばだ。


 俺は周囲を確かめ、斧を構えた。


 肩の横から、斜めに下ろす。


 足を踏み替える。


 刃を体の横へ戻し、構え直す。


 もう一度。


 今度は、短い横振り。


 戻す。


 止める。


 ガルゼンは、黙って見ていた。


 俺は斧を下ろす。


「……どうですか」


「前より振れる」


 お。


 褒められた。


「ただ、戻ってから休むな」


「休んでます?」


「毎回だ」


〈見抜かれた〉

〈構え直して一息ついてる?〉


 言われて、もう一度やってみる。


 振る。


 戻す。


 ……あ。


 ここで、終わった気になっている。


 次に相手が何をするか見てから、また動き始めていた。


「相手は、お前が構えるまで待たん」


「……はい」


「持て」


 ガルゼンが、長い木の棒を差し出した。


 先へ布が巻かれている。


 俺の大戦斧は、石段へ置かれた。


「今日は、それだ」


「助かります」


 鉄の刃で教えられるのは、さすがに怖い。


 ガルゼンも、同じような棒を持った。


 ただし、俺のものより太い。


 ……あれ、普通に痛そうですね。


     ◇


「来い」


 俺は棒を構えた。


 距離を測る。


 一歩。


 肩へ向けて、振った。


 ガルゼンの棒が、俺の棒へ触れる。


 軽い音。


 先端が、外へずれた。


 次の瞬間、胸へ布が当たった。


「ぐっ」


「止まったな」


「……止まりました」


 構え直そうとしたところを、突かれた。


 分かりやすい。


 非常に、分かりやすい。


 俺は一度下がった。


 今度は、振った後も動く。


 右へ抜ける。


 ガルゼンの棒が、脇腹へ当たった。


「っ!」


「どこへ行くか、先に決めるな」


「……難しくないですか?」


「だから、やるんだろう」


〈正論〉

〈頑張れ〉


 はい。


 そのために来ました。


     ◇


 その後も、何度も打たれた。


 肩。


 腹。


 脚。


 布は巻いてある。


 防具もある。


 けれど、中身は木だ。


 痛いものは、痛い。


 ガルゼンは、同じところへ二度続けて打ってくることもあった。


 一度避けて、安心したところへもう一度。


 逆に、二発目を待っていると、そのまま棒を引く。


 俺だけが、変な姿勢で残る。


「……性格、悪くないですか」


「お前に当たる打ち方をしている」


「それが、つらいんですよ」


 俺は、息を吐いた。


 ガルゼンの手を見る。


 握りが動く。


 突き。


 棒を立てて、防いだ。


 硬い音がして、腕が後ろへ押される。


 そのまま、肩へ一撃。


「っ、また……!」


「全部、止めるつもりか」


 ガルゼンが棒を下ろした。


「止めないと、当たるでしょ」


「お前より強い相手でもか」


 俺は口を閉じた。


 さっきの突き。


 受けた時点で、体が後ろへ流れていた。


 構えを保てていない。


 その後の一撃へ、間に合うはずがなかった。


 ガルゼンは俺の棒を持ち、斜めに傾けた。


「こっちへ流せ」


「……受け流す?」


「真正面で張り合うな。刃を外せば、お前には当たらん」


 手を離す。


 ガルゼンが、自分の棒をゆっくり動かした。


 俺は合わせる。


 棒同士が、触れる。


 押す。


「違う。押し返すな」


 もう一回。


 触れたところから、斜めに動かす。


 相手の先端が、俺の肩の横へ抜けた。


「それだ。足も動かせ」


 俺は、自分の棒を見た。


 ガルゼン戦でも、似たようなことはした。


 ただ、うまくいったときだけだ。


 どうすれば繰り返せるのか、まだ分かっていない。


「……もう一回、お願いします」


     ◇


 最初は、ゆっくり。


 ガルゼンの棒が、右上から来る。


 自分の棒を、斜めに入れる。


 触れる。


 そのまま、左へ逃がす。


 足も、半歩ずらす。


 先端が、体の横へ落ちた。


 次は、左。


 同じように――。


 腕へ当たった。


「痛っ」


「手だけでやるな」


 俺は構え直した。


 足。


 腰。


 棒の向き。


 全部いっぺんに考えると、どれかが抜ける。


 俺はまず、相手の棒が通る場所から体を外した。


 そこへ、自分の棒を添える。


 触れた相手の先が、横へ抜ける。


 さっきより、腕が楽だった。


「……あ」


「もう一度」


 右。


 左。


 今度は、突き。


 突きは失敗した。


 胸へ布が当たり、息が漏れる。


〈今の二回はよかった〉

〈突き難しそう〉

〈修羅が無言になってる〉


「……今、結構考えてます」


 コメントを返す余裕は、あまりなかった。


 でも、見えてきたことはある。


 ガルゼンの力へ、正面から力を返す必要はない。


 あの棒の先が、自分の体を通らなければいい。


 それだけのことが、随分難しい。


     ◇


 休憩になって、俺は石段へ座った。


 腕を下ろす。


 じんじんする。


 ガドが水筒を差し出してきた。


「どうだ」


「……狩りより、打たれてますね」


「避けろ」


「避ける練習中です」


 水を飲む。


 足元へ来たイトが、俺の靴へ前脚を乗せた。


 今日は、助けに来なくていい。


 そう伝えるように指を近づけると、イトはそちらへ触れた。


〈イト心配してる?〉

〈応援に来た〉


「……大丈夫ですよ。たぶん」


「まだ振れるか」


 ガルゼンが聞いた。


 俺は水筒の栓を閉めた。


「振れます」


 棒を持つ。


 今度は、少し分かっている。


     ◇


 再開してから、ガルゼンの動きが速くなった。


 右から、棒。


 俺は斜めに合わせた。


 滑らせる。


 外へ。


 次は、下から。


 慌てて引いた棒へ、重いものが当たった。


 手がしびれる。


 それでも、正面で止めなかった。


 足をずらし、先端を横へ逃がす。


 ガルゼンの肩が、近づいた。


 続けて、柄の突き。


 俺は棒を引きつけた。


 先端を外へ押し出す。


 顔の横を、布が抜けた。


「……っ!」


 近い。


 けど、当たっていない。


 ガルゼンの棒が、右へ流れていた。


 俺の先端は、まだ前にある。


 踏み込んだ。


 胸へ、突く。


 ガルゼンが体をひねった。


 布が、肩の端をかすめる。


 初めて、触れた。


【防御行動の習熟度が一定値に達しました】


【スキル〈受け流し Lv.1〉を獲得しました】


「……来た」


〈新スキル!〉

〈何覚えた?〉


「受け流し、です」


 言い終わる前に、ガルゼンの棒が動いた。


「うおっ!」


 俺は慌てて構えた。


 肩へ来る先端へ、棒を合わせる。


 触れた。


 今までより、相手の力がどちらへかかっているか分かりやすい。


 それに沿って、手を動かす。


 足を、半歩。


 棒が横へ抜けた。


 体は、残った。


「……おぉ」


 ただ、横へそらしただけじゃない。


 次に動ける姿勢で、そこにいられる。


 俺はすぐ、棒を突き出した。


 ガルゼンの胸へ。


 今度は、布がしっかり当たった。


 低い音がした。


 相手が、一歩だけ下がる。


〈当たった!〉

〈初めてまともに入った!〉


 俺は棒を戻した。


 ガルゼンは、胸へ目を落とした。


 それから、こちらを見る。


「今のを忘れるな」


「……はい」


 少し、笑ってしまった。


 直後。


 脚へ、棒が当たった。


「痛っ!」


「終わっていない」


〈褒められて止まるなw〉

〈先生厳しい〉


 はい。


 忘れないようにします。


     ◇


 その後は、大戦斧へ持ち替えた。


 刃のついた武器なので、まずはゆっくり。


 ガルゼンの棒へ、刃の付け根に近い柄を合わせる。


 流す。


 足をずらす。


 重さが違う。


 練習棒のつもりで動かすと、戻りが遅れる。


 何度か試し、握る位置を直した。


 少しずつ。


 体が、その重さを覚えていく。


 最後に一度、横から来た棒を外へ流した。


 斧を戻す。


 すぐ、次の動きへ入れる。


 俺は、そこで止めた。


「……これ、短剣でも使えるんですか」


「使える。だが、同じ場所で受けるな」


 ガルゼンが、自分の棒を持ち上げた。


「短い武器で遠い打撃へ触りにいけば、先に手を打たれる」


「……なるほど」


「届くところで覚えろ」


 俺はうなずいた。


 スキルを覚えても、何でもできるわけじゃない。


 武器が違えば、できることも変わる。


 その辺も、少しずつ試していこう。


     ◇


【スキル〈受け流し Lv.1〉】


武器で受けた攻撃をそらす際の、角度や体の動きを補助する。


※自動で防御する効果はない。

※大きな力量差や武器の強度差がある場合、そらしきれないことがある。


     ◇


「……今日は、ここまでにしろ」


 ガルゼンが棒を下ろした。


 俺も、斧の先を地面へつける。


 腕が重い。


 脚も、随分疲れていた。


 レベルを上げた昨日とは、違う疲れ方だ。


「ありがとうございました」


 頭を下げる。


 ガルゼンは石段へ戻り、置いてあった肉をつまんだ。


 噛む。


 しばらくして、こちらを見た。


「次は、もう少し柔らかくしろ」


「……そっちも練習します」


〈次の課題増えた〉

〈料理も教われない?〉


「この人、教えてくれますかね」


「何をだ」


「肉を柔らかく焼く方法です」


「薄く切れ」


 即答だった。


 俺は、少し黙った。


「……なるほど」


 今日、一番簡単な助言かもしれない。


     ◇


 帰り道。


 イトが、頭の上で揺れている。


 ガドは隣を歩きながら、俺の腕を見た。


「よく打たれたな」


「ですね」


「次は、少し減らせ」


「そのつもりです」


 斧の柄へ、手を添える。


 攻撃を避ける。


 受け止める。


 その間に、そらすという選択が増えた。


 大会で、知らない武器を持った相手と戦う。


 そのとき、使える場面はきっとある。


〈いい訓練だったな〉

〈次はプレイヤー相手にも試したい〉

〈本番楽しみ〉


「……俺も、少し楽しみになってきました」


 もちろん、緊張はする。


 でも、今日の最初よりは。


 目の前へ武器が来たときに、やれることが増えた。


 それが、うれしい。


「帰ったら、忘れないうちに少しだけ振ります」


「飯を食ってからにしろ」


「はい」


 頭の上で、イトが動いた。


 角の根元に、脚が触れる。


 こいつも、飯には賛成らしい。





 ガルゼンとの訓練を終えて、帰ってきました。


 今はダンジョンの入口で、飯を食べています。


 肉は、薄く切りました。


 焼く時間も、少し短くしました。


「……前より、食いやすい」


〈早速実践してる〉

〈先生の教え〉

〈戦闘と料理を教わってきた鬼〉


「次、持っていくときは、これですね」


 残りを口へ入れ、水を飲む。


 足元では、イトも食事中だった。


 ガドは集落へ帰った。


 帰り際に「今日はもう休め」と言われたので、ひとまず座っています。


 ひとまず。


「では、ステータスを確認しましょうか」


 表示を開く。


 その上に、大会のお知らせが残っていた。


【第一回アビス闘技大会】


【開催まで、あと5日】


「……五日か」


 参加登録したときより、少しだけ実感が湧いてきた。


 ガルゼンにあれだけ打たれた後だ。


 知らない相手と戦うなら、まだ準備したい。


 俺は、ステータスへ目を移した。


     ◇


【ステータス】


プレイヤー名:修羅

種族:鬼

種族Lv:20


最大HP:572→649【UP!】

最大MP:104→118【UP!】

最大スタミナ:496→552【UP!】

筋力:109→123【UP!】

耐久:99→113【UP!】

敏捷:94→108【UP!】

魔力:22→29【UP!】

器用:27→34【UP!】


※鬼Lv.13からの成長を反映。

※最大HP:基礎値590+首飾り補正59=649。


獲得経験値:+10%【装備】


【種族特性】


〈怪力の芽〉

〈健啖〉


【スキル】


〈打撃 Lv.1〉

〈踏ん張り Lv.1〉

〈短剣術 Lv.2〉

〈斧術 Lv.3〉

〈索敵 Lv.3〉

〈鑑定 Lv.1〉

〈鬼装 Lv.2〉

〈受け流し Lv.1〉【NEW!】


【装備】


主武器:黒角の大戦斧

副武器:白糸大蜘蛛の牙短剣×2

胴:岩鱗の胴当て〈鬼用〉

腕:岩鱗の籠手

脚:岩鱗の脛当て

足:革靴〈鬼用〉

腰:ぼろ布の腰巻き・短剣用の革帯

道具:糸織りの袋

首飾り:始祖鬼の首飾り


【黒角の大戦斧・特殊効果】


〈喰命〉

この武器による攻撃で敵へとどめを刺すと、最大HPの5%を回復する。武器を介して放つ攻撃スキルにも適用。


現在の回復量:一体につき32。


【始祖鬼の首飾り】


・最大HP+10%

・獲得経験値+10%


第一段階:〈鬼力〉

第二段階:〈鬼震〉


≪未解放の封印効果≫

???


     ◇


「……結構、増えましたね」


 最初は、二つしかなかったスキル欄。


 今は、見返すだけでも少し時間がかかる。


 斧術。


 鬼装。


 索敵。


 どれも、よく使う。


 そして今日覚えた、受け流し。


 俺は説明を開き、もう一度読んだ。


 攻撃をそらす。


 ただし、自動ではない。


「……そこは、よく分かりました」


〈いっぱい打たれたもんな〉

〈最後はできてたぞ〉


「ありがとうございます。ただ……」


 膝へ手を置く。


 ガルゼンの棒を、外へ流した。


 構えも残せた。


 でも、その後。


「届かないこと、多かったんですよね」


 反撃しようとして、一歩出る。


 その間に、相手の棒が戻ってくる。


 ようやく触れたときも、肩の端だった。


「斧なら届くところでも、振るまでに時間がかかったりして」


〈間合いか〉

〈足が残ってないと攻撃できないんだな〉


「ですね。……足、ちょっと練習したいです」


 俺は立ち上がった。


 足元で、イトが顔を上げる。


「走り回ったりはしません。少しだけ」


〈誰に言い訳してるんだ〉

〈ガドに聞かれてるぞ〉


「聞かれてないです」


 ……たぶん。


     ◇


 広場の地面へ、木の枝で線を引く。


 そこから一歩、前へ出た。


 もう一本。


 今の自分が、無理なく踏み込める距離だ。


 斧は置いておく。


 まずは、手ぶらで。


「……こう、ですかね」


 後ろ脚で地面を押す。


 前へ。


 少し大きく、一歩。


 着地したところで、体が前へ倒れた。


 二歩目が出る。


「……止まれない」


〈行きすぎ〉

〈そのまま走りそう〉


 戻る。


 もう一度。


 今度は前脚で、強く止めてみた。


 膝へ、重さがかかる。


 体は止まった。


 ただ、両手を伸ばす余裕がなかった。


「これだと、着いて終わりですね……」


 相手の前へ行くだけでは駄目だ。


 そこで、斧を振れる。


 短剣を出せる。


 避けることもできる。


 そういう一歩にしたい。


 俺は、線の上へ戻った。


 歩幅を少し狭める。


 後ろ脚で押す。


 前脚をつく。


 遅れていた腰を、足の上へ運ぶ。


 今度は、二歩目が出なかった。


「……お」


 その場で、右手を前へ。


 短剣で突くつもりで、伸ばしてみる。


 届く。


 体も、崩れない。


〈今のよさそう〉

〈さっきより小さい動きだな〉


「欲張らないほうが、いいみたいですね」


 距離を出そうとして、大股になっていた。


 まずは、自分が戻れるところまで。


 俺は何度か繰り返し、線を少しだけ引き直した。


     ◇


 翌朝。


【大会開催まで、あと4日】


 表示を確認して、俺は足元を見た。


 昨日引いた線が、まだ残っている。


 その横を、イトが歩いていた。


 俺が構えると、足を止める。


「ちょっと離れててくださいね」


 手で岩のほうを示す。


 イトがそちらへ移ったのを見て、俺は木の練習棒を持った。


 足だけなら、少しできた。


 今日は、武器を持って。


 踏み込む。


 突く。


 棒の先が、思ったより前へ出た。


 肩が伸びる。


 戻す。


 ……遅い。


「武器持つと、また違うんですね」


〈重さ増えるしな〉

〈斧だともっと違いそう〉


「ですね」


 今度は、腕を先に出さない。


 足を動かす。


 腰が前へ来たところで、手を伸ばす。


 突いて、戻す。


 もう一回。


 少しずつ、足と手がそろってきた。


 そこで、声がした。


「昨日、休めと言ったな」


 俺は止まった。


 入口に、ガドがいた。


「……休みましたよ」


 ガドが、地面の線を見る。


 俺の手の棒を見る。


「飯は」


「食べました」


「なら、何をしてる」


「一歩の練習です」


 ガドが近づいてきた。


 線の前へ立つ。


「来い」


「……いいんですか?」


「見ないと分からん」


 俺は棒を構えた。


 踏み込む。


 胸へ向けて、先を出す。


 ガドが、半歩下がった。


 届かない。


 俺の棒は、胸の前で止まっていた。


「……あれ」


「足を出す前に、体が動いてる」


「見えてます?」


「来るのはな」


〈予告してたか〉

〈対人だとそこ見られるのか〉


 俺は構え直した。


 踏み込もうとして、止まる。


 自分でも分かった。


 前へ出る準備で、一度、体を後ろへ引いている。


 それから、地面を蹴っていた。


「……これ、ですか」


「なくせるならな」


 もう一度。


 今の構えから、そのまま。


 後ろ脚へ力を込める。


 前へ。


 棒を出す。


 ガドの槍が、俺の棒へ触れた。


 横へ外される。


 当たらなかった。


 でも、ガドの足も動いていた。


「前より、いい」


「……よし」


「当たってはいないぞ」


「分かってます」


     ◇


 その後は、狩りへ出た。


 相手は、岩鱗蜥蜴。


 慣れた相手だ。


 けれど、今日は少し違う。


 俺は大戦斧を地面へ置き、短剣を抜いた。


「今回は、こっちでやります」


〈久しぶりの二本〉

〈足の練習か〉


「はい。近づくところから、試したいので」


 斧なら、少し遠くても届く。


 短剣では、そうはいかない。


 相手の近くへ入って、抜ける。


 昨日からやっている一歩を、そこで使いたかった。


 イトには、後ろの岩へ回ってもらった。


 ガドは周囲を警戒している。


「……〈鑑定〉」


【岩鱗蜥蜴 Lv.45】

【HP:476/476】


 蜥蜴が、こちらを向いた。


 俺は短剣を構えた。


 まず、いつもどおり。


 走ってくる頭を避ける。


 前脚の内側へ、右の刃。


 浅く入る。


 抜く。


 蜥蜴が体をひねった。


 俺は下がった。


 尻尾が、前を通る。


 その後。


 相手が、脚を踏み直す。


 今だ。


 地面を蹴った。


「っ!」


 近い。


 思ったより、近い。


 腹へ手を伸ばす前に、肩が蜥蜴の体へぶつかった。


 硬い鱗。


 足がもつれる。


「うおっ!?」


 横へ倒れかけ、慌てて手をつく。


 蜥蜴の後脚が、胸の横をかすめた。


 転がって離れる。


〈近づきすぎ!〉

〈大丈夫か〉


「……距離、間違えました!」


 分かりやすい失敗だ。


 一歩を速くしようとして、長くなっていた。


 俺は立ち上がり、短剣を構え直した。


 蜥蜴が口を開く。


 牙。


 横へ抜ける。


 左の刃で、近づいてきた鼻先を切る。


 頭が引かれた。


 俺は追わず、足の位置を確かめた。


 もっと、手前。


 相手にぶつかるまで行く必要はない。


 刃が届けばいい。


     ◇


 二度目は、慎重に入った。


 尻尾を避ける。


 相手の体が戻る。


 そこへ、一歩。


 今度は、止まれた。


 右手を出す。


 前脚の後ろへ、刃が入る。


 抜く。


 蜥蜴の頭が、こちらへ向く。


 下がる。


 牙が、空を切った。


「……できた」


 息を吐く。


 ただ、一度入っただけだ。


 まだ、狙って繰り返せるかは分からない。


 俺は左右へ、小さく動いた。


 蜥蜴が顔を向ける。


 足が動く。


 そのとき、右側の岩へ張られた糸に、尻尾が触れた。


 相手の顔が、そちらへ向いた。


 俺は、動いた。


 体を引かない。


 構えたところから、前へ。


 後ろ脚で押し出す。


 前脚をつき、腰を乗せる。


 右手の短剣が、腹の前へ届いた。


【移動を伴う戦闘行動が一定の習熟度に達しました】


【スキル〈踏み込み Lv.1〉を獲得しました】


 文字が、視界へ浮かぶ。


 でも、見るのは後。


 短剣を抜く。


 左を構え、追ってくる頭から離れた。


 足が、ちゃんと戻る。


 蜥蜴の前脚が崩れた。


 俺はその外側へ回り、もう一度、刃を入れた。


 少しして、脚の動きが止まる。


【経験値を獲得しました】


 俺は二歩下がった。


 周囲を見る。


 ほかには、来ていない。


 そこで、ようやく表示を開いた。


「……踏み込み、覚えました」


〈来た!〉

〈移動スキル!〉

〈今の一歩、よかった〉


 俺は説明を読んだ。


     ◇


【スキル〈踏み込み Lv.1〉】


スタミナを10消費し、踏み出す一歩の速度と力を高める。


※移動距離は、通常の一歩より少し長い程度。

※踏み込んでいる間の方向転換は難しい。

※攻撃を自動で命中させる効果はない。


     ◇


「……やっぱり、途中では曲がりにくいんですね」


〈最初の激突がそれだな〉

〈外した後に殴られそう〉


「ですね。むやみに使うと、相手の前で止まります」


 さっき、体で確認した。


 相手が動けば、そこにはもういない。


 俺だけが、近くへ行ってしまう。


 それでも。


「隙ができたときには、使えそうです」


 ガドが近づいてきた。


 蜥蜴を見る。


 俺の足元を見る。


「最初より、止まれたな」


「……はい。最初は、ちょっと行きすぎました」


「ちょっとか」


「結構、行きました」


〈正直〉


 イトが岩から下りてきた。


 俺は短剣をしまってから、手を差し出す。


「助かりました。今の隙、イトが作ってくれましたね」


 前脚が指へかかる。


 そのまま手のひらへ乗ったイトを、肩へ移した。


 大会では、イトの糸はない。


 ガドの槍もない。


 今度は、自分で隙を作る。


 受け流して。


 踏み込む。


 そこへ、斧を当てる。


 ……つながりそうだ。


「ガド。帰ったら、少しだけ相手してもらえます?」


 ガドが、俺を見た。


「また打たれるぞ」


「今度は、届くかもしれません」


 ガドは少し黙ってから、鼻を鳴らした。


「飯の後ならな」


 俺は笑って、うなずいた。


「お願いします」


 大会まで、あと四日。


 できることが、また一つ増えた。

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