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21話 前日 他視点あり

●主人公視点


 それから三日。


 俺は、狩った。


 岩鱗の谷を歩き、火喰いの岩場を抜け、黒角の峡谷へ通った。


 ガドと獲物を運び、イトに糸を張ってもらい、帰ったら武器を手入れする。


 ガルゼンとの稽古も、続けた。


 受け流して、踏み込む。


 最初は、そらした攻撃を追いかけてしまった。


 次は、踏み込みすぎて肩をぶつけた。


 そして、その次には。


「――っ!」


 ガルゼンの棒を外へ流す。


 後ろ脚で地面を押す。


 前へ。


 俺の棒が、相手の胸へ届いた。


 同時に、頭へ軽い衝撃。


「痛っ!」


「顔を空けるな」


「……当たったんですけどね」


「お前もな」


 そうだった。


 当てて終わりではない。


 戻るところまで。


 その後も、何度も繰り返した。


     ◇


【〈受け流し〉のレベルが上がりました】


【受け流し Lv.1→Lv.2【UP!】】


【〈踏み込み〉のレベルが上がりました】


【踏み込み Lv.1→Lv.2【UP!】】


     ◇


 狩りでも、同じことを意識した。


 相手が動く。


 攻撃を外す。


 できた隙へ、一歩で入る。


 斧を振る。


 抜いて、戻す。


 蜥蜴の鱗を割る音が、谷へ響いた。


【経験値を獲得しました】


【〈喰命〉が発動しました】


 傷が戻る。


 ただ、疲れは残る。


 昼には座って飯を食い、腕が重くなれば帰った。


 無理をして武器を振り損ねるほうが、時間を無駄にする。


 そう言ったのは、ガドだった。


 俺も、一度斧を岩へぶつけてからは、素直に聞くようになった。


 そして三日目の夕方。


 火喰い蜥蜴の炎を横へ抜け、息を吐き終えた隙へ踏み込む。


 前脚の後ろへ、戦斧を打ち込んだ。


 倒れた体から刃を抜くと、表示が重なった。


【レベルが上がりました】


【種族Lv:34→35【UP!】】


【〈踏み込み〉のレベルが上がりました】


【踏み込み Lv.2→Lv.3【UP!】】


 俺は斧を下ろし、長く息を吐いた。


「……今日は、ここまで」


 大会は、明日だ。


     ◇


 はい。大会前日の修羅です。


 今日は、もう狩りをしません。


 しませんよ。


 誰に言っているのかというと、半分くらい自分にです。


「……まず、確認ですね」


 ダンジョンの入口へ腰を下ろし、配信を始める。


〈こんにちは!〉

〈いよいよ明日!〉

〈今日は準備?〉

〈三十五まで上げたのか〉


「はい。今日は装備を整えて、早めに終わろうと思います」


 頭の上で、イトが動いた。


 指を差し出すと、角からそちらへ移ってくる。


 隣の平たい石へ下ろしてから、ステータスを開いた。


     ◇


【ステータス】


プレイヤー名:修羅

種族:鬼

種族Lv:20→35【UP!】


最大HP:649→814【UP!】

最大MP:118→148【UP!】

最大スタミナ:552→672【UP!】

筋力:123→153【UP!】

耐久:113→143【UP!】

敏捷:108→138【UP!】

魔力:29→44【UP!】

器用:34→49【UP!】


※鬼Lv.20から15回分の成長を反映。

※最大HP:基礎値740+首飾り補正74=814。


獲得経験値:+10%【装備】


【種族特性】


〈怪力の芽〉

〈健啖〉


【スキル】


〈打撃 Lv.1〉

〈踏ん張り Lv.1〉

〈短剣術 Lv.2〉

〈斧術 Lv.3〉

〈索敵 Lv.3〉

〈鑑定 Lv.1〉

〈鬼装 Lv.2〉

〈受け流し Lv.1→Lv.2〉【UP!】

〈踏み込み Lv.1→Lv.3〉【UP!】


【首飾り解放スキル】


〈鬼力〉

〈鬼震〉


     ◇


「……こうして見ると、結構伸びましたね」


 筋力、百五十三。


 鬼になったばかりのときは、八十五だった。


 あのとき重かった大戦斧も、今は構えたまま待てる。


 振った後に、引っ張られて歩くことも減った。


〈HP八百超えたか〉

〈喰命の回復も増えてる?〉


「ですね。今だと、一体で四十回復します」


 八百十四の五%。


 小数点以下は切り捨てなので、四十。


 ありがたい数字だ。


 ただ、大会で当てにしすぎるのは危ない。


 決闘で相手が負けを認めたときには、回復しなかった。


「一対一だと、戦ってる途中で戻せるわけじゃないですからね」


〈そうか、とどめ条件だもんな〉

〈普段の狩り向きか〉


「はい。明日は、まず食らわないように頑張ります」


 言うのは、簡単なんですけどね。


     ◇


 武器を、布の上へ並べる。


 黒角の大戦斧。


 白糸大蜘蛛の牙短剣、二本。


 今日は、この三本を持っていくつもりだ。


 大戦斧の刃を、光へ向ける。


 細かい傷が増えていた。


 石を切ったところ。


 鱗へ入れたところ。


 握りの革も、最初より手になじんでいる。


「……ここ、少し浮いてますね」


 柄を補強する金属の輪へ、爪をかける。


 がたつきはない。


 ただ、革の端がめくれていた。


 短剣のほうは、鞘から抜くときに右だけ少し引っかかる。


 昨日、砂が入ったのかもしれない。


「まとめて、見てもらいましょう」


〈職人さんのところか〉

〈装備も結構傷んでるな〉


「ですね。三日間、ほぼ毎日使ったので」


 胴当てへ目を落とす。


 胸の鱗は残っている。


 脇の革には、擦れた跡。


 留め紐は、一度結び直してあった。


 明日、試合中にほどけたら困る。


 俺は素材袋を担いだ。


「今回は、材料もあります」


 狩りで集めた、鱗と皮。


 職人に残しておけと言われた、傷の少ないものだ。


 全部を売ったり、ポイントへ交換したりしなくてよかった。


     ◇


 工房へ着くと、職人は台を空けてくれた。


「明日か」


「はい。お願いします」


 武器を置く。


 防具を外す。


 素材を広げる。


 職人は、俺の胴当てを裏返した。


「紐は替える。ここも作り直す」


 指が、脇の部分をたたく。


「腕を前へ出せ」


 言われたとおりにする。


 次に、上。


 今度は、体をひねる。


 職人は動きを見ながら、炭で革へ印をつけた。


「前より、踏み込むな」


「最近、練習したので」


「なら、裾を短くする」


 腹の下まであった革が、腿へ少し当たっていたらしい。


 自分では、慣れてしまっていた。


「防御、減りません?」


「脚が止まるほうが悪い。腰は別に作る」


「……お願いします」


〈動きに合わせて作ってくれるのいいな〉

〈修羅専用装備〉


 台の端へイトを下ろす前に、職人がこちらを見た。


 俺は手を引っ込めた。


「……木箱ですね」


「分かってるなら、そうしろ」


 イトには、いつもの見学席へ移ってもらった。


     ◇


 防具を作ってもらっている間、俺は外で鞘を掃除した。


 布を細く巻き、内側の砂を落とす。


 短剣を抜く。


 戻す。


 引っかからない。


「……よし」


 ガドがやって来たのは、そのころだった。


「狩りには出ないのか」


「今日は休みです。明日、腕試しなので」


「そうだったな」


 隣へ腰を下ろし、短剣を見た。


「斧だけでやるなよ」


「分かってます。相手によって、変えます」


「熱くなったら忘れるだろ」


 俺は、短剣を鞘へ戻した。


「……覚えておきます」


 言い返せない。


 猪に向かって何度も棍棒を振っていたころから、そういうところはある。


〈ガド、よく見てる〉

〈大事な助言〉


 ガドが、俺の腰の帯を指した。


「それも替えてもらえ。右が下がってる」


 見下ろす。


 鞘の重みで、少し傾いていた。


「……本当だ」


「抜くところが変わるぞ」


 俺は立ち上がり、工房へ顔を出した。


「あの、追加で一つ――」


 職人が、顔を上げずに手を出した。


「帯」


「……分かるんですね」


「見えてた」


 はい。


 お願いします。


     ◇


 受け取った防具は、前より少しすっきりしていた。


 胸と腹には、重ねた岩鱗。


 脇は、柔らかい革。


 肩の留め具は外側へ移り、斧を持ち上げても腕へ触れなくなっている。


 腰には、左右に分かれた短い革の覆い。


 腿を上げても、裾を押しのけなくてよかった。


 籠手は傷んだ部分が交換され、内側の革も新しくなっていた。


 靴へ足を入れる。


 かかとが、収まる。


「外で動け」


 職人に言われ、広場へ出た。


 しゃがむ。


 立つ。


 横へ動く。


 短剣を抜く。


 戻す。


 斧を構える。


「……動きやすい」


 足を一歩、前へ。


 腰の革が、ちゃんと分かれて動いた。


 続けて大きく踏み込もうとして、止める。


 今日は、確認だけ。


「留め紐、ここか」


 ガドが背中を確かめる。


 軽く引いてから、うなずいた。


「いいな」


 職人は、修理した大戦斧を差し出した。


 刃の欠けが消えている。


 浮いていた握りの革も、巻き直されていた。


「石を殴るなよ」


「……なるべく」


「殴ったら見ろ」


「はい」


 俺は両手で受け取った。


 手のひらに、なじみのある重さ。


 明日、これを持って出る。


 そう思うと、自然と背筋が伸びた。


     ◇


【装備確認】


主武器:黒角の大戦斧〈刃・握り整備済み〉

副武器:白糸大蜘蛛の牙短剣×2〈整備済み〉


胴:岩鱗の胴当て〈改修〉

腕:岩鱗の籠手〈補修済み〉

腰:岩鱗革の腰当て【NEW!】

脚:岩鱗の脛当て〈補修済み〉

足:革靴〈底・留め紐交換済み〉

帯:短剣用の革帯〈新調〉

首飾り:始祖鬼の首飾り


     ◇


 拠点へ戻り、明日の持ち物をまとめた。


 武器。


 防具。


 水筒。


 手入れ用の布。


 念のため、替えの紐も。


 大会の案内を開き、集合時間と会場への転送方法を確認する。


 試合の後は、負傷や装備の損耗が元へ戻る。


 それでも、万全な状態で入るに越したことはない。


「……こんなものですかね」


〈忘れ物ない?〉

〈首飾り〉


「つけてます」


〈短剣〉


「あります」


〈イト〉


「……お留守番です」


 そばを見る。


 イトは俺の袋へ前脚をかけていた。


 持ち手を確かめるように触っている。


 俺は袋を置き、手を差し出した。


「明日は、一緒に入れないんですよ」


 イトが、手のひらへ乗る。


 小さな脚が、指をつかんだ。


「帰ってきたら、結果を話しますね」


〈待ってるぞ〉

〈いい試合見せてくれ〉

〈まず楽しんでこい〉


 俺は、コメントを読んだ。


 楽しむ。


 そうだ。


 参加したくて、登録したんだった。


 知らない相手と戦ってみたい。


 そのために、ここまで準備してきた。


「……はい。楽しんできます」


 イトを、いつもの岩へ移す。


 大戦斧を手に取り、一度だけ構えた。


 振らない。


 重さと、握る位置を確かめる。


 足を戻して、下ろした。


「今日は、ここまでにします」


〈明日な!〉

〈お疲れさま〉

〈ちゃんと寝ろよ〉


「寝ます。遅刻したら、さすがに笑えないので」


 配信を閉じる。


 急に静かになった入口で、武器をもう一度並べ直した。


 斧。


 短剣。


 新しい防具。


 全部、ある。


【第一回アビス闘技大会】


【開催まで、あと1日】


 俺は表示を閉じた。


「……よし」


 あとは、明日だ。



●柊圭斗視点


 目を開けると、見慣れた天井があった。


 ネクサスを外し、枕の横へ置く。


「……ふう」


 手を、握ってみる。


 さっきまで大戦斧を持っていた手だ。


 今は、何もない。


 起き上がり、足を床へ下ろす。


 鏡に映っているのは、角もなければ鱗の防具も着ていない、いつもの俺だった。


「……明日か」


 スマホを手に取る。


 配信終了の通知。


 新しくついたコメント。


 大会への応援も、いくつか届いていた。


『明日、最初から見ます!』


『斧の初日から見てる。頑張って!』


『イトにいい報告してやれよ』


 最後の一つを読んで、笑った。


 画面を閉じようとして、指が止まる。


 大会の告知。


 参加者一覧は、まだ全部見ていなかった。


 少しだけ。


 そう思って開き――。


「圭斗、ご飯!」


 階下から声がした。


「今行く!」


 スマホを伏せる。


 先に飯。


 その後、風呂。


 今日は、ちゃんと寝る。


 全部見たら、たぶん寝る時間が遅くなる。


 俺はスマホを机へ置き、部屋を出た。


     ◇


●とある大学生視点


「明日、何時からだっけ」


 通話の向こうで、友人が聞いた。


「予選は午前。俺は開始前から見る」


「早いな。休日だぞ」


「休日だからだろ」


 ノートパソコンには、大会の告知ページ。


 その横には、修羅の配信アーカイブを開いている。


 今日の準備配信だ。


 新しくなった腰当てを見せながら、本人がしゃがんだり立ったりしていた。


「お前、その鬼の人好きだよな」


「面白いんだよ。戦闘もいいし、普通に生活してるところも」


「俺、斧もらった動画しか見てない」


「だったら、最初の猪から見てほしい」


「今から?」


「……明日終わってからでいい」


 さすがに、全部は長い。


 俺はアラームを設定した。


 普段の講義の日より、三十分早い。


 友人が笑う。


「大学もそのくらい楽しみにしろよ」


「明日の予選に出席点があるなら、満点だわ」


 通話を終え、コンビニの袋を机へ置いた。


 飲み物。


 昼飯。


 菓子も少し。


 準備は、だいたいできている。


 最後にアーカイブのコメント欄へ、短く書き込んだ。


『明日、応援してる』


     ◇


●とある会社員視点


 風呂から上がると、妻がテレビを見ていた。


 映っているのは、森。


 その真ん中を、小さな蜘蛛を頭へ乗せた鬼が歩いている。


「……また、その人?」


「うん」


 俺は冷蔵庫から麦茶を出した。


 妻は普段、ゲームの配信を見ない。


 それが最近、夕飯の片づけを終えると、こうして修羅の動画を流していた。


「明日、大会なんだって」


「知ってる。ゲームの中でも通知来た」


「あなたも出るの?」


「出ないよ」


 ソファへ座る。


「俺、まだ人間の二十六だし。昨日も盾持ったまま川に落ちた」


「それは、レベルの問題なの?」


「たぶん違う」


 妻が笑った。


 テレビの中では、修羅がイトへ手を差し出している。


 蜘蛛が指を伝い、肩へ登った。


「この子も出るの?」


「配下は駄目らしい」


「そっか……」


 少し残念そうだった。


 俺は麦茶を飲みながら、画面を見る。


 妻が最初に見ていたのは、この蜘蛛が映った短い動画だった。


 そこから、火起こし。


 自作の防具。


 ガドとの出会い。


 気づけば、俺より詳しい。


「明日は一緒に見る?」


「予選から?」


「うん。どんな人が出るのかも見たい」


 俺は、少し考えた。


 明日の朝は、自分のレベル上げをするつもりだった。


 でも、大会が終わってからでもいい。


「じゃあ、昼は何か買ってくるか」


「始まる前にね」


「分かってる」


 妻は、もう公式配信の開始時刻を確認していた。


     ◇


●とあるβテスター視点


 机の上へ、ノートを開く。


 書いてあるのは、大会で使いそうな相手の名前。


 武器。


 種族。


 配信で確認できたスキル。


 全部が正しいとは限らない。


 配信していない参加者もいるし、見せていない手もあるだろう。


 それでも、何も知らないよりはいい。


 俺は画面の中の鬼を、一時停止した。


 修羅。


 両手斧。


 腰に短剣が二本。


 赤い衝撃波を放つ、地面への打ち下ろし。


「……ここで横に動くと、追ってくるのか」


 ガルゼン戦を、少し戻す。


 相手が避けた。


 修羅は、すぐには振り下ろしていない。


 向き直ってから、使っている。


 ノートへ書いた『地面への攻撃は横へ回避』に、線を引いた。


 これだけでは、足りない。


 スマホが震えた。


 友人からのメッセージだった。


『明日、緊張して寝坊すんなよ』


 俺は短く返す。


『お前もな』


 その下へ、もう一通届く。


『修羅と当たったら?』


 動画を見る。


 斧の刃が、鬼将の肩へ入る。


 勝利の表示。


 その後、修羅はその場へ座り込んでいた。


 俺は返信欄を開いた。


『見た技で負けるのは嫌だな』


 送って、ネクサスへ目を向ける。


 自分の剣も、今日のうちに整備した。


 準備はしてきた。


 当たるかどうかは、まだ分からない。


 それでも、同じ会場へ行くと思うと、少し口元が緩んだ。


     ◇


●とある高校生視点


「それ、誰?」


 机で動画を見ていると、妹が部屋を覗いた。


「ゲームの人」


「お兄ちゃんが欲しがってるやつ?」


「そう」


 アビス・フロンティア・オンライン。


 正式リリースは、もうすぐだ。


 ネクサスは、まだ持っていない。


 貯金はしている。


 けど、画面を見るたび、待つ時間が長く感じた。


 妹が横へ来た。


 ちょうど、修羅が装備を並べている場面だった。


「強そう」


「強いよ。最初は棒だったけど」


「棒?」


「木の棒。服も、あんまりなかった」


「今はあるじゃん」


「自分で狩って、材料集めて作ってもらったんだよ」


 妹は、少し黙って画面を見た。


 それから、修羅の頭を指した。


「この白いのは?」


「イト」


「かわいい」


「……だろ」


 自分の配下でもないのに、少しうれしかった。


「明日、大会出るんだって」


「勝てる?」


「分かんない。強い人、ほかにもいるし」


 俺は告知ページへ切り替えた。


 種族の違うプレイヤーが並んだ、公式イベントの画像。


 人間。


 エルフ。


 大柄な獣の姿。


 まだ、動画でも見たことのない種族がいる。


「俺も、いつか出たいな」


「この鬼で?」


「……そこは、まだ悩んでる」


 狼もいい。


 ドワーフも面白そうだった。


 でも、あの斧を見てしまうと、鬼も捨てがたい。


 妹が画面へ顔を近づけた。


「じゃあ、明日見てから決めれば?」


 それも、そうだ。


 俺は公式配信に、通知を設定した。


     ◇


●とある動画編集者視点


 書き出しの完了音が鳴った。


 画面には、修羅の大戦斧。


 敵を倒した直後、HPが戻る場面だ。


 本人が認めている範囲を確かめながら、配信の切り抜きをいくつか作っていた。


 最初に作ったのは、火起こしの動画だった。


 戦闘をまとめるつもりで見始めたのに、あの火がつくまで画面を閉じられなかった。


 次は、ガドとの会話。


 その次は、イト。


 最近は、戦闘の場面を使うことが増えた。


「……明日、忙しそうだな」


 公式大会。


 普段、同じ画面に映らない配信者たちが集まる。


 誰と誰が戦うのか。


 修羅は、どこまで行くのか。


 編集する側として、残しておきたい場面はきっと多い。


 ただ、明日はまず見るつもりだった。


 止めたり、戻したりせずに。


 俺は編集中の画面を閉じ、配信予約のページを開く。


 開始前なのに、待機のコメントが少しずつ増えていた。


『誰が優勝すると思う?』


『人間側の上位勢も出るらしい』


『魔物の対人戦、初めて見る』


『修羅、頑張れ』


 最後の文字を見て、俺も一つ書き込んだ。


『明日が楽しみ』


     ◇


●柊圭斗視点


 風呂を済ませ、部屋へ戻る。


 机の上には、スマホ。


 その横に、ネクサス。


 明日の開始時刻を、もう一度だけ確かめた。


 アラームを二つ。


 少し迷って、三つにした。


「……これなら、起きるだろ」


 充電を確認する。


 スマホも、ネクサスも問題なし。


 水も置いた。


 朝、慌てないように着替えも出しておく。


 全部済ませて、布団へ入った。


 部屋の明かりを消す。


 暗くなった天井を見ながら、右手を開いた。


 斧の柄は、ここにはない。


 でも、握る位置は思い出せる。


 ガルゼンの声も。


 ガドの、無理をするなという顔も。


 頭の上へ登ってくる、イトの小さな脚も。


「……いい報告、したいな」


 独り言を、枕へ落とす。


 明日は、どんな相手と戦うんだろう。


 一戦目は、何の種族だろう。


 考え始めると、なかなか止まらない。


 俺は目を閉じた。


 まずは、寝る。


 大会は、明日だ。


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