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14話 ダンジョンとさらなるレベルアップ

●主人公視点


 はい。今日は狩りに行きません。


 修羅でーす。


 理由は簡単。


 家の中に、まだ野生の蜘蛛がいるからです。


「外を回る前に、こっちを終わらせましょう」


〈それはそう〉

〈下の階、ずっと他人が住んでる〉


 俺は二階層へ続く扉の閂を上げた。


 隣にガド。


 足元にはイト。


 Lv.38になった俺と、新しい槍を持ったガド。


 今日は、三階層全部を使えるようにする。


     ◇


 二階層の蜘蛛は、前より少なかった。


 それでも、柱の裏に二匹。


 天井の割れ目に一匹。


 奥の通路にも、糸が張られていた。


「イト、ここで止まってください」


 先に、退路を確保する。


 俺が前へ。


 ガドが、隣の通路を見る。


 蜘蛛が糸を吐いた。


 柱へ隠れ、通り過ぎたところで踏み込む。


 脚をかわす。


 短剣を入れる。


 腹が床へ落ちる前に、もう一本。


【経験値を獲得しました】


【ダンジョン内討伐:14DPを獲得しました】


 止まらず、次を見る。


 頭上から下りてきた一匹へ、ガドの槍が伸びた。


 体が止まる。


 その横へ入って、俺が仕留める。


「……前より、楽ですね」


「油断すると捕まるぞ」


「はい」


 返事をした直後、靴の手前に糸が見えた。


 俺は、静かに足を戻した。


〈今、踏みかけたろ〉


「見つけたので、成功です」


     ◇


 三階層まで確かめ、残った蜘蛛を倒す。


 壁際の白い塊も、一つずつ調べた。


 卵らしきものが残っていたので、そこも放置せず片づける。


 イトには、使えそうな糸を外してもらった。


 俺たちは素材を分け、残りを吸収へ回す。


 さらに、外の狩りで置いてきた猪も回収した。


 さすがに二人では運びきれなかったので、村で手の空いている小鬼に頼んだ。


 報酬は、肉と皮の取り分。


 入口まで運んでもらい、必要なものを取った後で吸収する。


 行ったり来たり。


 解体して、分けて、また運ぶ。


 画面を開くころには、腕より腰が疲れていた。


【保有DP:1,042】


「……千、超えました」


〈改築資金できた〉

〈今日は運送業だったな〉


 俺は床へ座り、地図を広げた。


「では、使います」


     ◇


 最初に、一階層。


 入口から入ってすぐの場所に、曲がった石壁を作る。


 外から奥まで、まっすぐ見通せないようにするためだ。


 ただし、通路は狭めすぎない。


 荷物を持って通れなくなったら、困る。


「ここで、道を分けます」


 左は、俺の部屋と倉庫。


 右は、二階層へ続く道。


 生活する側には、閂付きの扉をもう一枚置いた。


「ガドたちが来るときは、こっちです」


「分かる印をつけろ」


 扉へ、糸を結ぶ。


 白い輪を一つ。


 これなら、松明の明かりでも見つけやすい。


 反対側には、見張り用のくぼみを二つ作った。


 床ではなく、壁の上。


 蜘蛛なら上れる。


 猪には、届かない。


「イトの仲間、ここに置きましょうか」


〈入口から蜘蛛が見てる家〉

〈防犯意識高い〉


「住む側なので、頼もしいです」


     ◇


 二階層には、もともと柱の並ぶ広い場所がある。


 その手前の通路を整理した。


 折れた木。


 尖った石。


 脚を引っかけそうな窪み。


 取り除いて、一本の道を通す。


 その先に、横へ抜けられる小さな通路を作った。


 俺たちが使うための道だ。


「こっちは、猪が走る場所にします」


 長い直線。


 その横に、休ませるための空間。


 入口側から来た相手を、奥へ誘い込んで迎える。


 けれど、突進した先が壁では困る。


 止まるための距離も残した。


 ガドが通路を歩く。


 振り返り、端へ寄る。


「お前が避けられる幅も要る」


「……それもですね」


 少し広げた。


〈家主がひかれる対策〉

〈先に確認できてよかった〉


 三階層は、大きく変えなかった。


 核の前を片づけ、明かりを置く。


 左右の壁には、蜘蛛が隠れられる足場。


 核へ向かう道を、両側から狙えるようにした。


 ここが、最後の守りだ。


【改築・設備設置:合計300DP】


【保有DP:742】


 地図を見る。


 同じ三階層。


 でも、俺たちが通る道と、相手を迎える場所ができていた。


「……あとは、住人ですね」


     ◇


 召喚画面を開く。


 まずは、糸吐き蜘蛛。


【召喚数:6】


【消費DP:240】


 光の中から、小さな蜘蛛が次々に現れた。


 一匹。


 二匹。


 三匹目が出たところで、イトが近づく。


 新しい蜘蛛も、そちらへ向き直った。


「……先輩ですよ、イト」


〈急に部下増えた〉

〈掃除係から出世〉


 一階層に二匹。


 二階層に二匹。


 三階層に二匹。


 イトには、俺と一緒に各場所を回ってもらった。


 張っていい糸。


 空けておく道。


 敵が来たら隠れる場所。


 一度に全部は覚えられないだろうから、短く区切って指示する。


 続いて、岩背猪。


【召喚数:2】


【消費DP:200】


 二階層の広場に、二匹が現れた。


 知っている猪より、小さい。


 背中の硬い部分も、まだ薄い。


 それでも、鼻を鳴らした瞬間、俺は少し身構えた。


「……味方ですからね」


〈自分に言ってる?〉


「半分くらいは」


 猪がこちらへ近づく。


 鼻先で、俺の手を押した。


 重い。


 けど、牙を振ってはこなかった。


 首の横へ触れてみる。


 硬い毛が、指の間へ当たった。


「よろしくお願いします。走るのは、あっちです」


     ◇


 配置しただけでは、まだ不安だ。


 実際に、動いてもらう。


 蜘蛛へ声をかける。


「侵入してきた敵の足元へ、糸を。味方が通る真ん中は、普段は空けておいてください」


 一本、糸が伸びる。


 低い位置に張られたそれを、枝で示す。


「ここで止まった相手を、猪が押します」


 俺は通路の先へ、丸めた枯れ草の束を置いた。


 猪へ指示する。


 一匹が走った。


 蹄の音。


 草の束が、勢いよく跳ねる。


 猪はその先を何歩か走り、鼻を下げて止まった。


「……おぉ」


〈ちゃんと止まった〉

〈これ食らいたくない〉


 もう一匹も、続こうとした。


「待って。交代です」


 止まる。


 よかった。


 二匹まとめて走ったら、前のやつにぶつかるところだった。


 俺は開始位置をずらし、待機する場所も分けた。


 何度か試して、ようやく落ち着く。


 画面の地図だけでは、分からないことが多い。


     ◇


 最後に、攻撃する相手を決めた。


 俺と、協力者に登録したガド。


 村から来る人は、まず入口で俺を呼んでもらう。


 人影を見たら、すぐ襲うのではなく知らせる。


 野生の魔物が奥へ入ってきたときは、迎撃。


 追い払えても、外までは追わない。


「帰ってこなくなったら、困りますからね」


 配下の行動範囲を、地図で確かめる。


 その途中で、説明の一行が目に入った。


【配下による討伐報酬】


「……ん?」


 開く。


【配下が敵を討伐した場合、参加した配下は経験値を獲得します】


【所有者にも、討伐経験値の一部が還元されます】


【ダンジョン内での討伐によるDPも獲得できます】


 俺は、読み直した。


「……俺にも、入る?」


〈え〉

〈留守中も?〉


 説明を下へ送る。


 所有者がその場にいなくても、還元される。


 ただし、自分の召喚した配下を倒しても報酬は得られない。


「じゃあ、迷い込んだ魔物をこいつらが倒したら……」


 経験値。


 ポイント。


 残った素材。


 しかも、配下も育つ。


 俺はゆっくり、猪を見る。


 猪は鼻先で、床を掘ろうとしていた。


「そこ、直したばっかりなんで、やめてもらえます?」


     ◇


 試す機会は、その日のうちに来た。


 入口で、短い音がする。


 見張りの蜘蛛が、壁へ張った糸を揺らしていた。


 俺は顔を上げた。


【侵入を検知しました】


 一階層の地図に、反応。


 入口から、少しずつ奥へ動いている。


 ガドが槍を取る。


「待ってください。様子を見ます」


 生活区画の扉を閉め、角からのぞく。


 黒っぽい影。


 狼だ。


 鼻を床へ近づけ、こちらの匂いを追っている。


 肉を運んだときに、何か落としたのかもしれない。


「〈鑑定〉」


【灰毛狼】


【Lv:12】


【HP:84/84】


 召喚したばかりの配下には、楽な相手ではない。


 俺は短剣へ手を置いた。


 危なくなったら、出る。


 狼が壁際へ寄った。


 頭上の蜘蛛が動く。


 糸。


 顔へかかった白い線を、狼が前脚で払った。


 その間に、もう一匹が床へ糸を伸ばす。


 狼が後ろへ跳ぶ。


 後脚が、引っかかった。


 鳴き声。


 無理に引き、糸が切れる。


 蜘蛛たちは近づかず、壁の上へ戻った。


「……いいです。そのまま」


 狼は入口へ戻ろうとした。


 だが、曲がった通路で進む方向を変え、二階層への道へ入る。


 階段を下りる音がした。


 俺たちは、脇道を使って先へ回った。


 猪が、顔を上げた。


 一匹目が通路へ出る。


 狼が気づく。


 低く、うなる。


 猪は止まらなかった。


 蹄が鳴る。


 狼が横へ避けようとした瞬間、柱の陰から糸が伸びた。


 前脚が、わずかに止まる。


 そこへ、猪がぶつかった。


 鈍い音。


 狼が転がる。


 猪は指示した先まで走り、向き直った。


 入れ替わりに、もう一匹が前へ出る。


 立とうとした狼を、太い牙が押し倒した。


 俺は、短剣を抜かないまま見ていた。


 やがて、動きが止まる。


【配下が〈灰毛狼〉を討伐しました】


【配下が経験値を獲得しました】


【所有者に経験値の一部が還元されます】


【ダンジョン内討伐:9DPを獲得しました】


「……入った」


〈本当に来た〉

〈守りながら育つのか!〉

〈ダンジョン持つ意味でかいな〉


 俺は経験値の表示を確かめた。


 少し、増えている。


 自分では、一度も攻撃していない。


 猪が戻ってくる。


 鼻を鳴らし、俺の前で止まった。


 俺は、その首の横へ手を置いた。


「……よくやりました」


     ◇


 蜘蛛の傷を確かめる。


 猪の脚も見る。


 大きな怪我はない。


 戦った配下を休ませ、狼の死体は回収した。


 新しい魔物だからといって、俺の召喚候補に名前は増えていなかった。


 今回は、俺自身は戦っていない。


「そっちは、ちゃんと自分で参加しろってことですかね」


 まあ、いい。


 行く理由が、残った。


 管理画面を開く。


【名称:未命名】


【階層数:三】


【保有DP:311】


【配下】

【糸吐き蜘蛛:7体〈イトを含む〉】

【岩背猪:2体】


 一階層には、寝床と倉庫。


 入口を見張る蜘蛛。


 二階層には、足を止めて迎撃する場所。


 三階層には、核を守る蜘蛛が二匹。


 まだ直したいところはある。


 もっと強い配下も欲しい。


 けれど、ひとまず。


「……完成、ですかね」


〈初期拠点完成!〉

〈おめでとう〉

〈ちゃんと守れたのがいいな〉


 俺は地図を閉じた。


 自分が狩りへ出ている間も、こいつらはここにいる。


 迷い込んだ相手を倒せば、俺にも経験値が入る。


 そして、帰れば荷物を置いて、飯を食って、休める。


「よし。次は、少し遠くまで――」


 背後で、がり、と音がした。


 振り返る。


 猪が、床を掘っていた。


「だから、そこはやめてくださいって!」


 完成した家に、最初の修繕箇所ができた。



今からレベリングに行きます!


「今回は東です。最初に猪と戦った岩山、覚えてます?」


〈棍棒が壊れかけたところ〉

〈火起こし会場〉


「そうです。今日は、あの斜面を越えてみます」


 腰の短剣を確かめる。


 水。


 食事。


 素材を入れるため、できるだけ空けた袋。


 ガドは入口の外で、槍の紐を締めていた。


「イトは留守番です。今日は、二人で行きます」


 足元のイトへ、しゃがんで声をかける。


「入口の二匹と交代しながら、見張りお願いします。無理な相手が来たら、奥へ下がってください」


 前脚が、俺の靴へ触れた。


 俺も、そっと頭を撫でる。


「じゃあ、行ってきます」


     ◇


 久しぶりに戻った岩山は、前と同じだった。


 灰色の岩。


 転がる小石。


 ところどころに生える、短い草。


 ただ、登るのは随分楽になっている。


 前なら両手をついていた段差を、片足で上がれた。


「……成長、感じますね」


 振り返る。


 下には、角兎を追いかけた草原。


 その向こうに、森が広がっている。


 俺の始まりは、あの辺だ。


 そこから、まだ数日。


 随分、歩いた気がする。


「上で止まれ」


 ガドが言った。


「いきなり顔を出すなよ」


「了解です」


 最後の岩へ手をかけ、体を低くする。


 そっと、向こうをのぞいた。


 斜面の先には、乾いた谷があった。


 背の低い木。


 岩の間を縫う、細い道。


 遠くでは水面が光っている。


 そして、谷底で何かが動いていた。


「……蜥蜴?」


 長い尾。


 低い胴体。


 四本の脚。


 背中には、平たい板のような鱗が並んでいる。


 近くの岩へ爪をかけ、そのまま上った。


 小さくはない。


 頭から尾の先まで、俺の背丈の二倍くらいありそうだ。


「〈鑑定〉」


【岩鱗蜥蜴】


【Lv:41】


【HP:428/428】


「……新しいの、いましたね」


〈でかい〉

〈尾が長いな〉

〈また背中硬そうなやつだ〉


「今度は、最初から背中を避けます」


 前回の俺とは違うんですよ。


     ◇


 ガドも、岩の隙間から谷を見た。


「あれは尾に気をつけろ」


「噛みつき以外もあるんですね」


「横へ回ると振ってくる。岩の上でも追ってくるぞ」


 俺は谷底へ目を戻す。


 岩鱗蜥蜴は、岩の上で腹を地面につけていた。


 目だけが、ゆっくり動いている。


 動きは鈍そうに見える。


 でも、そういう見た目で油断した結果が、最初の猪だった。


 まず、下りる場所を選ぶ。


 退路になる斜面。


 足を置ける岩。


 戦うなら、小石の少ない場所がいい。


「ガド、正面を見てもらえます?」


「ああ。横へ行きすぎるなよ」


「はい」


 俺たちは、少し離れて谷へ下りた。


     ◇


 近づくと、蜥蜴が頭を上げた。


 黄色い目。


 口が、わずかに開く。


 並んだ歯が見えた。


「……どうも」


 短剣を抜く。


 その音に反応したのか、体が持ち上がった。


 次の瞬間、走ってきた。


「速っ!」


 ガドの槍が、鼻先へ伸びる。


 蜥蜴は頭を横へ振り、穂先をかわした。


 そのまま、俺へ。


 低い。


 猪より、ずっと下から来る。


 俺は横へ跳び、牙を避けた。


 すぐに右の短剣を振る。


 狙いは前脚の内側。


 けれど、刃先が触れたのは、硬い鱗だった。


 かつん、と音がする。


「っ……浅い!」


 引く。


 そのとき、視界の端で尾が消えた。


 来る。


 俺は体を低くした。


 頭の上を、風が通った。


 尾が、背後の細い木へぶつかる。


 枝が折れた。


〈今の危なっ〉

〈木が揺れたぞ〉


「……ちゃんと横まで届きますね」


 立ち上がる。


 蜥蜴はもう、こちらへ顔を向けていた。


 前脚も後脚も低い。


 腹は、ほとんど地面についている。


 猪みたいに下へ潜っても、刃を入れる隙間が少ない。


「どうするかな……」


 ガドの槍が、横から突き出される。


 蜥蜴が顔を向けた。


 前脚が踏み直される。


 その付け根に、一瞬だけ、しわが見えた。


 鱗の板と板の間。


 俺は、そこを覚えた。


     ◇


 次の突進は、追わなかった。


 避けて、止まる。


 蜥蜴が向き直る。


 尾が来る。


 俺は一歩、外へ下がった。


 長い尾が空を切る。


 勢いで、胴体まで少し回った。


 その間に、ガドが槍を入れる。


 肩の鱗へ当たった。


 硬い音。


 だが、蜥蜴の頭がそちらへ向く。


「今!」


 俺は踏み込んだ。


 開いた前脚の内側へ。


 刃先を立て、しわの奥を突く。


 入った。


 蜥蜴が、鋭く息を吐いた。


 すぐに抜く。


 頭が戻る。


 俺は体を引いた。


 牙が、左の短剣へ触れる。


 噛まれる前に引き戻し、距離を取った。


【HP:376/428】


「……よし。通る」


 場所は分かった。


 けど、そこへ行くたびに牙と尾を避けるのは、少し忙しい。


 俺は近くの岩へ目を向けた。


 腰より高い、大きな岩。


 地面との間に、細い隙間がある。


「ガド。あの岩、使います」


 指さす。


 ガドがうなずいた。


     ◇


 俺は岩の手前へ移動した。


 蜥蜴が追う。


 ガドは横へ。


 俺は短剣を構えたまま、じりじり下がる。


 蜥蜴の腹が、地面から浮いた。


 来る。


 岩の横へ逃げる。


 牙が通り過ぎる。


 今度は、すぐに振り向かない。


 後ろから、爪が岩を引っかく音。


 蜥蜴は止まらず、岩へ上り始めていた。


「登るんですよね」


 前脚が上がる。


 腹が見える。


 俺は岩の陰で、首飾りへ触れた。


「〈鬼力〉」


 胸が熱くなる。


 短剣を握り直す。


 そのまま、横から踏み込んだ。


 右の刃を、持ち上がった胴へ。


 突く。


 深く入る。


 蜥蜴の前脚が、岩を滑った。


「ガド!」


 槍の鉤が、反対側の前脚の付け根へ掛かった。


 ガドが横へ引く。


 蜥蜴の体が、斜めに崩れた。


 尾が暴れる。


 俺は下がった。


 石が跳ねる。


 尾が地面をたたいた。


 その一振りが終わったところへ、もう一度入る。


 左の刃を、柔らかい腹へ。


 抜く。


 右を、同じ傷へ。


 蜥蜴が頭を持ち上げた。


 俺の腕へ、口が迫る。


「っ!」


 無理に刺し続けない。


 半歩下がり、顎の届く場所から外れる。


 ガドの槍が、頭の横を突いた。


 蜥蜴が身をよじる。


 俺は後脚から離れ、前側へ回った。


【HP:97/428】


 まだ、ある。


 俺は息を吐く。


 鬼力の熱も、まだ残っている。


 蜥蜴が起き上がろうとした。


 傷ついた前脚が、地面を押す。


 俺はそこへ、短剣を合わせた。


 踏み込む。


 継ぎ目へ、まっすぐ。


 蜥蜴の体が沈んだ。


 刃を抜き、すぐに離れる。


 尾が、ゆっくり動く。


 やがて、それも止まった。


【岩鱗蜥蜴を討伐しました】


【経験値を獲得しました】


【種族Lv:38→39【UP!】】


【召喚可能な魔物に〈岩鱗蜥蜴〉が追加されました】


「……よし!」


〈新種討伐!〉

〈これ配下にできるのか〉

〈壁登れるのいいな〉


 俺も、通知を見た。


 背中が硬い。


 低い場所を走る。


 岩も登る。


 しかも、尾で横を払える。


「……欲しいですね」


 ガドが槍を抜き、こちらを見た。


「まず、こいつをどう運ぶ?」


 俺は倒れた蜥蜴へ目を戻す。


 長い。


 尾が、かなり長い。


「……また運搬の話ですか」


     ◇


 使えそうな鱗を、先に確かめた。


 背中の板は硬く、端が重なっている。


 腹側は、それよりずっと薄い。


 古い短剣で継ぎ目をなぞると、少しずつ外せた。


「これ、防具に使えそうですね」


「持ち帰って聞け。全部取ると重いぞ」


 まず、割れていないものを数枚。


 それと爪。


 尾の扱いは、職人に聞いてからだ。


 袋へ分けて入れていると、視界に通知が出た。


【配下が〈糸吐き蜘蛛〉を討伐しました】


【所有者に経験値の一部が還元されます】


「……お」


〈家から仕送り〉

〈留守番組も働いてる〉


 配下の状態を確認する。


 大きな怪我はない。


 ちゃんと、守れている。


「ありがとうございます。帰ったら、そっちも見ますね」


 ここにはいない相手へ返事をして、立ち上がった。


 谷の奥を見る。


 日なたの岩に、もう一匹。


 水辺にも、長い尾が見えた。


「……まだいますね」


 ガドが水を飲み、竹筒をしまう。


「今の動き、覚えたか?」


「ええ。尾を振った後と、登るときです」


「なら、次は俺が引く」


 俺は二本の短剣を構え直した。


「お願いします」


     ◇


 二匹目は、Lv.40。


 岩を使わず、尾を振らせた直後に、ガドが正面から押さえた。


 俺が横へ入り、脚の付け根を狙う。


 三匹目は、Lv.43。


 思ったより早く頭を戻され、肩を噛まれかけた。


 そこで、同じ種類でも油断しないように、もう一度距離を取った。


 倒し方が分かれば、動きは減らせる。


 けれど、相手を見るのをやめていいわけではない。


 四匹目。


 五匹目。


 谷を回り、離れた個体を選んで狩る。


 休むたびに、刃と柄を確かめた。


 鬼力を使うときも、最初の一撃へ焦って飛び込まない。


 相手が腹を見せる、そのときまで待つ。


 それだけで、三十秒の使い方が変わった。


     ◇


 昼を過ぎ、袋が埋まったところで、探索を切り上げた。


 目印を残し、帰る方向からも岩の形を確かめる。


 谷の奥は、まだ続いている。


 けれど、今日はここまでだ。


 俺はステータスを開いた。


【種族Lv:38→44【UP!】】


「……六つ、上がりました」


〈順調!〉

〈もう猪狩りのころと別物だな〉


 短剣を握る手を見る。


 初めて猪を倒したときは、棍棒が折れないか祈っていた。


 今は、自分より大きな蜥蜴を倒して、その素材を持って帰る。


「次は、この鱗で防具ですね」


 袋の口を締める。


 そのとき、谷の奥で、石の崩れる音がした。


 俺とガドが、同時に顔を向けた。


 遠い。


 水辺の向こう。


 大きな岩の上を、何かが歩いていた。


 蜥蜴ではない。


 四本の脚。


 長い尾。


 背中から、細い棘が何本も突き出している。


 そいつが岩陰へ消れる直前、頭だけがこちらを向いた。


 口の端から、淡い煙が漏れていた。


「……今の、見ました?」


「ああ」


 俺は鑑定しようとした。


 だが、もう姿はない。


 表示も出なかった。


 少しだけ、谷へ戻りたくなる。


 ガドが俺の袋を、槍の柄で軽く押した。


「今日は、持てん」


 俺は重い肩紐を持ち直した。


「……次ですね」


 帰ったら、鱗を見てもらおう。


 できれば、今よりずっと丈夫な防具にしてもらいたい。


【ステータス】


プレイヤー名:修羅

種族:小鬼〈こおに〉

種族Lv:38→44【UP!】


最大HP:275→308【UP!】

最大MP:53→59【UP!】

最大スタミナ:270→300【UP!】

筋力:52→58【UP!】

耐久:46→52【UP!】

敏捷:50→56【UP!】

魔力:5

器用:10


獲得経験値:+10%【装備】


※最大HP:基礎値280+装備補正28=308。


【種族特性】


〈怪力の芽〉

体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。


〈健啖〉

食事によるスタミナ回復量が多い。


【スキル】


〈打撃 Lv.1〉

棍棒や拳による攻撃を補助する。


〈踏ん張り Lv.1〉

足を止めて構えると、押し倒されにくくなる。


〈短剣術 Lv.2〉

短剣を扱う動作を補助する。連続攻撃や、攻撃後の構え直しが滑らかになる。


〈索敵 Lv.1〉

周囲の物音や動きから、敵の気配に気づきやすくなる。


〈鑑定 Lv.1〉

魔物の名前・レベル・現在HPと最大HPなど、対象の基本情報を確認できる。


【装備スキル】


〈鬼力 Lv.1〉

・消費MP:10

・効果時間:30秒

・筋力、耐久+50%

・効果終了後、60秒間は再使用不可


発動中:

筋力:58→87【UP!】

耐久:52→78【UP!】


【装備】


右手:白糸大蜘蛛の牙短剣

左手:白糸大蜘蛛の牙短剣

胴:岩背猪の革胴当て

腰:ぼろ布の腰巻き

足:小鬼の革靴

背中:岩背猪の革袋

首飾り:始祖鬼の首飾り


【始祖鬼の首飾り】


・最大HP+10%

・獲得経験値+10%

・第一段階:〈鬼力 Lv.1〉【解放済み】


≪未解放の封印効果≫

???


【所有ダンジョン】


名称:未命名

階層数:全三階層

配下:糸吐き蜘蛛7体〈イトを含む〉、岩背猪2体


【新規召喚解放】


〈岩鱗蜥蜴〉

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