14話 ダンジョンとさらなるレベルアップ
●主人公視点
はい。今日は狩りに行きません。
修羅でーす。
理由は簡単。
家の中に、まだ野生の蜘蛛がいるからです。
「外を回る前に、こっちを終わらせましょう」
〈それはそう〉
〈下の階、ずっと他人が住んでる〉
俺は二階層へ続く扉の閂を上げた。
隣にガド。
足元にはイト。
Lv.38になった俺と、新しい槍を持ったガド。
今日は、三階層全部を使えるようにする。
◇
二階層の蜘蛛は、前より少なかった。
それでも、柱の裏に二匹。
天井の割れ目に一匹。
奥の通路にも、糸が張られていた。
「イト、ここで止まってください」
先に、退路を確保する。
俺が前へ。
ガドが、隣の通路を見る。
蜘蛛が糸を吐いた。
柱へ隠れ、通り過ぎたところで踏み込む。
脚をかわす。
短剣を入れる。
腹が床へ落ちる前に、もう一本。
【経験値を獲得しました】
【ダンジョン内討伐:14DPを獲得しました】
止まらず、次を見る。
頭上から下りてきた一匹へ、ガドの槍が伸びた。
体が止まる。
その横へ入って、俺が仕留める。
「……前より、楽ですね」
「油断すると捕まるぞ」
「はい」
返事をした直後、靴の手前に糸が見えた。
俺は、静かに足を戻した。
〈今、踏みかけたろ〉
「見つけたので、成功です」
◇
三階層まで確かめ、残った蜘蛛を倒す。
壁際の白い塊も、一つずつ調べた。
卵らしきものが残っていたので、そこも放置せず片づける。
イトには、使えそうな糸を外してもらった。
俺たちは素材を分け、残りを吸収へ回す。
さらに、外の狩りで置いてきた猪も回収した。
さすがに二人では運びきれなかったので、村で手の空いている小鬼に頼んだ。
報酬は、肉と皮の取り分。
入口まで運んでもらい、必要なものを取った後で吸収する。
行ったり来たり。
解体して、分けて、また運ぶ。
画面を開くころには、腕より腰が疲れていた。
【保有DP:1,042】
「……千、超えました」
〈改築資金できた〉
〈今日は運送業だったな〉
俺は床へ座り、地図を広げた。
「では、使います」
◇
最初に、一階層。
入口から入ってすぐの場所に、曲がった石壁を作る。
外から奥まで、まっすぐ見通せないようにするためだ。
ただし、通路は狭めすぎない。
荷物を持って通れなくなったら、困る。
「ここで、道を分けます」
左は、俺の部屋と倉庫。
右は、二階層へ続く道。
生活する側には、閂付きの扉をもう一枚置いた。
「ガドたちが来るときは、こっちです」
「分かる印をつけろ」
扉へ、糸を結ぶ。
白い輪を一つ。
これなら、松明の明かりでも見つけやすい。
反対側には、見張り用のくぼみを二つ作った。
床ではなく、壁の上。
蜘蛛なら上れる。
猪には、届かない。
「イトの仲間、ここに置きましょうか」
〈入口から蜘蛛が見てる家〉
〈防犯意識高い〉
「住む側なので、頼もしいです」
◇
二階層には、もともと柱の並ぶ広い場所がある。
その手前の通路を整理した。
折れた木。
尖った石。
脚を引っかけそうな窪み。
取り除いて、一本の道を通す。
その先に、横へ抜けられる小さな通路を作った。
俺たちが使うための道だ。
「こっちは、猪が走る場所にします」
長い直線。
その横に、休ませるための空間。
入口側から来た相手を、奥へ誘い込んで迎える。
けれど、突進した先が壁では困る。
止まるための距離も残した。
ガドが通路を歩く。
振り返り、端へ寄る。
「お前が避けられる幅も要る」
「……それもですね」
少し広げた。
〈家主がひかれる対策〉
〈先に確認できてよかった〉
三階層は、大きく変えなかった。
核の前を片づけ、明かりを置く。
左右の壁には、蜘蛛が隠れられる足場。
核へ向かう道を、両側から狙えるようにした。
ここが、最後の守りだ。
【改築・設備設置:合計300DP】
【保有DP:742】
地図を見る。
同じ三階層。
でも、俺たちが通る道と、相手を迎える場所ができていた。
「……あとは、住人ですね」
◇
召喚画面を開く。
まずは、糸吐き蜘蛛。
【召喚数:6】
【消費DP:240】
光の中から、小さな蜘蛛が次々に現れた。
一匹。
二匹。
三匹目が出たところで、イトが近づく。
新しい蜘蛛も、そちらへ向き直った。
「……先輩ですよ、イト」
〈急に部下増えた〉
〈掃除係から出世〉
一階層に二匹。
二階層に二匹。
三階層に二匹。
イトには、俺と一緒に各場所を回ってもらった。
張っていい糸。
空けておく道。
敵が来たら隠れる場所。
一度に全部は覚えられないだろうから、短く区切って指示する。
続いて、岩背猪。
【召喚数:2】
【消費DP:200】
二階層の広場に、二匹が現れた。
知っている猪より、小さい。
背中の硬い部分も、まだ薄い。
それでも、鼻を鳴らした瞬間、俺は少し身構えた。
「……味方ですからね」
〈自分に言ってる?〉
「半分くらいは」
猪がこちらへ近づく。
鼻先で、俺の手を押した。
重い。
けど、牙を振ってはこなかった。
首の横へ触れてみる。
硬い毛が、指の間へ当たった。
「よろしくお願いします。走るのは、あっちです」
◇
配置しただけでは、まだ不安だ。
実際に、動いてもらう。
蜘蛛へ声をかける。
「侵入してきた敵の足元へ、糸を。味方が通る真ん中は、普段は空けておいてください」
一本、糸が伸びる。
低い位置に張られたそれを、枝で示す。
「ここで止まった相手を、猪が押します」
俺は通路の先へ、丸めた枯れ草の束を置いた。
猪へ指示する。
一匹が走った。
蹄の音。
草の束が、勢いよく跳ねる。
猪はその先を何歩か走り、鼻を下げて止まった。
「……おぉ」
〈ちゃんと止まった〉
〈これ食らいたくない〉
もう一匹も、続こうとした。
「待って。交代です」
止まる。
よかった。
二匹まとめて走ったら、前のやつにぶつかるところだった。
俺は開始位置をずらし、待機する場所も分けた。
何度か試して、ようやく落ち着く。
画面の地図だけでは、分からないことが多い。
◇
最後に、攻撃する相手を決めた。
俺と、協力者に登録したガド。
村から来る人は、まず入口で俺を呼んでもらう。
人影を見たら、すぐ襲うのではなく知らせる。
野生の魔物が奥へ入ってきたときは、迎撃。
追い払えても、外までは追わない。
「帰ってこなくなったら、困りますからね」
配下の行動範囲を、地図で確かめる。
その途中で、説明の一行が目に入った。
【配下による討伐報酬】
「……ん?」
開く。
【配下が敵を討伐した場合、参加した配下は経験値を獲得します】
【所有者にも、討伐経験値の一部が還元されます】
【ダンジョン内での討伐によるDPも獲得できます】
俺は、読み直した。
「……俺にも、入る?」
〈え〉
〈留守中も?〉
説明を下へ送る。
所有者がその場にいなくても、還元される。
ただし、自分の召喚した配下を倒しても報酬は得られない。
「じゃあ、迷い込んだ魔物をこいつらが倒したら……」
経験値。
ポイント。
残った素材。
しかも、配下も育つ。
俺はゆっくり、猪を見る。
猪は鼻先で、床を掘ろうとしていた。
「そこ、直したばっかりなんで、やめてもらえます?」
◇
試す機会は、その日のうちに来た。
入口で、短い音がする。
見張りの蜘蛛が、壁へ張った糸を揺らしていた。
俺は顔を上げた。
【侵入を検知しました】
一階層の地図に、反応。
入口から、少しずつ奥へ動いている。
ガドが槍を取る。
「待ってください。様子を見ます」
生活区画の扉を閉め、角からのぞく。
黒っぽい影。
狼だ。
鼻を床へ近づけ、こちらの匂いを追っている。
肉を運んだときに、何か落としたのかもしれない。
「〈鑑定〉」
【灰毛狼】
【Lv:12】
【HP:84/84】
召喚したばかりの配下には、楽な相手ではない。
俺は短剣へ手を置いた。
危なくなったら、出る。
狼が壁際へ寄った。
頭上の蜘蛛が動く。
糸。
顔へかかった白い線を、狼が前脚で払った。
その間に、もう一匹が床へ糸を伸ばす。
狼が後ろへ跳ぶ。
後脚が、引っかかった。
鳴き声。
無理に引き、糸が切れる。
蜘蛛たちは近づかず、壁の上へ戻った。
「……いいです。そのまま」
狼は入口へ戻ろうとした。
だが、曲がった通路で進む方向を変え、二階層への道へ入る。
階段を下りる音がした。
俺たちは、脇道を使って先へ回った。
猪が、顔を上げた。
一匹目が通路へ出る。
狼が気づく。
低く、うなる。
猪は止まらなかった。
蹄が鳴る。
狼が横へ避けようとした瞬間、柱の陰から糸が伸びた。
前脚が、わずかに止まる。
そこへ、猪がぶつかった。
鈍い音。
狼が転がる。
猪は指示した先まで走り、向き直った。
入れ替わりに、もう一匹が前へ出る。
立とうとした狼を、太い牙が押し倒した。
俺は、短剣を抜かないまま見ていた。
やがて、動きが止まる。
【配下が〈灰毛狼〉を討伐しました】
【配下が経験値を獲得しました】
【所有者に経験値の一部が還元されます】
【ダンジョン内討伐:9DPを獲得しました】
「……入った」
〈本当に来た〉
〈守りながら育つのか!〉
〈ダンジョン持つ意味でかいな〉
俺は経験値の表示を確かめた。
少し、増えている。
自分では、一度も攻撃していない。
猪が戻ってくる。
鼻を鳴らし、俺の前で止まった。
俺は、その首の横へ手を置いた。
「……よくやりました」
◇
蜘蛛の傷を確かめる。
猪の脚も見る。
大きな怪我はない。
戦った配下を休ませ、狼の死体は回収した。
新しい魔物だからといって、俺の召喚候補に名前は増えていなかった。
今回は、俺自身は戦っていない。
「そっちは、ちゃんと自分で参加しろってことですかね」
まあ、いい。
行く理由が、残った。
管理画面を開く。
【名称:未命名】
【階層数:三】
【保有DP:311】
【配下】
【糸吐き蜘蛛:7体〈イトを含む〉】
【岩背猪:2体】
一階層には、寝床と倉庫。
入口を見張る蜘蛛。
二階層には、足を止めて迎撃する場所。
三階層には、核を守る蜘蛛が二匹。
まだ直したいところはある。
もっと強い配下も欲しい。
けれど、ひとまず。
「……完成、ですかね」
〈初期拠点完成!〉
〈おめでとう〉
〈ちゃんと守れたのがいいな〉
俺は地図を閉じた。
自分が狩りへ出ている間も、こいつらはここにいる。
迷い込んだ相手を倒せば、俺にも経験値が入る。
そして、帰れば荷物を置いて、飯を食って、休める。
「よし。次は、少し遠くまで――」
背後で、がり、と音がした。
振り返る。
猪が、床を掘っていた。
「だから、そこはやめてくださいって!」
完成した家に、最初の修繕箇所ができた。
今からレベリングに行きます!
「今回は東です。最初に猪と戦った岩山、覚えてます?」
〈棍棒が壊れかけたところ〉
〈火起こし会場〉
「そうです。今日は、あの斜面を越えてみます」
腰の短剣を確かめる。
水。
食事。
素材を入れるため、できるだけ空けた袋。
ガドは入口の外で、槍の紐を締めていた。
「イトは留守番です。今日は、二人で行きます」
足元のイトへ、しゃがんで声をかける。
「入口の二匹と交代しながら、見張りお願いします。無理な相手が来たら、奥へ下がってください」
前脚が、俺の靴へ触れた。
俺も、そっと頭を撫でる。
「じゃあ、行ってきます」
◇
久しぶりに戻った岩山は、前と同じだった。
灰色の岩。
転がる小石。
ところどころに生える、短い草。
ただ、登るのは随分楽になっている。
前なら両手をついていた段差を、片足で上がれた。
「……成長、感じますね」
振り返る。
下には、角兎を追いかけた草原。
その向こうに、森が広がっている。
俺の始まりは、あの辺だ。
そこから、まだ数日。
随分、歩いた気がする。
「上で止まれ」
ガドが言った。
「いきなり顔を出すなよ」
「了解です」
最後の岩へ手をかけ、体を低くする。
そっと、向こうをのぞいた。
斜面の先には、乾いた谷があった。
背の低い木。
岩の間を縫う、細い道。
遠くでは水面が光っている。
そして、谷底で何かが動いていた。
「……蜥蜴?」
長い尾。
低い胴体。
四本の脚。
背中には、平たい板のような鱗が並んでいる。
近くの岩へ爪をかけ、そのまま上った。
小さくはない。
頭から尾の先まで、俺の背丈の二倍くらいありそうだ。
「〈鑑定〉」
【岩鱗蜥蜴】
【Lv:41】
【HP:428/428】
「……新しいの、いましたね」
〈でかい〉
〈尾が長いな〉
〈また背中硬そうなやつだ〉
「今度は、最初から背中を避けます」
前回の俺とは違うんですよ。
◇
ガドも、岩の隙間から谷を見た。
「あれは尾に気をつけろ」
「噛みつき以外もあるんですね」
「横へ回ると振ってくる。岩の上でも追ってくるぞ」
俺は谷底へ目を戻す。
岩鱗蜥蜴は、岩の上で腹を地面につけていた。
目だけが、ゆっくり動いている。
動きは鈍そうに見える。
でも、そういう見た目で油断した結果が、最初の猪だった。
まず、下りる場所を選ぶ。
退路になる斜面。
足を置ける岩。
戦うなら、小石の少ない場所がいい。
「ガド、正面を見てもらえます?」
「ああ。横へ行きすぎるなよ」
「はい」
俺たちは、少し離れて谷へ下りた。
◇
近づくと、蜥蜴が頭を上げた。
黄色い目。
口が、わずかに開く。
並んだ歯が見えた。
「……どうも」
短剣を抜く。
その音に反応したのか、体が持ち上がった。
次の瞬間、走ってきた。
「速っ!」
ガドの槍が、鼻先へ伸びる。
蜥蜴は頭を横へ振り、穂先をかわした。
そのまま、俺へ。
低い。
猪より、ずっと下から来る。
俺は横へ跳び、牙を避けた。
すぐに右の短剣を振る。
狙いは前脚の内側。
けれど、刃先が触れたのは、硬い鱗だった。
かつん、と音がする。
「っ……浅い!」
引く。
そのとき、視界の端で尾が消えた。
来る。
俺は体を低くした。
頭の上を、風が通った。
尾が、背後の細い木へぶつかる。
枝が折れた。
〈今の危なっ〉
〈木が揺れたぞ〉
「……ちゃんと横まで届きますね」
立ち上がる。
蜥蜴はもう、こちらへ顔を向けていた。
前脚も後脚も低い。
腹は、ほとんど地面についている。
猪みたいに下へ潜っても、刃を入れる隙間が少ない。
「どうするかな……」
ガドの槍が、横から突き出される。
蜥蜴が顔を向けた。
前脚が踏み直される。
その付け根に、一瞬だけ、しわが見えた。
鱗の板と板の間。
俺は、そこを覚えた。
◇
次の突進は、追わなかった。
避けて、止まる。
蜥蜴が向き直る。
尾が来る。
俺は一歩、外へ下がった。
長い尾が空を切る。
勢いで、胴体まで少し回った。
その間に、ガドが槍を入れる。
肩の鱗へ当たった。
硬い音。
だが、蜥蜴の頭がそちらへ向く。
「今!」
俺は踏み込んだ。
開いた前脚の内側へ。
刃先を立て、しわの奥を突く。
入った。
蜥蜴が、鋭く息を吐いた。
すぐに抜く。
頭が戻る。
俺は体を引いた。
牙が、左の短剣へ触れる。
噛まれる前に引き戻し、距離を取った。
【HP:376/428】
「……よし。通る」
場所は分かった。
けど、そこへ行くたびに牙と尾を避けるのは、少し忙しい。
俺は近くの岩へ目を向けた。
腰より高い、大きな岩。
地面との間に、細い隙間がある。
「ガド。あの岩、使います」
指さす。
ガドがうなずいた。
◇
俺は岩の手前へ移動した。
蜥蜴が追う。
ガドは横へ。
俺は短剣を構えたまま、じりじり下がる。
蜥蜴の腹が、地面から浮いた。
来る。
岩の横へ逃げる。
牙が通り過ぎる。
今度は、すぐに振り向かない。
後ろから、爪が岩を引っかく音。
蜥蜴は止まらず、岩へ上り始めていた。
「登るんですよね」
前脚が上がる。
腹が見える。
俺は岩の陰で、首飾りへ触れた。
「〈鬼力〉」
胸が熱くなる。
短剣を握り直す。
そのまま、横から踏み込んだ。
右の刃を、持ち上がった胴へ。
突く。
深く入る。
蜥蜴の前脚が、岩を滑った。
「ガド!」
槍の鉤が、反対側の前脚の付け根へ掛かった。
ガドが横へ引く。
蜥蜴の体が、斜めに崩れた。
尾が暴れる。
俺は下がった。
石が跳ねる。
尾が地面をたたいた。
その一振りが終わったところへ、もう一度入る。
左の刃を、柔らかい腹へ。
抜く。
右を、同じ傷へ。
蜥蜴が頭を持ち上げた。
俺の腕へ、口が迫る。
「っ!」
無理に刺し続けない。
半歩下がり、顎の届く場所から外れる。
ガドの槍が、頭の横を突いた。
蜥蜴が身をよじる。
俺は後脚から離れ、前側へ回った。
【HP:97/428】
まだ、ある。
俺は息を吐く。
鬼力の熱も、まだ残っている。
蜥蜴が起き上がろうとした。
傷ついた前脚が、地面を押す。
俺はそこへ、短剣を合わせた。
踏み込む。
継ぎ目へ、まっすぐ。
蜥蜴の体が沈んだ。
刃を抜き、すぐに離れる。
尾が、ゆっくり動く。
やがて、それも止まった。
【岩鱗蜥蜴を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【種族Lv:38→39【UP!】】
【召喚可能な魔物に〈岩鱗蜥蜴〉が追加されました】
「……よし!」
〈新種討伐!〉
〈これ配下にできるのか〉
〈壁登れるのいいな〉
俺も、通知を見た。
背中が硬い。
低い場所を走る。
岩も登る。
しかも、尾で横を払える。
「……欲しいですね」
ガドが槍を抜き、こちらを見た。
「まず、こいつをどう運ぶ?」
俺は倒れた蜥蜴へ目を戻す。
長い。
尾が、かなり長い。
「……また運搬の話ですか」
◇
使えそうな鱗を、先に確かめた。
背中の板は硬く、端が重なっている。
腹側は、それよりずっと薄い。
古い短剣で継ぎ目をなぞると、少しずつ外せた。
「これ、防具に使えそうですね」
「持ち帰って聞け。全部取ると重いぞ」
まず、割れていないものを数枚。
それと爪。
尾の扱いは、職人に聞いてからだ。
袋へ分けて入れていると、視界に通知が出た。
【配下が〈糸吐き蜘蛛〉を討伐しました】
【所有者に経験値の一部が還元されます】
「……お」
〈家から仕送り〉
〈留守番組も働いてる〉
配下の状態を確認する。
大きな怪我はない。
ちゃんと、守れている。
「ありがとうございます。帰ったら、そっちも見ますね」
ここにはいない相手へ返事をして、立ち上がった。
谷の奥を見る。
日なたの岩に、もう一匹。
水辺にも、長い尾が見えた。
「……まだいますね」
ガドが水を飲み、竹筒をしまう。
「今の動き、覚えたか?」
「ええ。尾を振った後と、登るときです」
「なら、次は俺が引く」
俺は二本の短剣を構え直した。
「お願いします」
◇
二匹目は、Lv.40。
岩を使わず、尾を振らせた直後に、ガドが正面から押さえた。
俺が横へ入り、脚の付け根を狙う。
三匹目は、Lv.43。
思ったより早く頭を戻され、肩を噛まれかけた。
そこで、同じ種類でも油断しないように、もう一度距離を取った。
倒し方が分かれば、動きは減らせる。
けれど、相手を見るのをやめていいわけではない。
四匹目。
五匹目。
谷を回り、離れた個体を選んで狩る。
休むたびに、刃と柄を確かめた。
鬼力を使うときも、最初の一撃へ焦って飛び込まない。
相手が腹を見せる、そのときまで待つ。
それだけで、三十秒の使い方が変わった。
◇
昼を過ぎ、袋が埋まったところで、探索を切り上げた。
目印を残し、帰る方向からも岩の形を確かめる。
谷の奥は、まだ続いている。
けれど、今日はここまでだ。
俺はステータスを開いた。
【種族Lv:38→44【UP!】】
「……六つ、上がりました」
〈順調!〉
〈もう猪狩りのころと別物だな〉
短剣を握る手を見る。
初めて猪を倒したときは、棍棒が折れないか祈っていた。
今は、自分より大きな蜥蜴を倒して、その素材を持って帰る。
「次は、この鱗で防具ですね」
袋の口を締める。
そのとき、谷の奥で、石の崩れる音がした。
俺とガドが、同時に顔を向けた。
遠い。
水辺の向こう。
大きな岩の上を、何かが歩いていた。
蜥蜴ではない。
四本の脚。
長い尾。
背中から、細い棘が何本も突き出している。
そいつが岩陰へ消れる直前、頭だけがこちらを向いた。
口の端から、淡い煙が漏れていた。
「……今の、見ました?」
「ああ」
俺は鑑定しようとした。
だが、もう姿はない。
表示も出なかった。
少しだけ、谷へ戻りたくなる。
ガドが俺の袋を、槍の柄で軽く押した。
「今日は、持てん」
俺は重い肩紐を持ち直した。
「……次ですね」
帰ったら、鱗を見てもらおう。
できれば、今よりずっと丈夫な防具にしてもらいたい。
【ステータス】
プレイヤー名:修羅
種族:小鬼〈こおに〉
種族Lv:38→44【UP!】
最大HP:275→308【UP!】
最大MP:53→59【UP!】
最大スタミナ:270→300【UP!】
筋力:52→58【UP!】
耐久:46→52【UP!】
敏捷:50→56【UP!】
魔力:5
器用:10
獲得経験値:+10%【装備】
※最大HP:基礎値280+装備補正28=308。
【種族特性】
〈怪力の芽〉
体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。
〈健啖〉
食事によるスタミナ回復量が多い。
【スキル】
〈打撃 Lv.1〉
棍棒や拳による攻撃を補助する。
〈踏ん張り Lv.1〉
足を止めて構えると、押し倒されにくくなる。
〈短剣術 Lv.2〉
短剣を扱う動作を補助する。連続攻撃や、攻撃後の構え直しが滑らかになる。
〈索敵 Lv.1〉
周囲の物音や動きから、敵の気配に気づきやすくなる。
〈鑑定 Lv.1〉
魔物の名前・レベル・現在HPと最大HPなど、対象の基本情報を確認できる。
【装備スキル】
〈鬼力 Lv.1〉
・消費MP:10
・効果時間:30秒
・筋力、耐久+50%
・効果終了後、60秒間は再使用不可
発動中:
筋力:58→87【UP!】
耐久:52→78【UP!】
【装備】
右手:白糸大蜘蛛の牙短剣
左手:白糸大蜘蛛の牙短剣
胴:岩背猪の革胴当て
腰:ぼろ布の腰巻き
足:小鬼の革靴
背中:岩背猪の革袋
首飾り:始祖鬼の首飾り
【始祖鬼の首飾り】
・最大HP+10%
・獲得経験値+10%
・第一段階:〈鬼力 Lv.1〉【解放済み】
≪未解放の封印効果≫
???
【所有ダンジョン】
名称:未命名
階層数:全三階層
配下:糸吐き蜘蛛7体〈イトを含む〉、岩背猪2体
【新規召喚解放】
〈岩鱗蜥蜴〉




