15話 レベルアップと進化
●主人公視点
はい。今日は、五十を目指します。
修羅でーす。
現在、Lv.44。
あと六つ。
始めたときは、兎一匹を追いかけるだけで精いっぱいだった。
それが今では、二本の短剣を腰に下げ、家まで持っている。
しかも今日は、その先だ。
「進化、してみたいんですよね」
〈見たい〉
〈鬼になるのか?〉
〈選択肢あるなら悩みそう〉
「まず、出るところまで上げましょう」
俺は両腕を持ち上げた。
前腕の外側に、灰色の鱗。
脛にも、同じもの。
胸の胴当てには、鱗を重ねた板が取りつけられている。
岩鱗蜥蜴の素材を、職人さんに加工してもらったのだ。
【胴:岩鱗の革胴当て】
【腕:岩鱗の腕当て】
【脚:岩鱗の脛当て】
「今回は、腕も上がります」
〈大事〉
〈最初の防具から進歩したな〉
しゃがむ。
立つ。
短剣を抜く。
問題なし。
関節を避けて、小さな鱗を重ねてある。硬いのに、動ける。
職人さん、すごい。
「準備できたか」
ガドが声をかけた。
「はい。今日は、奥まで行きましょう」
◇
東の斜面を越え、岩鱗の谷へ。
前に残した目印は、そのままだった。
帰る道を確かめてから、水辺の手前を回る。
一匹目は、Lv.45。
岩鱗蜥蜴が、石の上で腹を温めていた。
ガドが正面へ。
俺は横へ回る。
相手が頭を上げた。
尾が、ゆっくり岩を擦る。
「……来ます」
踏み込むふりをした。
頭が動く。
俺は止まる。
空を切った顎の横へ、ガドの槍が伸びた。
蜥蜴がそちらを向く。
前脚が開いた。
そこへ、俺が入る。
右で突く。
抜きながら横へ動き、尾を避ける。
振り切った体が戻る前に、もう一度。
刃が、狙った隙間へ収まった。
◇
【経験値を獲得しました】
【種族Lv:44→45【UP!】】
「まず、一つ」
〈順調〉
〈だいぶ慣れたな〉
次へ。
ただ、全部と戦うわけではない。
二匹が近いなら待つ。
地面が悪ければ、引く。
尾を振らせる場所を決めてから、近づく。
前より、相手を見ながら動けるようになっていた。
横から尾が来ても、体ごと大きく逃げる必要はない。
届くところから、半歩だけ出る。
その分、すぐに戻れる。
何匹目かを倒したところで、通知が浮かんだ。
【スキル〈索敵〉のLvが上昇しました】
【Lv.1→Lv.2【UP!】】
「お」
俺は顔を上げた。
右側の岩陰で、爪が石を擦る音。
遠くの鳥の声とは、違う。
何が鳴ったのか、少し拾いやすくなった気がする。
「ガド。右の奥にもいます」
「ああ。今のを片づけてからだ」
「了解です」
◇
休憩を挟み、谷を進む。
水辺の手前で、Lv.48へ上がった。
俺は竹筒を置き、ステータスを閉じる。
「あと、二つですね」
〈もう少し〉
〈例の煙のやつ行く?〉
「まず、姿を確かめます」
水辺を回り込んだ先。
岩の色が、少し黒くなっていた。
草は少ない。
地面には、焦げたような跡。
ガドが足を止める。
俺も、体を低くした。
いた。
大きな岩の下。
棘の並んだ背中が、ゆっくり上下している。
口元から、細い煙。
「〈鑑定〉」
【火喰い蜥蜴】
【Lv:53】
【HP:812/812】
「……五十三」
〈強そう〉
〈蜘蛛の主くらいHPある〉
背中の棘の根元が、赤い。
その赤が、呼吸に合わせて明るくなる。
俺は短剣を抜いた。
「火を吐くなら、正面には残らないようにしましょう」
「離れた側から挟む。俺のほうへ火を向けるなよ」
「それ、こっちもお願いします」
ガドが口の端を上げた。
◇
俺が姿を見せると、火喰い蜥蜴はすぐに頭を上げた。
黄色い目が細くなる。
胸が、膨らんだ。
「っ!」
口の奥が赤く光る。
俺は走った。
直後、背後で炎が広がった。
熱い。
当たっていないのに、頬が熱い。
岩の陰へ入る。
炎が岩をなめ、端からこちらへ回り込んできた。
「うわっ!」
さらに横へ抜けた。
足元の草が、ちりちりと燃えている。
〈岩だけじゃ無理か〉
〈範囲広い〉
「……隠れて待つのは、駄目ですね」
火が止まる。
俺はすぐに顔を出した。
蜥蜴の口から、煙が漏れる。
ガドの槍が、反対側から前脚へ伸びた。
相手が向き直る。
俺も走った。
横腹へ。
鱗の隙間を狙い、短剣を突く。
入る。
だが、浅い。
刃を引いたところで、赤い棘が近づいた。
体当たり。
腕を引き、体をひねる。
肩へ、硬い衝撃が来た。
「っ……!」
よろける。
けれど、立っている。
肩の鱗が、一枚欠けていた。
その下の革は、残っている。
「……助かった」
確かめるのは後だ。
蜥蜴が、また息を吸った。
◇
二度目の炎は、ガドへ向いた。
俺は近づきかけ、足を止める。
炎を吐いている間も、尾は動いていた。
横へ入れば、それで払うつもりか。
「……忙しいやつですね」
尾が来る。
下がる。
炎が止まる。
ガドが槍を構え直した。
蜥蜴の棘は、さっきより暗い。
すぐに、次は吐かない。
俺はその間に、前脚を狙った。
一撃。
反撃を避ける。
もう一撃。
蜥蜴が下がり、背中を岩へ寄せた。
腹を隠す。
代わりに、頭だけがこちらを追う。
近づきにくい。
俺は距離を取り、左右へ動いた。
相手の喉が、少しずつ膨らんでいく。
棘の根元にも、赤い光が戻り始めた。
「……棘、見てください。赤くなると吐いてます」
「分かった」
ガドが右へ。
俺は左へ。
蜥蜴の頭が、どちらへ向くか迷う。
そして、俺を選んだ。
「はい、こっちですね!」
走る。
口が開く。
炎が来る。
止まらない。
円を描くように、横へ走り続けた。
すぐ後ろを、熱が追った。
「今!」
ガドの槍が、反対側から突き込まれた。
蜥蜴の前脚が折れる。
炎が上へぶれた。
俺は切り返した。
首飾りへ、意識を向ける。
「〈鬼力〉!」
◇
体が熱くなる。
さっきの炎とは違う。
腕の奥から、力が湧いてくる。
俺は姿勢を低くした。
振られた尾の内側へ入る。
傷ついた前脚。
その奥へ、右の短剣を押し込んだ。
火喰い蜥蜴が鳴いた。
抜く。
左で、もう一度。
ガドが槍を引き、相手の顔へ穂先を向ける。
牙が槍の柄を噛もうとする。
その隙に、俺は体の横へ回った。
【HP:286/812】
まだ、ある。
けれど、脚は傷んでいる。
体を持ち上げるたびに、左側が沈む。
俺はそこへ、攻撃を重ねた。
焦らない。
深く刺したら、まっすぐ抜く。
硬い鱗へ当たったら、無理に押さない。
蜥蜴が、突然体を縮めた。
棘が赤い。
「ガド、離れて!」
俺も下がる。
だが、正面へは炎が来なかった。
蜥蜴が首を曲げる。
口が、こちらへ。
「っ!」
俺は地面を蹴った。
横へ。
遅い。
炎の端が、左腕をなめた。
熱い。
思わず腕を引く。
鱗の隙間から、肌へ痛みが走った。
HPが減る。
それでも、足は止めなかった。
炎の外へ出る。
転がらず、そのまま岩の向こうへ抜けた。
「修羅!」
「動けます!」
左手を開く。
閉じる。
握れる。
俺は息を吐き、顔を上げた。
蜥蜴の棘が、暗くなっていく。
今、吐いた。
次までには、間がある。
俺は岩の陰から走り出した。
ガドが槍を突く。
蜥蜴が、それを避けようとした。
傷んだ脚が、崩れる。
腹が傾いた。
俺は右の短剣へ、左手を添えた。
狙う場所は、もう見えている。
「――っ!」
踏み込む。
刃が、深く入る。
すぐに引き抜き、距離を取った。
火喰い蜥蜴が口を開く。
漏れたのは、煙だけだった。
頭が下がる。
長い尾が、地面を擦った。
【火喰い蜥蜴を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【種族Lv:48→50【UP!】】
俺は膝へ手をついた。
「……倒した」
〈おおお!〉
〈五十!〉
〈腕、大丈夫か?〉
「動きます。……けど、ちょっと待ってください」
左腕が、ひりひりする。
息も荒い。
ガドがそばへ来て、周囲を確かめた。
「座れ。先に傷を見る」
「はい……」
俺は岩へ背中を預けた。
そのとき、新しい通知が浮かんだ。
【種族〈小鬼〉の進化条件を達成しました】
【進化先を選択できます】
痛い腕を押さえたまま、俺は表示を見た。
「……来ましたね」
◇
その場では、進化しなかった。
どう変わるか、分からない。
腕の手当てを済ませ、素材を取れるだけ取って、ダンジョンへ戻る。
帰り道は、何度も通知を開きたくなった。
でも、我慢した。
家へ着いて、荷物を下ろす。
配下の状態を確かめる。
留守番の猪も蜘蛛も、無事。
イトが来たので、一度撫でる。
そして、入口前の開けた場所へ立った。
「お待たせしました」
〈待ってた〉
〈進化配信!〉
〈何になる?〉
進化先を開く。
【鬼】
【疾鬼】
【妖鬼】
それぞれに、簡単な説明がついている。
力と頑丈さを伸ばす、鬼。
速さに優れる、疾鬼。
魔力を伸ばす、妖鬼。
「……悩むなぁ」
短剣を使うなら、疾鬼もよさそうだ。
妖鬼になって、魔法を覚えるのも面白い。
けれど、俺は〈鬼〉の項目へ戻った。
もっと大きな武器。
正面から押し返す力。
あの猪の突進にも、いつか自分の足で耐えてみたい。
「決めました」
選ぶ。
【〈鬼〉へ進化しますか?】
【種族Lvは1となり、能力値が進化後の初期値へ更新されます】
【習得スキル、装備、所有ダンジョンおよび配下は引き継がれます】
俺はガドへ顔を向けた。
「少し、見ててもらえます?」
「ああ」
ガドは槍を脇へ置いた。
イトも、その隣で止まっている。
俺は決定へ指を伸ばした。
【はい】
◇
足元から、光が上がった。
白い線が、体を包む。
胸の奥で、心臓が強く打った。
「……お?」
視線が上がる。
違う。
俺が、伸びている。
脚。
腕。
肩の位置。
全身を内側から押し広げられるような、不思議な感覚。
胴当ての紐が張った。
「あ、これ――」
慌てて留め具へ手を伸ばす。
光の中で外すと、胸が楽になった。
靴も、きつい。
片足ずつ脱ぐ。
〈装備!〉
〈昨日作ったばっかりw〉
「今、忙しいです!」
地面へ手をつく。
指が長い。
腕も、太い。
頭の横に、じんと熱が集まった。
角だ。
触れようとしたところで、光がほどけた。
【進化が完了しました】
【種族:小鬼→鬼】
【種族Lv:50→1】
◇
俺は、ゆっくり立った。
地面が、遠い。
ガドを見る。
いつも同じくらいだった目線が、下にある。
「……でかく、なりましたね」
声も、少し低かった。
自分の喉へ触れる。
それから、両手を見た。
同じ俺の手。
でも、握った拳が大きい。
腕には、はっきり筋肉がついていた。
角も、前より長い。
俺はステータスを開く。
【プレイヤー名:修羅】
【種族:鬼〈おに〉】
【種族Lv:1】
最大HP:341→440【UP!】
最大MP:65→80【UP!】
最大スタミナ:330→400【UP!】
筋力:64→85【UP!】
耐久:58→75【UP!】
敏捷:62→70【UP!】
魔力:5→10【UP!】
器用:10→15【UP!】
「……全部、上がってる」
〈強っ〉
〈これでレベル一!?〉
〈魔力も増えたぞ〉
俺は短剣を一本、抜いた。
小さく感じる。
前と同じ武器なのに、手の中へ収まる感覚が違う。
軽く持ち上げ、下ろす。
それだけで、腕に余裕がある。
「……すごいな」
気づくと、笑っていた。
レベルは一。
けれど、兎を追いかけていたときの一ではない。
あの続きを、もっと強い体で始められる。
俺は一歩、踏み出した。
思ったより前へ出た。
「おっと」
足を止める。
まず、歩くところからだ。
ガドが、俺を見上げていた。
「どうです?」
聞くと、ガドは少し考えた。
「棚の上へ、手が届くな」
「もっと、あるでしょう」
〈暮らし目線w〉
〈荷運びも楽になるな〉
イトが近づいてくる。
俺はしゃがんだ。
いつもより、深く。
差し出した手へ、小さな前脚が触れる。
「……俺ですよ。ちゃんと、修羅です」
イトは逃げず、そのまま手の甲へ乗った。
持ち上げる。
前より、随分軽かった。
◇
ひと通り動きを確かめ、部屋へ戻ろうとした。
扉を開ける。
入る。
ごつん。
「いっ……!」
角が、入口の上へ当たった。
俺は頭を押さえ、その場で止まった。
ガドが後ろから、扉を見上げる。
「そこも、直すか」
〈改築再開〉
〈進化の代金、まだあるぞ〉
俺はきつくなった胴当てと、小さくなった靴を見下ろした。
「……職人さんにも、会いに行きます」
強くなった。
間違いなく、強くなった。
ただ、明日の予定まで、一気に増えた。
【ステータス】
プレイヤー名:修羅
種族:鬼〈おに〉
種族Lv:1
最大HP:440
最大MP:80
最大スタミナ:400
筋力:85
耐久:75
敏捷:70
魔力:10
器用:15
獲得経験値:+10%【装備】
※最大HP:基礎値400+装備補正40=440。
【種族特性】
〈怪力の芽〉
体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。
〈健啖〉
食事によるスタミナ回復量が多い。
【スキル】
〈打撃 Lv.1〉
棍棒や拳による攻撃を補助する。
〈踏ん張り Lv.1〉
足を止めて構えると、押し倒されにくくなる。
〈短剣術 Lv.2〉
短剣を扱う動作を補助する。連続攻撃や、攻撃後の構え直しが滑らかになる。
〈索敵 Lv.2〉
周囲の物音や動きから、敵の気配に気づきやすくなる。小さな変化も捉えやすい。
〈鑑定 Lv.1〉
魔物の名前・レベル・現在HPと最大HPなど、対象の基本情報を確認できる。
〈鬼装 Lv.1〉【NEW!】
手に持つ武器一本に赤い魔力をまとわせ、切れ味と強度を高める。効果は魔力に応じて上昇する。
・消費MP:発動時5、以降10秒ごとに3
・任意で解除可能。MP不足で自動解除
・〈鬼力〉との併用可能
・首飾りを外しても使用可能
【装備スキル】
〈鬼力 Lv.1〉
・消費MP:10
・効果時間:30秒
・筋力、耐久+50%
・効果終了後、60秒間は再使用不可
発動中〈小数点以下切り捨て〉:
筋力:85→127【UP!】
耐久:75→112【UP!】
【装備】
右手:白糸大蜘蛛の牙短剣
左手:白糸大蜘蛛の牙短剣
腰:ぼろ布の腰巻き
背中:岩背猪の革袋
首飾り:始祖鬼の首飾り
【サイズ調整待ち〈未装着〉】
胴:岩鱗の革胴当て
腕:岩鱗の腕当て
脚:岩鱗の脛当て
足:小鬼の革靴
【始祖鬼の首飾り】
・最大HP+10%
・獲得経験値+10%
・第一段階:〈鬼力 〉【解放済み】
≪未解放の封印効果≫
???
【所有ダンジョン】
名称:未命名
階層数:全三階層
所有者:修羅
【配下】
糸吐き蜘蛛:7体〈イトを含む〉
岩背猪:2体
※配下による討伐経験値の一部が、修羅にも還元される。




