9話 レベリングと鑑定スキル
●主人公視点
はい。薪運び中の修羅でーす。
ダンジョンの三階層まで行って、大きな蜘蛛を見つけて、無事に帰ってきました。
そして今、両腕には薪があります。
「……これで足ります?」
「そっちへ積め」
ガドが指した場所へ、薪を下ろす。
借りた松明の分だ。
ちゃんと返しておかないと、次に借りづらくなりますからね。
〈攻略前に返済〉
〈信用は大事〉
最後の一本を載せて、手についた木くずを払う。
「よし。じゃあ、次はボスですね」
「今日はやめろ」
「準備の話です」
ガドが俺の腰を見た。
右の短剣には、小さな刃こぼれがある。
左はまだ無事だが、巻いた革が少し緩んでいた。
「まず、それを直せ」
「はい……」
もっともだった。
◇
工房で研ぎ直しを頼むと、職人は牙の刃を光へかざした。
「石でも刺したか?」
「蜘蛛です」
「脚の硬いところだろ」
「……そこまで分かります?」
「欠け方を見ればな」
職人は小さな砥石を取り、刃先へ当てた。
しゃっ、しゃっ、と音がする。
俺が朝から岩にこすりつけていたときとは、随分違う。
削りすぎることもなく、欠けた部分が少しずつ整っていった。
「大きい蜘蛛を倒したいんですけど、この武器でいけますかね」
「どれくらいだ」
「俺より脚が長いです」
手が止まった。
職人が、俺を見る。
「逃げたか?」
「はい」
「ならいい」
〈まずそこを確認〉
〈帰ってきたの褒められた〉
「次は倒したいんですよ」
「なら、硬いところを刺すな。これは槍じゃない」
返された短剣を握る。
先端の形が、少し細くなっていた。
革の巻きも締め直されている。
「使った後は見ろ。緩んだまま突けば、手が滑る」
「ありがとうございます」
代わりに、廃坑で拾った金具と糸の一部を渡す。
職人は金具を裏返し、うなずいた。
使い道があるらしい。
俺にはただの拾い物でも、この人には材料なんだな。
◇
準備を済ませ、集落の外へ出る。
今日の目的は、レベル上げだ。
今の俺は十八。
ボスのレベルは分からない。
けど、二階層の蜘蛛であれだけ苦戦したのだ。
あの大きさの相手へ、そのまま挑むのは少し怖い。
「あと、敵の強さが分かるようになりたいですね」
〈鑑定欲しいな〉
〈取得報告は出てたぞ〉
「お。どうやるんですか?」
〈同じ種類でも違いを意識して観察してたら取れた〉
〈俺は採集。葉と茎見比べてたら覚えた〉
〈見るだけじゃなくて確かめるのがよさそう?〉
なるほど。
ただ見つめればいい、というわけでもなさそうだ。
「試してみます。戦ってる最中に見すぎないようにしますね」
「何を試す?」
隣を歩くガドに聞かれる。
「相手をよく見ようかと」
「今までは?」
「……結構、必死でした」
「なら、遠くから見ろ」
はい。
安全な場所から始めます。
◇
向かったのは、集落から北へ戻った先の岩場だった。
見つけた岩背猪は、二匹。
一匹は大きく、もう一匹は少し小さい。
近くで餌を探している。
俺は岩陰にしゃがみ込んだ。
「同じ猪でも、結構違いますね」
〈大きさ?〉
「それもですけど……右のやつ、牙が片方短いです」
折れた跡だろうか。
背中の灰色の部分も、左の猪より厚い。
ただ、歩くときは左前脚を少しかばっていた。
以前の傷か。
それとも、生まれつきなのか。
「脚が悪そうだからって、弱いとは限らないですよね」
「近づけば分かる」
「それ、確認方法が怖いんですよ」
ガドは少し離れ、もう一匹の猪がこちらへ来ない位置に立った。
「一匹ずつだ。引き離せ」
「了解です」
俺は岩陰から姿を見せた。
片牙の猪が顔を上げる。
こちらを見たまま、鼻を鳴らした。
すぐには走ってこない。
俺が少し近づくと、ようやく頭を下げた。
「……来る」
地面を蹴る。
速い。
脚をかばっていたからといって、突進まで遅いわけじゃない。
俺は横へ避け、右の短剣を構えた。
けれど、猪は大きく回り込まず、その場で頭だけを振った。
短いほうの牙が、俺の胴当てを擦る。
「っ!」
半歩下がる。
今のは危なかった。
牙が短い分だけ近づけると思ったのが、間違いだ。
〈動き違う〉
〈あんまり追いかけてこないな〉
「……踏み直すのが、嫌なのかも」
傷めた左前脚。
そこへ体重がかかるときだけ、動きが小さくなる。
俺は猪の周りを移動した。
頭が追ってくる。
右へ動けば、すぐ向き直る。
反対側へ回ると、一瞬だけ足が止まった。
そこだ。
踏み込み、前脚の付け根へ右の短剣を突く。
抜く。
反撃へ左を向けながら、距離を取る。
猪が鳴いた。
追ってくる。
けれど、さっきより足運びが乱れていた。
次の突進をかわし、体が流れたところへ回る。
柔らかい脇腹へ、もう一度。
今度は深く入った。
◇
【経験値を獲得しました】
猪が動かなくなったのを確かめ、短剣を下ろす。
「……毎回、同じじゃないんですね」
知っている魔物。
何匹か倒した相手。
それでも、よく見れば戦い方が変わる。
覚えた手順を繰り返すだけでは、危ないらしい。
俺はしゃがみ、猪の背中へ手を当てた。
真ん中は硬い。
だが、脚へ近づくにつれて薄くなる。
ひっくり返してみると、腹との境目もはっきりしていた。
「この辺なら、刃が通りそうですね」
「皮を剥ぐなら、そこからだ」
ガドが小刀を出す。
俺も隣で、自分の短剣を持ち直した。
戦う前に見たもの。
実際に刃を入れた感触。
倒した後に触って分かること。
思っていたより、違いがある。
◇
それから何度か、狩りを繰り返した。
一匹見つける。
周りにほかの魔物がいないか確かめる。
動きを見る。
戦って、違ったところを覚えておく。
途中でレベルが上がり、同じ踏み込みでも少し遠くへ届くようになった。
ただ、調子に乗って深く入りすぎると、牙が来る。
「強くなった分だけ、雑になっていいわけじゃないですね……」
〈さっき危なかったぞ〉
〈胴当てあってよかった〉
「本当に。職人さんに感謝です」
休憩を挟んで、午後は西の森へ向かった。
今度は蜘蛛だ。
ボスに挑むなら、こちらにも慣れておきたい。
木々の間を進みながら、糸を探す。
光を受けて見えるもの。
葉の陰に隠れたもの。
同じ糸でも、枝を支えるように張られた部分と、虫が貼りついている部分があった。
俺は細い枝の先を、それぞれへ軽く触れさせた。
片方は離れる。
もう片方は、枝を持ち上げてもついてくる。
「……全部がべたべたなわけじゃないんだ」
「集めるとき、教えただろ」
「足を取られないようにするので、いっぱいいっぱいでした」
改めて見ると、蜘蛛自身も同じ場所を通っている。
滑らかに脚を置き、粘る糸を避けて動いていた。
じゃあ、廃坑の床にあった糸も――。
考えたところで、頭上の葉が揺れた。
小さな音。
俺は顔を上げる。
「ガド、上」
枝の下に、蜘蛛がいた。
腹をこちらへ向け、後ろ脚を動かしている。
糸が伸びる。
狙いは、俺の足元。
「っ!」
横へ跳ぶ。
さっきまで立っていた場所へ、白い糸が貼りついた。
蜘蛛が幹を下りてくる。
俺は短剣を構えながら、その動きを追った。
腹を向けた後に糸を出す。
吐いた直後は、前脚を広げて体を支える。
その間、腹の下が空く。
見えた。
【観察と検証が一定の習熟度に達しました】
【スキル〈鑑定 Lv.1〉を獲得しました】
「今!?」
〈きた!〉
〈だから戦闘中だってw〉
表示を脇へ追いやる。
今は、こっちだ。
ガドの槍が前脚を押さえた。
俺は幹の反対側へ回り、下がってきた腹へ短剣を突き入れる。
蜘蛛が身を縮める。
刃を抜いて下がり、振られた脚をかわす。
ガドが槍を引いたところへ、もう一度踏み込んだ。
◇
【経験値を獲得しました】
俺は蜘蛛から離れ、息を吐いた。
「……取れましたね」
〈おめでとう〉
〈何が見える?〉
「ちょっと待ってください。次の相手で試します」
倒れた蜘蛛へ使ってみると、名前は分かった。
ただ、生きている相手の情報も見てみたい。
俺たちは少し進み、木の低い位置に巣を張る一匹を見つけた。
距離を保ち、岩陰へしゃがむ。
蜘蛛へ意識を向ける。
「〈鑑定〉」
視界の端に、文字が浮かんだ。
【糸吐き蜘蛛】
【Lv:16】
【HP:92/92】
【その他の情報を確認するには、鑑定の熟練度が不足しています】
「……おぉ」
思わず声が出た。
十六。
HPは九十二。
今までは、姿と動きで想像するしかなかった。
その一部が、数字になっている。
〈見えた!〉
〈能力値までは無理か〉
「そこは育ててからですね。でも、十分ありがたいです」
少し離れた木にも、同じような蜘蛛がいた。
そちらへ使う。
【糸吐き蜘蛛】
【Lv:19】
【HP:108/108】
「……違う」
見比べる。
大きさは、そこまで変わらない。
十九のほうが少し腹が太い気もするが、言われなければ見逃しそうだ。
「同じ魔物だから同じ強さ、とは限らないんですね」
ガドがうなずく。
「だから見ろと言った」
「はい。やっと、少し分かりました」
ただ、数字が見えたからといって、牙や脚が止まるわけじゃない。
十六の蜘蛛だって、糸に巻かれれば危ない。
俺は表示を閉じ、足元を確かめた。
「じゃあ、一匹ずついきましょう」
◇
集落へ戻るころには、日が傾いていた。
袋の中には、追加の糸。
使えそうな猪の皮も、ガドと分けて持ち帰っている。
そして、俺のレベルは――。
【種族Lv:18→22【UP!】】
【スキル〈鑑定 Lv.1〉を獲得しました】
「二十二。だいぶ上がりましたね」
〈ボスのレベルも見たい〉
〈明日いよいよ?〉
「まずは、ちゃんと見てからです」
あの三階層の大蜘蛛。
数字を見れば、諦めがつくかもしれない。
逆に、挑めると思えるかもしれない。
どちらにしても、前よりは判断できる。
「ガド。次に入ったら、最初に少し時間ください」
「何をする?」
「主の強さを確かめます」
ガドは俺の顔を見てから、短くうなずいた。
「糸を踏むなよ」
「……それは引き続き、気をつけます」
鑑定は覚えた。
レベルも上がった。
けど、足元を見る仕事まで、代わってくれるわけではないらしい。
ステータスを出して
【ステータス】
プレイヤー名:修羅
種族:小鬼〈こおに〉
種族Lv:18→22【UP!】
最大HP:165→187【UP!】
最大MP:33→37【UP!】
最大スタミナ:170→190【UP!】
筋力:32→36【UP!】
耐久:26→30【UP!】
敏捷:30→34【UP!】
魔力:5
器用:10
獲得経験値:+10%【装備】
※最大HP:基礎値170+装備補正17=187。
【種族特性】
〈怪力の芽〉
体格より大きな武器を扱える。重さに応じてスタミナを消費する。
〈健啖〉
食事によるスタミナ回復量が多い。
【スキル】
〈打撃 Lv.1〉
棍棒や拳による攻撃を補助する。
〈踏ん張り Lv.1〉
足を止めて構えると、押し倒されにくくなる。
〈短剣術 Lv.1〉
短剣を扱う際の動作や、刃の向きの調整を補助する。
〈索敵 Lv.1〉
周囲の物音や動きなど、敵の気配に気づきやすくなる。
〈鑑定 Lv.1〉【NEW!】
対象の基本情報を確認できる。魔物の名前・レベル・現在HPと最大HPを表示する。詳しい能力やスキルは確認できない。
【装備】
右手:岩背猪の牙短剣
左手:岩背猪の牙短剣
胴:岩背猪の革胴当て
腰:ぼろ布の腰巻き
足:小鬼の革靴
背中:岩背猪の革袋
首飾り:始祖鬼の首飾り
【始祖鬼の首飾り】
・最大HP+10%
・獲得経験値+10%
≪封印効果≫
???




