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14話 ほのぼの日

●主人公視点


 はい。


 今日は少し長く遊べる修羅でーす。


 休日です。


 朝から慌てて制服へ着替える必要もない。


 課題は、昨日のうちに済ませた。


 母さんから頼まれた買い物も、さっき終えた。


 つまり。


「今日は、家のことができます」


〈休日まで家のことしてる〉

〈現実の用事を終えて、ゲームで家事〉

〈そろそろ大暴れするのかと思った〉

〈何する予定?〉


「蜂を見て、畑を見て。それから、魔物を呼んでポイントを稼ぎます」


 言ってから、少し考える。


 全部、ダンジョンの中で済む。


 以前は、外へ出なければ何も手に入らなかった。


 今でも狩りは必要だが、家にもやることが増えた。


「……充実してますねぇ」


〈本人が楽しそうで何より〉

〈家から出る理由が減っていく〉

〈そのうち玄関までしか行かなくなりそう〉


 それは、ちょっと困る。


 斧も振りたい。


 でも、今日は先に、こっちだ。


 目の前へ活動報告を開く。


【不在中の活動報告】


【侵入者の討伐を確認しました】


【獲得経験値・ダンジョンポイントを反映済みです】


【配置魔物の死亡:なし】


【設備の重大な損傷:なし】


 詳細を確認する。


 昨日、俺がログアウトしてから今までに、牙鼠が四匹。


 黒牙走狗が一匹。


 どちらも入口側の迎撃室で討伐されている。


 魔石の箱は閉じていたが、何も来ないわけではない。


 蜘蛛の糸が一部切れた。


 猪が、一度だけ脚を擦っている。


 ただ、治療が必要なほどではなかったらしい。


「帰ったら、誰が何をしたか分かるの、助かりますね」


〈勤務報告〉

〈みんな夜も守ってくれてる〉

〈猪、あとで見てやって〉


「見ます。あと、回収した素材も確認しないと」


 記録の下には、リィナが書き加えた内容もあった。


 回収済み。


 処理待ち。


 残しておくもの。


 そのままポイントへ交換していいとは、書いていない。


 俺たちで確認してからだ。


 便利になったが、勝手に全部が片づくわけではない。


「よし。それじゃ、まず挨拶です」


 俺は寝室を出た。


     ◇


 食堂へ入ると、イトが椅子の上で何かを覗き込んでいた。


 机には、小さな板。


 その上に、白い糸が何本か並んでいる。


「ただいま」


「しゅら」


 顔が上がる。


 リィナも厨房から振り返った。


「お帰りなさい。今日は、早いんですね」


「今日は向こうの用事が少ないので。……何してた?」


 イトの机を覗く。


 糸の端へ、小さな木片が結びつけられていた。


 札だ。


 薬草の名前が書いてある。


「これ、畑の?」


「はい。前の札だと、水をやるときに少し土へ埋まってしまったので」


 リィナが説明する。


 立てる位置を変えるか。


 もっと長い札にするか。


 話していたところ、イトが糸を持ってきたらしい。


 枠の外側へ結べば、土には埋まらない。


 俺は木片を一つ持ち上げた。


 糸が、細く伸びる。


「……なるほど。こういう使い方もあるのか」


〈イトの糸、生活に馴染んできた〉

〈袋だけじゃなくて札にも〉

〈自分から持ってきたのいいな〉


 イトは俺の手元を見ている。


「いい?」


「あぁ。見やすそうだ」


 そう答えると、少しだけ胸を張った。


 俺は札を机へ戻す。


「じゃあ、持っていこうか」


     ◇


 栽培室の扉を開けた。


 土の匂い。


 薄葉草の緑。


 そして、青露草の枠。


 俺は、そちらへ真っすぐ向かった。


「増えてますね」


「はい。昨日より、二つ増えました」


 最初に出た芽の近く。


 少し離れた場所にも、小さな緑がある。


 合計で、三つ。


 俺はしゃがみ、端から順番に確かめた。


〈三兄弟になった〉

〈おお、増えた!〉

〈今日も生存確認から〉

〈この枠だけ妙に見覚えがある〉


 最初の一つは、葉が少し開いていた。


 昨日まで、曲がった小さなものにしか見えなかった。


 今は、葉っぱだと分かる。


「……ちゃんと、形が変わるんですね」


「はい。こちらは、今のところ順調そうです」


 リィナが隣へしゃがむ。


 触らずに見る。


 土の表面だけでなく、枠の端も確認していた。


 俺は水の容器へ目を向ける。


「今日は、先に水をやります?」


「その前に、土を見ましょう」


「了解です」


〈学んでる〉

〈勝手に水を増やさなくなった〉

〈リィナ先生、今日も頼みます〉


 彼女が、植えていない端の土を少し確かめる。


 表面は乾きかけているが、少し下はまだ湿っているらしい。


「こちらは、今すぐ多くやる必要はなさそうです」


「なるほど。上だけ見て、乾いてるって思っちゃいけないのか」


「はい。昨日やった分が、まだ残っているので」


 俺は、ひとまず容器を持つのをやめた。


 そのまま薄葉草のほうへ移る。


 こちらは、土を変えた場所と、元の状態に近い場所。


 分けて植えた苗が、並んでいた。


 一つだけ、葉の先が少し下を向いている。


「……これ、大丈夫ですか?」


 俺が指すと、リィナもうなずいた。


「私も気になっていました。昨日の記録と、比べてみたいです」


 紙が開かれる。


 葉の向き。


 色。


 植えた位置。


 小さな絵まである。


 俺には、前より元気がないように見えた。


 だからといって、すぐ何かを足すわけではない。


 隣の苗と比べる。


 土を見る。


 風が当たる位置かも確認する。


「ここだけ、通路側なんですね」


 俺が言うと、リィナが顔を上げた。


 扉を見る。


 それから、苗を見る。


「……出入りのときに、風が当たりやすいかもしれません」


「ずらします?」


「まず、記録しておきます。ほかの苗も、同じようになるか見たいので」


 すぐには決めなかった。


 俺はうなずき、紙へ目を落とす。


 困ったら温度を上げる。


 水を増やす。


 そういうものではないらしい。


〈観察回だ〉

〈ちゃんと一つずつ考えてる〉

〈全部同時に変えないの大事なんだな〉


 イトは、札を結び直していた。


 木枠の外。


 葉へ糸が触れない位置。


 リィナに確かめてもらいながら、一本ずつ。


 俺は水の容器を入れ替え、床の溝を掃除した。


 目立たない作業だ。


 でも、前に落ちた土が残っていたら、水が抜けにくくなる。


 今日は、ちゃんと気づけた。


「……うん。少しずつ分かってきました」


〈農家の顔になってる〉

〈斧の握り方から排水溝の掃除まで〉


「何でも、やることはあるんですねぇ」


     ◇


 畑の確認を終えたころ、入口から声がした。


 商会の人だった。


 今日は、事前にお願いしていたエダさんの再訪日だ。


 近くまで来る荷馬車へ同乗してもらい、巣の状態を見てもらうことになっていた。


 俺は入口へ迎えに行った。


「おはようございます」


「あぁ。変わりはないかい?」


 エダさんは、挨拶のすぐあとに聞いた。


 隣には、いつもの見習いさん。


 道具の入った袋を持っている。


「出入りはしてます。巣箱は開けてません」


「それでいい。勝手に蜜を取ってないだろうね?」


「……まだ、取ってません」


 なぜか、ちょっと疑われている。


〈食欲を見抜かれてる〉

〈瓶は用意した?〉


「瓶も、まだです」


 エダさんが俺を見る。


「世話に使う器まで、要らないわけじゃないからね」


「あ。そっちは、あります」


 リィナと相談して、必要なものは用意した。


 採れもしない蜂蜜を入れるために、大量の瓶を買うのをやめただけだ。


 俺は二人を養蜂室へ案内した。


     ◇


 入口の扉を閉める。


 次の扉を開ける。


 順番を守る。


 その間に、防護具も身につけた。


 角の位置を確かめて、網を下ろす。


 手袋。


 袖口。


 エダさんに見てもらい、問題がないことを確認する。


「慣れたつもりになるころに、雑になるんだ。最初の確認は省くなよ」


「はい」


〈この人に教わると安心する〉

〈修羅、返事がいい〉

〈実際大事だからな〉


 中へ入ると、羽音が聞こえた。


 巣箱の前を、蜂が一匹歩いている。


 外へ通じる穴から、別の一匹が戻ってきた。


 俺は契約の状態を確認する。


 強い警戒や、異常を知らせる感覚はない。


 ただ、群れがそこにいる。


 それだけは分かった。


「落ち着いてる感じはします」


「その感覚だけで決めずに、今から中も見るよ」


 エダさんが巣箱へ近づく。


 手順を説明しながら、道具を使う。


 俺たちは、邪魔にならない場所から見た。


 蓋が開く。


 中に、蜂がいる。


 思っていたより、ずっと。


「……おぉ」


〈いるなぁ〉

〈そりゃいるだろ〉

〈羽音だけでちょっと緊張する〉


 女王の状態。


 群れの動き。


 巣の様子。


 エダさんが、順番に確かめる。


 見習いさんが記録を取っていた。


 俺は、言われたところを見る。


 分からなければ、聞く。


 全部を一度に覚えられるとは思わないが、せめて、何を見ているのかは知っておきたかった。


「……どうですか?」


「今のところ、悪くない。外へ出て、戻ってきてる。ここを巣として使い始めてるね」


 俺は、少しだけ肩の力を抜いた。


 よかった。


 ただ置いたからといって、うまくいくとは限らない。


 そう聞いていたので、気になっていたのだ。


「蜜は?」


 聞いた瞬間、エダさんがこちらを見た。


 俺は手を上げる。


「いや。状態の確認です」


〈絶対食べたいだけだろw〉

〈説明が早い〉

〈先回りして言い訳するな〉


「あるにはある。でも、今はこの群れが使う分だ。採るには早い」


「……了解です」


「急に大きな群れを連れてきたわけじゃない。まず、暮らして増えてもらうんだよ」


 俺は巣箱を見た。


 小さな蜂が、せっせと動いている。


 ここで食べる。


 ここで育つ。


 それが先だ。


 余ったら、分けてもらう。


「じゃあ、今日も採取なしですね」


「あぁ。代わりに、こっちを見な」


 エダさんが、巣箱のそばを指した。


 床の隅。


 俺には、何もないように見える。


「出入り口から入る光が、この時間はここへ来る。暑くなる時期や時間も、見ておくといい」


 俺は顔を上げた。


 外へ抜ける穴。


 その前の庇。


 室内の温度は調整できても、巣箱へ直接当たる光や、風の入り方まで同じではない。


「記録、増やしておきます」


「そうしな。設定の数字だけで、全部分かった気にならないことだ」


 俺は、素直にうなずいた。


     ◇


 点検が終わると、エダさんは巣箱を閉じた。


 俺にも同じ場所を確かめさせてから、外へ出る。


 扉を、順番に。


 防護具を外したころには、少し汗をかいていた。


「……ずっと見てると、結構緊張しますね」


「慣れるさ。ただ、慣れても乱暴に扱わないことだ」


「はい」


 食堂へ戻り、お茶を出す。


 リィナとイトも、話を聞くために座った。


 エダさんは道具袋から、小さな瓶を取り出した。


 中に、琥珀色のもの。


 俺の視線が止まる。


「……それは」


「飼育場で採れた蜜だ。取引の話まで考えてるなら、売り物になるものを一度知っておきな」


 机へ置かれる。


 小さい瓶。


 それなのに、妙に存在感があった。


〈蜂蜜きた!〉

〈念願の〉

〈今、目が完全に瓶へ行った〉

〈試食用を持ってきてくれたんだ〉


 見習いさんが、少し笑う。


「師匠が、採れないとがっかりするだろうって」


「余計なことを言うんじゃない」


 エダさんの声が飛ぶ。


 見習いさんは、すぐに口を閉じた。


 俺は、頭を下げる。


「ありがとうございます」


「全部、今日食べるんじゃないよ。香りや味を覚えておく分も残しな」


「……はい」


 リィナが、小さな器と匙を持ってきた。


 瓶の蓋が開く。


 甘い香りがした。


 ただ甘いだけではない。


 何となく、花の近くにいるような匂い。


 俺は瓶へ顔を寄せすぎて、途中で止まった。


〈落ち着けw〉

〈顔近い〉

〈待ち方が子供なんだよな〉


「だって、ようやくですからね」


 匙の先へ、少しだけ。


 ゆっくり落ちる蜜を見る。


 光が透ける。


 俺は、それをパンの小さな欠片へ塗った。


 口へ入れる。


 ……甘い。


 でも、嫌な甘さではない。


 噛むと、パンの香ばしさと混ざった。


 飲み込んだあとにも、鼻へ少し香りが残る。


「……うま」


 声が、小さくなった。


 イトが、俺を見る。


 期待の目。


 俺はリィナへうなずいた。


 小さく塗ったパンが、イトへ渡る。


 受け取る。


 見る。


 食べる。


 動きが、止まった。


〈止まった〉

〈どうだ?〉

〈初蜂蜜〉


 ゆっくり噛む。


 もう一度、噛む。


 飲み込む。


 それから、イトが瓶を指した。


「……これ」


「蜂蜜」


「はちみつ」


 確かめるように言う。


 それから、真面目な顔でうなずいた。


「すき」


〈よかったなぁ〉

〈これは頑張って飼わないと〉

〈家の目標が増えた〉


 リィナも、小さく味を見た。


 目を閉じ、少し考えている。


「前にいただいたものより、香りが強い気がします」


「集める花や、そのときの状態で違うからね」


 エダさんが答える。


 俺は瓶を見た。


 これが、うちでも採れるようになるのか。


 そのために、世話をする。


 ちょっと、楽しみになってきた。


「……肉にも合いそうですね」


 言うと、全員が俺を見た。


〈出た〉

〈来ると思った〉

〈ようやく言ったな〉


「パンも、うまかったですよ?」


「残しておきなよ」


 エダさんに、もう一度言われた。


 俺は瓶から、手を離した。


     ◇


 二人が帰る前に、今後の世話をもう一度確認した。


 巣を開ける必要があるときは、連絡して相談する。


 出入りの様子を見る。


 周囲で、異変がないか確かめる。


 花が減る時期の準備も、少しずつ考える。


 エダさんたちは、ここへ来る前に周辺の様子も見ていたらしい。


「今は、すぐに困る状態じゃない。ただ、ずっと同じように花があるわけじゃないからね」


「はい。必要なものは、先に相談します」


「それがいい」


 入口まで見送る。


 商会の荷馬車は、集落側で別の用事を済ませて戻ってきていた。


 時間を合わせて、同じ便で帰るそうだ。


 見習いさんが荷物を積みながら、こちらへ頭を下げた。


「また、配信も見ます」


「ありがとうございます。今日は、助かりました」


「こちらこそ。……イトさん、またね」


 後ろからついてきていたイトが、手を上げた。


「また」


 見習いさんの動きが、一瞬止まる。


 エダさんに肩をたたかれ、慌てて荷台へ上がった。


〈先生、最後まで視聴者だった〉

〈気持ちは分かる〉

〈仕事はちゃんとしてたからw〉


 荷馬車が道の先へ消える。


 俺は入口を見回した。


 蜂の出入り口は、こっちとは離れている。


 商隊が通る場所とも、ぶつからない。


 造る前に相談して、本当によかったと思った。


     ◇


「さて。次は、稼ぎましょう」


 食堂へ戻り、俺は斧を手に取った。


 コメントの流れが、少し速くなる。


〈きた〉

〈モンスターほいほい〉

〈本日の営業開始〉

〈蜂蜜でやる気が出たな〉


「それも、あります」


 否定はしない。


 養蜂も、畑も、始めたばかりだ。


 すぐに取引できる量が手に入るわけではない。


 それに、育てるための場所や道具にも、費用がかかった。


 今、使える手段で稼いでおく。


 ただし、魔石を置けば、無限に魔物が現れるわけではない。


 周りにいるやつを、呼び寄せる。


 石の魔力も減る。


 そこは、忘れないようにする。


 俺は管理通路へ入った。


 覗き窓から、迎撃室を見る。


 猪は一匹。


 蜘蛛が二匹。


 奥の境目には、盾持蜥蜴兵。


 イトも、今日は蜘蛛の姿で参加する。


 壁を登り、糸の状態を確かめ始めた。


「まず、前の糸を見直してからですね」


〈ちゃんと準備するようになった〉

〈今回は何が来るかな〉


 猪の脚も見る。


 擦った場所は、ほとんど分からない。


 動かしても、かばう様子はない。


 それでも、今日の最初は、走り方を確認するつもりだ。


 回収用の容器。


 処理台。


 使う道具。


 全部、いつもの場所にある。


 外も一度確認した。


 近くに人はいない。


 集落へ向かう道へ、変に魔物が集まっている様子もない。


 ガドには、今日、誘引装置を使うことを先に伝えていた。


 近くを回ったときに気づいたことがあれば、教えてもらう。


「よし。じゃあ、開けます」


 遮蔽箱の蓋を持ち上げた。


 小さな魔石が、奥で淡く光る。


     ◇


 すぐには、来なかった。


 俺は管理通路の椅子へ座る。


 斧を、手の届く場所へ置く。


 リィナは少し離れた作業台で、記録をつけ始めた。


 開けた時刻。


 配置。


 魔石の状態。


 前回と比べられるように。


〈待機時間〉

〈今日は休日だから待てるな〉

〈来ないときも配信になるの、釣りみたいだ〉


「……ちょっと、似てるかもしれませんね」


 来るか分からない。


 何が来るかも分からない。


 ただ、釣りと違って、こっちへ牙を向けてくる。


 そこは大きな違いだ。


 しばらくして、入口で小さな音がした。


 牙鼠。


 一匹。


 鼻を動かし、壁際へ入ってくる。


「来ましたね」


 俺は立ち上がらず、そのまま見た。


 鼠が進む。


 脚が糸に触れる。


 身をひねったところへ、上からもう一本。


 蜘蛛が動く。


 猪が顔を上げる。


 短い助走。


 硬い音。


【配置した魔物が侵入者を討伐しました】


【ダンジョンポイントを獲得しました】


「うん。問題なさそうです」


〈安定〉

〈猪の動き、よくなったな〉

〈最初のころより無駄に走らない〉


 猪は、そのまま壁へ突っ込まなかった。


 途中で足を止め、鼻先で倒れた鼠を確かめる。


 それから戻る。


 俺は、脚の動きを見ていた。


 違和感はない。


 よかった。


 次が来るまでの間に、回収する。


 糸も確認する。


 切れたところだけ、蜘蛛が直していた。


 全部、張り直す必要はないらしい。


 イトは少し上の場所から、別の通路へ糸を一本足した。


「……そこ?」


 俺が聞くと、前脚が動く。


 入口の陰。


 鼠がよく通る、壁際の少し先。


「なるほど。そっちへ逃げたときの分か」


〈イト監督〉

〈現場見ながら直してる〉

〈猪と蜘蛛の組み合わせ、いいな〉


     ◇


 そのあとも、少しずつ来た。


 牙鼠が二匹。


 一匹は、糸を避けて中央へ出る。


 猪が前へ動く。


 逃げようと向きを変えたところへ、横の蜘蛛が糸を飛ばした。


 止まった。


 そこへ、猪。


 二匹とも、倒せた。


 ただ、今回は糸が少し多く切れた。


 修復が終わるまで、箱を閉める。


〈途中でも閉めるんだ〉


「次が来てから直すより、今、待ったほうがいいので」


 俺は、糸の張り直しを見た。


 蜘蛛たちも、ずっと同じように動けるわけではない。


 休む時間は要る。


 猪だって、毎回走れば疲れる。


 魔力があれば生きられることと、いくらでも働けることは、同じではない。


 しばらく休ませてから、また開ける。


 今度は、黒牙走狗が来た。


 二匹。


 前の一匹が入る。


 後ろは入口で止まった。


 部屋を見る。


 仲間を見る。


 鼻を鳴らす。


「……後ろ、警戒してますね」


〈気づいたか〉

〈先頭も止まった〉

〈この感じ、嫌だな〉


 先頭の一匹が、床を嗅いだ。


 前へ進まず、横へ回ろうとする。


 俺は立ち上がった。


 斧を持つ。


 ただ、まだ出ない。


 蜘蛛が、先頭へ糸を飛ばした。


 走狗が横へ跳ぶ。


 その動きに合わせ、猪が前へ出た。


 後ろの一匹が、入口から一歩下がる。


「逃げるか?」


 逃げた。


 くるりと向きを変え、森へ走る。


 俺は、追わなかった。


 猪にも外へ出ないよう、指示を送る。


 部屋へ入った一匹だけを、蜘蛛と猪が仕留めた。


【配置した魔物が侵入者を討伐しました】


 俺は息を吐く。


「……一匹、帰りましたね」


〈逃がしたか〉

〈追わない判断いいと思う〉

〈外まで追ったらほいほいの意味が薄くなる〉


「ですね。あいつを追って、ほかが入ってきても困るので」


 入ってくるかどうかは、向こうが決める。


 全部を捕まえるつもりでやると、たぶん、無理が出る。


 俺は箱を閉め、外の音へ耳を澄ませた。


 しばらく、足音はしなかった。


     ◇


 リィナが記録を見ながら言った。


「前より、途中で閉める回数は増えましたね」


「糸を直すの、待ってますからね」


「はい。でも、怪我はありません」


 俺は迎撃室を見た。


 猪は、水を飲んでいる。


 蜘蛛は壁のくぼみ。


 イトも、その隣で前脚を動かしていた。


 今日のポイントは、ちゃんと増えている。


 魔石の魔力は、少し減った。


 糸の修復に、時間も使った。


 それでも、使う前より残るものはある。


「これくらいで回せるなら、悪くないですね」


〈ずっと開けっぱなしじゃなくても稼げる〉

〈運用が育ってきたな〉

〈最初より余裕ある〉


「部屋を広げる前に、やれることが結構ありました」


 猪の待つ位置。


 蜘蛛の糸の高さ。


 回収するタイミング。


 休ませる時間。


 造り直さなくても、変わるところがある。


 俺は一度、斧を持ち直した。


「ただ、俺の出番がないですね」


〈平和でいいだろw〉

〈家主は見てるのも仕事〉

〈次に何来るか分からんから油断するなよ〉


 それは、そのとおりだった。


 俺は座り直し、魔石の箱をまた開けた。


     ◇


 次に来たのは、足音の違うやつだった。


 かり、かり。


 石を擦るような、硬い音。


 入口の下へ、灰色の塊が現れる。


「……ん?」


 丸い。


 低い。


 脚が、何本もある。


 背中は、濡れた岩のような色。


 だが、岩ではない。


 前に、短く太い顎があった。


〈虫?〉

〈何かでかいぞ〉

〈甲虫っぽい〉


 俺は鑑定を使った。


【岩殻甲虫 Lv.31】


 名前とレベル。


 それから、表示された短い特徴。


 硬い殻。


 落ち葉や木の実などを食べる雑食性。


 殻の隙間や腹側は、背中ほど強固ではない。


「岩殻甲虫。三十一ですね」


 大きさは、猪より小さい。


 でも、普通の虫と思って見るには、大きすぎる。


 平たい背中が、入口の光を鈍く返した。


 そいつは、ゆっくり入ってきた。


 床を、脚で確かめるように。


 糸へ触れる。


 止まる。


 顎が動いた。


 ぷつ、と一本切れた。


「……お」


〈切った〉

〈糸食い破るのか〉

〈猪いける?〉


 猪が前へ出る。


 鼻先を低くし、ぶつかった。


 硬い音。


 甲虫が、少しずれる。


 だが、ひっくり返らない。


 脚を広げ、床へ踏ん張っている。


 猪が、もう一度押す。


 灰色の殻が傾いたが、すぐ戻った。


「正面は、相性悪いですね」


 俺は立ち上がる。


 斧を持った。


 同時に、箱の蓋を閉める。


 今は、この一匹へ集中する。


「俺も入ります。猪、少し下がってくれ」


 指示を送る。


 猪が鼻を鳴らし、横へ退いた。


 俺は管理扉を開ける。


 甲虫の顎が、こちらを向いた。


     ◇


「どうも」


 挨拶は、やっぱり通じない。


 甲虫が、予想より速く前へ出た。


 低い。


 脚が短い分、地面を滑るように来る。


 俺は横へずれた。


 顎が、靴の前を通る。


 そのまま床の小さな石を挟み、砕いた。


「……結構、強いですね」


〈足挟まれたくない〉

〈顎やば〉

〈殻叩いても手がしびれるやつでは〉


「背中は、叩かない方向で」


 学んでいるのだ。


 岩背猪のときから。


 俺は斧の柄を低く構えた。


 甲虫が向きを変える。


 その後ろで、イトが壁から動いた。


 白い糸が、甲虫の片側へ落ちる。


 脚に絡む。


 甲虫が身をひねった。


 顎で切ろうと、頭が横へ動く。


 俺は、その瞬間に踏み込んだ。


 斧の柄を、殻の縁へ差し込む。


「よっ、と」


 持ち上げる。


 無理に真上へではない。


 脚が残っている側へ、転がすように。


 甲虫の体が傾いた。


 そこへ、横から猪が押した。


 灰色の背中が、床へ向く。


 脚が、空を掻いた。


「いいですね」


〈連携!〉

〈猪が押したw〉

〈裏返った〉

〈家主がちゃんと参加してる〉


 ひっくり返った腹は、背中ほど硬そうではない。


 ただ、脚はまだ動いていた。


 顎も、開閉している。


 俺は正面へ立たず、横へ回る。


 斧を短く持つ。


 一撃。


 暴れる脚が、床を擦る。


 もう一度、狙いを確かめて打ち込んだ。


【岩殻甲虫を討伐しました】


【経験値を獲得しました】


【ダンジョンポイントを獲得しました】


 俺は数歩下がった。


 猪を見る。


 脚に怪我はない。


 鼻先も、大丈夫そうだ。


 蜘蛛のほうも確認する。


 イトが前脚を上げた。


「……うん。無事ですね」


 そのあと、管理画面へ新しい通知が出た。


【召喚可能な魔物が追加されました】


【岩殻甲虫】


〈増えた!〉

〈新しい仲間候補〉

〈呼ぶ?〉

〈この流れで呼ぶんだろ?〉


「呼びません」


 俺は、はっきり答えた。


 コメントが、一気に流れる。


〈即答w〉

〈我慢を覚えた〉

〈熊で鍛えられた男〉


「今、必要な役割が決まってないので。出せるやつが増えるたびに呼んでたら、部屋が足りなくなります」


 それに、ポイントも減る。


 せっかく稼いだばかりだ。


 俺は甲虫を見た。


 殻は硬い。


 床へ低く構えるので、押しても動かしにくい。


 防衛に向いていそうではある。


 ただ、その分、猪が走る場所へ置いたら邪魔にもなりそうだ。


「使うなら、場所を考えてからですね」


〈ちゃんと役割見てる〉

〈通路塞ぐ係にはよさそう〉

〈盾持蜥蜴兵と違って、かなり低いな〉


 俺は見取り図の余白へ、名前を書いた。


 岩殻甲虫。


 その隣へ、小さく付け足す。


『狭い場所での防衛候補』


 今日は、それだけだ。


     ◇


 甲虫の死体は、そのまま全部交換しなかった。


 まず、殻を見る。


 刃が通った腹側。


 無傷の背中。


 顎。


 脚。


 俺一人では、何に使えるか全部は分からない。


 だから、分けて残す。


「殻は、職人さんに見てもらいましょうか」


 リィナがうなずく。


「はい。割らずに取れるところは、残したほうがよさそうです」


 下手に叩き割るのは、やめておく。


 必要なところを確かめながら、少しずつ作業する。


 思っていたより、時間がかかった。


 その間、魔石の箱は閉めたまま。


 新しい獲物を呼びながら、足元で解体するわけにはいかない。


〈討伐より後が長い〉

〈素材を取るって、こういうことなんだな〉

〈丸ごとポイントにすれば早いけど悩むな〉


「ですね。でも、使えるものまで消すのは、もったいないので」


 大きな殻が、ようやく外れた。


 俺は両手で持ち上げる。


 内側を見る。


 思ったより、厚みがある。


「……これ、何かに使えそうなんですよねぇ」


〈鍋?〉

〈皿?〉

〈すぐ食器にするな〉


「洗ってない殻で、料理しませんよ」


 ひとまず、素材の箱へ収める。


 残りも確認して、不要な部分だけポイントへ回した。


 数字が、少し増える。


 それを見てから、俺は手を洗った。


 休憩だ。


     ◇


 食堂で水を飲んでいると、マルクのコメントが流れた。


〈荷台のすみ:岩殻甲虫の殻は、次の便で確認いたしましょうか〉


「助かります。職人さんにも聞こうと思ってます」


〈荷台のすみ:用途が分かってから、手元に残すか決められるとよいですね〉

〈商人、ちゃんと買わせるより先に使い道を聞く〉

〈いい取引相手だな〉


 俺は、さっきの蜂蜜の瓶を見た。


 リィナが、涼しい場所へ置いてくれている。


「蜂蜜も、今日はまだ採れませんでした」


〈荷台のすみ:急ぎません。群れが落ち着いてからですね〉


「はい。俺たちが食べる分も、残したいので」


〈荷台のすみ:もちろん。その後の余剰分でご相談しましょう〉


 なんとなく、安心した。


 売る約束を先にしてしまったら、早く採らなければと気になるかもしれない。


 薬草も同じだ。


 まだ、小さな芽。


 まずは育てる。


 どれくらい採れるか分かってから、取引する。


 俺は指で、机を軽くたたいた。


「今、ポイントを稼いでるのは、入口のほうですね」


〈ほいほいが主力〉

〈蜂蜜と薬草は、将来の楽しみ〉

〈全部いっぺんに実るわけじゃないもんな〉


「ですねぇ。でも、こっちはこっちで、見てて楽しいです」


 今日は、芽が二つ増えた。


 蜂が、この場所へ戻ってきていた。


 それを知れただけでも、結構うれしかった。


     ◇


 休憩を終え、もう少しだけ迎撃室を動かした。


 猪は、交代させる。


 もう一匹に出てもらい、先ほどまで働いていたほうを休ませた。


 蜘蛛も、糸の状態を見て入れ替える。


 イトは引き続き壁の上。


 ただし、全部を自分でやろうとしないよう、声をかけた。


「ほかの蜘蛛たちにも、任せていいからな」


 前脚が動く。


 分かった、ということらしい。


 箱を開ける。


 今度は、少し長く待った。


 何も来ない。


 俺は、外の明るさを覗いた。


 夕方が近づいている。


 花畑のほうへ向かう蜂の姿は、ここからでは見えない。


 入口も静かだ。


〈今日はもう来ないかな〉

〈甲虫一匹で結構満足した〉

〈魔石強くしたら?〉


「今日は、このままで見ます」


 俺は魔石へ目を向けた。


 強くすれば、何か来るかもしれない。


 でも、どこから何が来るかは分からない。


 今のやり方で、何ができるかを見たい。


 それに、時間も決めてある。


「来なかったら、今日はそこまでです」


〈無理しない家主〉

〈継続できるほうが大事だな〉


 そう言って待っていると、入口の横へ、細い影が出た。


 黒爪鼬。


 以前も来たやつと、同じ種類だ。


 立ち止まる。


 奥を見る。


 壁を見る。


 俺は斧を持ち、姿勢を変えた。


 また壁を使って来るかもしれない。


 しかし、そいつはすぐには入らなかった。


 入口の縁を歩く。


 鼻を動かす。


 少しだけ顔を上げる。


 そして。


 帰った。


「……帰りましたね」


〈内見だけ〉

〈お気に召さなかったか〉

〈見るからに糸あるしな〉


「まぁ、全員が入ってくるわけではないので」


 それも記録する。


 入ってこなかった。


 倒していない。


 ポイントも増えていない。


 でも、来たこと自体は、分かった。


 今日は、それでいい。


     ◇


 最後に牙鼠が一匹来た。


 そいつを討伐したところで、箱を閉めた。


 すぐに片づけ始めず、少し待つ。


 近くまで来ていた魔物が、あとから入ることもある。


 入口を見る。


 音を聞く。


 やがて、しばらく何も来ないことを確かめてから、俺は肩の力を抜いた。


「……本日の営業、終了です」


〈お疲れ〉

〈今日は結構やったな〉

〈新種も増えた〉

〈猪と蜘蛛もお疲れ!〉


 迎撃室へ入る。


 猪を確認する。


 蜘蛛を見る。


 盾持蜥蜴兵は、今日も大きく動かなかった。


 でも、そこにいてくれるから、安心して前を見られる。


「お前も、ありがとうな」


 声をかけると、盾の向こうで顔が動いた。


 短く鳴く。


 俺はうなずき、床の片づけを始めた。


 回収する。


 使えるものを残す。


 交換する。


 道具を洗う。


 切れた糸は、そのままにしない。


 猪が走る場所へ、欠片も残さない。


 全部終えたころには、外が少し暗くなっていた。


     ◇


 食堂へ戻ると、リィナが今日の記録を並べていた。


 畑。


 蜂。


 迎撃室。


 紙が三つ。


 俺は椅子へ座り、一枚ずつ見た。


 畑では、青露草の芽が増えた。


 薄葉草は、一つ気になる苗がある。


 明日も見る。


 蜂は、今のところ異常なし。


 採蜜は、まだ。


 点検のときに見る場所を、いくつか覚えた。


 迎撃室は、怪我なく終了。


 魔石は消耗したが、今日の交換分も合わせれば、ポイントは増えている。


 新しく召喚できる魔物も、一種類。


「……うん」


 俺は、ゆっくりうなずいた。


 大きな部屋を掘ったわけではない。


 レベルも、上がっていない。


 新しいスキルを覚えたわけでもない。


 でも、一日としては、かなり充実していた。


〈今日は全部進んだな〉

〈少しずつ回ってる感じがいい〉

〈ポイント、熊に近づいた?〉


「近づきました。今日は、ちゃんと増えたので」


 そう答えると、隣のイトが顔を上げた。


「くま?」


「あぁ。まだ先だけど、少しな」


 イトは机の端へ置かれていた図面を引き寄せた。


 熊の部屋。


 その横に、小さな印がある。


 前に、少し進んだときにつけたものだ。


 イトが俺を見る。


 俺は笑って、うなずいた。


「一つ、増やしていいぞ」


 小さな指が、紙の上へ動く。


 印が、一つ増えた。


〈進捗ついた〉

〈この図面、残しておいてほしい〉

〈完成したら見返したいな〉


 俺も、それは思った。


 部屋ができたら、きっと、この紙を見る。


 こんなに待っていたのかと、笑うかもしれない。


 でも、今はまだ。


 小さな印を、一つずつだ。


     ◇


 夕飯は、焼いた肉とパンだった。


 蜂蜜は、ほんの少しだけ使った。


 全部ではない。


 エダさんに言われた分は、ちゃんと残す。


 肉の一部へ、薄く塗る。


 火から少し離した場所で、様子を見る。


 焦げすぎないように。


 前に、火を起こせなくて困ったころを思うと、随分と贅沢なことをしている。


 香りが変わった。


 俺は、思わず顔を近づける。


「……いいですねぇ」


〈絶対やると思った〉

〈本日の締め〉

〈蜂蜜猪肉、ついに〉


 皿へ分ける。


 少し冷ましてから、食べた。


 肉の味。


 脂。


 そのあとから、柔らかい甘さ。


「……うま」


 俺は、もう一度噛んだ。


 リィナも、少しだけ目を丸くする。


 イトは無言だった。


 その代わり、食べ終えたあとに、皿をじっと見ていた。


「今日は、それだけな」


 俺が言うと、イトはゆっくりこちらを見る。


 瓶を見る。


 もう一度、皿を見る。


 そして、小さくうなずいた。


〈我慢できた〉

〈次の収穫が待ち遠しいな〉

〈これ、自分の家で採れた蜜でやったら最高だろ〉


「……そうですね」


 俺は、瓶へ目を向けた。


 今日、食べたのは、エダさんの飼育場で採れたものだ。


 うちの蜂たちが集めたものではない。


 でも、いつか。


 俺たちが世話をした巣から、少し分けてもらえたら。


 そのときは、また焼こう。


 パンにも塗る。


 余ったら、マルクと相談する。


 まだ先のことが、いくつも浮かんだ。


     ◇


 配信を終える前に、もう一度だけ栽培室へ寄った。


 俺一人で、静かに。


 水はやらない。


 温度も変えない。


 ただ、見る。


 青露草の芽は、ちゃんとそこにあった。


 三つ。


 小さな緑。


「……今日も、お疲れ」


 言ってから、少し笑った。


 薬草へ声をかけるとは思わなかった。


 でも、聞いている人はいた。


〈お疲れ〉

〈苗にも言うようになった〉

〈もう完全に愛着湧いてる〉

〈明日も元気だといいな〉


「ですね」


 俺は扉のそばから、部屋を見渡した。


 畑。


 棚。


 作業台。


 まだ使っていない道具もある。


 これから覚えることも、多い。


 蜂の世話も。


 魔物の配置も。


 リィナの研究も。


 すぐに大きな成果が出るわけではない。


 でも、今日できたことを、明日も続けられる。


 そこが、少し嬉しかった。


「今日は、こんな感じです。長めに付き合ってもらって、ありがとうございました」


〈楽しかった〉

〈こっちまで一日働いた気分〉

〈畑と蜂の続報待ってる〉

〈次は狩りも行こうぜ〉


「行きたいですね。新しい素材も欲しいので」


 俺は笑った。


 家でやりたいことが増えるほど、外で探したいものも増えていく。


 便利な道具。


 育てられそうな薬草。


 使える素材。


 強い魔物だって、まだいるだろう。


 家に閉じこもって終わりには、ならなそうだ。


「それじゃ、また。明日も、できるところからやっていきましょう」


 手を上げて、配信を終了する。


 静かになった部屋で、俺は最後に札を見た。


 薄葉草。


 青露草。


 その横には、小さな字で植えた日が書いてある。


 いつか収穫するとき。


 今日のことも、思い出すだろうか。


 俺は照明を確認してから、そっと扉を閉めた。

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