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2話 ダンジョン改築と難題

●主人公視点


 今日は、家を広げようと思います。


 どうも、修羅です。


 夏休みが終わったので、平日の配信は少し短めです。


 明日も、学校があります。


 朝、布団から出られなくなるような時間までは、やりません。


「……ということで、改築です」


 机の上へ、見取り図を広げた。


 イトが隣から覗き込む。


 リィナさんは、温かい飲み物を置いてくれた。


 俺は、二階層の奥を指す。


「ここを広げて、大きな魔物が休める部屋にしたいんですよね」


〈熊〉

〈言い方変えても熊〉

〈やっと工事始まるか〉


「熊だけじゃなくて、今後のためにもです」


 言いながら、管理画面を開く。


 イベントの交換品でもらった資材は、既に運び込んである。


 石材。


 補強材。


 扉の金具。


 使える物を指定すると、改築に必要な物が表示された。


 材料の一部は、足りている。


 でも。


「……あ」


 俺は、数字を見た。


 現在のダンジョンポイント。


 通路を広げる費用。


 部屋を掘り直す費用。


 大型の魔物を配置できるよう整える費用。


 それから、熊を召喚する費用。


 順番に見て、画面を閉じかけた。


〈どうした〉

〈足りない?〉


「……足りませんね」


 もう一度、開く。


 見間違いではない。


「結構、足りません」


     ◇


 材料さえあれば、全部できると思っていたわけではない。


 ただ、資材セットを受け取ったときは、随分進められると思った。


 実際、費用は減っている。


 壁を支える石や金具を、一からポイントで用意しなくていい。


 でも、掘る。


 床を整える。


 魔力の通り道を維持する。


 そういう部分には、別にポイントが必要だった。


「……家づくり、甘くないですね」


〈材料費だけじゃないのか〉

〈大工さんに頼むのと似てるな〉

〈ポイント貯めよう〉


「それなんですよ」


 俺は、獲得履歴を開いた。


 留守中の記録。


 侵入した魔物の討伐。


 吸収させた素材。


 一つずつ、見ていく。


 たまに、蜘蛛たちが魔物を倒している。


 でも、毎日たくさん入ってくるわけではない。


 何も来なかった日もあった。


 俺が外で魔物を倒しても、その場でポイントが増えるわけではない。


 死体や素材を持ち帰って、ダンジョンへ交換する必要がある。


「外で狩って、持って帰る。中に入ってきた魔物を倒す。今、できてるのはこの二つですね」


 俺は、紙へ書いた。


 イトが、文字の横へ指を置く。


「かる?」


「はい。狩れば増えるんですけど」


 俺は少し考えた。


「俺が毎日たくさん狩ってこないと増えない、だと、あんまり安定しないんですよね」


 平日は、長く遊べない。


 たまに街へも行きたい。


 探索も、したい。


 家を広げるために、毎回同じ魔物を抱えて帰る。


 それだけになってしまうのは、少し困る。


     ◇


「まず、何を入れると、どれくらい増えるかを確かめましょうか」


 リィナさんが言った。


 俺は頷く。


「ですね。何となく、余った物を入れてました」


 倉庫を確認する。


 熊の爪。


 牙。


 残してある毛皮。


 岩鎧の端。


 ほかにも、売れる素材はいくつかあった。


 ただ、それを全部ポイントにしたいわけではない。


 今後の装備にも、使える。


「使う予定のない物からですね」


 小さな素材を、いくつか出した。


 加工の途中で割れた殻。


 短くなりすぎた骨。


 硬くて料理に使いにくかった筋。


 交換前の確認画面へ、順番に置く。


 数字が変わる。


 同じ重さでも、同じ値にはならなかった。


「……魔物の素材の方が、やっぱりいいですね」


 普通の石も試した。


 少しは交換できる。


 でも、手間に対して多くはない。


 近くの岩を延々拾えば解決する、という感じではなかった。


〈山を丸ごと食わせる計画、終了〉

〈普通の石が高かったら大変なことになる〉


 次に、使わなくなった小さな部品。


 それも確認してみたけど、交換額は低い。


 元の値段と比べると、買ってきて入れるような物ではなかった。


「街で何か買って、全部ポイントにするのは、結構お金がかかりそうです」


 俺は、紙へ線を引いた。


 できる。


 でも、続けるには高い。


 それでは、今あるお金を移しているだけだ。


     ◇


 後ろで、猪が鼻を鳴らした。


 俺が振り返ると、二頭ともこちらを見ている。


 何か食べ物を出したと思ったらしい。


「これは、ご飯じゃないですよ」


 言ってから、管理画面の注意書きを見た。


 自分で召喚した魔物を倒しても、使った分以上のポイントが戻る仕組みではない。


 そこは、以前から変わらない。


〈召喚して増やすのは無理か〉

〈できたら永久に回るからな〉


「そもそも、うちの子たちを、そのために倒したくないので」


 猪の一頭が、俺の靴へ鼻を押しつけた。


 俺は、その頭を軽く撫でる。


 増やし方を探す。


 でも、何でもいいわけではなかった。


     ◇


 紙へ書いた案を見直す。


 一、自分で狩る。


 二、侵入してきた魔物を倒す。


 三、外から素材を持ち込む。


 今のところ、やり方そのものを増やせそうにはなかった。


「……じゃあ、持ち込む方を変えるんですかね」


 呟くと、リィナさんが顔を上げた。


「どういうことでしょう?」


「俺が倒した物だけじゃなくて、誰かが使わなかった物を、分けてもらうとか」


 彼女は、少し考えた。


「村で、解体の後に残る物でしょうか」


「あ」


 俺は、紙へ顔を近づけた。


 肉は食べる。


 皮は使う。


 骨も、道具になる。


 でも、全部が全部、使えるわけではない。


 熊を持ち帰ってもらったときも、取る場所と残す場所を選んでいた。


「聞いてみましょうか」


     ◇


 ガドは、集落の外れにいた。


 狩りから戻ったらしく、槍を壁へ立てかけている。


 俺たちを見ると、顔を上げた。


「また、出るのか」


「今日は、相談です」


 俺は、ダンジョンポイントのことを説明した。


 家の中へ素材を取り込むと、改築に使う力になる。


 魔物の死体や、その一部も使える。


 ただ、自分で全部狩って集めるには、時間がかかる。


 ガドは黙って聞いていた。


 最後に、顎を少し上げる。


「骨は、使う」


「はい。使う物が欲しいわけじゃないです」


「皮も、使う」


「はい」


 俺は、頷く。


「使わない分が、あるなら。それを、買い取りたいんです」


 ガドは、しばらく考えた。


 それから、集落の奥へ顔を向ける。


「聞く」


     ◇


 解体をする人と、職人さんにも話を聞けた。


 残る物は、ある。


 ただ、俺が思ったほど何でも余っているわけではなかった。


 小さな骨でも、煮出すことがある。


 皮の端は、紐にできる。


 内臓にも、食べる物と、別の用途がある。


 村の生活は、俺が知らない使い方でつながっていた。


「……結構、使うんですね」


 俺が言うと、職人さんが鼻を鳴らした。


「使える物を、捨てるか」


「そうですよね」


 反省する。


 簡単に全部もらえる、と思っていたわけではない。


 でも、知らないことは多かった。


 話をしていくと、傷みが強くて加工に向かない部分や、狩りのときに砕けてしまった外殻は、持て余すことがあるらしい。


 量は、日によって違う。


 大きな獲物が取れた日には多く出る。


 何も残らない日もある。


 俺は、それでいいと思った。


「使う物を取った後で、残った分だけ。値段も、量を見て相談させてください」


 まとめて置いてもらう場所は、村の生活する場所から離す。


 長く置きっぱなしにはしない。


 狩りのついでに家の近くまで持ってきてもらうときは、運ぶ分も払う。


 逆に、俺が取りに来る日も作る。


 少しずつ、話が具体的になった。


〈村の仕事とつながった〉

〈使える素材を無駄に買い占めないのいいな〉

〈狩人から買うから、家主が狩らなくても入ってくるわけか〉


 俺は頷いた。


「これなら、俺が遊べない日も、まとめておいてもらえますね」


 ガドが、俺を見る。


「溜めすぎるな」


「はい。そこは、決めます」


     ◇


 試しに、小さな袋一つ分を分けてもらった。


 砕けた殻。


 傷みの強い皮。


 道具にしにくい、小さな骨片。


 家へ戻り、交換の確認を開く。


 数字が出た。


「……お」


 大きな熊を丸ごと交換したような量ではない。


 でも、ゼロではない。


 村で出る分を、少しずつ持ち込む。


 運ぶ手間と買い取るお金は必要だけど、自分で毎回魔物を探す必要はなくなる。


 俺は、一度だけ交換を実行した。


【ダンジョンポイントを獲得しました】


 数字が、増える。


 イトが、俺の顔を見た。


「ふえた?」


「はい。増えました」


 小さな手が上がる。


 俺も、少し笑った。


 ただ、これだけで大部屋を一気に作れるわけではない。


 続けて、貯める。


 そのための道が、一つできた。


     ◇


 もう一つは、家へ戻る途中で思いついた。


 村の外れには、食べ物の残りや、解体の匂いに寄ってくる魔物がいる。


 だから、ガドたちは時々、その辺りを見回っていた。


 その話を聞いて、俺は家の入口を見た。


 魔物が迷い込めば、今いる猪や蜘蛛が倒せる。


 でも、今の入口は生活用の広間へつながっている。


 わざわざ呼び込んで、食卓の横まで来られても困る。


「……先に、入口を分けた方がよさそうですね」


 見取り図へ、線を引く。


 入口のすぐ脇。


 今は岩が張り出して、使っていない浅い場所がある。


 そこを少し整え、生活用の道とは分ける。


 奥まで通り抜けられない、小さな区画。


 蜘蛛が糸を張れる壁。


 猪が向きを変えられる幅。


 人が家へ来る道とは、柵と扉で分ける。


〈狩り用の部屋?〉

〈入口に作るのか〉

〈いきなり大改築するより、小さく始める感じだな〉


「はい。何が入ってくるか分からないので、最初は近くで見ます」


 食料を大量に置いて、山から何でも集めたいわけではない。


 村の見回りで処理している小型の魔物を、こちらで受けられる場所にする。


 ガドにも、そう説明した。


 彼は図を見て、すぐには頷かなかった。


「村の方へ、寄せるな」


「はい。家の外側へ向くようにします」


「でかいのが来たら」


「閉じます。今いる子たちで無理なら、追わせません」


 ガドは、入口の向こうを見た。


 しばらく考えてから、頷く。


「最初は、見る」


「お願いします」


     ◇


 その日のうちに、作れたのは小さな区画だけだった。


 大きく掘るのではない。


 張り出した岩の一部を整え、買ってきた資材で仕切りを作る。


 生活用の入口には、開閉できる柵。


 魔物が入る側には、奥を見通しにくい曲がり角。


 大きな魔物が押し込んできたときは、閉じられるようにする。


 資材セットが、ここで役立った。


 必要なポイントも、熊の部屋よりずっと少ない。


 それでも使った後は、残りが減った。


「……最初に、お金がかかるやつですね」


〈設備投資〉

〈稼ぐために使う〉

〈ちゃんと動くか確かめよう〉


 俺は配置を開いた。


 岩背猪を一頭。


 蜘蛛を二匹。


 盾持ち蜥蜴兵は、生活用の道との境に。


 外へ追いかけない。


 登録された人は攻撃しない。


 異常があれば、通知を出す。


 設定を、何度も確かめる。


 イトも壁へ糸を張り、通る道を確かめてくれた。


 最後に、俺が実際に歩く。


 柵を開ける。


 生活用の道へ。


 問題は、ない。


 リィナさんにも通ってもらった。


「こちらは、普段どおり使えますね」


「はい。来る人にも、ちゃんと説明しておきます」


     ◇


 すぐに、魔物が来たわけではなかった。


 俺たちは入口から少し離れ、別の作業をしながら様子を見た。


 リィナさんは、薬草の束を掛け直す。


 イトは、その下で糸の端を整える。


 俺は、管理画面の履歴を見た。


 何も、増えない。


「……まあ、そうですよね」


〈作った瞬間に入ってくるわけじゃないw〉

〈そりゃそうだ〉

〈長い目で見よう〉


 俺は頷く。


 村の残り物を買い取る方も、毎日同じ量が出るわけではない。


 侵入する魔物も、都合よく決まった時間に来ない。


 一つだけで、全部を賄おうとしない方がよさそうだ。


 俺が狩って持ち帰る分。


 村から買い取る分。


 ここへ迷い込む魔物。


 いくつかの小さな入手先を、重ねていく。


 それなら、何も増えない日が減るかもしれない。


 そう考えていると、入口の方で糸が鳴った。


     ◇


 俺は、顔を上げた。


 新しく作った区画。


 低い場所で、何かが動く。


 長い前歯。


 灰色の毛。


【牙鼠 Lv.14】


 村の外れでも見かける、小型の魔物だった。


 鼻を動かし、床へ下りる。


 その脚へ、糸。


 牙鼠が暴れた。


 猪が、頭を上げる。


 短い距離を、踏み込んだ。


 衝撃。


 牙鼠が、壁際へ転がる。


 もう一度、猪の鼻先。


 動きが、止まった。


【配置魔物による討伐を確認しました】


【ダンジョンポイントを獲得しました】


【経験値を獲得しました】


 俺は、その表示を見た。


 少しだけ、数字が増えている。


 経験値も入った。


 でも、レベルアップの通知はない。


 今の俺には、本当に小さな量だ。


「……入りましたね」


〈動いた!〉

〈初収入だ〉

〈猪、仕事した!〉


 俺は猪へ、少し離れたところから声をかけた。


「ありがとうございます。外へは、出なくていいですよ」


 猪は、鼻を鳴らした。


 蜘蛛が糸を張り直す。


 区画は、また静かになった。


 俺は履歴へ、時間を書き込んだ。


 一匹来ただけで、これならずっと稼げる、と決めるのは早い。


 何日か見て、数と危険を確かめる。


 ガドへも、結果を伝えておこう。


     ◇


 配信を終える時間が、近づいていた。


 俺は机へ戻り、最初に書いた紙を見直す。


 熊の部屋。


 広い通路。


 召喚の費用。


 まだ、遠い。


 今日作った小さな区画だけでは、一晩で全部貯まったりはしない。


 それでも。


 自分が斧を振らなければ増えない、という状態からは少し進めた。


「村で使わない素材を、定期的に買い取る。それから、入口の区画をしばらく試す」


 紙へ、書き足す。


「これで足りない分を、自分で狩ったり、ほかの取引を相談したりして補っていこうと思います」


〈一気に解決じゃないのがいいな〉

〈少しずつ家が働くようになってきた〉

〈熊、待ってろよ〉


 俺は、少し笑った。


「はい。呼ぶなら、ちゃんと準備してからです」


 そのとき、現実側の終了時刻の通知が出た。


 今日は、ここまで。


 俺は炭を置いた。


 リィナさんが紙を覗き込む。


「明日、村へ持っていく容器を用意しておきますね」


「ありがとうございます。買い取る分の記録も、作りましょうか」


 イトが、紙の端へ指を置いた。


「くま、まだ?」


 俺は、その顔を見た。


 それから、見取り図の大きな丸へ指を置く。


「もう少し、先ですね」


 イトが頷く。


 急いではいないらしい。


 俺も、そうしようと思った。


 家を広げるために、毎日無理をするのは違う。


 暮らしながら、少しずつ貯める。


 その途中で、必要な物も変わるかもしれない。


「……今日は、小さい部屋が一つできました」


 配信へ向けて、そう言う。


 画面の端に、討伐の通知がもう一つ出た。


 俺は、入口の方を見た。


 猪が鼻を鳴らし、蜘蛛が壁を動いている。


 みんな、家にいる。


 その中で、少しだけポイントが増えていた。


 俺は履歴を確かめてから、頷いた。


「続きは、また明日ですね」


 机の上には、まだ描きかけの大きな部屋。


 俺はその紙を、折らずに端へ寄せた。

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