2.マルケドーラ帝国の旗揚げ
それから数ヶ月が過ぎた。守は決断力もない。小学生の頃から将来に夢も希望も持たずに育った。友達も少なく、もともと引っ込み思案で内弁慶な性格でもある。腹が減れば何かを食べていたが、食道楽でもなく、味にはうるさくなかった。インドアな生活を送っていた。
幸い、大学に入れるだけの頭脳は持っていて、何とか就職も出来た。だが守の人生は将来性がなかった。
このまま生きて何が楽しいのだろう。かといって夢や目標を抱いて、それに努力する気力もない。アニメのように別の世界に行って新しい生き方をするのも悪くない。
そう思ったこともないことはない。・・しかしよりによって自分がアンデッドで、悪魔の従者が居る?・・夢なら覚めてほしいと思ったが、無駄に時が過ぎていくだけだった。
アンデッドとして蘇った守は、食欲も睡眠欲もない。生きていないのだから。だが性格はアンデッドになっても大きく変わることはなかった。
「ビースト様からは、何の指示もないのか」
痺れをきらすようにイヴァンがペレニスに聞いた。
「ええ。眠りに付く前のビースト様とは違う印象だわ。ぜんぜんかまってくれないし、私のほうからモーションをかけてみようかしら」
「それはペレニスに任せるけど」
守護者のひとりであるゾンビ(動死体)のドミミクがやってきて
「近隣の人族どもがまた争いをはじめた。世代も変わって、ビースト様の威厳が薄れたようだ」
とイヴァンに言った。
「そろそろ、ビースト様には、再び立ち上がってもらわないと」
イヴァンがビーストに
「恐れながら・・」
とビーストの存在意義を説いた。
「ビーストとはそういう存在だったのか。確かに人間は支配欲があるから、世界から争いごとが無くなることはなかった」
「世界には人族や魔族をはじめいろいろな生き物がいます。そして大方は自然の中で自然と融合しながら生きています。ときには縄張り争いとかで些細な争いことはあります。が、一番厄介なのは人族です。彼らは生き物の中では体力的チカラのない種族で、魔法力も全体的には弱いものです。しかし、それゆえ、知恵が回ります。知恵で体力や魔法力を補っています。それだけならいいのですが、その知恵を使って自分たちの住みよい環境を作り出します。そして他の生き物を殺めたり、自然環境に逆らうようなこともします。家や大きな建物を建て、道路をつくり、田畑を耕して農作物というものを作り出しています。魔族など、人族以外は、そういうことをせず、自然の中で生活しています」
イヴァンの話を聞いて、守は魔族が田畑を耕す姿を想像して苦笑するところだった。確かに田んぼや畑を耕す魔族などは見たことがない。
顔は髑髏だからどんな表情をしても悟られることはないが。・・というより髑髏だから表情を変えられない。
「ドミミクもやきもきしています。そろそろ帝王としての力を諸国の人族に再び知らしめるべきかと」
「・・わかった、なら再びビーストの名を轟かせようではないか。マルケドーラ帝国の旗を上げよう」
「はい」
だが、守はあらためて驚いた。
「マルケドーラ帝国って人間は居ないの?」
「今は人族は滅ぼし、私たち守護者と魔物だけです」
「あ、そう」
え?どんな世界なんだ。・・ま、俺も人間じゃ無くなったし。
「尖兵はゾンビのドミミクが担います。ドミミクは殺した人族をゾンビ(動死体)に変える力を持っています」
こうして、ビースト率いるマルケドーラ帝国は、近隣の国を滅ぼし、領地を拡大していった。
◇
最初は半径数十キロくらいのマルケドーラ帝国は、近隣の人国を滅ぼし、領地を拡大していった。
しかし実戦はダークデビルのイヴァンの指示のもと、ゾンビのドミミクが赴いている。ドミミクは殺した人族をゾンビ化して兵軍を増やし、次々に国を潰してはマルケドーラ帝国の領地として拡大していた。ビーストはそれらをイヴァンやペレニスに任せていた。
「本当は国王である俺が先頭に立って軍を鼓舞し、国を作り上げていくのが筋だろうが、俺は何も出来ないからなぁ」
会社の経営をも掌握する社長というより、何も分からずに天下りでどこかの理事長をしているような気分だった。経営や運営は社員任せで何も出来ないで報酬をもらっているようなものだ。マルケドーラ帝国に関しては、ペレニスやイヴァン、ドミミクが采配をふるっている。ビーストは、彼らから報告や情報を得ているだけだ。
「ビースト様が眠りについている間に、人族が新たな国をつくり、各種生き物の縄張りを無視して領地を増やしています。このまま放置しておけば、いずれこの世界は人族に飲み込まれ、人族同士の争いにより滅びることでしょう。ビースト様は、そんな未来を憂いて降臨し、生き物たちの争いを鎮めていったのです。それを思い出していただきたいと思います」
「ペレニスの話は分かった。思い出させてくれてありがとう」
守はペレニスにがっかりさせないために、そう言ったが、守は、そのビーストに転生しただけだ。なぜ自分がビーストに選ばれたのかはわかっていない。
しかし、転移して生まれ変わった以上、ビーストとして生きるのが自分の務めなのだろう。アンデッドは、生きているものではないが。
「で、状況はどうなっている」
「はい。ビースト様が眠っている間に、この近辺にも人族が移動してきて、新たな国をつくりはじめています。北西の方角は、比較的魔法力を持つ人族がアリオン神国なる国をつくり、その近辺に次々と新しい国をつくっているので、いくら力のある我々でも、攻め落とすのは困難かと。南東には、さほど魔法力の高くない人族が領地を広げているようです。そちらから攻め落としたほうがいいかと」
ペレニスが報告すると、イヴァンが
「しかし、時を重ねているうちに、国力を上げているようで、1つの国で数万の軍力に拡充した国もあるようです。いくらドミミクでも、落とすのにそれなりの時間が必要かと」
と問題提起した。
「それなら人族同士で戦わせるのはどうだ?」
と守が提案した。
日本でも、戦国時代は他国(領地)に戦を仕掛けて武力で奪っていた。そして勢力をのばしていた。守は、学校で習ったそれらを思い出した。
「なるほど、その手がありました。ただ殺すのではなく、仲間にしてしまうわけですね」
「そういうことだ」
「さすがビースト様、帝王としての知恵も出していただき、恐縮に存じます」
「作戦はイヴァンに任せていいか?」
「お任せください」
守には、指揮棒を振る器量はない。
イヴァンとドミミクは近隣の国を攻め落とし
「本来なら国王及び、その親族はもちろん、軍幹部も処刑するところだが、もしマルケドーラ帝国に服従するなら命はとらない」
と宣言した。
するとグレイン男爵とアルベル将軍が服従を誓った。
こうして、イヴァンたちに代って近隣の人族の国を、同じ人族のグレインたちが攻め落としていった。




