第三話 そして追放
「なんで、私は母上の元を離れなければならないのですか?」
母の部屋で、白々しく聞いてみた。
私はこの世界のことをほとんど知らない。
だからこそ、知りたいのだ。
「ごめんね。本当にごめんね…」
母は大粒の涙を流し、私を抱きしめる。
「私だって、あんなところに送りたくなかった。けど、仕方なかった。あそこで殺されてしまうくらいならと、そんなことを考えてしまったの。恨むなら、私を恨んでくれて構わない」
そして母は一冊の本を出して私に見せ、説明を始めた。
「この世界には、四つの魔術があるの。戦闘系、支援系、技能系、別途。そして、あなたが授かったのは多分この中の技能系。この世でもっとも不遇とされる魔術の一つ」
その話を聞いても、私は希望を捨てなかった。
(殺されないだけマシだ。絶対生き延びて見せる)
私が希望を捨てていないことに気が付いたのか、母は微笑を浮かべながら頭を撫でてくれた。
「世界は広い。あなたを救ってくれる人が現れるかもしれないね。まあ、まずはその人見知りと内気なのを直さないといけないけど」
「わ、分かってるよ!」
頬をぷくーっと膨らませながら答える。
「あの調子だと明日には追い出されるでしょう。だから、今夜私の部屋にきて、ね?」
何かくれるのかなあ、と思いながら夜を待った。
ちなみに夜ご飯は部屋で食べるようにと言われた。恐らく、顔を合わせたくないのだろう。
窓から空を眺め、そろそろかな、と思い母の部屋に向かう。
私が廊下を歩いていても誰も挨拶をしない。
するな、と言われているのだろうか。
「母上、参りました」
扉を開け、部屋に入ると寝間着姿の母がベッドで座っていた。手には何かを持っている。
「これをあなたに。私がずっと大事にしてきた短剣。形見だと思って持っていって」
短剣は装飾こそ少ないが、所々に見られるその輝きはすぐに高級品であると分かった。
「そ、そんなもの、うけとれません」
思わず、断ってしまった。
「あら珍しい、ステラって人の頼みを断れたのね」
だけど、と母は話を続ける。
「持っていって。これは私の最初で最後のお願いだから」
そんな顔をされたら、断れないよ。
仕方なく受け取った。
そして、そのまま立ち去ろうとした時、
「何を帰ろうとしているの?今日は私と寝るのよ?」
へ?一体なにをいっているのだろう。
「今日ぐらい私のわがままを聞いて」
はあ、とため息をつきつつ、そそくさとベッドに飛び込む。
「おやすみ、ステラ」
「うん、おやすみぃ、かあさん」
母は私が寝付くまでずっと頭を、体を撫でてくれていた。
私が赤ちゃんの時にしてくれたように。
次の日、早々に叩き起こされ私は出発の準備をした。
準備といっても、短剣を持って渡された平凡な服に着替えるだけだけど。
途中、レーストが私のところに来た。
短剣を見られ、何を言われるか、取り上げられてしまうか、と思っていたが、レーストは私の前で膝をつき一言、
「どうかご無事で」
それだけ言うと、部屋を出ていった。
そう言えば、レーストだけだった。あの時も一人だけ悲しそうな顔をし、さっきもこうやって無事を祈りに来てくれた。
「レースト…。もしかして、寂しいのかな。私がいなくなって」
着替えを済ませ、玄関へ向かう。
立っていたのは、レーストと母であるラナトリアだけだった。
(さみしいね。見送りがこれだけって)
もちろん口にすることはないが、最後に見送りに来てほしいなあ、とか思っていたが来るわけないとすぐ考えるのをやめた。
「さっさと馬車に乗れ。それとカリウム侯爵閣下からの言伝だ。二度とインベリウスの名を名乗るな、とのことだ」
まあ、予想はしていたんだけどね。
御者にそう言われ、馬車に乗る。
「無事でいてね。必ず、会いに行くから」
涙を流し、私に手を振ってくれる。
前世ではろくなことはなかったけど、今世ではいい母を持ったな、と思いながら母とレーストを見つめる。
すると、レーストも泣いていることに気が付いた。
(なぜ、なぜ父付きの執事であるあなたが泣くの?)
疑問は解消されないまま、馬車はソリトゥスへと向かって走り始めた。
(寂しいな、ここから一人で生きていかないといけないの?こんなの、前世と変わらない)
答えの出ない自問をしながら、変わりゆく風景を一人眺めていた。
今回の話はいかがでしたか?
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今後ともよろしくお願いします。




