第二話 祝成の儀
この世界に転生してから分かったこと。
それは、魔術があること。
(魔術、見てみたい!)
姫華もといステラは、柵に覆われたベッドの上でそんなことをずっと考えていた。
なんせ、魔術だ。前世ではありえないものだったから気になるのも仕方がないというもの。
すると扉が開かれ、いつものように母ラナトリアが入って来て私に乳を与えてくれる。
もはや、この流れも慣れてしまった。
「かーか、まずつ、まずつ」
授乳が終わった後、そんなおぼつかない言葉で、母に言ってみる。
届くかどうかは分からないけど。
「どうしたの?そんなにせがんで」
「奥様、恐らく「魔術」が見たいのですよ。一体どこでそんな難しい言葉を覚えたのでしょうね」
お付きのメイドにそう言われ、母は私を見ながら優しく微笑んでくれた。
この笑顔を向けられるのは、何年ぶりだろうか。
「そうね。コップを持ってきてくれる?」
「承知しました」
一礼して、メイドは部屋を出ていった。
今、部屋の中には二人だけ。
母はずっと、私のことを抱っこしながら、ゆらゆらと揺らしてくれる。
とても、穏やかで暖かかった。
「これで、よろしいですか?」
メイドが持ってきたのは、小さな銀製のコップだった。
「ええ。水魔術 水球」
母が呪文のようなものを唱えると、指先に小さな水の玉が出来た。
そのまま、コップの中に入っていく。
「きゃっきゃっ」
「ふふ、ステラも喜んでる。さあ、お昼寝の時間よ」
そのままベッドに横にされ、布団?をかけてくれる。
(魔術、早く使いたいなあ)
そんなことを思いながらすやすやと眠りについた。
魔術のことを考えながら過ごすこと8年。
毎日、文字や足し引き、国のことについて勉強をしていた。
頭は七,八歳、中身は高校二年生ということで、覚える速度が半端なく速い。
しかも、前世で習ったことと似ているのだから。
周りよりもはるかに物覚えがいいせいか、影で神童と噂されるようになっていた、らしい。
今日もお勉強かなあと思いながら着替えをしていると、母に呼び出された。
さっさと着替えをすませようと鏡を久しぶりに見た時、自分の体が、前世とは全く違うことに気が付いた。
身長は平均よりも少し高め、母譲りの長い銀髪にルビーのような目、顔立ちもまだ幼く、なんとなく前世の自分に面影を感じた。
着替えを済ませ、母の自室へと向かう。
八年間この姿で過ごしてきたが、母の部屋に入ったことは一度もなかった。
そして、父の顔を見ることもそんなになかった。
部屋の前に立ち、ノックする。
母の部屋に行くだけなのに、面接かというぐらい緊張する。
すると、扉が開かれ青と水色の礼服を着た母上が出迎えてくれる。
「母上、何でしょうか」
「いや、今日は祝成の儀だからね。大丈夫かなあ、と」
一番大事なことを忘れていた。
今日は、魔術を授かれる祝成の儀が行われる日である。
「でも、その様子だと、忘れてたみたいね。じゃあ、一緒に行きましょうか」
母上は私が忘れるのを分かっていたようで自ら儀式が行われるホールへと案内してくれた。
そこは、大理石のような石の柱にきれいなガラスで彩られた教会のような場所で、先には父を含め、この領地を治める位の高そうな人たちが集まっていた。
もちろん、兄であるクロムとラドンも。
「さっさとこっちにこい。ステラよ」
豪華絢爛とまでは言わないがそれなりにきれいな服を着た、ガタイのいい父、カリウムが私をせかすように言う。
「分かっております父上。遅れてしまい申し訳ありません」
うわべだけ謝っておき、言われた場所に膝をつき祈りを捧げる。
それを確認して、神父と思われる人が儀式を始めた。
「創造神アルテナ・マリアテス様。今ここにステラ・インベリウスが八歳となったことをご報告申し上げます。そして、彼女が進むべき道を示したまえ」
眩い光と共に、なにか力を授かったような気がした。
「ステラ、プロフィールで自分の適性魔術を確認してみろ」
父にそう言われ、確認してみる。
「プロフィールオープン」
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ステラ・インベリウス 八歳 女 人族
レベル1 魔法容力量 200/200
称号 インベリウス侯爵家の三女
適性魔術 生産技術
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「生産、技術?」
なんだこれ。
「なんだと!」
そのボソッと呟いたその一言に父は反応し、私の腕を掴み、覗き込むように私のプロフィール画面を見て、そして顔を青ざめた。
「ふ、ふざけているのか!」
あまりの怒りように私は何も言うことが出来ない。
「我が一家から、適性魔術を一個しか持たず、しかもそれが生産技術とかいう訳の分からん魔術をもった者がいると知れば、周りからどんな目で見られるか!これならいっそ…」
その続きは私でも想像できた。
殺してなかったことにする、ということだろう。
前世では考えられない、落ちこぼれと家族に見放されていても、最低限の衣食住はあったというのに。
「そこまでする必要はないでしょう!」
どう切り抜けるか考えていると、母が割って入ってきた。
「あなたは、自身の子にまで手をかける気ですか!」
ん?まで?
「お前は黙っていろ。こんな一家の恥さらしなどいない方がいい」
すがるような目で周りを見るが、誰も助けようとしてくれなかった。兄でさえも。
「だからって、殺すことはないでしょう!」
「なら、どうする?」
どすのきいた声で、父が母に問う。
母は苦虫を嚙み潰したような顔で、苦しそうに答えた。
「この領地で唯一人がおらず、魔物しかいない辺境の都市、ソリトゥス。そこにこの子を送りましょう」
母の提案に、周りはざわつき父と兄は大笑いし始めた。
「はっはっは!まさか温厚で子供思いのお前かそんな言葉を聞くとはな。いいだろう、レースト!辺境送りの用意をしておけ!」
レーストと呼ばれた母と同じくらいの年代に見える、黒の服を着たハンサムな執事は一礼して、ホールを去っていった。
(なぜ、悲しそうな顔をするのだろう)
あの、頭を下げた時に見えた悲しげな顔を、私はいつまでたっても忘れられる気がしなかった。
「さっさと部屋に戻れ!この役立たずが!」
父の言葉ハッとし、いそいそと母と一緒に部屋に戻った。
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今後ともよろしくお願いします。




