第二十四話 人族対人族
ここからあの村までは四日ほどかかる。歩いて四日なので、走って近道を通っていけばかなり時間を短縮できるだろう。森の外を通るのは時間の無駄なので危険を承知で中を突っ切っていく。
もちろん私がみんなの速度についていけるわけがないのでアモニアにおんぶしてもらっている。
アモニアも私をおんぶしているのにみんなと速度が変わらない。その体力に感心しつつ周りを見てみる。
景色は前世の森とあまり大差ないが、見たことのない植物がたくさん生えていた。
そうやって走ること一時間。
流石にみんなの顔に疲れが見えてきたので一旦休むことにした。みんながその辺の石に腰かけたり木に寄りかかったりして休憩をしている中、私は周りを探索することにした。
「なにか珍しい物ないかなあ」
シエンと一緒に見て回ると、薬草っぽい草を見つけた。
「これって薬草?」
「よく分かったな。そうだよ」
シエンにそう言われ、引っこ抜いてみる。見た目はただの草と変わらないのに不思議と魔力を感じた。
これが薬草というものか。確かにこれなら人の傷も治せそうな気がする。よくよく辺りを見渡すと何個か生えていたので持っていくことにした。それからまた走って休んで。それを繰り返していくと二日後には村の目の前までついていた。
「はっや……」
思わずそんな言葉が漏れるほどに早い。この人たちの体力尋常じゃないでしょ。
後で分かったことなのだが、猫人族とルベルさんのような獣人族は総じて身体能力が高いらしい。
「さて、あたしが偵察をしてくるからお前らは休憩と戦闘の準備をしておいてくれ」
シエンにそう言われ各自準備を始めていく。
私もプロ―フライフルを出して弾の装填を始める。
「それ、なんだ?」
弾込めをしていると、大剣を背負ったルベルさんが私の所にやってきた。
「これ?弓の強化版だと思って下さい」
「ふーん。弓の強化版ねー」
それだけ言うと、また猫人族の所へ戻っていき打ち合わせを始めた。
「アモニアはどうするんだろ」
キョロキョロと周りを見渡していると、空を見上げなんとも言えない表情していたアモニアが一人離れた
ところで立っていた。
「アモニア、どうかした?」
「いえ、なんでもございません」
するといきなりぶら下げていた二本の剣を交差させるようにして地面に突き刺し、膝をつき祈りの構えをとった。その行動に私も声が出ない。
「私は貴方の盾となり剣となり、そしてメイドとしてこの力を奮いましょう」
顔をあげたアモニアの表情は、笑顔だった。
だけど、その目には揺ぎ無い決意が宿っているように見える。私もこのアモニアの決意に答えなければならない。
「私も頑張る!」
そう答えるとシエンが私の頭に乗っかってきた。
「もうすっかり元気だな、ステラ」
そういうシエンも笑顔である。
さあ、気を引き締めていこう。私にとって初めての戦いだから。
みんなが配置についていく。作戦は単純。前から突っ込む。それだけだ。私の魔術で壁を作り、それを起点にみんなが攻めていく。私は敵から見えない位置で待機である。
「ひまだなあ」
「まあまあ仕方ないだろ?プロ―フライフルでも出して待ってようや」
言われるがままに背負っていたライフルをおろし準備を始める。そんなことをしている中、村ではすでに戦闘が始まっていた。シエンの事前の調べによって盗賊は二十名前後だと分かっている。
当然入り口にも見張り入るわけで、ルベルさんが近づいているのはすぐにばれた。
「敵襲!敵襲だ!」
そう叫び急いで迎撃の準備をしている。敵って、まああっちからすれば私たちは敵か。
まあ私達からすればあなた達が敵なんだけどね。そんなことはさておき、事前に作っておいた壁によって弓による攻撃を受けることなくルベルさん達は進軍していった。唯一怖いのは曲射による攻撃だがなぜか飛んでこなかった。
そして入り口まであと少しというところで、柵の隙間から矢が飛んできた。
「ちっ!」
飛び出そうとしたルベルさんは壁の裏に引っ込むことしか出来ない。なるほどこれが狙いか。
だが、これだけならば壁で防げるのでそんなに問題ではない。ならば、相手は何を狙っているんだろう。
相手の出方を見てもいいが嫌な予感がしたので一発邪魔をしてみることにした。
「おいおい気をつけろよ?」
シエンにそう言われるがまあ大丈夫でしょう。多分。プロ―フライフルを爆撃に切り替え、閉ざされた門に一発撃ちこむ。
「相変わらずいい腕だねぇ」
シエンもほぼ百発百中のステラの腕に感心していた。
段々と立ち込めていた煙が晴れていき、短剣や長剣を片手に持った盗賊がぞろぞろと出てきた。
「おお、たくさんでてきたな」
ルベルも感心しながら剣を抜く。他の猫人族たちも剣を抜き戦闘態勢に入っているのに対し、前線にいたはずのアモニアはいつの間にかステラの横に立っていた。
「ステラ様、これ以上はお目汚しになるので見ない方がよろしいかと」
おそらくこの前のことを心配しての事だろうけど、私は気にしなかった。
だって、中身は十七歳だもん。大丈夫だろうと高を括って村の方を見ると、
「う、うぷっ」
流血している現場を少し見ただけで吐き気を催してしまった。
「おいおい大丈夫か?だからアモニアが言ったのに……」
シエンが私の背中を優しくさすってくれる。前世のアニメで散々血の出るところは見てきたというのに。現実とはこうも違うのか。私が気分を悪くしている先では一進一退の攻防が繰り広げられていた。
「まあルベルとアモニアがいるから大丈夫だとは思うが……」
シエンもその戦いを見ていて少し不安になっている。
死ぬ位なら引いてと、事前にそう伝えてあるので死人が出ないと思いたいんだけど……
そして、戦いを続けている中でひときわ目立つ敵がいた。あのルベルさんとまともにやりあっているのである。
「だいじょうぶ、だよね?」
思わずそんな言葉が漏れる。剣と剣が交じり合う音がだんだんと少なくなっていく。
最後に立っていたのはその盗賊の頭領らしき男と、私達だった。一対二十四、どちらが勝つかは火を見るよりも明らかである。
「さあ、あなたで最後です。覚悟するのですね」
じりじりとアモニアが近づいていく。
相も変わらずメイドの言っていい発言でもないし行動でもない。
「大丈夫。きちんとカーナイトスの騎士たちに引き渡してやるから」
同じくルベルも笑顔で剣を向けて近づいていく。もう決着はついたかなと思っていたその時、頭領がとんでもない行動に出た。
「くっくっく。てめぇら動くな!こいつがどうなってもいいのか⁉」
逃げ出したと思ったら、ゴライアの子供を引っ張り出し、人質に取ったのだ。
「ぐっ」
さすがのアモニアもゴライアの、しかも子供を人質に取られては安易に手を出せない。
「ひ、卑怯だぞ!」
ルベルがそう叫ぶが、頭領は不敵な笑みを浮かべて言った。
「卑怯?戦いに卑怯もくそもないんだよ!」
みんなどうすることもできない。
ただただその場に立っていることしか出来なかった。
「さあそいつらを早く解放しろ!さもないと……」
「分かった!分かったから……」
仕方なく、盗賊たちの縄をほどいていく。
そして、ルベル達は縄を解かれた盗賊に取り囲まれてしまった。
「万事休すか」
その状況をたった一人だけ見ていたものがいた。遠くで待機していたステラである。
私はなにか助ける手段はないかと、思考を巡らす。真正面から入っても勝てるわけがない。かといってプロ―フライフルで狙おうとしても一体ずつ倒しているようではすぐに気づかれる。
「ん?そういえば……」
弾を装填し配置に着く。
早くしなければルベルさん達の命が危ない。
地形生成で相手にバレないように少し高台を作り、そのうえで狙撃態勢をとる。
「私にできるのは、これだけ!」
狙いを定めて一発。
狙う目標はただ一つ。
「ぐあぁ!!」
子供に短剣を突き付けているその右手である。
「やった!」
「相変わらずえげつねー命中精度……」
シエンも驚きのあまりそんな言葉が漏れる。
そして何よりもすごいのは、頭領がよろけた瞬間のアモニアとルベルの行動だった。
「水魔術 水砲」
「炎魔術 炎槍」
アモニアとルベルの魔術が頭領とその周囲の盗賊たちを包み込んでいく。アモニアの水砲によって完全に子供から引きはがされ、ルベルの炎槍によって周囲を炎で囲う。これにより盗賊たちはルベル達を襲うことが出来なかった。わざわざ火に飛んではいる奴なんていないだろう。
「これでなんとかなる?」
「ああ、さっすがステラだな!」
シエンに珍しく褒められステラも照れている。
「やはりステラ様はすごいお方ですね」
アモニアは感心しつつ頭領に向かって走る。
「どこだ!どこから撃ってきやがった!」
頭領は必死に魔術を撃ったであろう人物を探し出そうとしているが、それどころではなかった。ルベルも炎の外にいる盗賊を倒しに行っている。
「子供を人質に取った罪、その身で償ってもらいますよ」
いち盗賊の頭領がアモニアに勝てるわけもなくすぐにお縄についた。全員が捕まったのを見て、ステラはみんなの所へ向かう。
「おお!ありがとなステラ!」
近づくなりルベルに抱きしめられた。少し恥ずかしく感じながらも、すぐに気持ちを切り替える。
「ゴライアの人たちは?」
そう聞くと、猫人族の一人が奥の民家を指さした。
「あそこ?」
「はい。おそらくは」
アモニアと一緒にその民家へと向かう。周りの家はすでに壊れている物が多く、本当に廃村みたいだった。まあ実際廃村なんだけど。
暖簾をくぐり中に入る。埃まみれで穴の開いた壁から光が差すだけの牢獄のような家の中に、ゴライア達は押し込められていた。
「だ、大丈夫ですか⁉」
そばに駆け寄るがみんな暗い顔をしている。一体何があったのだろう。
「あんたたちは何者だい?」
手前に座っていた若そうな男がそう聞いてくる。恐らく見当はついているだろう。
「私たちはラードさんに頼まれて助けに来た者です」
そう告げると、みんなの顔が少し明るくなった気がした。
「やっと、やっとここから逃げられるのか」
押し込めていた感情があふれ出し、男は涙を流す。
「さあいきましょう。皆さんも一緒に」
アモニアが先導し入り口の壁を蹴り壊した。通りにくいから、という理由らしい。私達が外に出ると、中からぞろぞろとゴライアが出てきた。あの家に入っていたとは思えないほどの量である。
「さあ、ついてきてくださ……」
ステラがみんなを元気づけるように言おうと振り返ったとき、表情が一気に青ざめていった。
いきなりステラが黙ったことにアモニアも不思議に思い、後ろを振り返ると……
「な、なんでここに……」
そこには八本の脚に大きな体、そう大きな大きな蜘蛛の魔物が家の上に居座っていた。
今回の話はいかがでしたか?
面白かったり改善点等があればぜひ感想欄で教えてください。
今後ともよろしくお願いします。




