第二十五話 蜘蛛の魔物 アラネア
「な、なぜ。なぜここにアラネアがいるのだ……」
ルベルが、顔を青ざめて呟く。
「アラネア?」
そばにいたシエンがすぐに説明してくれた。
「あいつの名というか種族はアラネア。見た目通り巨大な蜘蛛型の魔物で全身が滅茶苦茶硬い。さらに口から糸を吐き、足を使って攻撃し炎魔術まで使ってくる厄介な魔物だ。倒せたら奇跡、なんて言われてるけどな」
しかし、とシエンは話を続ける。
「だが、アラネアはこんな地上にはいないはず。一体何が……」
まさか誰かが連れてきたのだろうか。でもそんなことできるはずがないと、すぐに考えるのをやめ目の前の魔物に集中することにした。
「ルベル様!足を!私は首を狙います!」
アモニアがルベルに指示を出し、アラネアに向かっていく。ルベルも一緒に戦い、猫人族も魔術を撃っているのに傷がつく気配が一切なかった。
「いいぞアラネア!そいつらを全員殺してしまえ!」
後ろで頭領がそう叫ぶ。まさか、こいつが連れてきたの?でもどうやって……
「ステラ危ない!」
「え?」
アラネアが私に向かって蜘蛛の糸を打とうとしているのが見えた。咄嗟にシエンが押してくれたことでアラネアの糸をなんとか避けることが出来た。が、次々糸を吐きだしてくる。左へ右へ避けることで当たらずにはすんだ。だけど、打開策が見つからない。
「体は硬く、素の攻撃力も高い。現にアモニア達の攻撃も全然通ってないし。どうすれば……」
恐らくあの頭領が連れてきたのならば、別途魔術の傀儡魔術か洗脳魔術だろう。どちらにせよ魔術を解かなくては落ち着くものも落ち着かない。
「頭をぶん殴ったら正気に戻ったりしないかな……」
ふとそんなことが頭をよぎった。がそれで解ける魔術ではないだろう。けど、試せるものは試してみたい。
「アモニア!ルベルさん!あいつの頭を思いっきり叩いて!」
「「はい⁉」」
二人とも言っている意味が分かっていないようだったが、ステラの考えることだからと、すぐに行動に移した。
「頭を叩けって言ってもこいつの守りかてえんだぞ!」
ルベルがそんな愚痴をいいながらなんとか頭を叩こうと剣を振る。アラネアの糸を炎魔術で燃やし近づくがどうしても足によって頭をガードされてしまう。
「ぐわっ!」
そんなことを考えている間に、ルベルが蜘蛛に押し倒されてしまった。
「ルベル様!」
アモニアが助けようとしたが、アラネアの糸に阻まれ前に進めなかった。何とか剣で切ろうとするが、アラネアが口から吐き出し作った繭に閉じ込められてしまった。
「やっべ、まっず……」
ここぞとばかりにその尖った足をルベルに向けて振り下ろしてくる。ルベルさんが何とか剣で受け止めようとしたその時。
「グッ」
一瞬アラネアの動きが鈍った。その隙にルベルは体勢を立て直し、目の前の足を弾き飛ばし、隙のできたアラネアの頭に一撃を叩き込む。
「せえーーい!!」
思いっきり振り下ろしたその一撃が、アラネアの頭を直撃した。
「はあ、はあ。どうだ!」
ひるんでいる。明らかにひるんでいる。効いているだろうが、魔術が解けた、といった感じはなかった。
「まだか。ならもう一回……」
「待ってください」
ルベルがもう一撃入れようと構えを取った時、繭を切り刻んで出てきたアモニアがルベルとアラネアの間に立つように飛んできた。その行動に全員が目を丸くする。
「なぜだ!なぜ止める!」
「もう、戦う必要が無いからです」
それだけ言うと、アモニアはアラネアに向かって歩き始めた。
「ちょっとアモニア!危ないよ!」
私がそう叫び止めようとするがアモニアは止まらなかった。むしろ笑顔で振り返り、
「大丈夫ですよ」
そう言った。どこにそんな根拠があるのだろうか。アモニアはゆっくりと、しかし確実にアラネアに近づいていく。
「え?」
すでにアラネアの攻撃範囲に入っているというのにアラネアは何もしてこなかった。むしろ何かを必死に抑えているように見える。
「一体どういうこと……」
私は何が何だか分からなかった。だけど、シエンは見当がついているようでなにも心配していなさそうである。アモニアはアラネアの目の前まで行くと
「もう、大丈夫ですよ。アラネア」
そう言い鞄から出した石を空に掲げた。
「上級マジックアイテム 解呪の石」
石が光り輝きあふれ出る魔力がアラネアのその巨体を包んでいく。
「なに?何が起きてるの?」
「あいつにかけられた洗脳魔術を解いたのさ」
シエンはその様子を、腕を組みながら偉そうに眺めている。そして光が収まり、蜘蛛がいたはずの場所には、アモニアが一人の女性を抱えて立っていた。
「ば、ばかな。洗脳魔術が解けるだと……」
「ふーん。やっぱりあんただったのか」
ルベルが頭領の方を見てにやりと笑う。どうやら、予想はついていたらしい。ゴライアを連れて盗賊たちの元へ戻り今後について話す。
「こいつらは……まあカーナイトスに連れて行けばいいだろ。騎士団に突き出しとけば後は勝手にやってくれる」
ルベルが盗賊の一人をけつりながら言う。ひえ、怖い。とは言え一人で盗賊達二十人を連れていけるわけがないのでゴライアと一緒に一回ソリトゥスに来てもらうことにした。
「あとはあの人だけど……」
アモニアに抱えられている女性を見てどうしようかと悩む。まだ起きていないようで、すやすやと寝ている。
「この人も連れて帰りましょう。そうすればイベル様が治してくださるはずです」
「そーだね」
アモニアの意見に賛同し、出発の準備をする。盗賊達は全員縄でくくり、ゴライアの人たちは村にいた馬を使い幌馬車で一気に運ぶことにした。馬は四頭。ゴライアは50人前後だったので半分に分けて戻ることにした。ちなみに御者はルベルさんとアモニアである。うちのメイドはほんとに何でもできる。
逆にできないことがないのか不思議なくらいである。
そんなことを考えながら私たちは廃村を出発しソリトゥスに向けて馬を進めた。安全のため、帰りは森の中ではなく外を通ることにした。道中の食料はアモニアの魔術鞄に入っていたので問題はないし、肉が食べたいといったらその辺ですぐ狩りをして取って来てくれる。私はいい人と出会えたと、つくづく思う。そんなこんなで四日かけて私たちはソリトゥスに戻った。
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