第二十二話 機械工作開始!
「ステラ、変わったよな」
作業をしているステラを見て、シエンはそんなことを考えていた。
「確かに、最初出会ったときはあんなに内気で人見知りだったのに」
ルベルも同じことを考えているようで、作業をしているステラを笑顔で見つめていた。
「あの出来事があいつを変えてくれたんだろうな」
彼女にとって苦いどころではない記憶を乗り越えたことで、また一つ強くなれたのだろう、とシエンは考えていた。
「そういえば、この透明な板の名前は?」
いきなりステラが聞いてきたことでシエンはびっくりしつつも的確に答える。
「それは、パレット。一応鉱石の一つだな」
「これ、鉱石なんだあ」
ステラは板状に加工されているパレットをうっとりと眺めていた。
「っと、作業作業」
すぐに切り替え作業に集中する。
「ほんっと八歳には見えないな」
「たしかに、言葉遣いもね」
あの時はステラが転生者であることをうまく隠しておいた。
言わないでほしいと、昔ステラにお願いされたから。
「まあ八歳で家を追い出されれば誰だって変わるさ」
ルベルとそんなくだらない会話をしているとステラの手元に何かが出来上がっているのが見えた。
「できた!保護メガネ!」
ステラが嬉しそうに飛び上がっているのを見ているとこっちまで嬉しくなる。
「ああいうところだけ八歳だよね」
「ははっ、確かに」
ステラの作ったという保護メガネはこの世界では見たことのないような形状の物だった。
「ていうか、メガネってなに?」
そう聞かれてステラはびっくりしていた。
「メガネはメガネだよ?」
そう答えるがまだ理解が出来ていない
ステラはその姿を見て、不思議に思いつつも説明を続ける。
「メガネっていうのはね。この「つる」っていうのを耳にかけて視る力を良くしたり、飛翔物から目を守るものなの」
そう言われて、やっと理解したようだ。
「へえ、そんなものが……ってステラ目悪かったっけ?」
シエンがそう聞くとステラは首を横に振り答えた。
「んにゃ、私目わるくないよー」
可愛らしく答えてくれるが、意味が分からなかった。
じゃあ何のために?
この頭をもってしても分からない。
まさか飛翔物が飛んでくるわけじゃあないだろうし。
「じゃあ何のために……」
気づけばステラが鉄の鉱石をインゴットに変え、円筒状にしていた。
「ふう、こんなもんかな」
ステラは出来上がった円筒状の鉄を持って旋盤とやらの方へ行く。
「あ、道具作らないと」
ステラは何かを思い出したかのように、いそいそと魔術を使いなにかを始めた。
「チャックハンドルと刃物と刃物台用のハンドルがあればいいかな」
鉱石を使い、さくっと見たことがない物を作り出していく。
「それ、なに?」
あたしでさえ知らない物がたくさん並べられていく。
まったく、こいつのいた前世ってのはすごいんだな。
「これを動かすための道具だと思ってくれたらいい」
そう言い作業を始めようとした。が致命的な欠点に気づいてしまった。
本人も気づいたようである。
その姿を見て、ルベルは必死に笑いをこらえている。
「身長が、足りない……」
ぴょんぴょんと飛んでいるが、背が小さくて作業するべき場所に手が届かないのだ。
まったく、可愛いものである。
それなら、と私はあの魔術を使うことにした。
「ちょっとじっとしてろよー、浮遊魔術!」
ステラの体を浮かせる。
「どうだ、これで届くか?」
「うん!ありがと!」
その純粋な笑みに思わずこっちも嬉しくなる。
ガチャガチャと音がして、一生懸命作業をしているステラを見ていると、また問題が発生したようで、すがるようにこっちを見てくる。
「まったく……次はなんだ?」
「非力すぎてチャックが締められない」
するとルベルが腕をまくりステラの横に立った。
「なら私に任せな。どれをどうすればいいんだい?」
ステラは指をさしながら説明を始めた。
「このチャックに差し込んでいるハンドルを右におもいっきり回して、動かなくなるまで」
言われたようにぐっと力を込めて締めていく。
だんだんとルベルの顔が赤くなっているような気がした。
そんなに固いんかな。
「ふう、こんなものでいいか?」
三つのチャックで挟まれた鉄を触り、ステラは笑顔で答えた。
「うん!ありがとうルベルさん!」
さて、後はこいつが何をするか眺めるだけだ。
みんなに手伝ってもらい準備は出来た。と思ったけど、これどうやって動かすのだろう。
燃料は?
そう思い、左下にあるスイッチをひねってみる。
すると、その上にあったランプが緑に点灯した。
「あれ、スイッチ入ってる」
もしかして、と思い自分のプロフィール画面を覗いてみると、案の定魔法容力量が少しずつ減っていた。
だが魔回の指輪もあるので減りは微々たるものである。
ということで、動かす準備を始める。
回転数を設定し、レバーを動かし機械を回転させる。
ちなみに回転数は560である。
つまり、一分間に560回、工作物が回転するのだ。
付けておいた刃物を鉄に軽く当てゼロ点を合わせる。
こうすることで、あらかじめ決めていおいた長さを削りやすくなるのだ。
そして、メモリを1㎜の所に合わせる。
こうすることで、鉄を正確に2㎜削ることが出来る。
「あ、めっちゃ大きな音がするから、後少し離れてね」
シエンもルベルも不思議そうにしながらも壁際まで寄った。
そして、バイトを鉄に近づけると、
ギュ―――ン!!
大きな音と共に、鉄が削れていく。
そして、整備された床に鉄くずのようなものが落ちていく。
「ああ、懐かしい……」
ステラは旋盤で作業しながら、感傷に浸っていた。
実に八年ぶりの旋盤である。
ステラは前世で幾度となく聞いてきたので慣れているが、そうではないルベルとシエンは耳を一生懸命ふさいでいた。
「な、なんなんだこの音は!」
「う、うるせぇーーー!」
慣れない音に二人とも顔をしかめている。
そんな二人の事を知らずに、ステラは加工を続けていった。
作業を続けること一時間。すでに日は傾き始めている。
「で、できたー!」
「お、やっとできたのかい?」
眠そうにしながらシエンが寄ってくる。
「あとは生産技術で少し整えて……」」
そして、前世でもおなじみボルトが出来上がった。
「なんだいこれは?」
たまたま戻って来ていたルベルが覗き込むようにして聞いてくる。
「これはボルトって言って、もう片方のナットっていうのを組み合わせて使うとね、物を頑丈に固定できるの」
「ぼると?なっと?」
シエンは言っている意味が分からず、頭がこんがらがっている。
「生産技術 対になるものを作り出せ 道具生成」
そして、ナットを作り出した。
その様子を見ていた二人はさらに困惑している。
ルベルさんはともかく、なんでシエンまで困惑してるの?
不思議に思いつつも出来上がったナットとボルトを組み合わせルベルさんに渡してみる。
「はい、これが大工さんが喜びそうな物」
「ほえー、これが……」
ルベルさんが不思議そうに眺めているのを見ていると、不意に扉がノックされた。
「だれー?」
「アモニアです。入ってもよろしいでしょうか?」
なにかなーと思いつつも入室を許可する。
すると、アモニアが入ってきた。
「こ、これは何事ですか……」
浮かんでいるステラの周りに落ちているたくさんの切粉と保護メガネを見て、アモニアは唖然としていた。
「ごめんうるさかった?」
申し訳なさそうに見つめられて、アモニアは我に返り話を始めた。
「あ、、いやそうではないのです。少し、お願いがございまして……」
珍しくアモニアが私にお願いしてくることに驚きつつも、何かと聞いてみる。
「なに?」
「子供を預かれる場所を、作っていただけないでしょうか?」
意外なお願いにびっくりしてしまった。
「なんで?」
言いにくそうにしながら、アモニアは話を始めた。
「普段はほとんどの大人が仕事をしているので子供が寂しがっているのです。家に一人でおいておくわけにいきませんし、小さい子もいるので」
確かにそうだ。いつも畑仕事や鉱山の採掘、家の建築などにほとんどの大人を回していて、子供のことを一切考えていなかった。
「あちゃー、ごめんね。そこまで気が回らなかった」
素直に頭を下げ謝罪しておく。
「そんな滅相もない。頭をあげてください。まだ八歳なのですからそこまで気が付かないのも当然です。むしろ八歳でここまで出来ることにみんな驚いていますよ」
素直にほめてくれたことで、自然とうれしくなる。
「作ってあげれるけど……だれが子供の面倒を?」
そう聞くと、アモニアは何故か指を絡ませてもじもじしていた。
「ええっと、フェレス様と……」
ふむ、子供が大好きなフェレスさんなら適任である。
ただ猫人族の族長をそんなことに使っていいかは疑問が残るけど。
「フェレスさんと?」
そうして聞き返すと、次はアモニアの顔が熟れたリンゴのように赤くなっていく。
「私、です……」
「へ?なんて?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、フェレス様と……私です」
意外。
アモニアはいつも私のお世話だけしているように見えていたのに。実は子供のお世話もしたいのだろうか。
「分かった~。けど今日は疲れたからまた明日ね」
適度な休息は大事である。
久しぶりに旋盤を使ったことで疲れちゃった。
「しかし、これどうするんだ?」
シエンが床に散乱している切粉を見て言う。
確かに、ほうきを作らなくては。
そう思い、アモニアにあれが無いか聞いてみる。
「ねえねえアモニア。藁ってない?」
「聞いてみましょう」
まだ少し顔が赤いアモニアは村人に聞きに行くために小屋を出ていった。
「それじゃあこっちも片付けようかな」
あらかじめ作っておいた鉄製の箱に工具を閉まっていく。
そして旋盤の電源を切り、アモニアを待つ。
十分ぐらいするとアモニアが藁を抱えて戻ってきた。
それと木を使いほうきをつくる。
それを使い掃除していく。
大量には削っていなかったのですぐに片付けることが出来た。
しかし問題が一つ。
「これ、どうしようか」
そう、大量の切粉である。
前世なら専用のごみ箱に投げればよかったがここではそうはいかない。
かと言って外に置いても、他の人が触ってけがをする恐れがある。
なので、とりあえず鉄製のバケツに入れて小屋の片隅に置いておくことにした。
その後、家に戻りお風呂に入ることにした。
早く大浴場を作らないといけないなあと思いつつ湯船につかる。
近くではアモニアが待機し、シエンは何故か一緒に入っている。
「はあ、いい湯だな―――」
出来心で、湯でくつろいでいるシエンをツンツンとつついてみる。
「おい、やめろって!」
ぷにぷにしたほっぺがとてもかわいくて、ついついやってしまった。
その様子をアモニアが微笑ましく見ている。
「ふふっ」
「あ、アモニアが笑った!」
ステラは五右衛門風呂の中で、笑顔ではしゃいでいた。
みんなが寝静まる深夜
ただ一人、起きている者がいる。
「ふう、ここの景色はいいものですね」
アモニアは鉱山の頂上に一人立って何もない夜景を眺めていた。
背には巨大な山々、目の前には開発途中の街とそれを囲むように広がる森。そして、入り口からのびる一本の細い道。
「一生をかけてあの子を守りましょう」
ただ一言、それだけ呟きアモニアはステラの家へ戻っていった。
今回の話はいかがでしたか?
面白かったり改善点等があればぜひ感想欄で教えてください。
今後ともよろしくお願いします。




