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第二十一話 消えた母

「ステラよ、きたぞい」


一週間後、家も大体出来上がったかなーという時に、フェレスから移住する猫人族が到着したと告げられた。


「じゃあ、御迎えに行こう」


ステラはアモニアと、まだ眠そうなシエンを連れて都市の入口へと向かう。

すでに人だかりができており、大きな荷物を積んだ荷車のようなものもいくつか見受けられた。


「最初だし、領主としてしっかり挨拶しないと」


「本当に八歳ですか?この御方は」


その様子を見ていたダイドからそんな言葉が漏れる。

確かに、八歳でここまでしっかりしている者などいないだろう。

すると、フェレスがやってきた猫人族の前に立ち、私に頭を下げる。


「鉱山都市ソリトゥスが領主ステラ様。今ここに猫人族総勢四百十五名があなたの街の住民として加わることをお許しいただけますでしょうか」


これがこの世界の礼儀なのだろうか。

私にはよく分からないが断るつもりはない。


「いいよ。今日から君たちは鉱山都市ソリトゥスの住民だ!」


意気揚々と答えると、横からアモニアが出てきて私の横に立った。

そして、


「もし、もしですよ?謀反なんて起こそうものなら、覚悟してください、ね?」


にこやかな笑顔で言うが、目が笑っていなかった。


「アモニア!そんなこと言わないの!」


しっかりと叱っておく。最初から脅しみたいなことを言って仲良くなれるわけないでしょ!

そんなことを思いつつ、また猫人族に目を向ける。

不安そうな顔をしている人もいたが、大半が期待に満ちた顔していた。

これからの新生活が楽しみなのだろう。


「フェレスさん、とりあえず猫人族の人たちを家に案内してあげてください。ダイドさんは仕事の割り振りの話をお願いします」


「うむ」


「分かりました」


指示を伝えると、すんなり了承し行動に移ってくれた、

彼らの相手は、ダイドさん達に任せるとして、私は一つやりたいことがあった。


「ねえシエン。機械生成、使ってもいい?」


シエンにそう聞いてみる。

すると、倒れないなら、という条件で許可をもらうことが出来た。

機械を出すなら使い勝手がいいところがいいよね。

そう思い、家の横に簡易的な小屋を作った。

それでも、私の家よりはきれいである。なんてたって、私の家はまだつぎはぎだらけなのだから。

小屋の中に入ると、殺風景だったが、作業するにはちょうどいい大きさだった。


「機械生成の使い方は、まず自分が欲しい物をイメージし、その名前を魔力の放出と共に叫ぶ。簡単だろ?」


シエンにそう教えてもらい、準備を始めていく。

もちろん最初に作る機械はあれだ。

前世でもたくさんお世話になったあの機会である。


「生産技術 機械生成 旋盤(せんばん)!」


久しぶりに、意識が飛びそうになる。

目も開けられないほどに眩しい光と共に、前世でよく見た「旋盤」が出来上がった。


「これって……なんだ?」


流石のシエンでも旋盤は分からないらしい。


「これは旋盤、簡単に言えば、鉄とかをきれいに加工する機械だよ」


「ふーん。こんなものを作っていったい何をする気だ?」


「大工さんが喜びそうなものを作ろうと、ね」


残念ながら私にはイベルさんのような卓越した想像力がない。

だからこそ、前世の技術と機械、そしてシエンの知識を使ってその点をカバーするのだ。


「とりあえず」


家にあった鉱石類と貴重品をこっちに全部持ってくることにした。

暇そうだったウェイトスにお願いして手伝ってもらうとすんなり作業は終わった。


「これで、作業を始められるか?」


「いや、まだ問題が……」


作業するからには作業服を着ないといけない。

だが、その材料がないのだ。

服は最悪いいとして、保護メガネは必須である。

この世界には石油という物も、それを加工する技術もない。


「せめて、ガラスがあればなあ」


ボソッと呟くと、以外にもウェイトスがそれはなんですか、と聞いてくる。


「透明な板って考えればいいよ。それがないとこれが使えないんだよね」


出したはいいが使えるのはもっと先かな、と思っていると


「透明な板、あるかもしれません」


「へ?」


本当にあるのだろうか。


「透明であればいいんですよね?」


「硬くないと」


「一つ、心当たりがあります」


すると、ウェイトスは森の方を指さした。


「この森の奥深くに、亡者の洞穴という迷宮があります。そこに透明な板が眠っていると聞いたことがあります」


そんな都合のいい話があるか、と思いつつもそこしか当てがないので行ってみることにした。


「じゃあ、今から行く?」


「いえ、私が一人で行ってまいります。ステラ様はこの街をより良くしていてください」


珍しくやる気である。


「いいの?」


「はい、お任せを。これでも竜人族ですので」


ウェイトスはそのまま姿を変え、飛んで行ってしまった。


「大丈夫かなあ」


「お前ってやつは本当に心配性だな。あいつに任せておけば大丈夫だって」


シエンに諭され、私は気持ちを切り替えることにした。


「そうだね。なら今日はこの作業小屋の改造でもしようかな」


頭の中で自分の理想の部屋を描いていく。

シエンやアモニア手伝ってもらいながら作業を進めていくこと2時間。

ふと、外で叫び声がした。普段はそんな声は全くしないから余計に心配になる。

何事かと思い外に出て南西の商業区画予定の土地に行ってみると、ダイドさんと盛大に腰を抜かしている四人の探索者っぽい人がいた。

そして、目の前にいたのは


「あ、ウェイトス。帰ってきたの?」


「はい。意外と早く見つかったので。後、この不届き者たちは誰ですか?」


その鋭い目つきでまた探索者たちを睨む。

そこまですることもないでしょうに。

横顔を見てみると、見覚えのある人たちだった。


「あ!ルベルさん!」


「お、ステラか。ってそんなことよりもこいつどうにかしてくれねえか?」


意外である。あの時もドラゴンを相手にしながら私の心配をするほど余裕そうにしていたのに今はウェイトスに腰を抜かしている。

まあ、大きさが違うよね。


「ウェイトス。人の姿に戻って」


「分かりました」


ウェイトスは私の指示通り人の姿に戻り、袋を手渡してくれた。

意外と大きく、私のお腹ぐらいまである。


「こんなにあったの?」


「ええ、敵が落とすようでしたので片っ端から倒しておきました」


笑顔で言うがやっていることは恐ろしい。

しかしまあ、これで保護メガネも作れるしガラスっぽい物も作ることが出来る。


「しっかしまあきれいになったなあ」


すっかり元気なルベルさんが周りを見渡しながら言う。

確かにきれいではあるけど。


「張り紙がなくなってたから様子を見に来てみたけど……元気そうだね」


ほっと胸をなでおろし、そう言ってくれる。

よほど私のことが心配なのだろうか。

というかなんで私の周りにはこんな世話焼きしかいないんだ。

すると、見覚えのある人たちもやって来て挨拶をしてくれる。


「それで、来たのって誰?」


「私でございます」


黒髪のニゲルさんが私に聞くと、アモニアが横から出てきてメイドらしい挨拶をしてくれる。


「え、メイド?」


意外な人がやってきたことに四人ともびっくりしている。

まあ私も最初来た時はなんで?ってなったけどね。


「それで、ご用件は?」


ダイドさんが気まずそうにルベルさんに聞いている。

するとルベルさんは思い出したかのように私の方を向いてとんでもないことを言った。


「そうそう。カリウム侯爵に依頼されてラナトリア様の捜索に来たんだよ」


ぴくっと、アモニアの手が動いた気がした。

そんなことよりも母上が消えた?


「どういうこと?」


慌ててルベルさんに聞く。


「その反応をするあたりここにはいないようだな。じゃあ一体どこに……」


私が知りたいくらいである。しかしなんで母上が?

離婚でもなく、誰に言うでもなく、一人で消える?

話によればちょうどあの張り紙を張ってニ、三日後にいなくなったらしい。

もしかして、と思いここに来たのかな。


「だからあのくそじじいが来たのか」


「ん?どいうこと?」


私はシエンの言っていることが分からなかった。

ここに父が来た?そんな記憶はないが……


「ああステラは覚えてないんだな。まあ、立ち話もなんだしちょっと場所を変えないか?」


シエンの提案にみんな賛同しダイドさんの家に移動した。

何故私の家じゃないかというと、単純に狭いからである。

全員が入ったら家が壊れてしまう。

全員が座ったのを確認して、シエンは話を始めた。


「あれはステラが倒れた時のこと……」


話を聞いていくと、想像よりも私の容体は重かったようだ。

まあ、あの記憶を思い出してしまったのだから仕方がない。

今でも腹が煮えくり返りそうだもの。

十分ほどの話が終わったときには全員の顔が暗くなっていた。


「そんなことが、あったんだな……」


ウィリデが泣きながらそんなことを言う。

あれ、タンク役でこんなに体がごついのに意外と涙もろい?


「そういえばそんなこと叫んでたな」


ウェイトスが納得したように言う。


「でもどうする?ここにいないとなるともう当てがないぞ?」


「かと言って見つかりませんでした、と報告してもなあ」


カエルラとニゲルがそんなことを話していると、ルベルが静かに手をあげた。


「それならもう正直に言っちまうのはどうんだ?それで処罰されるなら私は探索者をやめてここに住む。みんなはどうする?」


いきなりの発言にみんな驚いている。

侯爵様に直々に命を下されるような人が、今の地位を捨ててここに住む、と言い出すのだ。


「で、でも見つけれなかったからと言ってそんなことをする?」


「いや、あの人ならします」


私はきっぱりと答えた。


「なんでそう言い切れる?というか、なんであの侯爵様はわざわざここに行けと言ったんだ?」


カエルラがそう私に聞く。


「それは、私が公爵家の子だから、です」


そう告げると、シエンとアモニアを除く全員が目を丸くして驚いている。

そういえば、村の人にも言ってなかったな。


「は?え?ちょっ、どいうこと?」


ルベルさんが頭を困惑させている。

ダイドさんに関しては思考停止状態だった。

説明は後々するとしよう。


「だからここにいるかもしれない、と思ったのでしょう」


「だったら、私もルベルに賛同するわ」


いきなりニゲルさんが声を上げそう言った。

それに同調するように、カエルラさんとウィリデさんも賛成する。


「ってことだからまた近いうちに来るよ」


そうして、早々に出ていこうとするルベル達をステラが急いで止めた。


「だ、だったら、その、今日は泊っていってください」


恥ずかしそうにしながらもステラはルベルさんに提案してみた。


「お、じゃあお願いしようか。お前らもいいだろ?」


残りの三人も首を縦に振ってくれた。

なら、この人たちの住む家を作らなくてはいけない。

いつでもここでもここに帰ってこられるように。

ルベルさん達の家は出入りがしやすい入り口に近い道路側に作ることにした。


「四人一緒でいいよね」


そう思い前世のような家に少し寄せてみる。

ただし景観を損なわないように建材は他と同じ石壁とレンガである。

暇そうだった村の人と猫人族の男性に手伝ってもらい材料を建築予定地に運んでいく。

シエンも手伝ってくれたおかげすぐに運び終わった。



「さあ、頑張ろう」


「お前、魔力量大丈夫か?」


そう心配してくれるシエンに私は指輪を見せつけた。


「大丈夫!これがあるから!」


「はあ、まあせいぜい倒れんようにしろよ」


ため息をつきながらも心配をしてくれるシエンに感謝しながら作業を開始する。


「生産技術 地形生成!」


想像力と魔力を働かせ家を建てていく。

その姿を周りの人たちは口を開けて見ていた。


「な、なんだこれ……」


「うちの領主様、化物だろ」


猫人族、人族共に絶句である。

まったく誰が化物だ。こんなにも可愛らしい八歳なのに。

まあ、自分で可愛いというのは言っておいて少し恥ずかしい。

そんなこんなで三十分もすれば家が出来上がっていた。


「おお……すごいな……」


出来上がったと聞いて様子を見に来たルベルさん達も少し顔を引きつらせている。


「今日はここで休んでください。ベッドは少し硬いですけど……許して」


ベッドの材料である鉄と銅と鉛を全て猫人族の家で使ってしまったのだ。


「まあ野宿する予定だったから大丈夫だよ。それよりも、飯を食べないか?」


空を見上げればもうお昼過ぎである。

するとタイミングよくイベルさんが私たちを呼びに来た。


「皆様、お食事の用意が出来ておりますので中央広場までお越しください」


「は~い」


軽く返事をして、イベルさんについていく。

広場にはすでにたくさんの人が来ていた。


「はやく食堂とか作らないとね」


そんなことを呟いていると、シエンにぽかっと頭を叩かれた。


「そんなことよりも!まずお前のあの家を何とかしろ!あんなボロ屋じゃ領主って名乗れないぞ?」


確かに、未だにボロ屋なのは私の家だけである。


「あした、あしたね」


疲れが取れている明日、領主が住んでいそうな屋敷を作ることにした。

そんなことよりも、今日のご飯である。

いつもながらにおいしく、懐かしい味だった。

さて昼からやることといえば、


「保護メガネとガラスづくりだね」


ワクワクが止まらない。

久しぶりに自分の手でものづくりができる。


「なんか、いつになくほおが緩んでいるような……まあいいか」


シエンはそんな姿を眺めながらウェイトスの汁をつまみ食いしていた。

ご飯を食べ終わり作業小屋へ戻る。


「さあ始めよう!」


今回の話はいかがでしたか?

面白かったり改善点等があればぜひ感想欄で教えてください。

今後ともよろしくお願いします。

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