第二十話 迷宮 その奥へ
祠の玉に手を触れると、周りの景色が一瞬にして移り変わり、きれいに並べられた石壁が置くまで続く場所に私達は立っていた。
「ここは?」
「ここは迷宮の一つ、「失われし鉱山」。最深層まで踏破されておらず、魔物から得られる経験値も多い」
アモニアは魔物と戦いたそうで体がうずうずしている。
後ろは壁とさっき見た祠だけ。前に進むしかなさそうなので、仕方なく足を進める。
すると、前方からひたひたと足音が聞こえてきた。
私でも聞こえるのだから、二人はすでに気づいているだろう。
「短剣を構えなステラ。魔物の御登場だ」
シエンが私に短剣を出すように促してくる。
それとほぼ同時に、緑色の物体が姿を現した。
人型の魔物のようだが全身が緑色のスライムの様である。
「あいつの名はリョーライ。スライム型の魔物で飛び跳ねるのが厄介な魔物だ」
シエンが丁寧に説明してくれる。流石、すべてを記す書だ。
すると、そのリョーライが両手を地面にくっつけ始めた。
「なんか、嫌な予感が……」
その嫌な予感が的中し、リョーライはくっつけた手を使って私に向かってゴムのように飛び跳ねてきた。
とっさに短剣を振り回すと、
「ブ、ブギュ」
切れた感触がないが、リョーライの腕が片方切れた。
「お、じゃあその調子で頑張れよ」
「え⁉手伝ってくれないの⁉」
シエンは高みの見物をする気満々である。
アモニアも腕を組んでじっと見つめている。
さっきはたまたま切れたから良かったが、二度もそううまくいくとは思わない。
すると、リョーライはまた何かをしようとしていた。
「次はなに……」
残った片方の手を自分の体の方へ寄せている。
そして、バネのようにしてパンチを繰り出してきた。
「あ……」
そのまま腹に、もろにパンチを食らってしまった。
思わずその場で膝をつく。
「ぐふっ。まだだ、私はこんなところで負けてられない!」
幸いにも、周りは石壁だらけである。
「生産技術 地形生成 石槍!」
リョーライの足下から石筍のようなものが生え、リョーライに突き刺さった。
「ブギャ――!!!!」
おぞましい悲鳴と共にリョーライは消えた。
【レベルが上がりました。レベル15→レベル18】
あのへんな魔物を倒しただけでなんと三レベルも上がった。
「うん、レベルも上がったようだね。じゃあどんどん行こう!目指すは三十レベルだ!」
意気揚々と進んでいくシエンに仕方がなくついていく。
アモニアはほんとに保護者みたいな感じだった。
だけど、ずっと私に気を使っている気がする。
あの日以来、アモニアは私のそばにいる時間が多くなったような気がした。
「なんでだろうな……」
ボソッと呟いただけのつもりだったのだが、シエンにしっかり聞かれていた。
「どうかしたか?」
「ああいや、私のちょっとした疑問だから気にしなくていいよ」
適当に誤魔化し、先へ進んでいく。
途中何体か魔物が出てきたが、何とか対処をすることが出来た。
さらに進んでいくと、少し広々とした部屋に出た。
その奥には頑丈そうな扉があり、明らかに何かが出て来そうな雰囲気である。
「ここの魔物は強いからな。アモニアに手伝ってもらいな」
そしてシエンは床にあったスイッチを押した。
「えっ、ちょっ、まだ心の準備が……」
扉の前に魔法陣が現れそこから大きな人型の魔物が現れた。
四本の腕に二本足で立っており手には長い斧を持っている。
その恐ろしい姿に、思わず後ずさりをしてしまう。
「ステラ様、ご安心ください。私がついておりますので」
アモニアがそんな言葉をかけてくれるが、怖いものは怖いし、戦えないものは戦えないのである。
「む、むり~」
「ドラゴンにも立ち向かっていたではないですか」
「あれとこれとではちょっと……」
あの時はまだ体が万全だったから戦えたけど、今は病み上がりで体が万全じゃない。
その様子を見ていたシエンはため息をつき
「仕方ねぇなあ。あたしが手伝ってやるから一緒に戦おうぜ」
「ほ、ほんとに?ほんとだよね?」
ステラの破壊力抜群の目で見られ、シエンはステラの顔を直視できなかった。
「わ、分かった。分かったから。その顔をやめてくれ。何も言えなくなる」
シエンはそう言っているが、内心では可愛すぎて直視できないだけである。
「アモニア、あいつが死なない程度に相手してやってくれ」
「了解いたしました」
アモニアが魔物の相手をしている間、私はシエンから戦い方を教えてもらっていた。
「あいつの名はイグルドリア。魔術の類は使わず、あの長い斧を用いて戦ってくる。そして、何よりも魔術に対する耐性がものすごく高い」
そこまで聞くと、全く勝ち目がない気がした。
私は、運動能力は高くないし、足も速くない。持っているのは、あの斧よりも圧倒的にリーチの短い二本の木製の短剣だけである。
魔術の類が効かないなら、プロ―フライフルも効かないだろう。
「どうやって勝つの?」
「ああ、お前はアモニアがぎりぎりまで削ってくれたところを止めだけ刺せばいい」
その一言に私はあっけを取られた。
確かにレベル上げをしにきたのだが、そんなのでよいのだろうか。
「そんなのでいいの?」
私の問に、シエンははっきりと答えた。
「お前の役目は戦うことではなく、都市を発展させること。戦いは村の人や猫人族たちに任せればいい」
そんなことを話していると、イグルドリアが地面に叩きつけられていた。
その上には、剣を片手にアモニアが立っている。
その勇ましき姿は、女の私が見ても心が傾くほどに美しかった。
「さ、ステラ様。止めを刺してくださいませ」
にっこにこの笑顔でそう言われ、ゆっくりと近づいていく。
すぐ目の前まで来ると短剣を出し、イグルドリアの体に突き刺す。
「グモォォォ!!!!」
そんな叫び声と共にイグルドリアは消え、きれいな宝玉だけがその場に残った。
「なーに?これ」
落ちていた宝玉を拾いシエンに見せる。
「それは魔物石だよ」
「え?」
魔物石はもっとこう、ごつごつしててドーンボアの時みたいに小さいのかと思っていた。
「意外だろ?強ければ強いほど、大きくきれいな魔物石が手に入る」
すると、脳何にまたあの声が響いた。
【レベルが上がりました。レベル18→レベル25。生産技術のレベルが6に上がりました。それに伴い、生産技術スキル 収納を取得しました】
「レベル上がった~」
あの魔物に止めを刺しただけでレベルが七も上がった。
少し罪悪感があるけれども。すると、アモニアがおおきな物を担いでこちらにやってきた。
「落ちておりました」
そう言って見せてきたのは、さっきまでイグルドリアが使っていた斧である。
「どれどれー。イグルドリアの斧、中級マジックアイテム。使用者の魔術威力が下がるが攻撃威力が上がる、だってさ」
私の身長よりも大きいので私に扱えるわけもないので、持って帰って誰かにあげるとしよう。
そんなことよりも
「ふぁぁあ~~。疲れた、眠い」
八歳がここまで歩いたり作業をすれば眠くなるのは当然の事。
ウトウトしていると、アモニアが斧を持ちながら私を両手で抱きかかえてくれた。
「そうですね。今日はこの辺りで帰りましょう。ということで」
アモニアはシエンの方を向き、にこっと笑った。
「シエン様。帰り道の魔物の対処はお願いしますね?」
「げっ」
シエンはめんどくさそうにしながらアモニアの前をぷかぷかと飛んでいく。
「お、帰ってきたぞ!」
アモニア達が入り口まで戻ると、門番の人たちが温かく出迎えてくれる。
しかし、アモニアにお姫様抱っこされているステラの様子を見て、顔を曇らせた。
「……その、ステラ様は……」
門番の一人が効きにくそうにしながらも、聞いてきた。
だが、その質問にアモニアは笑顔で答える。
「ステラ様は疲れて眠ってしまったのですよ。まだ八歳であるということを忘れて、歩かせすぎてしまいました」
素直にそう伝えると、門番に笑顔が戻りアモニアたちはそのまま自分の家へと戻っていった。
アモニアはステラをベッドに寝かせ、優しく布団をかける。
「おやすみなさいませ」
入ったのはまだ太陽が昇り切っていない時間だったが、今はもう日が傾き始めている。
ステラを寝かせ、リビングに戻ると今度はシエンがうとうとしていた。
「なんであなたが眠そうなんですか?」
「帰りにあんだけ戦わせておいて、それはないだろ」
すでに半分寝ている。
「仕方ないですね」
アモニアはステラに作ってもらった「そふぁ」というものにシエンを寝かせ、自分の部屋から枕を一つ持ってきてそこに寝かせた。
小さな妖精がうずくまって寝ている姿はとても愛らしかった。
そして、小さなシエン専用の毛布を掛ける。
「フェレス様、ステラ様を救って下さり本当にありがとうございます」
そう呟き、また作業をするためフェレス達のいる畑へと戻っていった。
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