第十七話 代償
「フェレス様。そ、それは……」
私が、質問をしようとすると
「なに、すぐに答えを出さんでもよい。数日ここに滞在するのじゃろう?ゆっくり考えることじゃ。部屋はここを使ってくれて構わんからの。では、失礼するぞ」
フェレスはそれだけ言うと、部屋を去っていった。
三人しかいない部屋。重苦しい空気の中で、最初に口を開いたのは、ウェイトスだった。
「どうなさるおつもりですか?」
「少し、外に出てきます。あなた方はここでゆっくりしていてください」
アモニアもそのまま出ていってしまった。
「私たちは、一体どうすればよいのでしょうか」
イベルは重そうなアモニアの背中を見て、呟いた。
「自分の寿命など、いくらでもあげられる。だけど……」
里が一望できる丘の上で一人考え事をしていた。
「ステラ様は他人思い。自分のために他の人を犠牲にするなど絶対に許されないでしょうね」
だけど、助けなくてはならない。
あの方が死んでしまえば、私はおろか街の人々の住む場所が、生きていく場所がなくなってしまう。
「私は、一体どうすればいいの……」
もはや、座ってうつぶせることしか出来なかった。
私だって完璧じゃない。
ステラ様のことを第一に考えるなら助けるべきでしょう。
でもそれで助かったとしても、私の寿命がないことをステラ様は絶対に嘆き悲しみ、また自分を責めてしまう。
「どっちを選んでも、ステラ様のためにならない」
ふと顔をあげて里の方を見ると、楽しく遊んでいる子供たちや、楽しそうに笑う大人達の姿がかすかに見えた。
「ステラ様はいっていたな。誰もが笑い、安心して暮らせる都市を作りたいと」
どうすればいいのか葛藤していると、誰かが草の根を掻き分ける音が聞こえた。
振り返ってみれば、そこに立っていたのはイベルだった。
「イベル様、どうしてここに?」
私が悩んでいる姿を見て、イベル様は、一言だけいいかな、と私に聞く。
「いいですよ」
「では、一言だけ。あなたの思うようにしなさい」
それだけ言うと、イベルは戻っていった。
「あなたの思うように、か……」
なら、答えは一つである。
すでに、日は傾いている。
答えは明日言おうと、私は部屋へと戻ることにした。
戻っている途中、ここに来るときは気づかなかった道があることに気づいた。
「ここはもしかして……」
もしやと思い、わき道に入っていく。
数分歩いた先にあったのは、ニ十個ほどのだれかの墓だった。
「そうか、ここにあったのですね」
アモニアはその場に膝をつき、祈りを捧げた。
その後屋敷に戻り、部屋でゆっくりと夜を過ごすことにした。
「それで、どうするか決まったか?」
朝、ご飯を食べ終わった私たちの元にフェレスは一人でやってきた。
アモニアはその問いに、決意に満ちた顔でしっかりと答えた。
「あなたに、いえあなた達に土地と私の寿命を捧げます。だから、どうか我が主を、ステラ様をお救いください」
「ふむ、よかろう。ならば、明日、出発するとしよう。妾達も準備があるのでな」
それだけ言うと、フェレスは支度を始めるから、と言って部下の元へ行ってしまった。
「決められたのですね」
フェレスが出ていった後、イベルは静かに聞いた。
「はい。私は、ステラ様のためにすべてを捧げましょう」
その日は何事もなく、部屋で静かに過ごしていた。
だが、外は相変わらずの騒がしさであった。
準備でもしているのだろう。
そして、ソリトゥスに戻る日。
里の前には、先遣隊と思われる人が十五名ほどいた。
その中にはカットやフェレスの姿もある。
「私の背中には全員は乗せられんぞ?どうするおつもりじゃ」
ウェイトスがそう聞くと、フェレスが胸を張り答えた。
「お主がこれを一緒に運んでくれればよい」
そう言って指さしたのは、頑丈な紐が付いた船だった。
「妾達はこれに乗っていく。お前たちの言う土地がよい物だったら全員でそちらにいくからの」
「わ、分かりました」
ウェットは渋々了承し、ドラゴンへと姿を変えた。
全員が船に乗り、目の前には見送りの猫人族がたくさんいる。
「では、行きますよ!」
ウェイトスが翼を広げ、空へと船を連れて飛んでいく。
「ステラ様、お許しください」
竜の背中に乗っていたアモニアは、そう呟き前を眺めた。
ウェイトスが行くときとは違い、猛スピードで飛んだことで、半分の一日で着くことが出来た。
「何事も、なかったようですね」
出発する時と変わらない景色を見て、イベルはほっとしていた。
商業区画用の土地に船を下ろし、ウェイトスは人の姿に戻った。
「で、肝心の病人というのは?」
着くなりフェレスがそう聞いてきた。
「あそこです」
アモニアは変わらない一軒のボロ屋を指さした。
「ふむ、では行くとしようか。他の者はここで待機。周りの状況を見ておけ」
ついてきた猫人族は一様に頷き、船から荷下ろしを始めた。
歩くこと五分、アモニア達四人はステラのいる家に着いた。
代表して、アモニアが扉をノックする。
「シエン様。おられますか?私です。アモニアです」
すると中からガチャガチャと音がして、扉がゆっくりと開いて、行く時とは悪い意味で見違えた姿のシエンが出てきた。
「お、おう。おかえり、それで猫人族の人たちには会えたのか?」
「はい、こちらが……」
アモニアが紹介をしようとすると、フェレスが自ら自己紹介を始めた。
「妾が猫人族の族長、フェレスじゃ。珍しいのう、こんなところに妖精がいるとは」
そのまま、シエンのことを興味深そうに眺めている。
「あたしは妖精じゃないよ。それよりもステラをお願い。もう、持たないかもしれない」
四人が家に入ると、シエンが努力をしたであろう跡がいくつも見受けられた。
机に散らばる薬草と薬研。
開きっぱなしの本。
散らかっている物。
そこを通り抜け扉を開けると、苦しそうにしているステラがベッドに横わたっていた。
「ステラ様……」
アモニアがそばに駆け寄る。
もはや、元気な頃の面影はなくやせこけた体にぼさぼさの髪、終始胸を押さえ苦しそうにしているその様子は、見ているこちら側まで苦しくなる。
「……これは、ちとまずいかもしれんな……」
この様子を見ていたフェレスは苦い顔をしている。
「して、我が心境心寄を使うとして、あと一人は誰が行く?」
その言葉に、みんな口をつぐんだ。
シエンだけが、不思議そうに首を傾げている。
「誰もいかないなら、あたしが行くよ」
そういい、シエンはフェレスの前まで飛んできた。
「そうか、ならば行く……」
「待ってください!」
フェレスが決めようとしていた時、アモニアが割って入った。
「シエン様。私に、私に行かせてください!」
「ごめんなアモニア。これはあたしの役目だ。あたしがしなくちゃならないことだ」
シエンは揺ぎ無いその目でアモニアを見つめる。
「これはよせんか。お前たちに時間があってもこやつにはないのじゃぞ」
そう言われ、シエンは黙って二人に背を向ける。
「分かりました。ですが、必ず救ってください」
「ああ、分かってる」
「ではゆくぞ」
フェレスは右手でステラの胸に手を当て、左手でシエンの小さな手を握った。
「心境心寄!」
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