第十六話 猫人族に会いに
「さて、どうしましょう」
ステラを静かに寝かせておくため、あたしたちは村長のダイドの家にきていた。
みんな、考え込んでいるし、渋い顔をしている。
だけどここには、あたし、ウェイトス、ダイド、イベル、アモニアがいる。
これだけいれば、なにか案が出るかと思ったが行きつく先はすべて猫人族だった。
「やはり、彼らの元へ行くしかないのでは?」
「さっきも言った通り、彼らはあなた達人族を恨んでいます。話を聞いてもらえるかどうか……」
「ならば、私がいきましょう」
手をあげたのは一言も喋っていなかったアモニアだった。
「私なら実力もありますし、彼らとは一度会っていますので」
「「「え⁉」」」
全員、驚きが隠せなかった。
もちろん、私もだ。
本当に何なんだ、このメイドは。
「ウェイトス様、私を彼らのところまで連れて行ってください。そう……」
「ちょっと待ってください!」
アモニアの言葉を遮ったのは、意外にもイベルだった。
「だ、だったら私もお願いします!必ず役にたって見せますから!」
必死にせがんでいた。
どうして、そこまで行きたいのだろう。
「分かりました。ではウェイトス様、イベル様、そして私の三人で行きましょう。シエン様、よろしいですか?」
「あ、ああ」
こうなったら、この三人に任せるしかない。
あたしは、あたしのできることをするだけだ。
「出発は?」
「今からにでも。早ければ早いほどいいと思うので。ステラ様が、亡くなられる前に」
その後、三人が準備をするために出ていきこの場にはダイドとあたしだけが残った。
「では、私は村の者達を落ち着かせてきます」
あたしも、ステラの所に戻ることにした。
ふわふわと飛びながら家に戻り、重い扉を開ける。
「ステラ……」
部屋を覗くが、相変わらず苦しんでいた。
外面的な傷は治してくれた。恐らく内面的な何かが起きているのだろう。
「そういえば、あいつは転生者だっていっていたな。まさか……」
この世界において転生者は滅多に現れないが前例がないわけではない。
そして、転生者は決まって前世の記憶と、何かを抱えてやってくる。
その「何か」とは、様々だ。使命だったり、特殊な能力だったり。
「おそらく、こいつの場合は最悪な物を抱えて転生してしまったんだろうな」
予想の範囲を超えないが、多分ステラが抱えてきたのは「傷」だろう。
「神様はひどいよな」
そんなことを思っていると、アモニアこっそり入ってきて、あたしを手招きしてくる。
「準備が出来ました。私たちは今から猫人族の元へ向かいます。その間、ここをお願いします」
小声で、私に囁く。
「ああ、任せておきな」
私も、アモニアの期待に応える方法は用意してある。
「では、行ってきます」
扉から去ろうとするアモニアに、私は自然と口が動いた。
「行ってらっしゃい。無事で帰って来いよ」
手を振りながら、でも振り返ることなくアモニアは行ってしまった。
窓から、アモニア達が出発したのを確認し、あたしは街の守備を固める準備を始める。
「聖界リンスの結界を、完全につけておけば大丈夫なはず……」
ふと、あたしは自分が変わっていることに気が付いた。
最初は、こんなことなんてしなかった。
ただただ、知識を授ける本として過ごすはずだったのに。
「ステラのあたしを思う心が、気づかないうちに変えてくれたのかもしれないな」
シエンは、自分の持てるすべての知識を使って、ステラの看病をすることにした。
「ここから猫人族の場所まではどのくらいですか?」
竜の背に乗っていたイベルが、横にいたアモニアに聞く。
「大体二日?飛ばせば一日とかからず着くでしょうけど。そしたら、あなたが吹っ飛びますからね」
「まあよい、なるべく早く行くつもりだから振り落とされることのないようにな」
ウェイトスは、さらにスピードを上げて飛んでいく。
飛んで降りて休んでまた飛んで。
気づけばだいぶ景色が変わっていた。
私は、懐かしく感じながらイベルの方を見つめる。
超高速で飛んでいるというのに、イベルはまだすやすやと寝ていた。
「はあ、そろそろ着きますので起きてください」
体をゆすっていると、イベルが目を覚ました。
「ふぇぇ~?もう朝ごはんの時間ですか~?」
「なにを寝ぼけておられるのですか。もうすぐ着きますよ」
まったく呑気ですね。と言いつつ地上の方を覗き見る。
「ウェイトス様、この辺りで降りて後は歩いてきましょう」
「ふむ。承知した」
ゆっくりと森の中に降り、私達は猫人族の住む里に向かって歩き始める。
途中、何度も魔物が出てきたがウェイトス様がすぐに倒してしまった。
「っ!そこか!」
歩いているとき、嫌な視線に気が付いた私はすぐさま鞄からナイフを出し、草むらに投げた。
「グギャ!」
そんな叫び声と共にガサガサと音がする。
「ふう、ゴライでしたか」
上から草むらを見ると、死にかけのゴライが横わたっていた。
そのまま近づき、とどめを刺す。
「本当に、容赦がないですね~」
その姿を見ていたイベル様は、思わずそんな言葉をもらす。
はあ、容赦がないわけではない。魔物だから倒すだけだというのに。
魔石を拾い、腰に掛けている鞄の中にほおりこむ。
「しっかし便利ですねぇ。その鞄」
「ん?ああ、これは私が二つ持っている神級マジックアイテムのうちの一つですよ」
「では、もう片方は?」
イベル様は不思議そうに私に聞いてくる。
「最近、ある人にあげました。私が持っていても宝の持ち腐れだと思ったので」
「神級マジックアイテムをそんなやすやすと渡すなんて、アモニアさんはやっぱりすごいメイドさんなんですね」
なんか、すごい勘違いをされていそうな気がしたが、面倒なので訂正はしなかった。
すると、急に違和感を覚えた。
「おっと、着いたようですよ。二人とも」
急に森が開けたと思ったら、目の前には段々になっている大きな里があった。
そして、ここから見える人たちの頭には見覚えのある物がついている。
「ね、猫の耳だ~」
イベルが身を乗り出すようにして見入っていると
「あっ」
そのまま足を滑らせ、崖から落ちてしまった。
まあ、そんなに高くないので死にはしないだろう。
だが……
「確実に良くない里への入り方ですよね、ウェイトス様」
「ああ、私もそう思う」
私達も同じように飛び降り、即座にイベル様を回収する。
そして、すぐに上に戻った。
幸い、誰にもバレていないようだ。
「さあ、正門へ向かいましょうか」
「まあ、歓迎されるとは思わんがな」
「同感です」
どう対応されるかは、大体予想がついている。
崖からぐるっと回り、下の方にある正門へと向かう。
途中、ウェイトス様が
「ここでは、私は人族ということにしておいてください。ばれるとちょっと面倒なので」
「分かりました」
一体何が面倒なのだろう。
そんなくだらないことを考えていると、正門にたどり着いた。
「懐かしいな」
感傷に浸っていると、門の上から声がした。
「お前たちは何者だ!って、アモニア様⁉」
「なんだって⁉アモニア様だと⁉」
何やら、正門の奥の方が騒がしくなり始めている気がする。
そして、正門が開かれ四人の猫人族が出てきた。
「ようこそおいでくださいました。アモニア様。私、今代の猫人族兵隊の隊長を務めておりますカットと申します」
カットと名乗った男は、猫耳に普通の顔立ちだがとても筋肉がついていた。
「わざわざお出迎えご苦労様です。突然で申し訳ないのですが、族長様にお会いすることは可能でしょうか」
カットは少しの間考え、そして笑顔で答えた。
「分かりました。では、参りましょう。後ろのお二方も」
三人はそのまま里の中へ案内された。
「え⁉ちょっ、どういうことですか?」
どうやら、イベル様は人族が恨まれているという話を聞いて、違う対応を想像していたようですね。
その驚いている姿は少し面白い。
私達はそのまま里の上の方にある大きな屋敷へと案内された。
「ここでお待ちください。今、族長様をお呼びいたしますので」
カットは私達を客室へ招き入れ、族長を呼ぶために部屋を去った。
私たち以外誰も居ない部屋で、イベル様は物珍しそうに周りを眺めている。
「珍しい、というか初めてですよ。椅子ではなく床に座る部屋なんて」
「こら、失礼ですよ」
イベル様の発言にウェイトス様が注意を入れる。
何が失礼なのか、私も気になるところではあるが、どうやらその時間はないようだ。
「久しぶりじゃのうアモニア」
そう言って入ってきたのは、きれいな顔つきに長い髪、目の色は赤く妖艶さを漂わせている、フェレスである。
「お久しぶりでございます。フェレス様」
にこやかに返すとフェレスはそのまま対面にどっしりと座った。
「さて、何用でわざわざこのようなところへ?しかも、竜人族も連れてきおって」
ウェイトスはその言葉に驚きつつも、言葉を返した。
「隠したつもりでしたが、ばれておりましたか」
この場には、私達とフェレスしかいないのでウェイトスも下手な言い訳もせず、正体を現した。
「まあよい。妾は竜人族のことなど、どうも思っておらんからの」
どうやら、猫人族と竜人族の間には何か因果があるようだ。
まあそんなことはどうでもいい。
今大事なのは
「フェレス様にお願いがございまして、ここに参りました」
「なんじゃ。急に改まりおって」
フェレスは不思議そうにしながら、私の話を聞いてくれる。
「お願いでございます。フェレス様の、猫人族の固有能力である「心境心寄」を使って、我が主を救ってほしいのです」
いきなりこんなことをお願いすれば、どういう反応が返ってくるは明白だ。
「その主とやらを救う理由が、妾にあるのか?」
「それは……」
その返しをされては何も言い返せない。
都合のいいお願いだと分かっているからだ。
「それにな、妾の「心境心寄」はかなり体力を使うし場合によっては自分の寿命を削ることもある」
それは初耳である。
だけど、なんと言われようともステラ様を救いたい。
「どうすれば、救って下さるのでしょうか」
「二つ、条件がある」
私の質問に、フェレス様は即答した。
二つの条件。私達で払えるものだろうか。
いいや、払わなくてはならない。ステラ様のために。
「その、条件とは?」
私が聞き返すと、フェレスは神妙な顔で答えた。
「一つ、妾達は移住を考えておる。その移住先の土地を見つけること。そして、もう一つは……」
なぜか、フェレスが言うのを渋っている。
「はやく、教えてください」
私がせかすように言うと、フェレスが私の目を見て、重い口調で言った。
「お主の寿命を妾によこせ」
今回の話はいかがでしたか?
面白かったり改善点等があればぜひ感想欄で教えてください。
今後ともよろしくお願いします。




