第7話:7歳児、私立小学校の女の園を制し、銀幕の世界へ出撃する 〜社畜のタスク管理と、母の現実的な(?)大風呂敷〜
「真理子様ぁ~! 今日の髪飾り、とっても素敵! どこでお買い求めになられたの?」
「真理子ちゃん、よかったら放課後、うちのパパが経営してるクルーザーでパーティーしない?」
私立聖セシリア初等部・1年A組の教室。
ここは、政財界の重鎮、大企業グループの令息令嬢、そして有名芸能人の子供たちが集う、名実ともに「芸能界御用達」の超お金持ち小学校である。
その豪華絢爛な教室の最前列で、私は高級シラカバ材の机に頬杖をつき、長〜い溜息を吐いていた。
「……あ、ありがとう。髪飾りは近所のスーパーのワゴンセールで……じゃなくて、母の知り合いのデザイナーからの頂き物よ。パーティーは、ごめんなさい。今日、株の配当金の処理……じゃなくて、お習い事があるの」
作り笑顔を完璧に貼り付けながら、私は可憐なお嬢様(7歳)を演じ分ける。
葛貫真理子、7歳。
晴れてピカピカの小学1年生になった私だったが、そこに「輝かしいバラ色の学校生活」など存在しなかった。
(疲れる……。マジで疲れるわ、このマウンティングの巣窟……!!)
私に擦り寄ってくる同級生の女子たちは、一見すると「可愛いお友達」だ。
しかし、その瞳の奥にはギラギラとした野望が渦巻いている。
朝ドラで全国的な人気を誇り、サスペンスドラマで圧倒的演技力を魅せつけ、さらには母のホラ(バグ)によって「国家レベルの危機管理能力を持つ天才子役」として時の人となった私。
彼女たちの目当ては、私という人間そのものではない。私と仲良くすることで得られる「ステータス」と「芸能界・メディアへのコネ」だ。
「真理子ちゃんのお母様って、某大手ファンドの裏のオーナーなんですってね? うちのパパがぜひお食事でもって」
「ねえねえ、今度のアニメのオーディション、真理子ちゃんの事務所の力で私を推薦してくれない?」
前世で三十二年、ブラック企業の「派閥争い」と「営業の腹の探り合い」を嫌というほど経験してきた私だ。
子供たちの浅はかな思惑など、手に取るように分かってしまう。
(7歳にして狐と狸の化かし合い……。前世の社内政治よりドロドロしてて胃が痛いわ。私はただ、静かに小学校に通って、放課後はチートノートを広げて2000年代の爆伸び株の銘柄を分析したいだけなのに……!)
群がってくる「お友達(仮)」たちの相手をし、本音を隠した不毛なマウンティング合戦をいなし続ける日々。
私の精神的疲労は、完全にピークに達していた。
1. 救世主(映画オファー)の降臨
そんなある日の放課後。
校門の前で待ち構えていた「ステータス目当て女子同盟」の誘いを「あいにく今日は家庭教師(※実際はチートノートの暗記)がおりますの」と華麗にかわし、私は母の送迎車(※なぜか最近、黒塗りの高級外車になっている)へ駆け込んだ。
「ふぅ……! 逃げ切った……!」
後部座席に深々と沈み込み、私は缶の麦茶(児童用)をぐびぐびと煽った。
7歳児の身体に、32歳社畜の疲弊が圧しかかる。
「あら〜! マコちゃんお疲れ様ぁ〜! 今日も学校で大人気だったかしらぁ〜?」
助手席から振り向いたのは、我が実の母親・葛貫智恵子(33歳)。
相変わらず能天気な笑顔を浮かべているが、今日の母はいつもと違う「金ピカの封筒」を大事そうに抱えていた。
「お母さん……お願いだから、学校のママ友に妙なホラを吹かないでね。おかげでクラスの女子たちが『真理子ちゃんの家には石油湧いてるの?』って聞かれて大変なんだから」
「やだぁ〜、ホラじゃないわよぉ〜! 石油は湧いてないけど、マコちゃんが予知した株で石油会社の株が暴騰したから似たようなものじゃない〜!」
(屁理屈をこねるな!!)
相変わらずの母の言動に頭を抱えていると、母は「ふふん」と鼻を鳴らし、手に持っていた金ピカの封筒を私に突き出してきた。
「はいこれ! マコちゃんにね、世界的な映画監督から主演オファーが来ちゃったのよ〜!」
「……え? 映画?」
封筒から出てきた厚い台本。表紙には大きくこう書かれていた。
映画『ガラスの檻の少女』
監督:クリストファー・ヴァンドーム(ハリウッドを代表する巨匠)
「ク……クリストファー・ヴァンドーム!?」
私は思わず目を見開いた。
前世の記憶が跳ね起きる。この監督は、前世の2000年代半ばに世界的な映画賞を総なめし、興行収入数百億円を叩き出した、まさに「現代映画界の神」とも呼ばれる超大物だ!
【映画のあらすじ】
舞台は20世紀初頭のヨーロッパ。
巨大な富を持つ貴族の館で、一歩も外に出されず「ガラスの檻」の中で育てられた完璧な少女・クリスティーナ。
彼女の美しい歌声と佇まいは人々を魅了するが、彼女自身は一切の感情を持たない「人形」だった。
ある日、館にやってきた貧しい少年との出会いによって、彼女の閉ざされた心がゆっくりと、しかし激しく「人間らしさ」を取り戻していく、切なくも壮大な重厚ヒューマンドラマ。
「凄すぎる……。これ、前世でアカデミー賞の最優秀作品賞と主演女優賞をとった伝説の映画じゃない……!」
私の社畜魂(および映画好きの魂)が激しく揺さぶられた。
(待って……? 映画の撮影期間は数ヶ月。しかもロケ地は海外と国内の巨大スタジオ……ということは!)
私の頭の中で、爆速で計算が弾き出された。
【小学校のドロドロ人間関係からの合法的脱出】
「映画撮影のため」という最高に正当な理由で、学校を長期休学できる! あのステータス目当ての女子たちのマウンティング合戦から解放される!
【子役としてのキャリアの絶頂】
ハリウッド巨匠の映画で主演を張れば、子役としての社会的信用と知名度は世界レベルになる。将来、子役を引退して「世界的な投資家」へシフトする際の強力な肩書きになる!
【圧倒的ギャラ】
ハリウッド出資の映画。ギャラは桁違いだ。これを速やかに初期のIT株にぶち込めば、私のFIRE(早期リタイア)計画は一気に加速する!
(決定……! このオファー、絶対に受けるわ!! 学校の狐と狸の化かし合いに付き合うくらいなら、ハリウッドの厳しい撮影現場で揉まれる方が100倍マシよ!!)
2. 撮影現場へ! 巨匠の妥協なき演技指導
こうして私は、小学校を休学し、映画『ガラスの檻の少女』の撮影現場へと足を踏み入れた。
撮影スタジオは、圧倒的なスケールだった。
昭和や平成のドラマセットとは訳が違う。本物のヨーロッパの洋館を丸ごと再現した巨大なセットに、数百人の外国人スタッフ、最新鋭の映画カメラがズラリと並んでいる。
「オー、彼女が噂のジャパニーズ・ジーニアス・ガールかい?」
監督のクリストファー・ヴァンドーム(50代・威厳に満ちた白髪の巨匠)が、パイプをふかしながら私を見下ろした。
その目は鋭く、一切の妥協を許さない「本物のクリエイター」の光を宿している。
「真理子ちゃん、ヴァンドーム監督は演技に対して非常に厳しいことで有名だ。覚悟して臨んでくれよ」
通訳を介して、日本のプロデューサーが緊張した面持ちで囁く。
(ふふん、望むところよ。前世のブラック企業で『仕様変更100回』に耐え抜いた私の耐久力を舐めないでほしいわね)
今回の役柄は「感情を持たないガラスの人形のような少女・クリスティーナ」。
セリフは極めて少ない。その代わり、目線の動き、呼吸、微かな指先の震えだけで「絶望と孤独」を表現しなければならない、超極上の難役だ。
「よし! シーン42、クリスティーナが初めて『悲しみ』という感情に触れるシーン! アクション!」
カチンコが鳴る。
私はガラス張りの部屋の中で、真っ白なドレスを着て佇んだ。
脳内で前世の記憶にアクセスする。
深夜2時、後輩のミスを全部被って一人で修正作業をしていた時の孤独。
休日に上司から「今すぐ会社に来い」と電話がかかってきた時の絶望。
誰にも評価されず、ただすり減っていったあの32年間。
私の瞳から、すーっと光が消えていく。
ガラスの向こう側を見つめる瞳に、ポロリと一筋の透明な涙が伝った。
完璧な、哀愁を帯びた「人形の涙」だ。
「……カット!!」
ヴァンドーム監督の声が響いた。
監督はゆっくりと立ち上がり、私に歩み寄ってきた。
「アメージング……! 素晴らしい! セリフもないのに、なぜこれほどの『人生の重み』と『諦念』を表現できるんだ!? 君は本当に7歳の子供なのか!?」
(前世で32年、社畜として人生を諦めてきましたからね!!)
監督は私の手を取り、深く感動して握手を求めてきた。
撮影は順調そのもの。私の完璧な「社畜の自己犠牲と諦めの演技」は、ハリウッドの巨匠をも唸らせ、現場は「史上最高の映画ができる」という熱気に包まれていた。
だが——世の中、そう簡単に上手くいくはずがなかった。
3. 撮影の危機! 劇中歌の「呪い」
撮影が中盤に差し掛かった頃、最大の障壁が立ちはだかった。
映画のクライマックス。
主人公クリスティーナが、ガラスの檻を破り、初めて自分の「声」で歌を歌い、感情を爆発させるという、物語の最重要シーンだ。
しかし、ここで問題が発生した。
「ダメだ……! この曲じゃ足りない! 映画の感情に音楽がついてきていないんだ!」
ヴァンドーム監督が頭を抱えて激怒していた。
映画のために用意された劇中歌(ハリウッドの有名作曲家が作った曲)に対して、監督が「綺麗すぎる。もっと人間の魂を揺さぶるような、血の通った『生の歌声』が必要なんだ!」と納得がいかないのだ。
NGが数十回。撮影は完全にストップし、現場には重苦しい雰囲気が漂い始めた。
(うわぁ……出たわよ『こだわりが強すぎて納期を大幅に遅らせる天才クリエイター』……! 前世のWebデザインの現場でもよくいたわ……)
私は冷や汗を流した。
このまま撮影が延期になれば、私の「合法的学校休学期間」が終わり、あのドロドロした小学校へ戻らなければならなくなる。それだけは絶対に阻止したい!
「監督、どうするんですか? 今日中に歌のシーンを撮り終えないと、スタジオのレンタル期限が切れて数億円の損害が出ますよ!」
プロデューサーが青ざめて詰め寄る。
「うるさい! 妥協した作品を作るくらいなら、撮影中止だ!!」
現場はパニック寸前。
その時だった。
4. 母・智恵子、ハリウッドへ降臨す
「あら〜〜〜〜っ! なんだか現場が深刻そうな雰囲気ねぇ〜〜〜〜っ!」
スタジオの重いドアを開けて、派手なピンクのワンピースを着た母・智恵子が入ってきた。差し入れの高級寿司の折り詰めを手に持っている。
(お母さん……頼むから今は空気を読んで静かにしていて……!!)
私の脳内アラートが警報を鳴らす。
しかし、智恵子は困惑する監督やプロデューサーたちの前にトコトコと歩み寄ると、いつもの「能天気な笑顔」を炸裂させた。
「監督さん! 歌のことで困ってるのかしらぁ〜?」
「オー、マザー。そうなんだ……彼女の演技は素晴らしいのだが、彼女の歌うべき『魂の曲』が見つからないんだ……」
監督が溜息をつく。
すると、智恵子は鼻の穴を少し膨らませ、誇らしげに胸を張った!
「やだぁ〜監督さん! そんなの簡単じゃない! うちのマコちゃんに曲を作らせればいいのよ〜!」
(……は?)
私とプロデューサーと通訳は、同時に固まった。
「えっ……? 真理子ちゃんに……作曲を……?」
監督が目を丸くする。
「そうなのよ〜! うちのマコちゃんね、絶対音感と完璧な音楽理論を独学でマスターしてる天才作曲家でもあるんだからぁ〜! ピアノも即興で名曲をポロポロ作れちゃうのよ〜!」
(言っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっとてへん!!!!!)
私は血を吐く思いで脳内絶叫した。
言ってへん! 昨日の夜、鼻歌で「ドレミファソ〜」って口ずさみながらお絵描きしてただけだ!!
なんでそれが「独学で音楽理論を極めた天才作曲家」になるんだよ! 盛るにも程があるだろ!!
「オー! 天才作曲家!? マザー、それは本当かい!?」
「ええ、本当よぉ〜! 昨日の夜もね、楽譜も見ないでピアノの前に座って、感動的なメロディをサラサラ〜って書き上げちゃったんだからぁ〜! おほほほほ!」
(うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
そして——恐ろしいことに、あの現象が起きた。
ズキュゥゥゥゥン!!
世界線のシステムが書き換わる強烈なバグが、私の脳内を突き抜けた。
古典派から現代音楽までの高度な和声理論、対位法、オーケストレーション、そして人間心理の琴線を直接鷲掴みにする最高峰のメロディ作成技術が、一瞬で私の中に流し込まれたのだ!
(頭が……頭がプロの音楽家の感性で溢れかえる……!! メロディの濁流が止まらない……!!)
5. 神曲の降臨と、銀幕での「勝利」
「真理子……君、本当に曲が書けるのか……?」
ヴァンドーム監督がすがるような目で見つめてくる。
私は……静かに立ち上がった。
もはや抵抗しても無駄だ。母のホラが発動した以上、私は「プロの天才作曲家」として振る舞うしかない。
「……監督。グランドピアノを準備してください。1分で弾いて見せます」
「オーマイゴッド……! すぐにピアノを用意しろ!!」
セットの中央に運ばれてきたグランドピアノ。
私は小さくてモチモチの手(7歳)を鍵盤の上に置いた。
脳内に流れるのは、映画『ガラスの檻の少女』のストーリー。
ガラスの檻の中で孤独に震える少女。絶望。精神の限界。そして、小さな光を見つけた瞬間の胸を刺すような感動——。
前世の社畜時代、理不尽な現実の中で「いつか報われるはずだ」と信じて働き続けた私の「魂の叫び」が、極上の旋律となって鍵盤から溢れ出した。
ポローン……ラン……ララン……♪
「……ッ!?」
静まり返るスタジオ。
私の指が紡ぎ出すメロディは、あまりにも美しく、哀しく、そしてどこまでも力強かった。
セリフのない映画の行間をすべて埋め尽くし、聴く者の心を激しく揺さぶる「神の楽曲」。
歌のパートに入り、私は幼い声を張り上げて歌った。
言葉を超えた、魂の叫び。
「アメージング……! ジーザス……!!」
ヴァンドーム監督が膝から崩れ落ち、涙をボロボロと流した。
周囲のハリウッドスタッフたちも、誰一人として声を発することができず、ただただ私の演奏に聞き惚れ、涙を拭っていた。
「これだ……! これが私の求めていた『ガラスの檻の少女』の魂だ!! 奇跡だ……! 日本の7歳児が、映画の歴史を変える神曲を作曲したんだー!!」
パチパチパチパチ……!!
スタジオ全体から、地鳴りのような拍手と歓声が巻き起こった!
(よっしゃぁぁぁぁぁぁ!! 撮影再開!! 納期遅延回避!!)
私は心の中でガッツポーズを決めた。
6. 完勝、そして次なる現実的(?)な大風呂敷へ
こうして、私の「天才的作曲」によって映画の劇中歌問題は完璧に解決。
映画『ガラスの檻の少女』は無事にクランクアップを迎えた。
後日、公開された映画は大ヒットを記録。
世界中の映画賞を総なめにし、私が作詞・作曲・歌を担当したテーマソングはグラミー賞の候補にまで上り詰めるという、子役の枠を完全に踏み外した大偉業を達成したのだった。
「ふぅ……! 映画も大成功したし、これでしばらくは平和に過ごせるわね……」
撮影を終え、久しぶりに自宅の子供部屋でくつろぐ私(7歳)。
チートノートを開き、映画の莫大なギャラをぶち込む予定の新規IT株のチェックをする。
(ふふふ……順調順調。学校のイジワルな女子たちも、私が『ハリウッドの超大物』になっちゃったから、もはや遠巻きに見るだけで気安くマウンティングすらしてこなくなったわ。怪我の功名ね!)
完璧な人生計画を取り戻し、ご満悦の私。
しかし、その平和は長続きしなかった。
バーン!!
部屋のドアが開いた。
満面の笑みを浮かべた母・智恵子である。
(げっ……また来た……!)
「マコちゃ〜ん! 朗報よ〜〜〜っ!」
「お母さん……お願いだから、もう『全米を感動させた作曲家』以上のホラは勘弁して……」
「やだぁ〜ホラじゃないわよ〜! さっきね、聖セシリア初等部のPTA役員会に行ってきたんだけどね!」
智恵子は目を輝かせて言った。
「『うちのマコちゃん、本当は独学で六ヶ国語をペラペラに話せる外交官レベルの語学の天才なのよ〜』って言っておいたわよ〜!」
(ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
私はベッドの上で頭を抱えて絶叫した。
六ヶ国語の外交官レベル!?
私、前世では英検2級止まりのしがない元社畜なんですけど!?
ズキュゥゥゥゥン!!
脳内に、英語、フランス語、中国語、アラビア語、ロシア語、スペイン語のネイティブ級の語彙と文法が、怒涛の勢いで流し込まれていく。
(やめてー! 私の脳に同時通訳のデータベースを直接インストールしないでー!!)
「マコちゃ〜ん、来週の来日する外務省のパーティーに招待されちゃうかもね〜!」
「オギャァァァァァァ(外務省に売るなー!!)」
学校の人間関係を脱出し、ハリウッド映画で世界を震撼させた葛貫真理子(7歳)。
しかし、彼女の前に立ちはだかる母の現実的な(?)大風呂敷によって、彼女の第二の人生はさらなる国際的なカオスへと巻き込まれていくのであった——。




