第3話:4歳児、キッズモデル現場の嫉妬を叩き潰す 〜社畜の危機管理と完勝ざまあ〜
「真理子ちゃ〜ん! 次、お兄ちゃん役の陸くんとツーショットでーす! 兄妹仲良しコーデの撮影、行きまーす!」
撮影スタジオのテンション高いスタッフの声が響く。
私は、高級子供服ブランドの秋冬新作カタログの撮影現場にいた。
朝ドラ『フレー!フレー!太陽!』の放送が始まり、三女・咲良役として「可愛すぎる天才子役」の名をほしいままにしている私は、今やCM、雑誌、モデルと引っ張りだこの超絶多忙キッズである。
今日の撮影は、大手アパレルブランドの「ファミリー&キッズ・秋冬兄妹コーディネート」。
私の相手役——つまり「お兄ちゃん役」を務めるのは、人気子役モデルの白川陸くん(9歳)だ。
お顔が整った爽やかイケメン小学生で、子役界隈ではそこそこの売れっ子らしい。
「真理子ちゃん、よろしくね! 一緒に楽しく撮影しよう!」
「りくおにいちゃん、よろしくおねがいしまーす!」
私は4歳児特有の満面の天使スマイルを振りまいた。
前世の社畜時代、営業先の大手クライアントに擦り寄っていた時のペルソナである。心の中では「よし、さっさと撮影を終わらせて楽屋で株価のチェックをしよう」としか思っていない。
しかし——。
この和やかな現場の空気を、あからさまに不機嫌な視線で射抜いている存在がいた。
1. 色気付いたメス猿の嫉妬
「なによあの子……たかが朝ドラにちょっと出たくらいで調子に乗って。陸くんの隣は、いつも私のポジションだったのに……!」
スタジオの壁際で、腕を組んでこちらを睨みつけているのは、子役モデルの姫宮ルナ(ひめみや・るな)(8歳)。
縦ロール風に巻いた髪に、濃いめのキッズメイク。フリフリの衣装を纏った彼女は、キッズモデル界隈では「そこそこ歴が長いベテラン(笑)」らしい。
本来、今日の兄妹コーデの「妹役」はルナが務める予定だったらしいのだが、最近の私の急浮上によって、急遽クライアントが私をメインに抜擢。ルナは「ソロ撮影のみ」に降格させられたという経緯があった。
(なるほどね……大人の事情による降格のシワ寄せが、私に来たわけだ)
私は前世の社畜時代を思い出す。
社内の派閥争いやプロジェクトの担当変更で、嫉妬に狂った先輩社員から「お前、調子乗ってると干されるぞ」と給湯室で嫌味を言われたあの光景と完全に一致していた。
(相手は子供、相手は子供……色気付いたメス猿だと思えば……と思っても、ムカ付くものはムカ付くのだ!!)
私は4歳のモチモチした顔の裏で、怒りの炎をメラメラと燃やした。
こっちはな、前世で三十二年、血と汗とエナジードリンクを撒き散らして働いてきた元・中間管理職だぞ!?
たかが8歳の「自称・ベテラン子役」の小娘に、ネチネチと嫌がらせをされて黙っている葛貫真理子ではない!
徹底的に潰して、ざまあしてやる。
社畜の危機管理能力と、プロの仕事を見せてやるわ!
2. 陰湿な工作と、社畜の危機管理能力
ルナの嫌がらせは、撮影の合間に始まった。
私が陸くんと仲良くポーズの確認をしていると、ルナが「うっかり」を装って近づいてきた。その手には、ベタベタした果汁100%のオレンジジュースが入ったコップが握られている。
(……はい来た。古典的すぎるわボケが)
私は社畜時代に「社内のライバルにプレゼン資料を破棄されそうになった経験」があるため、この手の敵意には異常に目ざとい。
ルナが私と陸くんの衣装(※まだ買い取り前の、高価なブランドサンプル品)に向けてジュースをぶちまけようと足を滑らせた、その瞬間——。
「あーっ! 大変っ!」
私は速やかに陸くんの腕を引っ張って後ろへステップ。
同時に、ルナの足元に転がっていた小さな撮影用の小道具(りんごの模型)を、足先でチョンとルナの進行方向に転がした。
「きゃっ!?」
ドサァァァァン!!
派手な音を立てて豪快に転倒するルナ。
オレンジジュースは空中で綺麗な放物線を描き——ルナ自身のフリフリの衣装と、背後にいたルナのステージママ(姫宮母)の高級ブランドバッグへダイレクトヒットした。
「きゃあああああ!? 私のバーキンが!!」
「痛ぁい! 服がジュースまみれ〜〜! うわぁぁぁん!」
現場は大混乱。
私は速やかにウルウルとした瞳を作り、陸くんの影から顔を出して心配そうに叫んだ。
「大丈夫ですかぁ? ルナちゃん、転んじゃったの? お洋服、よごれちゃって可哀想……!」
「マコちゃん、怪我はなかった!? すごい察知能力だね、かばってくれてありがとう!」
陸くんが私をヒーローを見るような目で見てくる。
「陸くんが無事でよかったよぉ〜!」
(ふはははは! 自分の仕掛けた罠で自爆する気分はどうだ!? ざまあみろ!!)
私は心の中で悪魔の笑みを浮かべた。
だが、ルナと姫宮母の執念はこんなものではなかった。
3. 控え室での暴挙と、母・智恵子の登場
衣装を汚したルナは激怒し、さらなる嫌がらせを画策した。
撮影の最終カット——「兄妹で手をつないで、笑顔でジャンプする決めポーズ」の直前の休憩時間。
私が一人で控え室の椅子に座り、チートノート(隠し持ち中)の株価データを脳内で整理していた時のことだ。
ルナがドアを蹴破る勢いで入ってきた。
「ちょっと、葛貫真理子! あんたのせいで私の服が台無しになったじゃない!」
「ルナちゃん、私は何もしてないよ〜?」
「うるさい! あんたみたいな新人が陸くんの隣に立つなんて100年早いのよ! 兄妹コーデの撮影、台無しにしてやるんだから!」
そう叫ぶと、ルナは机の上にあった撮影用の限定靴(私がこれから履く予定の特注品)をひったくり、ハサミを取り出した!
「この靴のストラップをちょっと切っておけば、撮影中にあんたが転んでNG連発になるわ! そしたら私が代わりに陸くんと撮影するの!」
(うわぁ……子供の浅知恵とはいえ、やってることが完全に器物破損と業務妨害……。警察呼ぶぞマジで)
私が「やれやれ、大人の警察沙汰にしてやろうか」と冷ややかな目を向けた、その時だった。
バーン!!
控え室のドアが凄まじい勢いで開いた。
現れたのは、私の母・葛貫智恵子(30歳)である。
「あらぁ〜! ルナちゃん、マコちゃんと仲良くお話し中かしらぁ〜?」
智恵子は手にお菓子の差し入れを持ち、ニコニコと入ってきた。
ルナは慌ててハサミと靴を背中に隠す。
「え、あ……なんでもないです! ちょっとお話をしてただけで……!」
怯えるルナ。
しかし、母・智恵子の「見栄っぱり&ホラ吹きセンサー」は、現場の微妙な空気を察知してしまった。
智恵子はルナの手元にある靴とハサミを一瞬で見抜き——そして、いつもの「盛大な誤解とホラ」を炸裂させたのだ!
4. 出た! 母の「超絶ホラ話(自慢)」とバグ発動
「あらやだルナちゃん! もしかして、マコちゃんの靴をカスタム(改造)してくれようとしてたのぉ〜!?」
(……は?)
私とルナは同時に固まった。
カスタム???? ハサミでストラップ切ろうとしてただけだけど????
「智恵子さん、それは——」とルナが言いかけるのを、母は豪快に遮った。
「やだぁ〜、気を使わせちゃってごめんなさいねぇ! でもね、ルナちゃん。うちのマコちゃん、靴のデザインと縫製にかけてはプロ級の職人だから、自分でできちゃうのよ〜!」
(ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!!!!)
私は心の中で絶叫した。
靴の職人!? 4歳児が!? どこをどう押せば「4歳児がシューズデザイナー兼シューフィッター」になるんだよ!!
「えっ……? 真理子ちゃんが……靴の職人……?」
ルナが目を丸くする。
「そうなのよ〜! 朝起きたらね、自分の革靴をハンマーと針でトントンカンカン叩いて修理しちゃってねぇ〜! パリの高級ブランドから『うちのチーフデザイナーになってくれ』ってオファーが殺到して困ってるんだからぁ〜! おほほほほ!」
(言ってねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!)
言ったのは「靴履かせてー」だ!
なんでパリの高級ブランドからオファーが来るんだよ! 盛るにも程があるだろ!!
だが……恐ろしいことに、今回もあの現象が起きた。
ズキュゥゥゥゥン!!
世界のシステムが書き換わる強烈なバグが、私の脳内を突き抜けた。
イタリアの伝統的な靴職人の技法、人間工学に基づいたシューズデザインの知識、裁断、縫製、フィッティングの完璧な技術が、一瞬で私の中に流し込まれたのだ!
(うわあああ! また記憶が生えてきた!! 手が……手が靴を作りたい衝動で震える……!!)
「……ルナちゃん。ハサミと靴、貸して?」
私の目つきが変わった。
4歳の可愛い顔から、職人の職人たる「匠の眼光」へと変貌を遂げたのだ。
「え……? あ、はい……」
ルナは私の迫気に押され、素直にハサミと特注靴を手渡した。
私は机の上に靴を置くと、ハサミと控え室にあったリボン、安全ピン、そしてルナが切ろうとしていたストラップの手芸用パーツを手に取り——人間を超越した超高速の手さばきで動かし始めた!
チョキチョキ! トントン! チクチク!
「な……なにあの動き……!? 手が見えない……!?」
ルナが恐怖で顎をガクガクさせている。
わずか一分後。
そこにあったのは、元々のデザインを遥かに凌駕する、洗練された「人間工学に基づき、4歳児がどれだけジャンプしても脱げず、足首を絶対に痛めない最高級のキッズシューズ」へと生まれ変わった靴だった。
「で、できた……(なんだこの完璧なフィッティングは……!)」
自分で作っておいて自分が一番引いていた。
5. 最終撮影と、徹底的な「ざまあ」の完成
「本番行きまーす! 兄妹仲良しジャンプのカットでーす!」
スタジオにスタッフの声が響く。
ルナは自分が仕掛けた嫌がらせが完全に失敗し、それどころか私の「謎の超人技能」を見せつけられて青ざめたまま、スタジオの隅で見守っていた。
「真理子ちゃん、陸くん、せーのでジャンプしてね!」
「はーい!」
『せーのっ!!』
私と陸くんは、手をつないで高くジャンプした。
私の足元には、母のホラ(バグ)によって極上のカスタムを施されたあの靴がある。
着地の瞬間、衝撃は完全に吸収され、私のポージングは一切ブレない。
それどころか、靴のリボンとシルエットが光を浴びて美しく躍動し、カメラマンのファインダーを釘付けにした。
「……ッ!! すごい! なんだあの靴の躍動感は!? 真理子ちゃんの足元のラインが完璧すぎる!!」
パシャパシャパシャパシャ!!
カメラのシャッター音が連打される。
「OK!! 完璧だ! 最高の一枚が撮れたぞ!!」
カメラマンがガッツポーズを決めた。
撮影終了後、クライアントの担当者が駆け寄ってきた。
「真理子ちゃん! その靴、どうしたの!? 元のデザインより100倍素晴らしいじゃないか!」
「あ、これですかぁ〜? ルナちゃんが『もっと可愛くしよ!』ってアドバイスしてくれたから、私がちょっとアレンジしたの〜!」
私はニッコリと笑って、スタジオの隅にいるルナを指さした。
「えっ! ルナちゃんが!?」
私は社畜時代に培った「手柄をわざと相手に譲るフリをして、逆に相手を詰む」という高等政治テクニックを発動したのだ。
「ええ! ルナちゃんがハサミを持ってきてくれて『この靴を切ってあげる!』って言ってくれたんです〜! ルナちゃんのおかげで、とっても素敵な靴になりましたぁ〜!」
「な……ッ!?」
ルナの顔が真っ赤になり、次に真っ白になった。
クライアントやスタッフたちの視線が、一斉にルナに注がれる。
現場の大人たちは皆、察したのだ。
8歳のルナが嫉妬で靴を切ろうとし、それを4歳の真理子ちゃんが神対応でカバーし、さらに罪を責めずに手柄を立ててあげたのだと——。
「ルナちゃん……君ねぇ……」
クライアントの目が冷たく光る。
「ひ……ひぃぃぃぃ! ごめんなさいー!!」
ルナは自分の悪事の醜さと、私の圧倒的なスペック&人間性の差(※中身は32歳社畜)に耐えきれなくなり、号泣しながらスタジオを飛び出していった。
姫宮母も「すみませんすみません!」と頭を下げながら、バーンとジュースで汚れたバッグを抱えて逃げるように去っていった。
(ふっ……勝訴!! 徹底的ざまあ完了!!)
私は心の中で高らかに勝ちどきを上げた。
私に嫌がらせをしようなんて、100年早いのだ。
6. 終わらない波乱と、社畜の決意
「いやぁ〜! マコちゃん、今日も大活躍だったわねぇ〜!」
帰り道、私と手をつないで歩く母・智恵子。
「うー、あー!(お母さんのホラのせいだけどね!)」
「あ、そうだわマコちゃん。さっきね、ルナちゃんのお母さんから聞いたんだけど……」
(ん? なに?)
「来月、キッズモデルと子役が集まる『全国キッズ才能コンテスト』があるんですって! 主演映画のオファーもかかるらしいわよ〜!」
(へー、大変そうだねぇ。まあ私には関係ない……)
「だからね、私、主催者の人に言っておいたの!」
母は誇らしげに胸を張った。
「『うちのマコちゃんは、ピアノを一度も弾いたことがないのに、ベートーヴェンの難曲を完璧に演奏できる』って!」
(ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
私は路上で膝から崩れ落ちた。
ベートーヴェン!? ピアノ!?
私、前世でも猫踏んじゃったしか弾けないんですけど!?
ズキュゥゥゥゥン!!
脳内に、クラシック音楽の膨大な楽譜と、最高峰のピアニストの指の動きが強烈に流し込まれていく。
(やめてー! 私の脳のメモリに勝手にピアノのデータをインストールしないでー!!)
「マコちゃ〜ん、来月に向けてグランドピアノ買わなきゃねぇ〜! 智樹さ〜ん、家売ってピアノ買うわよー!」
「オギャァァァァァァ(家を売るなー!!)」
嫉妬する子役を返り討ちにし、現場を「ざまあ」で制した葛貫真理子(4歳)。
しかし、彼女の本当の戦いは、母の止まらないホラ(現実改変)との戦いであった。
私の「静かな金持ち社畜回避プラン」へ戻れる日は……一体いつになるのだろうか!?




