戦闘
村を出たものの、アルフヘイムの正確な場所は村の誰も知らなかった。
そこでまずはこの辺りで一番大きな町アプラを目指すことになった。
そこに行けばアルフヘイムの事や、場所を知る事が出来るかもしれないという話だ。
ジウロの話によれば、今では7氏族の混血が進み、ヴァルハラを守るごく少数の純血だけが氏族を名乗り、それ以外は特に自分の氏族を持たない者が大半らしい。
今から行こうとしているアプラもそう言った者たちが集まって出来た町ということだ。
(しかし改めて考えると分からない事だらけだよな。ユグドラシルシステムがなぜ世界を滅ぼそうとしているのか、なぜ俺が1万年も前から連れてこられたのか、どれくらいの猶予があるのか、そもそもあのおっさんの話は本当なのか……とりあえず、次のアルフヘイムであのおっさんが出てきたら聞いてみるしかないな。……出て来なかったらどうしよう? ……まあいいか、とりあえず明日考えよう)
そう問題を先延ばしにして、前を歩く可愛らしい相棒に話しかける。
「ルチアはアプラに行った事があるのか?」
尻尾でリズムを取りながら鼻歌を歌っていたルチアが振り返る。
「あるよー。あのね、すっごくしおからい、おおきなみずたまりがあるの!」
「たぶんそれは海だな」
「ルチアしってる! じーちゃんもそういってた」
うーみ、うーみと鼻歌に適当な歌詞が付く。
「そういやちょっと気になってたんだが、ルチアは何で俺がマイスターになれるって分かったんだ?」
「それはね、れーじが『座標』『3点バースト』っていってたからだよ。ルチアとじーちゃんしかしらないはずなのにれーじがいったからマイスターだってわかったの」
「ふーん」
(知っていたと言うか、ルチアの言葉をそのまま復唱しただけなんだけどな。つまりはほぼ偶然って事か)
そんな事を考えながら、森の中を歩いていく。
しばらく楽しそうに歌いながら歩いていたルチアの足がピタリと止まった。
猫耳が世話しなく動き、背中を軽く曲げている。
そんなルチアの様子をいぶかんでいた零慈も異変に気付いた。
「動物の声がしなくなったな……」
先ほどまでは喧しいほどの喧騒に包まれていた森が、今は不気味な静寂に包まれている。
零慈はこの静寂に十分過ぎるほど心当たりがあった。
「ルチアこれって……」
「うん。ガロシュがこっちをねらってる」
昨日、零慈達を襲ったサーベルタイガーモドキはガロシュという名前の獣だったらしい。
「よし。マイスターの力を試してみるか。コネクション。登録者名、日輪零慈」
頭の中に認証のアナウンスが響く。
「展開」
その力ある言葉によって、世界が碁盤の様に区切られる。
ルチアが指差す方を凝視する。
(見つけた)
草むらからこちらを狙う赤い2つの光。
「オプション、炎弾。座標、121、4、12。座標固定。3点バーストによる速射開始」
このマイスターの力についてジウロやルチアに尋ねた結果、幾つか分かった事があった。
まず彼らはこの言葉の意味が分かっていない。
自分達が使っている言葉ではなく、知らない言葉をいわゆる呪文のようにただ唱えているだけだった。
最初、ルチアの言葉が分からなかったのに、この部分だけ理解できたのはそういう理由からなのだろう。
おそらく元々もっと自由度が高いシステムだと思うのだが、彼らが扱う事の出来る呪文はかなり限られていた。
普通に単発で発射する、3点バースト(3つの弾が同時に発射される)で発射する、あとは速射開始と唱えると、止めるまでマシンガンのごとく弾を発射し続ける、この3つの組み合わせしか知らないようだ。
さらに弾のオプションは炎弾だけ、ここら辺などは明らかに他の選択肢があるに違いない。
とはいえこれだけでも十分すぎるほどに物騒な力だ。
零慈の指示通り、赤い光弾が草むらごと、隠れていたガロシュを火達磨にしてゆく。
「れーじ、ストップだよ!」
ルチアの声が届いた時にはもはや手遅れだった。
頭の中に霧がかかったように意識が混濁してゆき、そのまま零慈は糸の切れたマリオネットのごとくその場に倒れこんだ。
目をあけると視界一杯に心配そうなルチアの顔が映った。
「あ、れーじきがついた!」
猫耳をぴょこんと立ててルチアが嬉しそうに叫ぶ。
まだすこしぼうっとして重い頭をさすりながら、上半身を起こす。
「一体なにがおこったんだ?」
周りを見渡してみると、少し先で恐らく元々はガロシュだったと思われる炭の塊があった。
ガロシュの反撃を受けたわけではないらしい。
「れーじ、マイスターのちからをつかいすぎちゃったんだよ」
「え?」
「マイスターのちからをつかうとつかれちゃうの。れんしゅうしたらたくさんつかえるけど、れーじはつかえるようになったばかりだから、つかいすぎるとすぐにばたーんってなっちゃうの」
「そうなのか。まあ確かにこの力が使い放題ってのもチートすぎるわな」
いわゆる呪文をとなえるとマジックポイントを消費するって奴か。
つくづくゲームみたいな世界だ。
「なれるまで『速射開始』はつかわないほうがいいかも。ルチアもれんしゅうしてからつかったよー」
「わかった。そうするよ」
ルチアの頭をなでてやると、嬉しそうに喉を鳴らした。
立ち上がると、体を酷使した後のような疲労感がまだ残っていたが、歩けない程でもない。
携帯で確認すると3時間くらい気を失っていたらしい。
「よし。それじゃ改めてアプラに向かって出発だ」
「だー」
2人は再び喧騒が戻ってきた森の中を進みだした。




